『 -- 山形大で論文データ捏造 「教授の指示」と執筆者 --

 山形大医学部(山形市)麻酔科の研究チームが学会誌に発表した論文で、使われたデータの一部に捏造(ねつぞう)の疑いがあることが分かり、山形大は3日、調査委員会を設置した。論文の筆頭執筆者の20代の女性医師は調査委に対し捏造を認め「教授の指示でやった」と話しているという。

 論文は、がんがリンパ節に転移する恐れのある患者に大動脈周辺のリンパ節を切除する手術をすると、膵臓(すいぞう)の機能に障害が出る可能性が高いとする内容。麻酔科教授(49)ら医局員5人との共同執筆で、2005年4月に日本麻酔科学会の準機関誌「麻酔」に掲載された。

 論文では、手術を受けた患者82人について、手術前後の「血清アミラーゼ」という血液中の酵素の平均値を調べ、手術後に膵臓の異常を示す値が出たことを示したとしているが、手術前の血清アミラーゼ値を調べていない患者がおり、正常の値を代用したという。

 調査委員会は今後、教授や執筆にかかわった医局員らから事情を聴き、データの基となった82人分のカルテも調べる方針。

 日本麻酔科学会事務局は「執筆者から論文を撤回したいとの申し出があれば、学会誌の編集委員会で検討することになる」としている。』

 この記事を読んで自分もやったような気がするが,それほどいけないことかという医師は結構いるだろう.論文のデータの捏造などとんでもないと真面目に怒る医師もきっと同じくらいいると思う.だが,自分の研究のデータのとり方や統計処理が科学的に妥当であることをきちんと説明できる医師はきっとかなり少ないのではないだろうか.

 学会に出席すると,教授あるいは指導医に言われたとおりにデータを集めて,言われたとおりに統計処理し,言われたとおりに発表する若い医師がいることがすぐにわかる.この20代の女性医師は手術前の血清アミラーゼ値を正常値で代用するように教授に言われた時にいったいどの程度のことを考えたのか興味深い.何も考えずそういうものだと思ったのか,それとも悪いとは知りながらも論文を早く完成させたかったのか.後者であるとすればそれはギャンブルである.

 どちらにしてもこれで研究者としての道は閉ざされるだろうから,今後は臨床で頑張ってもらうことを期待したい.昔なら教授を守るために自分の責任でやったことになっていたような気がするが,「教授の指示でやった」と言えるだけ医学部も透明性を増したことは評価してもいいかもしれない.あるいは教授の権威が凋落しただけなのかもしれないが.

 ところで,大動脈周辺のリンパ節を切除する手術をすると、膵臓の機能に障害が出る可能性が高いという仮説は正しいのだろうか.医学が科学であるならばデータの捏造に関係なく誰がやっても正しいものは正しい結果になるはずである.しかし,たとえ仮説が正しくとも全体としてそういう傾向にあるということと,その患者個人に発症するということは意味が違うのが臨床医学である.

 手術の合併症の説明と同意ではこの違いを理解してもらえるかどうかが大変重要ではないだろうか.最近はたとえ確率が数千分の1の避けられない合併症であっても,悪い結果に対しては手術ミスだと考える家族に当たってしまう確率が年々高くなっているようだから.このままではいずれ手術は医師にとってギャンブルになってしまうのではないかと心配である.そういう意味では医師はもっと確率に強くなる必要があるかもしれない.

コメント

epplez
2006年7月10日20:35

リンクさせて頂きました、epplezです。
 密かに医師志望で、現在高一の私は毎回医師という生き方を考える参考にさせていただいております。
 
 医学の科学的立証については難しいんでしょう。。
 データとしてはより多くのデータがあれば信憑性は高いのでしょうが、患者の体や条件は人の成長や精神面などによって変わってきますよね。。
 けれども、医学に関する論文の捏造はとても恐ろしさを感じます。他の分野の研究の数値が多少違っていたところで、(それはそれで十分悪いことでしょうが)人の命が奪われることはありませんが、医学の場合は論文発表が真実だとされたままであれば、長い時間立った後で人の命に影響がでることもあるわけですよね。できるだけ正しい情報であってほしいとおもいます。

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