『 -- ロシア・プーチン大統領論文 挑戦、可能性、責任 --

 2006年を迎え、ロシアは主要国首脳会議(G8)議長国リレーのバトンを受け取った。私たちは、それがいかに重大な仕事で大きな責任を帯びているかを十分に理解している。取り組まなければならないのは、会合を主催するための膨大な作業だけではない。私たちには、この権威ある会合で何を優先するのか、方向性を話し合って決め、その内容を充実したものにするという重大な課題が課されている。

 G8サミットは、世界の発展にかかわる重要問題の解決に向け、種々のアプローチを調整する最も重要なメカニズムの一つとして、すでに30年以上も機能してきた。

 私たちは、重大かつ緊急を要する三つのテーマ、つまり世界的なエネルギーの安全保障、感染症との闘い、そして教育問題に力を集中するよう、パートナーの各国に呼び掛けている。これらの課題はいずれも、現代とこれからの世代を担う人々の生活の質と水準を向上させるという、全パートナーにとって明確な目的を達成するために設定されたものだ。
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 エネルギーの安全保障について、信頼でき、かつ包含的な体制を作り上げることがG8、そして国際社会全体の戦略的課題の一つであることは疑う余地がない。今日、地球規模でのエネルギー供給は、まさに社会経済の発展にとって最も重要な動力であり、地球上の数十億人の繁栄に直接影響を及ぼしている。

 私たちは、G8議長を務める間にこの分野で現下の問題を解決するための基本的なアプローチを見いだすだけでなく、将来に向けた政策でも合意できるよう真剣に努力する決意だ。

 現在、世界的なエネルギー供給にとって現実に脅威となっているのは、化石燃料市場の不安定さだ。特に、需要と供給の差が拡大している。アジア諸国でのエネルギー消費の増大は明らかだ。このような状況は地域間の景気の「落差」によって呼び起こされているだけではなく、政治や安全の分野での様々な問題にも原因がある。状況を正すには、国際社会が調和のとれた行動をとる必要がある。

 世界の主要国にとって、エネルギー問題が地球規模になった以上、もはやそこからエネルギーの安全保障を切り離すことは不可能だと認識することが新しいアプローチの出発点となるはずだ。私たちがエネルギーの分野で運命をともにすることは、責任と危険と利益をも共有する、ということを意味する。

 私たちは、地球規模でエネルギーの安全保障を達成するための戦略を作成することが特に重要だと考える。その土台には、価格的にも妥当で輸出国も輸入国も満足でき、長期的に持続して信頼できて、かつ環境的にも受け入れ可能なエネルギー供給――という原則が貫かれていなければならない。必要なのは、エネルギーの輸出入にかかわる国々の利害を調整することだけではない。既存のエネルギー資源を世界経済に安定的に供給するための方策と、エネルギーの節約計画や代替エネルギーをより積極的に導入するための方策も求められている。

 バランスの取れた、ばらつきのないエネルギー供給。これが、現在と将来にわたって安全な世界を維持するのに必要な要素の一つであることは間違いない。私たちは後世に世界的なエネルギー体制を遺(のこ)し、子孫を紛争やエネルギー争奪のための非建設的な争いから守る義務がある。将来長きにわたる文明のための効果的な「エネルギーの基盤」を構築するための総合的アプローチを見いだすことが非常に重要だ。

 ロシアは、革新的な技術開発のため、G8と国際社会全体が革新的な技術開発により緊密に努力を結集するよう訴えている。このことは、エネルギー資源が今日あるような形では完全に枯渇してしまうであろう未来における人類へのエネルギー供給のための技術的基盤を確保する第一歩となるだろう。

 地球規模でエネルギーの安全保障を強固にすることはまた、社会と経済の発展の効率性を高めるため総合的なアプローチを生み出すことにもつながる。昨年の英国グレンイーグルズ・サミットでは、この面で重要な進展があった。何よりもまず、技術革新の奨励とエネルギーの節約、そして環境保全に向けた行動計画が採択された。私たちは、G8グループの行動、特にグレンイーグルズで採択された文書の実現に、G8ではない国々、とりわけ産業が発展中で成長著しい国々をも巻き込むことが極めて重要だと考える。

 エネルギーの安全保障は主として先進国のためのものだ、と考えている人が多い。しかし、現在地球上では、約20億もの人々が近代的なエネルギー供給を受けられない状態にあることを忘れてはならない。電気を利用する機会すら与えられない人々も少なくない。彼らには実質的に、富や文明の成果を享受する道が閉ざされているのだ。

 もちろん、エネルギーはそれ自体では貧困問題を解決しない。しかし、エネルギー資源の不足は各地で経済成長を阻害し、また、非合理的なエネルギーの利用は環境に惨事をもたらす――しかも、地域的な規模ではなく、地球規模で――ことにつながりかねない。

 近年、専門家らは、発展途上国のエネルギー需要をまかなうために従来型ではないエネルギー源をより積極的に利用する可能性について熱心に議論している。この点で、代替エネルギー供給体制を確立し、導入することへのG8からの援助が特に切実な重要性を帯びている。

 相互依存度が非常に高い現代の世界では、「エネルギー・エゴイズム」はいずれ行き詰まる、ということを認識しなければならない。エネルギー安全保障でロシアの立場が堅固で不変なのはこのためだ。私たちは、先進国の小さなグループを優先してエネルギーの再配分を行うだけでは地球規模の発展という課題と目標を達成することはできない、と確信している。私たちは、世界全体の利益を考慮したエネルギー安全保障の構築を目指す。人類にとってはおよそ、すべての国に安定したエネルギー供給を保証するバランスの取れた能力を持てばそれで十分であり、国際協力はそのための可能性を開くものだ。
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 人類はその歴史を通じて、自身の生存をおびやかす脅威、感染症との闘いを強いられてきた。一見、これまでに希望をいだかせる進歩が得られたようにも見える。確かに天然痘は最終的に根絶され、小児麻痺(ポリオ)との闘いも根絶に向けて最終段階に入った。しかし、私たちは今日においても、既存の疫病の突発と同時に、エイズや外来のウイルス性出血熱、マイコプラスマ感染症、鳥インフルエンザなど新しく、きわめて危険な病気にも直面している。感染症は現在、全世界で死因の三分の一を占めている。さらに専門家らは、近い将来、数百万人の命を奪う危険のある新種のインフルエンザが広域的に発生する可能性が高い、としている。

 ロシアは、この分野でも積極的な活動を提案するつもりだ。とりわけ、鳥インフルエンザの撲滅と、人との間で感染する新種のインフルエンザを予防するための機動的なG8の行動計画を採択することもその一つだ。

 G8は感染症の撲滅という大きな問題から身を置くことはできないし、すべきでもない。保健制度の発展や財政的な力量、学問的な潜在能力に格差が存在することが、感染症撲滅のための地球上の資産を公平に配分できない原因になっている。

 世界のさまざまな地域にそれぞれの密度で広がる感染症は、一つの指標として社会や経済の問題を一目瞭然(りょうぜん)にあぶり出し、社会的な不平等を拡大し、さらに差別を助長していく。HIVやその他の危険な感染症に侵されて事実上社会からの脱落者として扱われ、病気だけではなく、社会生活への適応にも困難を背負わされた人々の問題はきわめて深刻だ。

 基本的な問題がさらにもう一つある。近年、人類は頻繁に地震、洪水、津波の破壊的な力をその身で感じるようになった。都市化、交通網や産業インフラの拡大によって、私たちは過去と比べ、このような自然災害に対してずっと脆弱(ぜいじゃく)になっている。自然災害は、経済や社会に大きな損害を与えるだけではない。最も恐ろしいのは、災害によって感染症が突発的に誘発され、何千、何万の人々の命を奪うことだ。このため、もう一つの優先すべき課題として、自然災害がきっかけとなる感染症拡大に対して予防と対策となる地球規模での制度作りがあげられる。

 感染症の発生と拡大に機動的に対応できる統一されたインフラ作りが可能かどうかについても、検討することも可能だろう。このインフラには、非常事態に機動的に対処するためのモニタリング制度や、科学的対処法などについての情報交換も含まれるに違いない。

 いわゆる人道上の危機、とりわけ軍事的紛争と結びついた危機が大規模な感染症拡大の原因になっていることも多い。その結果、感染症発生元の本来の危険が何倍にも増幅されることになる。私は、G8がこのような非常事態の解決に向けた国際的な力を結集し、多面的な協力活動へ強い刺激を与えることができると確信している。

 そして、もちろん、G8にとっては、学術的分野の強化、安全なワクチンの開発や将来性ある高度な感染症診断設備の製造に向けた国際社会の知識、資金の結集、啓発及び予防活動の推進を支援していくことも必要だ。
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 教育の分野での共有の課題も注目に値する。ポスト産業化の情報社会にあって、教育は生活の向上のため、かつ、経済発展のための重要かつ必要不可欠な要素になっている。教育は社会的な自覚と道徳的価値の向上、そして民主主義の強化にとって欠かせない要素の一つだ。さらに、技術が完全になるにしたがって、労働市場はより高度な能力を持った専門家を必要とするようになり、その結果、教育制度に求められる水準も高まっている。教育制度の目的や内容も変化している。現在、人びとにとって必要なのはただ単に知識や技術の量を獲得することではなく、常にそれを補い続け、新たな要求に適応できるようになることが求められている。

 地球規模で伝わる情報に接することができるようになり、教育の方法論も根底から変わってきている。生涯学習への移行が始まり、総合教育のための前提条件が形成されつつある。もちろん、これらの流れは他に先駆けてまず先進国で起きている。その一方で、相変わらず初等教育を受けることにすら困難がある国、地域も少なくない。私たちはこれを「人道上の貧困」として、また国際社会にとっての重大な脅威として受け止めている。大衆的な無教育状態を放置すれば、文明間の分裂、外国人排斥プロパガンダ、民族的あるいは宗教的な過激主義の温床、そして最終的には国際テロ活動の温床が生まれるからだ。

 発展途上国、そして世界全体で教育に対するもっと幅広く、系統だった方策を生み出すことが重要だ。特に、雇用問題を成功裏に解決するために、「教育」の概念には一般教育だけではなく、初等から高等まですべての学習レベルを含む専門技術教育も含めなければならない。

 地球人口の移動性が高まり、移住問題が絶え間なく増大していく現状では、異なる文化のただ中に「入り込む」ことをめぐる問題は特別な意味合いを持っている。教育こそが、それぞれの文化、人種、宗教グループ間での社会的な順応を促す。そのために、先進国においても、途上国においても、教育制度の現代化に特別な注意を払わなければならない。

 多くの発展途上国が、最先端を行く教育方法と情報技術の導入をめぐって深刻な困難に直面している。インターネットやその他の情報と知識を普及させるための新たな手段など、現代の最先端の資産を教育の分野で生産的に活用することが求められている。この問題をめぐって去年11月、情報社会について2度目の国際会合がチュニジアで開かれ、実りある議論が行われた。私たちはその結果を注意深く分析し、活用していく考えだ。

 ロシアは、技術の進歩を活用し普及させるために不可欠な専門教育に必要とされる質の向上と共通化のために、国際社会の努力を一つのものとすることに力を尽くす用意がある。グローバルな経済発展のすべてのプレーヤーたち、そして国際労働市場そのものが、それを求めている。

 教育機関がハイテク分野の要請に応えられるかどうかは、それぞれの国民経済が競争力を付けるために欠かせない条件となっている。
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 ロシアが議長国として重視する上記3点の問題とともに、G8では2006年、国際テロや大量破壊兵器拡散といった基本的な問題をめぐっても作業が続けられる。経済発展をめぐる協力や環境破壊の予防、国際経済、財政、貿易に関する問題もG8の関心の中心になる。私たちの努力はまた、これまでと同じように、中東、イラクなどでの地域紛争の解決や、アフガニスタン情勢の安定化にも注がれる。

 どの国が議長国であろうと、G8で討議されている現代世界の問題に対して一国で余すところなく解決方法を提示することができないことは、私たちも十分に理解している。G8は、サミットを重ねて開くことで、その集団的な取り組みの結果、こうした問題に対する視線をより鮮明にして、最も効果的な解決方法を見つけようとしている。

 ロシアもその方向で今後の動きに積極的に協力する考えだ。継承性と進化――これが、議長として活動し始めたロシアのモットーである。 』

エネルギー危機,エイズやインフルエンザ,教育と民主主義.
どれをとっても大きな問題.一読の価値はあると思う.

地球の明るい未来を描けるようになるのはいつだろうか.

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