『--医療ミスで医師ら書類送検 呼吸器外れ女性患者死亡--

 愛知県稲沢市の尾西(びさい)病院(大野恒夫(おおの・つねお)院長)で昨年10月下旬、女性患者=当時(33)=が手術中に人工呼吸器の管が外れて死亡した事故があり、稲沢署は12日、業務上過失致死の疑いで、担当した男性医師(55)=三重県桑名市=と女性看護師(33)=稲沢市=を書類送検した。

 調べでは、2人は昨年10月28日午後、女性に全身麻酔をかけて卵巣のう腫(しゅ)などの手術をした際、麻酔器の設定や女性の容体を十分に見ることを怠り、麻酔を兼ねた呼吸器の人工鼻と気管チューブが外れていたのに気付くのが遅れ、死亡させた疑い。

 医師らが女性の容体の変化に気付いたのは、人工鼻と気管チューブが外れてから約四十分後だった。異常を知らせるアラームのスイッチを入れておらず、発見が遅れたという。

 女性は低酸素で意識不明の重体となり、同年11月14日に死亡した。』

 昨年10月というから最近の話である.全国的に麻酔科医が不足しているから俗に言う術者が麻酔をかける自前麻酔での手術だったのだろうか.麻酔科医というのはある意味で高度に専門的な領域で手術のときに患者さんの全身状態を管理してくれるいわば命の守備の専門家である.野球で言えば術者が投手で麻酔科医は捕手という感じだろうか.

 術者が麻酔をかける自前手術は実は病院にとって二つのメリットがあるのだ.ひとつは人手不足で麻酔科医を確保できず大学からの出張派遣もしてもらえない場合の解決策という側面で,もうひとつは麻酔管理料という健康保険診療の報酬を麻酔科医に払わずに病院の収益にできることだろう.不思議なことに麻酔専門医や指導医という資格があってもなくても診療報酬上は差がないのである.これでは,お金のために自前で麻酔をかけることを外科医に強制する病院が現れても不思議はない.

 このニュースが事実だとすると麻酔器に附属する各種のモニターが適切に設定あるいは使用されていなかったようでもあり,自前麻酔をするにしてもあまりに管理がずさんだったように思われる.確かに自前でも麻酔は安全にかけられる外科医は多いだろうが,私の場合は麻酔を気にしながら手術をするのは術野に集中できないし,出血がひどい場合などには止血操作で精一杯でとても麻酔や全身状態まで気配りできる状態でない場合もあり得るので麻酔科医がいなければ手術する気にはなれない.

 危機管理という面から考えたら自前麻酔の患者側のメリットは皆無であることに異議のある外科医はいないであろう.だが,現実には麻酔科医は不足しているのである.大学病院では麻酔科医が足りないために自前ではないが,麻酔科医が複数の患者を同時にかけ持ちで麻酔をかけているところもあるらしい.これでも事故が起きたらきっと麻酔科医が責められるのであろうか.地方の病院では医師不足のために自前麻酔を余儀なくされ,大学ではかけ持ち麻酔をするように指示された挙句に事故が起きたらやったものの責任というのではあまりに無責任ではないだろうか.

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