『--「手術の事前説明不足」 遺族が済生会に賠償請求--

 山口市の済生会山口総合病院で心臓手術を受け死亡した山口県萩市の男性=当時(62)=の遺族が、病院側が事前に手術の危険性を十分に説明しなかったとして、20日までに病院を経営する恩賜財団済生会(東京)に約5570万円の損害賠償を求める訴訟を山口地裁に起こした。

 訴状によると、男性は今年2月、胸の痛みなどを訴えて入院。病院から「手術の危険性(死亡率)は3-5%」などと説明を受け、3月に大動脈弁を人工弁にする手術を受けたが、手術中の出血が原因で重症心不全となり、翌日死亡した。

 遺族側は「危険で困難な手術になるという説明を事前に受けていれば、手術は見合わせた」と主張。同病院は「弁護士と相談して対応を考えたい」としている。』

 例によってこの記事の内容がどの程度まで事実を反映しているのかはわからないが,手術の危険性(死亡率)が3−5%と説明を受けていてながら遺族側が「危険で困難な手術になるという説明を事前に受けていれば、手術は見合わせた」と主張したのが事実ならば術前の説明はほとんど無意味だろう.遺族にとっては結果がすべてということなのだろうから.

 この判決がどのようになるのか非常に興味があるところだが,一般的に死亡率が3−5%というのが危険で困難な手術かどうかは意見が分かれるところであろう.私としては十分危険で困難であると考えられるのだが,一般の人の感覚としてはどうなのであろうか.飛行機に百回乗ったら3−5回は墜落しますよと言われたら乗る人はいるのだろうか.

 さらに考えてもらいたいのは飛行機なら乗らなければ墜落しないが,病気では治療しないことによるリスクもあるということだ.治療するリスクとしない場合のリスクを比較するのでなければ病気の場合は意味がない.結果が悪くなる可能性があるのだったら治療しないというのもひとつの選択肢かもしれないが,それにしても最終的な選択は本人の問題であって遺族が決めるべきことでもない.

 本人が治療の結果死亡したことに対する結果責任で遺族が損害賠償を病院に求めるというのが当たり前になるのであれば,病院は賠償責任保険を増額しなければならないが,その余分な経費はどこから捻出できるであろうか.少なくとも診療報酬にはそんなものは含まれてはいない.大動脈弁の置換術など技術料は100万円にも満たないのだ.

 100例やって1億円の技術料が入っても3例死亡して訴訟で3X5000万円=1億5000万円払ったら5000万円の赤字である.こんな手術はやめたほうがいいということにならないだろうか.死亡したら「危険で困難な手術になるという説明を事前に受けていれば、手術は見合わせた」というなら死亡率が0%でない手術はすべて危険で困難と説明しなければいけないということになる.これでは手術で助かる95−97%の患者を手術から遠ざけることにはならないだろうか.

 私は死亡も含めすべての合併症の発生率の合計が5%以下なら十分手術を受ける価値があると思っているし,死亡率だけなら2%以下ならまあ安全と言えるのではないだろうか.そもそも死亡や寝たきりになった場合のことを考えるなら本人が死亡・高度傷害の場合の保険に加入しておくべきであろう.病院が損害賠償するにしても(手術による死亡率-治療しない場合の死亡率)×技術料くらいが採算性から言って妥当だと思うのだがどうだろうか.

コメント

nophoto
yuna
2005年12月31日2:48

はじめまして
素人考えなのですが、合併症の発生率とおっしゃってますが、合併症事態が技術力の未熟なお医者さんの手術によって引き起こされるのではないのですか?
私にはそのような認識があります。
外国滞在ですが、医者の技術力を買うという意味で、涙が出るくらいの高額医療を求めざるを得ないのですが、命には代えられません。

ブログ脳外科医
脳外科医
2005年12月31日12:07

合併症とは患者さんの生物学的特性や自己管理によるもの,医師の診断や技術に負うもの,外的な環境によって生ずるものそのどれにも問題はなくとも不可抗力的に起きるものなど全てが含まれると思います.医師に明らかな過失があれば事故ということで,これは特殊な合併症であると思います.
 外国は医師の技術が高いから高価なのではなくリスクを含めた料金設定をしているだけだと思っています.むしろそれが当然で,国民皆保険のもと同じ技術でも外国に比べ格安でやっているのがわが国の医療ではないでしょうか.高額だから合併症のリスクが低いと考える理由はないと思います.

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