死亡すれば手術ミス
2004年6月14日『国立療養所宇多野病院(現国立病院機構宇多野病院、京都市右京区)で昨年9月、脳の血管手術中に脳死状態になり、その後死亡した当時高校2年の男子生徒=当時(16)=の両親が11日、「手術ミスが原因」として、国に約1億4000万円の損害賠償を求める訴訟を京都地裁に起こした。訴状などによると、生徒は昨年8月、部活動中に急性硬膜下血腫で倒れ、同病院で脳圧を下げる手術を受けた。その後、回復しいったん退院したが、病院は脳内血管の奇形が原因で再出血の危険があるとして9月30日に再手術を実施。この手術中に医師がカテーテルの操作を誤って動脈の血管壁を傷付けたために生徒は脳死状態になり、18日後に死亡したという。宇多野病院は「訴状を見ていないのでコメントできない」としている。』
脳の血管内手術は専門医制度が発足して技術の安全性の確保への努力が続いているが,安全性は確立されたわけではない.たとえ専門医が行ってもこのような事故は起こりうるものであるというのが一般的な脳外科医の認識であると思う.専門医を養成する立場にある指導医でさえも患者が死亡して訴訟になっているのが現実である.
問題はこの治療をするにあたってこのような危険性が十分に患者および家族に説明されているかどうかという点に尽きるであろうが,動脈の血管壁を損傷して死亡することもあることに納得できないなら結果的には血管内手術に同意すべきではなかったということだろう.技術に問題がなくても不可抗力で動脈壁を損傷する可能性は0%ではないことはやっている側にはわかっていることなのだから,これを手術ミスと言われたのではやってられないというのが医師側の正直な言い分だろう.
私は現在の血管内手術はその安全性を考えるととても確立した手術手技とは思えないので血管内手術を患者さんに勧めることはほとんどない.血管内手術は確かに将来有望な治療ではあるだろうが現在の機材はまだまだ発達の余地があり私から見ると発展途上の実験的医療という印象がぬぐえないのである.脳外科医は新し物好きな人間が多いので現在流行の治療を誰しもやってみたいのであろう.
もうひとつの理由は血管内治療が比較的若い脳外科医にも少ないトレーニング期間で可能になるからであろう.脳神経外科専門医になる前に血管内治療専門医になることも可能である.そもそも脳外科医でなくとも循環器内科医や放射線科医であっても資格がとれるので脳神経外科専門医に比べるとはじめから対象が広いのである.
入院期間が短く,低浸襲で,経験年数の少ない医師でも可能というのが利点のように見えるが,実際のところこのニュースのような訴訟が頻発するようだとどこにメリットがあるのか疑わしい.産婦人科領域の医療事故の増大で医師会の医師損害賠償責任保険が赤字になるようだが,血管内手術がそれに追い討ちをかけないように願いたい.
このケースも実のところ本当に手術ミスなのか不可抗力なのかはわからないが,結果が悪ければ手術ミスというのでは先端医療のコストはあらかじめ訴訟対策費用を含んで診療報酬を決めてもらわなければならない.結果に対する医師の責任は逃れないものであり医師を弁護するつもりもないが,血管内手術に限らず手術を希望する人はくれぐれも治療のリスクについて納得ゆくまで説明を聞くなど主治医とのコミュニケーションを重視してもらいたいものだ.
ある意味では手術による障害は飛行機の墜落事故みたいなものであるから患者側も障害保険に入っておくなどの予防策をあらかじめとっておくことなどもいいかも知れない.これは外科医のわがままかもしれないが,保険会社が手術前に加入できる術後高度後遺障害保険なんていうものを作ってくれると患者側も医師側も助かると思われるがどうであろうか.
脳の血管内手術は専門医制度が発足して技術の安全性の確保への努力が続いているが,安全性は確立されたわけではない.たとえ専門医が行ってもこのような事故は起こりうるものであるというのが一般的な脳外科医の認識であると思う.専門医を養成する立場にある指導医でさえも患者が死亡して訴訟になっているのが現実である.
問題はこの治療をするにあたってこのような危険性が十分に患者および家族に説明されているかどうかという点に尽きるであろうが,動脈の血管壁を損傷して死亡することもあることに納得できないなら結果的には血管内手術に同意すべきではなかったということだろう.技術に問題がなくても不可抗力で動脈壁を損傷する可能性は0%ではないことはやっている側にはわかっていることなのだから,これを手術ミスと言われたのではやってられないというのが医師側の正直な言い分だろう.
私は現在の血管内手術はその安全性を考えるととても確立した手術手技とは思えないので血管内手術を患者さんに勧めることはほとんどない.血管内手術は確かに将来有望な治療ではあるだろうが現在の機材はまだまだ発達の余地があり私から見ると発展途上の実験的医療という印象がぬぐえないのである.脳外科医は新し物好きな人間が多いので現在流行の治療を誰しもやってみたいのであろう.
もうひとつの理由は血管内治療が比較的若い脳外科医にも少ないトレーニング期間で可能になるからであろう.脳神経外科専門医になる前に血管内治療専門医になることも可能である.そもそも脳外科医でなくとも循環器内科医や放射線科医であっても資格がとれるので脳神経外科専門医に比べるとはじめから対象が広いのである.
入院期間が短く,低浸襲で,経験年数の少ない医師でも可能というのが利点のように見えるが,実際のところこのニュースのような訴訟が頻発するようだとどこにメリットがあるのか疑わしい.産婦人科領域の医療事故の増大で医師会の医師損害賠償責任保険が赤字になるようだが,血管内手術がそれに追い討ちをかけないように願いたい.
このケースも実のところ本当に手術ミスなのか不可抗力なのかはわからないが,結果が悪ければ手術ミスというのでは先端医療のコストはあらかじめ訴訟対策費用を含んで診療報酬を決めてもらわなければならない.結果に対する医師の責任は逃れないものであり医師を弁護するつもりもないが,血管内手術に限らず手術を希望する人はくれぐれも治療のリスクについて納得ゆくまで説明を聞くなど主治医とのコミュニケーションを重視してもらいたいものだ.
ある意味では手術による障害は飛行機の墜落事故みたいなものであるから患者側も障害保険に入っておくなどの予防策をあらかじめとっておくことなどもいいかも知れない.これは外科医のわがままかもしれないが,保険会社が手術前に加入できる術後高度後遺障害保険なんていうものを作ってくれると患者側も医師側も助かると思われるがどうであろうか.
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