近未来の医療環境
2004年3月29日『「そこら中で医師の『引きはがし』が起きている」。大学病院から派遣医師の撤収を通告された北海道の地方病院の院長は、搾り出すように言った。安い労働力として大学医局を支えていた研修医が二年間、医局に入らなくなるためだ。新制度がもたらした思わぬ波紋。北海道では昨年三月以降、撤収を通告された病院は二十五に上る。
▽閉鎖
道北地方の名寄市立総合病院は、周辺町村からも患者が集まるセンター病院。循環器呼吸器内科の医師五人が六月までに旭川医大に撤収するため、休診を強いられた。佐古和広(さこ・かずひろ)院長は「非常につらい」とうつむく。北海道大への陳情や雑誌の求人広告、個人のつてなど手を尽くしたが、見つからない。「患者は二十キロ先の士別市に行ってもらうしかない」と話すが、冬は雪に埋もれ、列車は一時間に一本程度。男性患者(77)は「困るよ。年寄りにそんな遠くは」と声を荒らげた。
市立稚内病院も脳神経外科の医師を撤収すると北大に通告され、同科閉鎖を決めた。金森勝(かなもり・まさる)事務局長は「研修生はみんな大都市志向。強制的に田舎によこすのは医局の人事力だった。きれいごとじゃないんだ」と、医局頼みの実態を吐露する。
▽限界
北大脳神経外科の岩崎喜信(いわさき・よしのぶ)教授は「とにかく医師が足りない。マジシャンじゃないんだから、もう無理だ」と話す。
留学や開業で医局から十人近く減った上、新研修制度で入局者はゼロ。国立大の独立行政法人化で、大学として臨床や研究の実績を上げる必要もあり「稚内を撤退してもまだ足りない」という。
北海道同様、医師不足が深刻な東北地方。東北大はこれまでも研修を院外で行ってきたため、引きはがし問題は顕在化していない。しかし同大卒後研修センター長の本郷道夫(ほんごう・みちお)教授は「再来年が危機」と指摘。二年の研修後、さらに専門を一、二年学んで大学に戻ると見込まれ、「派遣先病院にもしわ寄せがいく」。
岩崎北大教授は「何か手を打たないと、北海道と東北は無医村地区だらけになる。大学は医師を総引き揚げするタイミングを見計らっている」と話し、最悪の事態を心配しながら「今日も病院が陳情に来ている」とため息をついた。』
『新医師臨床研修制度-国家試験合格後の2年間で、内科、外科、救急・麻酔科、小児科、精神科、産婦人科、地域医療の7分野を経験し基本的な診療能力を身に付ける。処遇面でもアルバイトをせず研修に専念できるよう国が補助金を支給、月収30万円程度を目指す。
研修医のアルバイト-人手不足の病院では当直や日直を1人で任されることが多く、医療事故を招く恐れが指摘される。厚生労働省は4月以降、雇用契約で明確にアルバイト診療を禁止しなければ、研修医の受け入れ病院に補助金の一部を交付しない方針を決めた。』
北大の関連病院でなくとも地方の脳外科はどこも人手不足である.新医師臨床研修制度ではそもそも脳外科はかやの外である.国民の死因の2位3位を争う脳卒中の診療は北海道では主に脳外科が担っているのにこの状態では思いやられる.そう,研修医はたぶん脳卒中はほとんど経験しないだろう.アルバイトも禁止であるからこれはやっぱり給料をもらって学生の臨床実習の延長をやるようなものだ.
研修先によっては少しはましかもしれないが,研修が終わっても実力は今までの3年目とそれほど変わらないだろう.まあ,その点はどうせ期待していないから実害はない.それよりもこれから2年間に地方医療が崩壊していくことが気になるが,文句があるなら患者は大都市に移住しろということか.いったい厚生労働省は何を考えているのだろう.
脳外科についていうと専門医になるにはこの2年間はほとんど意味がないだろう.新しくて多少は役に立つ内科や外科の知識があってもどうせその専門医にはかなわない.全員が離島でひとりで診療するのならそれでも我慢するしかないのだろうが,都市の総合病院には各科の専門医が常駐しているのだから研修後の知識も有用性はほとんどないまま専門の知識に置き換わっていくだろう.
大都市志向の研修医がいくら出てきたところで私からみたら即戦力ではない.だから私にとっては医師3年目にして脳外科医1年目でしかないのだ.他の科の知識が生半可にあってもそれに頼るほど私も馬鹿ではないのだ.それよりも現在の人手不足が2年も続くのなら私も地方は見捨てるしかなくなると思う.北海道なら脳外科は札幌と旭川だけなんてことになれば医師不足も解消されるだろう.
2年経てば医師のレベルがアップするなんて考えているまともな医師はたぶんいないだろう.臨床研修で多少できるような気になった危険な医者が増え,地方医療は完全に崩壊し,独立法人化した大学と大学病院の存在さえも危うい,まさに医療危機がそこまでせまっているような気がしているのは私だけだろうか.
▽閉鎖
道北地方の名寄市立総合病院は、周辺町村からも患者が集まるセンター病院。循環器呼吸器内科の医師五人が六月までに旭川医大に撤収するため、休診を強いられた。佐古和広(さこ・かずひろ)院長は「非常につらい」とうつむく。北海道大への陳情や雑誌の求人広告、個人のつてなど手を尽くしたが、見つからない。「患者は二十キロ先の士別市に行ってもらうしかない」と話すが、冬は雪に埋もれ、列車は一時間に一本程度。男性患者(77)は「困るよ。年寄りにそんな遠くは」と声を荒らげた。
市立稚内病院も脳神経外科の医師を撤収すると北大に通告され、同科閉鎖を決めた。金森勝(かなもり・まさる)事務局長は「研修生はみんな大都市志向。強制的に田舎によこすのは医局の人事力だった。きれいごとじゃないんだ」と、医局頼みの実態を吐露する。
▽限界
北大脳神経外科の岩崎喜信(いわさき・よしのぶ)教授は「とにかく医師が足りない。マジシャンじゃないんだから、もう無理だ」と話す。
留学や開業で医局から十人近く減った上、新研修制度で入局者はゼロ。国立大の独立行政法人化で、大学として臨床や研究の実績を上げる必要もあり「稚内を撤退してもまだ足りない」という。
北海道同様、医師不足が深刻な東北地方。東北大はこれまでも研修を院外で行ってきたため、引きはがし問題は顕在化していない。しかし同大卒後研修センター長の本郷道夫(ほんごう・みちお)教授は「再来年が危機」と指摘。二年の研修後、さらに専門を一、二年学んで大学に戻ると見込まれ、「派遣先病院にもしわ寄せがいく」。
岩崎北大教授は「何か手を打たないと、北海道と東北は無医村地区だらけになる。大学は医師を総引き揚げするタイミングを見計らっている」と話し、最悪の事態を心配しながら「今日も病院が陳情に来ている」とため息をついた。』
『新医師臨床研修制度-国家試験合格後の2年間で、内科、外科、救急・麻酔科、小児科、精神科、産婦人科、地域医療の7分野を経験し基本的な診療能力を身に付ける。処遇面でもアルバイトをせず研修に専念できるよう国が補助金を支給、月収30万円程度を目指す。
研修医のアルバイト-人手不足の病院では当直や日直を1人で任されることが多く、医療事故を招く恐れが指摘される。厚生労働省は4月以降、雇用契約で明確にアルバイト診療を禁止しなければ、研修医の受け入れ病院に補助金の一部を交付しない方針を決めた。』
北大の関連病院でなくとも地方の脳外科はどこも人手不足である.新医師臨床研修制度ではそもそも脳外科はかやの外である.国民の死因の2位3位を争う脳卒中の診療は北海道では主に脳外科が担っているのにこの状態では思いやられる.そう,研修医はたぶん脳卒中はほとんど経験しないだろう.アルバイトも禁止であるからこれはやっぱり給料をもらって学生の臨床実習の延長をやるようなものだ.
研修先によっては少しはましかもしれないが,研修が終わっても実力は今までの3年目とそれほど変わらないだろう.まあ,その点はどうせ期待していないから実害はない.それよりもこれから2年間に地方医療が崩壊していくことが気になるが,文句があるなら患者は大都市に移住しろということか.いったい厚生労働省は何を考えているのだろう.
脳外科についていうと専門医になるにはこの2年間はほとんど意味がないだろう.新しくて多少は役に立つ内科や外科の知識があってもどうせその専門医にはかなわない.全員が離島でひとりで診療するのならそれでも我慢するしかないのだろうが,都市の総合病院には各科の専門医が常駐しているのだから研修後の知識も有用性はほとんどないまま専門の知識に置き換わっていくだろう.
大都市志向の研修医がいくら出てきたところで私からみたら即戦力ではない.だから私にとっては医師3年目にして脳外科医1年目でしかないのだ.他の科の知識が生半可にあってもそれに頼るほど私も馬鹿ではないのだ.それよりも現在の人手不足が2年も続くのなら私も地方は見捨てるしかなくなると思う.北海道なら脳外科は札幌と旭川だけなんてことになれば医師不足も解消されるだろう.
2年経てば医師のレベルがアップするなんて考えているまともな医師はたぶんいないだろう.臨床研修で多少できるような気になった危険な医者が増え,地方医療は完全に崩壊し,独立法人化した大学と大学病院の存在さえも危うい,まさに医療危機がそこまでせまっているような気がしているのは私だけだろうか.
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