医師が患者を疑う時代
2006年3月16日 医療の問題 コメント (3)『 -- 波紋広がる産婦人科医逮捕 過熱ぶりに疑問の声も --
1人の産婦人科医の逮捕が全国の医療現場に大きな波紋を呼んでいる。帝王切開を受けた女性=(29)=が死亡した医療事故で、福島県立大野病院の執刀医加藤克彦(かとう・かつひこ)被告(38)=保釈=が2月18日に逮捕されてから、関係学会が異例の抗議声明を出し、訴訟費用のための募金も始まった。一方で「医療は患者のためにある」と過熱ぶりに疑問を投げかける声も出ている。
加藤被告は、癒着した胎盤を無理にはがし、大量出血させたとする業務上過失致死と異状死を届けなかったとする医師法違反の2つの罪で起訴された。過去にも医療事故で医師が逮捕されたことはあったが、無謀な手術だった東京慈恵医大青戸病院事件など悪質なケースがほとんどで、異例の逮捕だった。
医療関係者は猛烈に反発。加藤被告の出身の福島県立医大産科婦人科教室が佐藤章(さとう・あきら)教授名で作成した陳情書には、全国の医師や看護師らから4日間で5000人を超える賛同の署名が集まり、逮捕2日後に県立病院院長らが集まった会議では「医師が怖がってメスを持てない」との声も上がった。
重い胎盤癒着は1万例に1例といい、佐藤教授も「胎盤癒着は、今の技術では事前には分からない。大学病院でも命の保証はできないだろう」と話す。「患者が亡くなった事実は重い。しかし逮捕は意外で納得できない」
首都圏の国立病院の外科医も「今回は医師なら誰でも治療経過にミスは無かったと思える」とする。警察への届け出について、北陸地方のある産婦人科医は「異状死の定義はあいまいで、今回のケースで届ける医師はいない」と訴える。
全国的に産科医不足が問題となる中、加藤被告も1人で地域のお産を支えていた。「逮捕でなり手不足が加速する」と県担当者。ある産婦人科医も「手を尽くしても一定の確率で起きる不幸な事例で逮捕されるなら、怖くて医療はできない。これで産科を志望する医学生がさらに減るのが怖い」と話している。
福島県は2004年12月の事故後、外部の医師らで事故調査委員会を設置、胎盤を無理にはがしたことや対応する医師の不足、輸血対応の遅れを認め遺族に謝罪した。
福島地検も「遺体もなく、身柄を確保したうえで関係者の話を聞く必要があった」とし、ある捜査幹部は「われわれは患者の目線で捜査している」と立証に自信を見せるが「こんなに感情的な反応がくるとは」と驚いている。
医師らの反発を冷静に見る医師もいる。金沢大病院が患者に無断で臨床試験をしたと内部告発した同病院産婦人科の打出喜義(うちで・きよし)講師は「自分の家族が今回と同じ形で亡くなったら、仕方なかったと言って陳情書に署名するだろうか」と話す。
打出講師は「多くの人は『逮捕は行きすぎ』と考えて署名したと思う。その点で警察には説明責任がある」とする一方「産婦人科医が少ないから仕方ないとか、応援を呼べる状態ではなかったとか、正当化しすぎている」と批判。「医者と患者の間に信頼関係があればこういうことは起こらない。信頼関係がなければ医者と患者も不幸になる」と話した。』
「医者と患者の間に信頼関係があればこういうことは起こらない。」とは以前からよく言われていることであるが,すでに患者が医師を絶対的には信頼していないのが現実なのにこんなことをいつまで唱えても意味がないということに医師達も気づいているだけなのである.だが,医師としては患者を信頼したいという気持ちを持ち続けたいというのが多くの医師の気持ちだろうと思う.医師が患者を疑うようになったらおしまいだということは医師自身よくわかっていることである.しかし,ここに来て検察という第3者が介入してくることに医師達は不安といらだちを感じているのだと思う.
医師達が医師免許という国家資格のもとに行う医療行為の適否を医療の現場に無知な検察が判断すること自体がおかしなことなのである.「われわれは患者の目線で捜査している」と立証に自信を見せるというが,それがいったいなんだというのであろうか.患者は被害者であるからその視点で見るとでもいいたいのであろうか.医師の視点で見れば予想できない困難な症例を医師であるが故に治療しなければならない立場になってしまったことが悲劇であるということになるのではないだろうか.
それなら,明らかに安全な症例以外には手を出さないのが自分のためであろう.さらには産科は危険が大きいので避けるという考えも当然ということになろう.先日も書いたが,医師は放っておけば死に至る患者さんにも生存の機会を与えるために努力しているのである.そのような危険の高い症例を失って落ち込んでいるところへ追い討ちをかけるような逮捕.しかも奥さんが妊娠中にである.同じ医師として感情的にならないほうがおかしいであろう.私たちは検察官とは違い犯罪者を追いつめるのが仕事ではない.健康上の理由で弱い立場の人たちを救うのが仕事なのである.
最後に「自分の家族が今回と同じ形で亡くなったら、仕方なかったと言って陳情書に署名するだろうか」ということであるが,自分の妻が同じ状況で命を落としたとしても検察が起訴するというなら,私は陳情書に署名するだろう.少なくとも児だけでも助けてくれたのなら同じ外科系医師としては感謝すべきであるから同情を禁じえないのである.
1人の産婦人科医の逮捕が全国の医療現場に大きな波紋を呼んでいる。帝王切開を受けた女性=(29)=が死亡した医療事故で、福島県立大野病院の執刀医加藤克彦(かとう・かつひこ)被告(38)=保釈=が2月18日に逮捕されてから、関係学会が異例の抗議声明を出し、訴訟費用のための募金も始まった。一方で「医療は患者のためにある」と過熱ぶりに疑問を投げかける声も出ている。
加藤被告は、癒着した胎盤を無理にはがし、大量出血させたとする業務上過失致死と異状死を届けなかったとする医師法違反の2つの罪で起訴された。過去にも医療事故で医師が逮捕されたことはあったが、無謀な手術だった東京慈恵医大青戸病院事件など悪質なケースがほとんどで、異例の逮捕だった。
医療関係者は猛烈に反発。加藤被告の出身の福島県立医大産科婦人科教室が佐藤章(さとう・あきら)教授名で作成した陳情書には、全国の医師や看護師らから4日間で5000人を超える賛同の署名が集まり、逮捕2日後に県立病院院長らが集まった会議では「医師が怖がってメスを持てない」との声も上がった。
重い胎盤癒着は1万例に1例といい、佐藤教授も「胎盤癒着は、今の技術では事前には分からない。大学病院でも命の保証はできないだろう」と話す。「患者が亡くなった事実は重い。しかし逮捕は意外で納得できない」
首都圏の国立病院の外科医も「今回は医師なら誰でも治療経過にミスは無かったと思える」とする。警察への届け出について、北陸地方のある産婦人科医は「異状死の定義はあいまいで、今回のケースで届ける医師はいない」と訴える。
全国的に産科医不足が問題となる中、加藤被告も1人で地域のお産を支えていた。「逮捕でなり手不足が加速する」と県担当者。ある産婦人科医も「手を尽くしても一定の確率で起きる不幸な事例で逮捕されるなら、怖くて医療はできない。これで産科を志望する医学生がさらに減るのが怖い」と話している。
福島県は2004年12月の事故後、外部の医師らで事故調査委員会を設置、胎盤を無理にはがしたことや対応する医師の不足、輸血対応の遅れを認め遺族に謝罪した。
福島地検も「遺体もなく、身柄を確保したうえで関係者の話を聞く必要があった」とし、ある捜査幹部は「われわれは患者の目線で捜査している」と立証に自信を見せるが「こんなに感情的な反応がくるとは」と驚いている。
医師らの反発を冷静に見る医師もいる。金沢大病院が患者に無断で臨床試験をしたと内部告発した同病院産婦人科の打出喜義(うちで・きよし)講師は「自分の家族が今回と同じ形で亡くなったら、仕方なかったと言って陳情書に署名するだろうか」と話す。
打出講師は「多くの人は『逮捕は行きすぎ』と考えて署名したと思う。その点で警察には説明責任がある」とする一方「産婦人科医が少ないから仕方ないとか、応援を呼べる状態ではなかったとか、正当化しすぎている」と批判。「医者と患者の間に信頼関係があればこういうことは起こらない。信頼関係がなければ医者と患者も不幸になる」と話した。』
「医者と患者の間に信頼関係があればこういうことは起こらない。」とは以前からよく言われていることであるが,すでに患者が医師を絶対的には信頼していないのが現実なのにこんなことをいつまで唱えても意味がないということに医師達も気づいているだけなのである.だが,医師としては患者を信頼したいという気持ちを持ち続けたいというのが多くの医師の気持ちだろうと思う.医師が患者を疑うようになったらおしまいだということは医師自身よくわかっていることである.しかし,ここに来て検察という第3者が介入してくることに医師達は不安といらだちを感じているのだと思う.
医師達が医師免許という国家資格のもとに行う医療行為の適否を医療の現場に無知な検察が判断すること自体がおかしなことなのである.「われわれは患者の目線で捜査している」と立証に自信を見せるというが,それがいったいなんだというのであろうか.患者は被害者であるからその視点で見るとでもいいたいのであろうか.医師の視点で見れば予想できない困難な症例を医師であるが故に治療しなければならない立場になってしまったことが悲劇であるということになるのではないだろうか.
それなら,明らかに安全な症例以外には手を出さないのが自分のためであろう.さらには産科は危険が大きいので避けるという考えも当然ということになろう.先日も書いたが,医師は放っておけば死に至る患者さんにも生存の機会を与えるために努力しているのである.そのような危険の高い症例を失って落ち込んでいるところへ追い討ちをかけるような逮捕.しかも奥さんが妊娠中にである.同じ医師として感情的にならないほうがおかしいであろう.私たちは検察官とは違い犯罪者を追いつめるのが仕事ではない.健康上の理由で弱い立場の人たちを救うのが仕事なのである.
最後に「自分の家族が今回と同じ形で亡くなったら、仕方なかったと言って陳情書に署名するだろうか」ということであるが,自分の妻が同じ状況で命を落としたとしても検察が起訴するというなら,私は陳情書に署名するだろう.少なくとも児だけでも助けてくれたのなら同じ外科系医師としては感謝すべきであるから同情を禁じえないのである.
コメント
なんでも医療ミスだと言われ、訴訟の増える今、ちょっとでも
リスクの高いモノのは手を出したくないって医師が出てきても
おかしくないですよね。
自分で自分の首を絞めることになっていくことを、患者さんや検察側はわからないんでしょうか....。
どんな医療行為にもリスクは伴うし、一定の確率でおきる事故も
あるのに、
全てを「医療ミス」としてひとまとめにするのは、本当に医療従事者の
モチベーションを低下させます.....。
まさに由貴さんの書かれている事そのままで。
外科系の医師が抱えている問題をまさに形にしたような出来事ですので・・・。
誠意を尽くしても予想し得ない事態は起こりうるのだし、それを全て医療ミスと認識されたら、医療はきっと衰退していきます。
リスクを伴う事はしない、保守的な治療へ・・・結局のところ患者さんに返っていってしまうのに。
主人とも、このままいったら保険診療をしないようにしないと手術は出来なくなってしまうよね、もしくは成功報酬制にでもしないと誰も外科医なんてやらなくなってしまうよね、とよく話しています。
http://cellbank.nibio.go.jp/information/ethics/refhoshino/hoshino0083.htm
こういう人のようです。