迷信だった?
『 -CABGとCEAの同時手術によって死亡および脳卒中のリスクが上昇-

 新規研究は、冠動脈バイパス移植と頸動脈内膜切除の同時手術を受ける患者は、CABG単独手術と比較して死亡または術後脳卒中のリスクが高いことを示している。2番目の報告は、利点が比較的小さい無症候性患者におけるCEAの使用が増加しているようであるが、画期的な試験の後、CEAの使用の妥当性が改善したことを示唆する。

 冠動脈バイパス移植(CABG)と頸動脈内膜切除(CEA)の同時手術を受ける患者は、CABG単独手術と比較して、死亡または術後脳卒中のリスクが約38%上昇したことを、新規研究は示している。

 「同時手術の利点については議論がある」と研究の著者であるカンザス大学医療センター(カンザスシティ)のRichard M. Dubinsky, MDは、米国神経学会 (AAN)の声明で述べている。「この術後脳卒中および死亡の有意な増加を考えると、手術をそれぞれ別の入院時に実施する場合と比較した利点があればそれを決定するために、同時手術のランダム化臨床試験が必要である。」

 別の報告では、不適切な理由により実施されたと考えられる頸動脈内膜切除術の数が、次第に減少していることが示唆されている。マウントサイナイ医科大学(ニューヨーク)のEthan A. Halm, MDを中心とする著者らは、この改善は、動脈内膜切除術に関する画期的なランダム化試験の結果によってもたらされたものだと述べたが、著者らによると手術による正味の利点が小さい、無症候性患者におけるCEAの増加が観察されたことについての懸念を表明している。

 両研究は、『Neurology』1月15日号において発表された。

 同時手術の危険性は低いのではなく高いのか?

 最初の報告において、Dubinsky博士らは、米国におけるすべての急性期入院の20%の層別標本であるNationwide Inpatient Sampleのデータを使用して、CEAとCABGの同時手術を受けた患者における院内死亡および術後脳卒中の発生率をCABG単独手術と比較した。

 同時手術によって期待されたことは、CABG施行中の動脈-動脈間の塞栓性脳梗塞から頸動脈循環を保護すること、およびたとえ同時手術の方が長時間であっても、1回の麻酔で1回だけの手術を行うことによってリスクを軽減することであると、著者らは言及している。

 この解析において、CEAを組み合わせたCABG手術の割合が、当該研究期間中に増加し、1993年には1.1%であったのが2002年には1.58%になったことが明らかになった。共存疾患について調整した後、同時手術を受けた患者はCABG単独手術と比較して、死亡および術後脳卒中の統合アウトカムのリスクが38%上昇した。

 死亡および術後脳卒中の統合エンドポイントにおけるCEA-CABG同時手術とCABG単独手術の比較

Fig.1

 初めて認められたことの1つとして、女性であることはアウトカムに関して防御効果があることが示唆されたと、著者らは指摘している。

 「CEA-CABG同時手術の頻度は増加したが、報告された症例集積研究は、同時手術に利点があるかどうかについての結論を出すには不適切である」と、著者らは結論づけている。「頸動脈および冠動脈のアテローム性動脈硬化を有する患者におけるCEA-CABG同時手術の利点がもしあるなら、それを確認するため、頸動脈狭窄の程度および脳卒中の既往によって層別して、1年以上の経過観察を行うランダム化対照比較臨床試験が、明らかに必要である」。

 付随する論説において、アルバータ大学(エドモントン)のThomas E. Feasby, MDおよびRobarts研究所(オンタリオ州ロンドン)のHenry J.M. Barnett, MDは、この付加リスクは、いくつかの他の最近の研究において報告されたよりも低いが、「通常は無症候性の頸動脈狭窄に対してこれら2つの手術を同時に行うことについて、引き続き注意を促している」と述べている。

 「同時手術の頻度(2002年にはすべての[CEAの]1.58%)を考えると、ランダム化対照比較試験において有効であることが証明されるまでは、熟練した専門家による慎重な施行に適した状況である」と、同博士らは結論づけている。

 妥当性の改善

 別の報告において、Halm博士らは、1990年代末にNorth American Symptomatic Carotid Endarterectomy Trial(NASCET)およびAsymptomatic Carotid Atherosclerosis Study (ACAS)を含む主要なCEA試験が発表されて以来、CEAの妥当性および適応がどのように変化したかを評価した。

 1981年のRAND Health Service Utilization Studyで、Medicare受給者に実施されたCEA手術の32%は、不適切な適応に対して行われていた、と示唆されたことを受けて、それらの試験は開始された。今回の研究であるNew York Carotid Artery Surgery(NYCAS)試験では、1998年1月-1999年6月にニューヨーク州の高齢患者に実施された9,588件のCEA手術の妥当性を評価した。

 詳細なデータを医療記録から抽出し、CEAの1,557の適応リストと比較した。著者らは、大多数の手術は適切と考えられる理由によって行われていたと報告している。すなわち、不適切と考えられたものは8.6%にすぎず、最初のRAND試験における32%から、著しく減少した。

Fig.2

 手術が不適切と判断された最も一般的な理由は、無症候性患者における共存疾患の頻度が高いこと;大きな脳卒中の後の手術であったこと;またはごく軽度の狭窄に対する手術であったことであった。

 72.3%、すなわちほぼ4分の3の患者は無症候性狭窄のためにCEAを行っていたのに対して、18.6%にはTIAがあり、9.1%には脳卒中があった。

 「誰が頸動脈内膜切除術を受けるべきかについての医学研究に大規模な公共投資が行われてから、不適切な理由で手術を受ける患者の数が大幅に減少していることは朗報である」と、Halm博士はAAN声明の中で述べた。「悪い知らせは、主に、閉塞動脈による症状のない患者に対する手術を行う方向へと変化していることであり、そのような患者は手術による利点が小さく、他の疾患のある患者の場合はさらに小さくなる。」

 悪魔は細部に宿る

 同じ論説において、Feasby博士およびBarnett博士も、無症候性患者における手術の多用に関して懸念を表明している。ACASは高度の狭窄を有する患者における手術による利点を示したが、その研究における絶対リスク低下は、わずか2.3%というACASグループにおける周術期脳卒中発生率に基づくものであった、と同博士らは指摘している。

 従って、ACASの結果は「最良のシナリオ」になる。なぜなら、Halm博士らの研究における合併症の発生率は3%であり、米国の10の州における別の最新報告では4.5%であったからである。これだけの患者が手術ではなく内科的治療を受けたら、患者は脳卒中が発生することなく生存した可能性が高かっただろうと考えられる。

 「したがって、[CEAの]妥当性が1980年代と比較して著しく改善したように思われるという、Halm博士らの研究の結果は喜ばしいが、主に無症候性患者に対する手術へと移行する傾向がみられることは重大である」と、同博士らは結論づけている。

 NYCAS試験は、連邦の医療研究・品質調査機構、メディケア・メディケイドサービスセンター、およびRobert Wood Johnson財団からの支援を受けた。

Neurology 2007;187-194, 195-197, 172-173.』

 CABGとCEAの同時手術の話を初めて聞いたのは10年ほど前だったろうか.CABG症例に高率に頚動脈狭窄が合併し,CEAを先行させた二期的手術の術中心筋梗塞発生率が一期的手術での心筋梗塞発生率と比べ有意に高いことから,一期的にCABGとCEAを行うという話だったような気がする.

 しかし,実際にはCEAを体外循環確立前に施行していたようであるから,それでは1回の麻酔で1回だけの手術を行うことによるリスクの軽減以上の効果はないような気がする.そう考えると,CEAを先行させた二期的手術の術中心筋梗塞発生率との差は出ないように感じるのだがどうだろうか.

 脳外科医側から見た場合,CEA術中の心筋梗塞発生は術後の予後に影響を与える因子であるからCABGを先行させたいところであるが,「CEAとの同時手術がCABG単独手術と比較して、死亡または術後脳卒中のリスクが約38%上昇する」というのが本当であれば同時手術を行うメリットは脳外科医にも心臓外科医にもないことになってしまうだろう.今後も同時手術をすすめるべきかどうか悩むことになるだろうか.

 しかし,最近は頚動脈ステントも安全になってきており,患者の希望もあってCEAはほとんど行われなくなってきているし,OPCABの適応が拡大したこともあってCEAとCABGの同時手術も激減しているのではないだろうか.この問題がこの後どうなるのかはわからないが,外科医に安全と信じられていたことが意外とそうでもないということがわかっただけでも大きな収穫だったのではないだろうか.

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