情報開示はだれの利益になる?
2004年7月7日『札幌市の情報公開審査会が6月、市立札幌病院で起きた医療事故の報告書で非開示となっていた医師名について「医師は公務員で、担当医師名の公開は妥当」とする答申を行い、これを受けた市が決定を変更、医師名や事故に関する病院の見解などの情報を開示したことが5日、分かった。厚生労働省は「裁判になったケース以外、医療事故に関係した医師名を開示した例は聞いたことがない」としており、極めて異例。市民が情報公開を求める流れを受け、今後、同様の判断が各地で出ることも予想され、医療現場に影響を与えそうだ。開示されたのは2001年から3年間の、同病院の「医療安全対策会議審議内容報告書」。臓器の一部が損傷し病院側がミスを認めた例や、手術で視力を失ったと患者が主張している例など19件あった。担当医師や手術の執刀医など10人の医師名と、病院側の判断や対応も記載していた。札幌市は市民からの情報公開請求に対し昨年、医師名を含む事故概要のほとんどを非開示とした。しかし異議申し立てを受け、第三者でつくる審査会が「医師名を開示しても患者の個人情報に当たらない。公務員である医師の職務を記載した文書で、担当医師名を開示するのは妥当」と判断した。』
『札幌市が医療事故に関係した医師名を開示したことで、「ミスした医師の名が分かれば、何度もミスを繰り返す医師を避けることができる」と歓迎する声がある一方、現場からは「医師が委縮する」と慎重な対応を求める声も出ている。医療事故に詳しい「医療事故市民オンブズマン・メディオ」(東京都)は、患者側が医師を選ぶ手掛かりを得ることの利点を指摘。また医療ミスに対する病院側の検討内容や判断も開示されたことで、裁判などで患者側の有力な情報となり、ミスの再発防止に役立つとの見方もある。しかし日本医師会は「医師が失敗を恐れて委縮する。治せる病気も治せなくなる恐れがあり、開示は患者の利益にならない」と否定的だ。厚生労働省医政局指導課も「医療ミスの報告が上がってこなくなる可能性がある」と開示に対して慎重にみている。』
税金で運営される公的機関の情報開示ということにはもちろん私も賛成である.一般人の視点みると一見公正な対応のように見えるのだが,市立病院に大学から派遣されている医師たちにはそうは思えないだろう.
医療事故に関係した医師名を公表するということは院内で事故報告書の対象になったすべての医師の名前が公表される可能性がある.そうなると色々な意味でリスクのある業務を日常的にたくさんやっている医師ほど名前が公表される可能性が高い.医療事故はいつでも起こりうるから一生懸命働く医師ほど不利になるわけだ.
これでは市立病院で定年まで働く固定の医師であればなるべく働かないほうが安全なわけで,院長や部長などの管理職の医師はリスクの高い仕事を避け,派遣の医師たちがこのリスクを背負って主治医になる機会が増えても不思議ではない.
市立病院にとっても医師名を公表して病院に患者が来なくなれば困るから結局は派遣医師の責任にして大学に返すというもっとも簡単な解決法を選択する可能性が高い.事故を起こした医師がいなくなり新任の医師が大学から来るだけでは医師名を公表しても事故が減少することは期待できない.
では患者の利益になるのだろうか.まず,病院内でも問題になるようなリピーター医師は医師名を公表する以前にさっさと辞めてもらえばいい.裁判のときには訴えられる医師はわかっているはずであるから公表するまでもない.ミスの再発防止という点ではミスした場合の医師名公表を恐れてリスクを犯さなければミスは減るが治療の機会も減るだろう.
結局のところ医師も人間で程度の差はあるもののたくさんやっていれば確率的にミスは起こるものだから医師名の開示で医療が改善されるになることはなさそうである.むしろ札幌市立病院がこれで市民の信頼を得て経営状態を改善できるのかどうかだけが注目すべきことといえるかもしれない.
『札幌市が医療事故に関係した医師名を開示したことで、「ミスした医師の名が分かれば、何度もミスを繰り返す医師を避けることができる」と歓迎する声がある一方、現場からは「医師が委縮する」と慎重な対応を求める声も出ている。医療事故に詳しい「医療事故市民オンブズマン・メディオ」(東京都)は、患者側が医師を選ぶ手掛かりを得ることの利点を指摘。また医療ミスに対する病院側の検討内容や判断も開示されたことで、裁判などで患者側の有力な情報となり、ミスの再発防止に役立つとの見方もある。しかし日本医師会は「医師が失敗を恐れて委縮する。治せる病気も治せなくなる恐れがあり、開示は患者の利益にならない」と否定的だ。厚生労働省医政局指導課も「医療ミスの報告が上がってこなくなる可能性がある」と開示に対して慎重にみている。』
税金で運営される公的機関の情報開示ということにはもちろん私も賛成である.一般人の視点みると一見公正な対応のように見えるのだが,市立病院に大学から派遣されている医師たちにはそうは思えないだろう.
医療事故に関係した医師名を公表するということは院内で事故報告書の対象になったすべての医師の名前が公表される可能性がある.そうなると色々な意味でリスクのある業務を日常的にたくさんやっている医師ほど名前が公表される可能性が高い.医療事故はいつでも起こりうるから一生懸命働く医師ほど不利になるわけだ.
これでは市立病院で定年まで働く固定の医師であればなるべく働かないほうが安全なわけで,院長や部長などの管理職の医師はリスクの高い仕事を避け,派遣の医師たちがこのリスクを背負って主治医になる機会が増えても不思議ではない.
市立病院にとっても医師名を公表して病院に患者が来なくなれば困るから結局は派遣医師の責任にして大学に返すというもっとも簡単な解決法を選択する可能性が高い.事故を起こした医師がいなくなり新任の医師が大学から来るだけでは医師名を公表しても事故が減少することは期待できない.
では患者の利益になるのだろうか.まず,病院内でも問題になるようなリピーター医師は医師名を公表する以前にさっさと辞めてもらえばいい.裁判のときには訴えられる医師はわかっているはずであるから公表するまでもない.ミスの再発防止という点ではミスした場合の医師名公表を恐れてリスクを犯さなければミスは減るが治療の機会も減るだろう.
結局のところ医師も人間で程度の差はあるもののたくさんやっていれば確率的にミスは起こるものだから医師名の開示で医療が改善されるになることはなさそうである.むしろ札幌市立病院がこれで市民の信頼を得て経営状態を改善できるのかどうかだけが注目すべきことといえるかもしれない.
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