『 長野県木曽福島町の県立木曽病院で一九九八年三月、同県南部に住む男性患者(39)に水頭症の手術をした際、脳の血管を傷つけるミスがあり、男性に高次脳機能障害が残ったとして、長野県は一日までに、男性に約七千九百万円の損害賠償金を支払う方針を決めた。県の県立病院室によると、男性は脳内の髄液が流れにくくなる水頭症の内視鏡手術を受けたが、医師が髄液の流れ道を広げる作業中に血管を傷つけ、約二十分出血した。病院は手術後、家族に対して出血の事実と言語障害などの後遺症の可能性を説明。男性は覇気がなくなるなど高次脳機能障害の症状が出たため仕事をやめ、現在は共同作業所に通っている。
県は「術後に症状が出ており、手術との因果関係は否定できない」として、〇三年度の補正予算案に賠償金を計上した。木曽病院の宮坂斉(みやさか・ひとし)院長は「患者や家族に迷惑をかけ申し訳なく思っている」と話している。高次脳機能障害は交通事故などで脳を損傷した場合に生じる後遺症。失語症や記憶、情緒の障害など日常生活と密接にかかわる障害が発生するが、治療法は確立されていない。』
手術中の出血と高次機能障害の因果関係はこの記事からはわからないが,要するに手術によって脳組織障害を起こし後遺障害がでたということだろう.内視鏡手術は一般に低侵襲という印象があるが,最近の内視鏡手術の事故をみてもわかるように確かに外からみた手術創は小さいが組織に対する侵襲は普通の手術と変わらず出血を止めるための止血操作の際には視野が狭く操作の自由度が低いため確実性に乏しいという問題点がある.
従来,水頭症に対しては頭の中の髄液を腹腔に流す手術(脳室腹腔シャント術)が多く行われてきたが,以下のような問題点の解決法として神経内視鏡による手術が最近行われている.
1. 髄液が体の姿勢によっては流れすぎることがある。
2. 希に閉塞することがある。
3. 異物を体に残すため感染を起こすことがある。
私も小児の水頭症の患者さんの内視鏡手術に助手で入ったことがあるが,脳室腹腔シャント術にくらべ手技は煩雑で時間もかかり,脳に対する侵襲は明らかに大きいと思われた.それでも小児の場合は再発のリスクを考えても成長に伴うシャントチューブの交換や髄液の流れすぎによるトラブルを考えればメリットは大きいと理解している.
さて,問題の記事では相変わらずの--結果が悪かったので賠償金を払う--という直線的な解決で,ともすると読み流してしまいそうだが,私の感じる問題点は39歳の患者さんに神経内視鏡手術による水頭症手術を行う必然性はどこにあったのかということと,内視鏡手術のリスクの説明がどのようになされたのかということである.
たしかに生体にとってシャントシステムは異物であり器具は故障もありうるのだが,脳組織への侵襲や手術時間そして手術の難易度を考えると内視鏡手術の利点も薄れると思う.そういった内視鏡手術のデメリットや手術のリスクを術者たちがどう考え患者側にどう説明したかが一番問題であろう.私は成人男性の水頭症手術として内視鏡手術にそれほどの必然性があるとは思えない.むしろ最新の医療に対する過信はなかったかと思うのである.
治療を行うにあたってのメリット,デメリット両方を説明し患者側が了承して手術を行った場合であればある程度のリスクは患者側も負うべきであろう.もちろんその際に患者さんを自分たちのやりたい治療に誘導するような説明は厳に避けるべきであるが.
結果が悪かった時にこそ問題点をよく検討する必要があるだろう.単なる手術ミスというような解釈で終わって欲しくないのだが.
県は「術後に症状が出ており、手術との因果関係は否定できない」として、〇三年度の補正予算案に賠償金を計上した。木曽病院の宮坂斉(みやさか・ひとし)院長は「患者や家族に迷惑をかけ申し訳なく思っている」と話している。高次脳機能障害は交通事故などで脳を損傷した場合に生じる後遺症。失語症や記憶、情緒の障害など日常生活と密接にかかわる障害が発生するが、治療法は確立されていない。』
手術中の出血と高次機能障害の因果関係はこの記事からはわからないが,要するに手術によって脳組織障害を起こし後遺障害がでたということだろう.内視鏡手術は一般に低侵襲という印象があるが,最近の内視鏡手術の事故をみてもわかるように確かに外からみた手術創は小さいが組織に対する侵襲は普通の手術と変わらず出血を止めるための止血操作の際には視野が狭く操作の自由度が低いため確実性に乏しいという問題点がある.
従来,水頭症に対しては頭の中の髄液を腹腔に流す手術(脳室腹腔シャント術)が多く行われてきたが,以下のような問題点の解決法として神経内視鏡による手術が最近行われている.
1. 髄液が体の姿勢によっては流れすぎることがある。
2. 希に閉塞することがある。
3. 異物を体に残すため感染を起こすことがある。
私も小児の水頭症の患者さんの内視鏡手術に助手で入ったことがあるが,脳室腹腔シャント術にくらべ手技は煩雑で時間もかかり,脳に対する侵襲は明らかに大きいと思われた.それでも小児の場合は再発のリスクを考えても成長に伴うシャントチューブの交換や髄液の流れすぎによるトラブルを考えればメリットは大きいと理解している.
さて,問題の記事では相変わらずの--結果が悪かったので賠償金を払う--という直線的な解決で,ともすると読み流してしまいそうだが,私の感じる問題点は39歳の患者さんに神経内視鏡手術による水頭症手術を行う必然性はどこにあったのかということと,内視鏡手術のリスクの説明がどのようになされたのかということである.
たしかに生体にとってシャントシステムは異物であり器具は故障もありうるのだが,脳組織への侵襲や手術時間そして手術の難易度を考えると内視鏡手術の利点も薄れると思う.そういった内視鏡手術のデメリットや手術のリスクを術者たちがどう考え患者側にどう説明したかが一番問題であろう.私は成人男性の水頭症手術として内視鏡手術にそれほどの必然性があるとは思えない.むしろ最新の医療に対する過信はなかったかと思うのである.
治療を行うにあたってのメリット,デメリット両方を説明し患者側が了承して手術を行った場合であればある程度のリスクは患者側も負うべきであろう.もちろんその際に患者さんを自分たちのやりたい治療に誘導するような説明は厳に避けるべきであるが.
結果が悪かった時にこそ問題点をよく検討する必要があるだろう.単なる手術ミスというような解釈で終わって欲しくないのだが.
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