『--「こんな図面通ったら大変」偽装通報者、1年半前に指摘--

 耐震強度偽装問題で、姉歯秀次建築士の構造計算書偽造を見抜き、検査機関・日本ERIとイーホームズに通報した東京都渋谷区の設計事務所代表(44)が朝日新聞の取材に応じた。姉歯建築士の図面は「はりや柱が細く、鉄筋の本数も少なかった。どれも常識では考えられない水準だった」という。代表は驚き、検査機関に伝えたが、不正が明るみに出るまで、それから1年半かかった。

 国土交通省が当初発表した21棟の偽装物件のうち、少なくとも10棟は代表が検査機関に連絡した後の1年半の間に建築確認が下りていた。

 04年1月、神奈川県の設計会社の依頼で姉歯建築士が構造計算した東京都港区の10階建てビルの図面を調べ、異常にすぐ気付いた。

 代表は構造計算の経験が約20年間あり、建設コストを抑える経済設計に詳しい。姉歯建築士の図面は直径32ミリの鉄筋を17本入れるべき1階の最下部のはりに、直径25ミリの鉄筋が5本しか入っていなかった。構造計算書は地震時にかかる力を本来の基準の4分の1まで落として計算していた。

 それなのに日本ERIの審査担当者は04年1月に建築確認していた。

 設計会社社長は姉歯建築士に連絡した。姉歯建築士は「外注した。チェックミスだった」と説明し、「(契約から)おりる」と伝えてきた。

 代表は構造計算をやり直した。同年4月に日本ERIの担当者に会い、図面を見せて問題点を説明した。「こんな図面が建築確認を通っていたら大変だ。ほかにも例がないか確かめてはどうか」と言い添えた。

 ところが、1年半たった今年10月半ば、代表は再び姉歯建築士の図面を目にした。都内でヒューザーが建てるマンションの工事を請け負った建設会社から「必要な資材の量が少なすぎる」と再点検を頼まれた。

 柱やはりが極端に細く、鉄筋も少ない。「こんないい加減な仕事をするのは、1人しか知らない」。やはり姉歯建築士が構造計算を受注し、イーホームズが建築確認していた。この建設会社が姉歯建築士の設計で建てたマンションが都内に1棟できていた。

 代表はすぐイーホームズに足を運び、担当者2人に訴えた。「何も知らずに安心して住んでいる人がいる。すぐ対応しなきゃだめだ」

 最初は指摘の意味がわからない様子だった担当者たちも、やがてことの重大性に気づいた。

 約1カ月後の11月17日夕、イーホームズから報告を受けた国土交通省が偽造を発表した。

 イーホームズは11月29日の衆院国土交通委員会で、日本ERIが姉歯建築士の偽造を知りながら「隠蔽(いんぺい)した」と指摘した。同日、日本ERIは記者会見し、反省点はあるが隠蔽した事実はないと反論した。』

 その道20年のプロの眼というのはそういう物だろう.一級建築士であれば一目見ただけでわかるほど姉歯建築士の図面はひどいものだったのだろう.日本ERI側が検査用プログラムが改ざんされていたとか複数の書類を合わせて偽装したなどと言っても私には責任逃れのようにしか聞こえない.

 「(図面は)はりや柱が細く、鉄筋の本数も少なかった。どれも常識では考えられない水準だった」と指摘しているのは極めて重要だろうし,そういう経験豊富な人の意見を聞かなかった日本ERIの姿勢には当然相応の責任が生ずると思われる.国土交通省が当初発表した21棟の偽装物件のうち、代表が検査機関に連絡した後の1年半の間に建築確認が下りていた少なくとも10棟については責任を逃れることはできないだろう.

 先日,元東京女子医大病院の佐藤医師に無罪の判決が出た.判決のポイントはそもそも欠陥のある装置であり,当時の医療レベルではその装置で死亡事故が起きることを予見することは不可能だったということだった.

 医療機器にしても検査プログラムにしても欠陥や脆弱性は決してゼロではない.高度な機械やプログラムほど問題点が見つけにくくなるのがむしろ当たり前である.そういう当たり前のことを認識して自分の眼で異常を見つけられるのが本当のプロだと思うのだがどうだろうか.

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