『--病院側に550万賠償命令 「延命の可能性はあった」--
兵庫県西宮市の笹生病院に入院し劇症型心筋炎で死亡した男性=当時(21)=の遺族が「医師の診断ミスがあった」として、病院を経営する医療法人と担当医に計約9100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、神戸地裁尼崎支部は31日、計550万円の支払いを命じた。
安達嗣雄(あだち・つぐお)裁判長は「担当医が容体に応じた治療をしていれば死亡自体を回避することは困難だったとしても、延命できる可能性はあった」と認定。「延命の可能性を侵害され被った損害を賠償する義務がある」と慰謝料の支払いを認めた。
遺族側は「当初から劇症型心筋炎と診断し、より高度な医療施設に転院させれば死なずにすんだ」と主張したが、安達裁判長は当時の医療水準から担当医に診断ミスはなく転院させる義務はなかったと判断した。
判決によると、男性は2000年12月1日、胸の痛みを訴え、笹生病院に入院し電気ショックなどの治療を受けたが翌日に死亡した。』
「延命の可能性を侵害され被った損害を賠償する義務がある」という部分の意味がよくわからない.「...より高度な医療施設に転院させれば死なずにすんだ」という家族の希望をかなえなかったという意味なのだろうか?
私は専門外なのでよくわからないが,診断ミスはなく転院させる義務はないのに家族に慰謝料というのがどうもピンと来ない.亡くなってしまった本人にとっては意味のないことだ.結局,結果が家族の希望どおりでなければ訴えられて損害賠償させられるということならば救急患者を受け入れる病院は減っていくだろう.
救急医療で延命の可能性を侵害しないことを徹底すれば医師は好むと好まざるとにかかわらず過剰診療となることは必至だろう.過剰診療は社会保険庁が査定するわけだから医師は家族と監査の板挟みになるわけである.
救急車は有料になるらしいが,救急医療における延命治療もすべてオプションとして自由診療にしたらいいだろう.健康保険で風邪薬を出すのも無駄だが延命治療に使うのも同様に医療資源の無駄使いであろう.
米国でも最近話題の延命治療であるが,ドナーカードなんかより延命治療を希望しない意思表示カードでもつくった方が医療現場ではずっと役に立ちそうである.
兵庫県西宮市の笹生病院に入院し劇症型心筋炎で死亡した男性=当時(21)=の遺族が「医師の診断ミスがあった」として、病院を経営する医療法人と担当医に計約9100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、神戸地裁尼崎支部は31日、計550万円の支払いを命じた。
安達嗣雄(あだち・つぐお)裁判長は「担当医が容体に応じた治療をしていれば死亡自体を回避することは困難だったとしても、延命できる可能性はあった」と認定。「延命の可能性を侵害され被った損害を賠償する義務がある」と慰謝料の支払いを認めた。
遺族側は「当初から劇症型心筋炎と診断し、より高度な医療施設に転院させれば死なずにすんだ」と主張したが、安達裁判長は当時の医療水準から担当医に診断ミスはなく転院させる義務はなかったと判断した。
判決によると、男性は2000年12月1日、胸の痛みを訴え、笹生病院に入院し電気ショックなどの治療を受けたが翌日に死亡した。』
「延命の可能性を侵害され被った損害を賠償する義務がある」という部分の意味がよくわからない.「...より高度な医療施設に転院させれば死なずにすんだ」という家族の希望をかなえなかったという意味なのだろうか?
私は専門外なのでよくわからないが,診断ミスはなく転院させる義務はないのに家族に慰謝料というのがどうもピンと来ない.亡くなってしまった本人にとっては意味のないことだ.結局,結果が家族の希望どおりでなければ訴えられて損害賠償させられるということならば救急患者を受け入れる病院は減っていくだろう.
救急医療で延命の可能性を侵害しないことを徹底すれば医師は好むと好まざるとにかかわらず過剰診療となることは必至だろう.過剰診療は社会保険庁が査定するわけだから医師は家族と監査の板挟みになるわけである.
救急車は有料になるらしいが,救急医療における延命治療もすべてオプションとして自由診療にしたらいいだろう.健康保険で風邪薬を出すのも無駄だが延命治療に使うのも同様に医療資源の無駄使いであろう.
米国でも最近話題の延命治療であるが,ドナーカードなんかより延命治療を希望しない意思表示カードでもつくった方が医療現場ではずっと役に立ちそうである.
家族の同意があれば見殺しも可能
2005年3月27日 医療の問題『--人工呼吸器外し患者死亡 「家族の希望」広島の病院 県警が聴取へ--
広島県福山市の民間病院で今月中旬、院長が入院患者の女性の人工呼吸器を外し、死亡させていたことが25日、分かった。同日午後、記者会見した院長によると、家族の希望を受けたためだが、患者本人の同意はなく、院長1人で判断したという。広島県警は患者死亡の経緯について院長らから事情を聴く方針。
同病院などによると、女性は3月4日に入院し、腎不全と肺炎の治療を受けていた。チューブを通して人工呼吸器を取り付けた。女性は間もなく尿が出ないなど容体が悪化し、意識不明に陥ったため、家族が13日、「楽にしてあげてほしい」と院長に要望した。院長は「人工呼吸器を外すと死亡する」と説明した上で急きょ、家族の同意を確認する「承諾書」を作成。一家が署名したのを受けチューブを外すと、女性は間もなく死亡したという。
院長は会見で「間違っていなかった。今後は自分1人の意見ではなく、他のスタッフの意見を聞いて判断したい」と述べた。』
症状が悪化して担当医も治療をあきらめたということなのだろうか.だが,最近の家族の同意があれば治療を中止してもいいかのような風潮には賛成できない.治療の効果が上がらないからといって途中で家族の希望を簡単に受け入れるくらいなら最初にどういう状態になったら治療を打ち切るのかを本人や家族と決めておくほうがいいだろう.
人工呼吸器などは一度装着すると病状が回復していない状態で急に外せば死亡する可能性が極めて高いのであるから医師としてはいくら家族の希望があっても外したくはないものだ.家族もそんなことを希望するくらいなら最初から装着を希望しないほうがいいだろう.
では,救急外来ではどうしたらいいのだろうか.ドナーカードのように意識のない場合にどこまでの治療を希望するかの意思表示を書いたカードでも持ってもらえばいいのだろうか.本人の意思確認ができないときに家族の希望でどこまで治療するか決めることにどういう意味があるのだろうか.
できるだけの治療をした結果として遷延性意識障害の状態で寝たきりとなった患者さんたちもたくさんいる.これも医師の説明と家族の希望の結果なのだろう.だが,家族の希望で呼吸器を外したり経管栄養を中止できるのだったらどういうことになるのだろうか.そんなことは避けたいが,この医師の行為が正当化されるのだったらいずれ経管栄養の中止を希望する家族も出てくることだろう.
広島県福山市の民間病院で今月中旬、院長が入院患者の女性の人工呼吸器を外し、死亡させていたことが25日、分かった。同日午後、記者会見した院長によると、家族の希望を受けたためだが、患者本人の同意はなく、院長1人で判断したという。広島県警は患者死亡の経緯について院長らから事情を聴く方針。
同病院などによると、女性は3月4日に入院し、腎不全と肺炎の治療を受けていた。チューブを通して人工呼吸器を取り付けた。女性は間もなく尿が出ないなど容体が悪化し、意識不明に陥ったため、家族が13日、「楽にしてあげてほしい」と院長に要望した。院長は「人工呼吸器を外すと死亡する」と説明した上で急きょ、家族の同意を確認する「承諾書」を作成。一家が署名したのを受けチューブを外すと、女性は間もなく死亡したという。
院長は会見で「間違っていなかった。今後は自分1人の意見ではなく、他のスタッフの意見を聞いて判断したい」と述べた。』
症状が悪化して担当医も治療をあきらめたということなのだろうか.だが,最近の家族の同意があれば治療を中止してもいいかのような風潮には賛成できない.治療の効果が上がらないからといって途中で家族の希望を簡単に受け入れるくらいなら最初にどういう状態になったら治療を打ち切るのかを本人や家族と決めておくほうがいいだろう.
人工呼吸器などは一度装着すると病状が回復していない状態で急に外せば死亡する可能性が極めて高いのであるから医師としてはいくら家族の希望があっても外したくはないものだ.家族もそんなことを希望するくらいなら最初から装着を希望しないほうがいいだろう.
では,救急外来ではどうしたらいいのだろうか.ドナーカードのように意識のない場合にどこまでの治療を希望するかの意思表示を書いたカードでも持ってもらえばいいのだろうか.本人の意思確認ができないときに家族の希望でどこまで治療するか決めることにどういう意味があるのだろうか.
できるだけの治療をした結果として遷延性意識障害の状態で寝たきりとなった患者さんたちもたくさんいる.これも医師の説明と家族の希望の結果なのだろう.だが,家族の希望で呼吸器を外したり経管栄養を中止できるのだったらどういうことになるのだろうか.そんなことは避けたいが,この医師の行為が正当化されるのだったらいずれ経管栄養の中止を希望する家族も出てくることだろう.
研修医が一人で当番?
2005年3月14日 医療の問題『--動脈瘤見落とし患者死亡 高知の県立病院で研修医--
高知県立安芸病院(安芸市)で昨年11月、当番医をしていた20代の女性研修医が、80代の男性患者のCT検査で胸部大動脈瘤(りゅう)を見落とし、男性がその後死亡していたことが分かった。県が11日、明らかにした。
同病院によると、男性は昨年11月13日未明、胸と背中の痛みを訴え救急車で運ばれた。研修医は心電図やCTを使って検査したが、筋肉痛と誤診。男性に湿布などを処方し帰宅させた。
同日午前11時半ごろ、別の医師がCT検査の結果をみて胸部大動脈瘤の疑いを指摘。研修医はもう1度来院するよう男性宅に電話したが、男性は自宅を出たところで動脈瘤が原因の発作を起こし、間もなく死亡した。
研修医は男性に再来院を求めた際も救急車の手配など適切な対応をしていなかった。
病院側は「最初に疾患を見つけていれば助かった可能性が高い」として遺族に謝罪。事故後、研修医が当番医のときは経験のある医師1人を付けるようにしたという。』
研修医が一人で当番をするのだったら研修医制度の言うところの研修医による医療過誤を減らすという意味はないだろう.こんな病院で研修することになった研修医には同情してあげてもいいだろう.
この場合はまだ訴えられてはいないが,同様に研修医が当番で一人で救急処置をして医療過誤で患者が死亡したら業務上過失致死罪で訴えられることもあるだろう.その場合,誰がその責任を負うのかが問題なのだが,いずれにしても研修医は責任を負わされることは間違いないだろう.病院側は監督責任を問われるだろうが院長が刑事責任まで問われることはないだろう.
結局,研修医であれ自分のやったことの責任は自分でとらねばならないという当たり前のことになるだけである.だが,研修医が危険な処置はせずに見学だけしていたのではいつまで経っても自分でできるようにはならないのも事実だろう.危険はたとえ熟練した医師がついてもゼロにはならない.2人でやれば責任を分かち合うことになるだけなのだ.
すくない研修時間で指導する医師との人間関係を築き技術を身につけなくてはならないのだが,今の研修制度でそれができるだろうか.正直に言うと私はそこまで研修医を信用することはできないだろう.だから危険なことはやらせないで安全第一を優先し,いやな体験をさせないでさっさと次の診療科の研修に回ってもらうことになるだろう.
こんなことをすべての科でやったとしたら,これは大学での学生の実習でもできそうなことだ.結局2年間の研修体験だけで身につくことはそう多くはないだろう.その後,救急の現場を離れたら数年で救急処置など忘れるだろう.そういう意味では胸部大動脈瘤を見落としたこの20代の女性研修医は大変貴重な経験を積んだわけでこれを乗り越えてしっかり勉強して将来も是非臨床で活躍してもらいたいと思う.
高知県立安芸病院(安芸市)で昨年11月、当番医をしていた20代の女性研修医が、80代の男性患者のCT検査で胸部大動脈瘤(りゅう)を見落とし、男性がその後死亡していたことが分かった。県が11日、明らかにした。
同病院によると、男性は昨年11月13日未明、胸と背中の痛みを訴え救急車で運ばれた。研修医は心電図やCTを使って検査したが、筋肉痛と誤診。男性に湿布などを処方し帰宅させた。
同日午前11時半ごろ、別の医師がCT検査の結果をみて胸部大動脈瘤の疑いを指摘。研修医はもう1度来院するよう男性宅に電話したが、男性は自宅を出たところで動脈瘤が原因の発作を起こし、間もなく死亡した。
研修医は男性に再来院を求めた際も救急車の手配など適切な対応をしていなかった。
病院側は「最初に疾患を見つけていれば助かった可能性が高い」として遺族に謝罪。事故後、研修医が当番医のときは経験のある医師1人を付けるようにしたという。』
研修医が一人で当番をするのだったら研修医制度の言うところの研修医による医療過誤を減らすという意味はないだろう.こんな病院で研修することになった研修医には同情してあげてもいいだろう.
この場合はまだ訴えられてはいないが,同様に研修医が当番で一人で救急処置をして医療過誤で患者が死亡したら業務上過失致死罪で訴えられることもあるだろう.その場合,誰がその責任を負うのかが問題なのだが,いずれにしても研修医は責任を負わされることは間違いないだろう.病院側は監督責任を問われるだろうが院長が刑事責任まで問われることはないだろう.
結局,研修医であれ自分のやったことの責任は自分でとらねばならないという当たり前のことになるだけである.だが,研修医が危険な処置はせずに見学だけしていたのではいつまで経っても自分でできるようにはならないのも事実だろう.危険はたとえ熟練した医師がついてもゼロにはならない.2人でやれば責任を分かち合うことになるだけなのだ.
すくない研修時間で指導する医師との人間関係を築き技術を身につけなくてはならないのだが,今の研修制度でそれができるだろうか.正直に言うと私はそこまで研修医を信用することはできないだろう.だから危険なことはやらせないで安全第一を優先し,いやな体験をさせないでさっさと次の診療科の研修に回ってもらうことになるだろう.
こんなことをすべての科でやったとしたら,これは大学での学生の実習でもできそうなことだ.結局2年間の研修体験だけで身につくことはそう多くはないだろう.その後,救急の現場を離れたら数年で救急処置など忘れるだろう.そういう意味では胸部大動脈瘤を見落としたこの20代の女性研修医は大変貴重な経験を積んだわけでこれを乗り越えてしっかり勉強して将来も是非臨床で活躍してもらいたいと思う.
アルツハイマー病は減少する
2005年3月14日 医療の問題『--アルツハイマー病早期発見 磁気画像診断に新技術 --
脳に蓄積しアルツハイマー病を引き起こすアミロイドという物質に結合する化合物を理化学研究所脳科学総合研究センター(埼玉県和光市)と同仁化学研究所(熊本県益城町)のチームが開発、13日付の米科学誌ネイチャーニューロサイエンス電子版に発表した。
化合物が結合したアミロイドは磁気共鳴画像装置(MRI)で簡単に識別できるため、現在の技術では難しい発症前の診断が可能になるという。開発したのはアミロイドに結合しやすいスチリルベンゼンに、MRIで検知しやすいフッ素を結合させた化合物で、FSBと名付けた。アミロイドはタンパク質の構造が壊れ、凝集した繊維状物質。アミロイドが脳に蓄積するマウスを遺伝子操作で作り、微量のFSBを静脈注射すると、脳内でアミロイドが集まった部分をMRI画像上で識別できることが分かった。
アミロイドがたまると、大脳に染みのような老人斑ができる。アルツハイマー病の症状が出るのは老人斑が脳の断面画像の10-30%になった段階。マウスでは老人斑が2%程度を占めた段階で、MRIで検知できた。
理研の西道隆臣(さいどう・たかおみ)チームリーダーは「早期に蓄積が分かれば神経細胞が損傷する前に、開発が進んでいる薬でアミロイドを減らすことが期待できる。患者数を10分の1にできるのではないか」と話している。』
痴呆には血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆があるのだが,決定的な鑑別診断法は脳組織を採取してアミロイド沈着を組織学的に証明するしかなかった.特に高齢者では脳血管性かアルツハイマーかの鑑別は難しかった.にもかかわらず最近ではアルツハイマー病と診断されてくる高齢者が外来でよくみられるようになった.
中には多発性脳梗塞でどうみても血管性痴呆としか思えない患者さんまでアルツハイマー病という診断名がついていたりする.ここ数年でアルツハイマー病という病気はすっかり有名になったこともあるのだろうが,本当にアルツハイマー病の患者さんは増えているのだろうか?
アルツハイマー病の初期に病気の進行を抑えると言われているアリセプトという薬が発売されてからアルツハイマー病の患者さんが急に増えたような気がしているのは私だけだろうか.痴呆が進行してしまったアルツハイマーより血管性痴呆の可能性が高い患者さんにアリセプトが投与されているのをみると昔の脳賦活剤といわれた一連の薬を思い出す.これら脳賦活剤は効果がなくて今では市場から姿を消したが,脳出血や脳梗塞の後遺症の患者さんに1つや2つは必ず処方されていたものだ.
脳内でアミロイドが集まった部分をMRI画像上で識別できるようになれば血管性痴呆とアルツハイマー病は容易に鑑別できるようになるのだろう.その結果アルツハイマー病という診断名のつく患者数は激減するのだろうか.予想以上に減少するとすればその理由が興味深いところである.
脳に蓄積しアルツハイマー病を引き起こすアミロイドという物質に結合する化合物を理化学研究所脳科学総合研究センター(埼玉県和光市)と同仁化学研究所(熊本県益城町)のチームが開発、13日付の米科学誌ネイチャーニューロサイエンス電子版に発表した。
化合物が結合したアミロイドは磁気共鳴画像装置(MRI)で簡単に識別できるため、現在の技術では難しい発症前の診断が可能になるという。開発したのはアミロイドに結合しやすいスチリルベンゼンに、MRIで検知しやすいフッ素を結合させた化合物で、FSBと名付けた。アミロイドはタンパク質の構造が壊れ、凝集した繊維状物質。アミロイドが脳に蓄積するマウスを遺伝子操作で作り、微量のFSBを静脈注射すると、脳内でアミロイドが集まった部分をMRI画像上で識別できることが分かった。
アミロイドがたまると、大脳に染みのような老人斑ができる。アルツハイマー病の症状が出るのは老人斑が脳の断面画像の10-30%になった段階。マウスでは老人斑が2%程度を占めた段階で、MRIで検知できた。
理研の西道隆臣(さいどう・たかおみ)チームリーダーは「早期に蓄積が分かれば神経細胞が損傷する前に、開発が進んでいる薬でアミロイドを減らすことが期待できる。患者数を10分の1にできるのではないか」と話している。』
痴呆には血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆があるのだが,決定的な鑑別診断法は脳組織を採取してアミロイド沈着を組織学的に証明するしかなかった.特に高齢者では脳血管性かアルツハイマーかの鑑別は難しかった.にもかかわらず最近ではアルツハイマー病と診断されてくる高齢者が外来でよくみられるようになった.
中には多発性脳梗塞でどうみても血管性痴呆としか思えない患者さんまでアルツハイマー病という診断名がついていたりする.ここ数年でアルツハイマー病という病気はすっかり有名になったこともあるのだろうが,本当にアルツハイマー病の患者さんは増えているのだろうか?
アルツハイマー病の初期に病気の進行を抑えると言われているアリセプトという薬が発売されてからアルツハイマー病の患者さんが急に増えたような気がしているのは私だけだろうか.痴呆が進行してしまったアルツハイマーより血管性痴呆の可能性が高い患者さんにアリセプトが投与されているのをみると昔の脳賦活剤といわれた一連の薬を思い出す.これら脳賦活剤は効果がなくて今では市場から姿を消したが,脳出血や脳梗塞の後遺症の患者さんに1つや2つは必ず処方されていたものだ.
脳内でアミロイドが集まった部分をMRI画像上で識別できるようになれば血管性痴呆とアルツハイマー病は容易に鑑別できるようになるのだろう.その結果アルツハイマー病という診断名のつく患者数は激減するのだろうか.予想以上に減少するとすればその理由が興味深いところである.
命の値段もGDPの伸び率で決まる
2005年3月4日 医療の問題『--「不可能」と厚労省反論 奥田氏らの医療費抑制策--
経済財政諮問会議の民間議員が15日、医療給付費などの伸び率を名目国内総生産(GDP)の伸び率以下に抑制するよう主張したことに対し、厚生労働省は同日、抑制は事実上不可能だとする反論をまとめ同会議に提出した。
厚労省によると、国民医療費は、高齢化や医療技術の進歩により増加し、2025年には保険からの給付は59兆円に上ると推計される。 名目GDPの伸び率以下に抑制するとすると、同年の医療給付は38兆円。厚労省が推計した59兆円との差額分約20兆円は(1)個人負担の増(2)医療費自体の抑制(3)診療報酬の引き下げ-などで埋め合わせることになる。
試算では、全額を患者側の自己負担で賄えば、負担は現在の2.5-3倍程度に跳ね上がる。また医療費を抑え込めば健康水準が低下。診療報酬単価の引き下げは、医療の質の低下を招くというのが厚労省の主張だ。
厚労省は、医療費の伸びを適正化するため、生活習慣病対策や入院日数の短縮、公的保険給付範囲の見直しなどを検討している。』
結局のところ国の赤字削減のターゲットは社会福祉ということなのだろう.国民の寿命が縮まっても,医療の質が低下してもかまわないというのが本音だろう.医療の質の向上という点で言えば先端医療は別としてコスト重視とせざるを得ない通常の診療報酬の低下は先端医療で助かる患者さんよりもはるかに多くの普通の病気の患者さんにとっては負担の大きいものになるだろう.
医療を社会的に採算の合うものにすることはおそらく不可能なはずである.なぜなら企業が利益を追及するということは企業に収益を集中させ,労働者の賃金や福祉を減額することにほかならないからである.人間よりも設備への投資を優先する企業と福祉よりも公共事業を優先させてきた国が今の赤字国家日本である.
高齢化社会で医療に採算性を求めれば個人負担の増大を招き,それはすなわち低所得な高齢者の切り捨てにつながることは誰が考えてもわかることだ.だがそんな事は企業の論理で生きてきた財界の人間や地元の利権を優先させてきた政治家にはきっとわからない,いや知ったことではないのだろう.
経済財政諮問会議の民間議員が15日、医療給付費などの伸び率を名目国内総生産(GDP)の伸び率以下に抑制するよう主張したことに対し、厚生労働省は同日、抑制は事実上不可能だとする反論をまとめ同会議に提出した。
厚労省によると、国民医療費は、高齢化や医療技術の進歩により増加し、2025年には保険からの給付は59兆円に上ると推計される。 名目GDPの伸び率以下に抑制するとすると、同年の医療給付は38兆円。厚労省が推計した59兆円との差額分約20兆円は(1)個人負担の増(2)医療費自体の抑制(3)診療報酬の引き下げ-などで埋め合わせることになる。
試算では、全額を患者側の自己負担で賄えば、負担は現在の2.5-3倍程度に跳ね上がる。また医療費を抑え込めば健康水準が低下。診療報酬単価の引き下げは、医療の質の低下を招くというのが厚労省の主張だ。
厚労省は、医療費の伸びを適正化するため、生活習慣病対策や入院日数の短縮、公的保険給付範囲の見直しなどを検討している。』
結局のところ国の赤字削減のターゲットは社会福祉ということなのだろう.国民の寿命が縮まっても,医療の質が低下してもかまわないというのが本音だろう.医療の質の向上という点で言えば先端医療は別としてコスト重視とせざるを得ない通常の診療報酬の低下は先端医療で助かる患者さんよりもはるかに多くの普通の病気の患者さんにとっては負担の大きいものになるだろう.
医療を社会的に採算の合うものにすることはおそらく不可能なはずである.なぜなら企業が利益を追及するということは企業に収益を集中させ,労働者の賃金や福祉を減額することにほかならないからである.人間よりも設備への投資を優先する企業と福祉よりも公共事業を優先させてきた国が今の赤字国家日本である.
高齢化社会で医療に採算性を求めれば個人負担の増大を招き,それはすなわち低所得な高齢者の切り捨てにつながることは誰が考えてもわかることだ.だがそんな事は企業の論理で生きてきた財界の人間や地元の利権を優先させてきた政治家にはきっとわからない,いや知ったことではないのだろう.
なんの責任を問いたいのかな
2005年3月3日 医療の問題『--医師の責任問わない方針 宮崎県警、輸血ミスで--
宮崎大病院(宮崎県清武町、江藤胤尚(えとう・たねなお)院長)で昨年3月、入院中の40代の男性が違う血液型の血液を輸血された後、死亡した事故で、宮崎南署は2日までに、担当医師の刑事責任を問うのは困難との判断を固めた。
同署は遺族からの告訴を受け、業務上過失致死容疑で捜査していたが、輸血ミスはあったものの、死亡との因果関係の証明が困難と判断したとみられる。
告訴事件はすべて検察庁に送付するとの刑事訴訟法の規定に基づき、今月中に捜査結果を宮崎地検に書類送付する方針。
調べでは、男性は食道がんで入院していたが、昨年3月29日夜、食道近くの大動脈が破裂し大量に吐血したため、担当医師が血液型を調べA型と判定、約15分間、緊急輸血した。しかし、その後精密検査でO型であることが分かり輸血を中止したが、男性は翌30日未明死亡した。』
食道がんが進行して血管壁を食い破っての出血だったとしたら輸血すること自体が意味のないことだったのかも知れない.患者さんの延命のために慣れない血液型判定を自分で行い輸血した結果が刑事告訴されるような問題になったのだとしたら医師の行為はいったいなんだったのだろうか.
告訴した家族にしてみれば医師の過失により死亡したと思っているのであろうが,訴えられた医師にしてみれば余計なことをしたばかりに誤解を招いた自分の判断のミスと血液型の判定のミスが重なったことでさぞかし悔しい思いをしたことだろう.
宮崎大病院(宮崎県清武町、江藤胤尚(えとう・たねなお)院長)で昨年3月、入院中の40代の男性が違う血液型の血液を輸血された後、死亡した事故で、宮崎南署は2日までに、担当医師の刑事責任を問うのは困難との判断を固めた。
同署は遺族からの告訴を受け、業務上過失致死容疑で捜査していたが、輸血ミスはあったものの、死亡との因果関係の証明が困難と判断したとみられる。
告訴事件はすべて検察庁に送付するとの刑事訴訟法の規定に基づき、今月中に捜査結果を宮崎地検に書類送付する方針。
調べでは、男性は食道がんで入院していたが、昨年3月29日夜、食道近くの大動脈が破裂し大量に吐血したため、担当医師が血液型を調べA型と判定、約15分間、緊急輸血した。しかし、その後精密検査でO型であることが分かり輸血を中止したが、男性は翌30日未明死亡した。』
食道がんが進行して血管壁を食い破っての出血だったとしたら輸血すること自体が意味のないことだったのかも知れない.患者さんの延命のために慣れない血液型判定を自分で行い輸血した結果が刑事告訴されるような問題になったのだとしたら医師の行為はいったいなんだったのだろうか.
告訴した家族にしてみれば医師の過失により死亡したと思っているのであろうが,訴えられた医師にしてみれば余計なことをしたばかりに誤解を招いた自分の判断のミスと血液型の判定のミスが重なったことでさぞかし悔しい思いをしたことだろう.
未破裂脳動脈瘤の手術のリスクは?
2005年2月25日 医療の問題『--日赤に4000万円賠償命令 「死の危険、説明怠る」--
水戸赤十字病院(水戸市)で脳動脈瘤(りゅう)の手術を受け死亡した茨城県の男性=当時(65)=の遺族4人が、手術の危険性について適切な事前説明がなく、措置にもミスがあったとして、日赤に約5700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、水戸地裁は23日、約4000万円の支払いを命じた。
判決によると、男性は1992年3月、脳動脈瘤の破裂を予防するため手術を受けたが、脳内出血したため再手術。しかし、意識が回復せず死亡した。判決理由で仙波英躬(せんば・ひでみ)裁判長は「男性や原告側が死亡の危険性を正確に理解した上で、手術を承諾したと認めるのは困難」と指摘。理解できる程度の説明を怠った担当医の過失を認定した。
また「2回目の手術後、男性の瞳孔に異常が判明した時点で、3回目の手術をする義務があったのに怠った」と判断。医師の過失と男性の死亡との因果関係を認めた。男性の長男(53)は閉廷後「判決に満足している。病院は患者に説明をしっかりやってほしい」と話した。被告代理人は「判決に納得していないので控訴を検討中」としている。』
未破裂脳動脈瘤が発見後の1年間に破裂するリスクは多く見積もっても2%ということは脳神経外科専門医ならほとんどが同意するだろうし実際はそれ以下だと思っている医師が多いだろう.
では,未破裂脳動脈瘤の手術のリスクが1%以下だと信じている医師はどれくらいいるだろうか.私自身の数少ない経験では幸い未破裂脳動脈瘤の手術で亡くなった例も社会復帰できなかった例もないが,他の施設も含めいったいどれくらいの確率で重度の障害や死亡例が起きているのかは知る由もない.
大衆雑誌をながめると動脈瘤の名医などというのが書いてあるが,考えるにたくさんやっていればそれなりに結果の良くない例が必ずあるはずで,それさえも公表されないのでいったいどのくらいのリスクがあるのかは本当のところ私もわからないのだ.
非常にあいまいで説明に苦労するので私は1%くらいのリスクがあって命にかかわる場合もあるとは説明している.だが命にかかわる場合が0.5%程もあったら未破裂動脈瘤の手術の妥当性が無くなるのではないかと危惧しながら説明しているのが本当のところである.
脳神経外科学会がこのような脳神経外科手術の結果に関する統計をとったという話は聞いたことがないが,術者による差が大きいとはいえ患者さんの手術を受けるかどうかの判断の参考になる基本的な統計データくらいは把握して情報を一般に開示しておく必要があるのではと思うのだがどうだろうか.
水戸赤十字病院(水戸市)で脳動脈瘤(りゅう)の手術を受け死亡した茨城県の男性=当時(65)=の遺族4人が、手術の危険性について適切な事前説明がなく、措置にもミスがあったとして、日赤に約5700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、水戸地裁は23日、約4000万円の支払いを命じた。
判決によると、男性は1992年3月、脳動脈瘤の破裂を予防するため手術を受けたが、脳内出血したため再手術。しかし、意識が回復せず死亡した。判決理由で仙波英躬(せんば・ひでみ)裁判長は「男性や原告側が死亡の危険性を正確に理解した上で、手術を承諾したと認めるのは困難」と指摘。理解できる程度の説明を怠った担当医の過失を認定した。
また「2回目の手術後、男性の瞳孔に異常が判明した時点で、3回目の手術をする義務があったのに怠った」と判断。医師の過失と男性の死亡との因果関係を認めた。男性の長男(53)は閉廷後「判決に満足している。病院は患者に説明をしっかりやってほしい」と話した。被告代理人は「判決に納得していないので控訴を検討中」としている。』
未破裂脳動脈瘤が発見後の1年間に破裂するリスクは多く見積もっても2%ということは脳神経外科専門医ならほとんどが同意するだろうし実際はそれ以下だと思っている医師が多いだろう.
では,未破裂脳動脈瘤の手術のリスクが1%以下だと信じている医師はどれくらいいるだろうか.私自身の数少ない経験では幸い未破裂脳動脈瘤の手術で亡くなった例も社会復帰できなかった例もないが,他の施設も含めいったいどれくらいの確率で重度の障害や死亡例が起きているのかは知る由もない.
大衆雑誌をながめると動脈瘤の名医などというのが書いてあるが,考えるにたくさんやっていればそれなりに結果の良くない例が必ずあるはずで,それさえも公表されないのでいったいどのくらいのリスクがあるのかは本当のところ私もわからないのだ.
非常にあいまいで説明に苦労するので私は1%くらいのリスクがあって命にかかわる場合もあるとは説明している.だが命にかかわる場合が0.5%程もあったら未破裂動脈瘤の手術の妥当性が無くなるのではないかと危惧しながら説明しているのが本当のところである.
脳神経外科学会がこのような脳神経外科手術の結果に関する統計をとったという話は聞いたことがないが,術者による差が大きいとはいえ患者さんの手術を受けるかどうかの判断の参考になる基本的な統計データくらいは把握して情報を一般に開示しておく必要があるのではと思うのだがどうだろうか.
PEGにもリスクはある
2005年2月23日 医療の問題『--医師NPO:「胃ろう」挿管ミス多発 昨年、15人死亡--
腹から胃に開けた穴「胃ろう」に流動食用チューブを通す栄養管理法で、挿管ミスが原因とみられる死亡事故が多発している。02年に千葉県で起きた事故では、医師2人が業務上過失致死容疑で書類送検され、チューブのメーカーの説明書にない交換方法が記された病院作成のマニュアルが使われていたことも、毎日新聞の調べで分かった。医師らで作るNPO(非営利組織)「PEGドクターズネットワーク(PDN)」(事務局・東京都)には、同様のミスがあった病院などから、昨年だけで15件の死亡事故相談があった。患者の肉体的負担が少ない栄養管理法として急速に普及しているだけに、PDNは「知識や技術が不十分な医師による事故が多発しているとみられる。十分な知識を学んだ上で処置してほしい」と呼び掛けている。
千葉の事故は02年2月、船橋市立医療センターで、脳障害で入院中の女性(当時24歳)の処置中に発生。県警によると、管が誤って腹腔(ふっくう)内に挿入されて流動食が漏れ、腹膜炎から敗血症を起こして死亡した。胃ろうは消化器内科医が設置したが、管を交換した脳神経外科医と医療チーム責任者が書類送検された。
メーカーの説明書は腹壁と胃壁が癒着した後(目安は設置後1カ月)に管を交換するよう明記。だが、病院作成のマニュアルでは、最初の挿管後、1週間に2回、3週間で計6回、順に太い管に換えるようになっていた。事故報告書によると、脳神経外科医はマニュアルに従って行った3回目の交換でミスした。同センターは胃ろうによる栄養管理法を96年から導入したが、マニュアルは「誰がいつ作成したか分からない」という。事件後、「マニュアルにも問題があった」として作り直している。
PDN代表理事で、東京慈恵会医科大外科学講座の鈴木裕講師は「胃ろうの壁が不安定な時期に管を交換すると、別の場所に入り込みやすいため、内視鏡などの確認のもとに行うのが好ましい」と話す。PDNに相談のあった15件はすべて管が胃ではなく、腹腔内に入ったケースばかりで、どの病院も原因すら分かっていなかったという。鈴木講師は「チューブ交換は基本を誤ると重大な事故につながる危険がある。セミナーなどによる知識向上が必要」と訴える。
また、東京大医学部付属病院(東京都文京区)は02年7月に胃ろうの外来担当を設置。担当の山口浩和医師は「別の医師が設置した胃ろうの向きを把握するのは難しい。担当者を決め、連携して設置と交換をしたほうが、安全とコスト面で優れている」と理由を説明する。』
PEGにもリスクがあることを本人や家族が理解できないならやらないほうがいいに決まっている.患者さんのためにやっても結果が悪いと刑事処分が待っているというのでは医師はPEGなどやりたくないだろう.
経鼻経管栄養にしても管が気管に迷入するリスクがあるし,胃ろうの場合は特に初回の交換時に腹腔内に入ってしまうことがあるが,交換の頻度は経鼻経管栄養にくらべると1/20位なので交換時のリスクという面では一長一短という感じである.
患者さんのストレスという面から言うと経鼻経管栄養からPEGになった患者さんには喜ばれることの方が圧倒的に多く合併症の頻度も少ない.これがPEGが推奨されている理由であろう.
だが,いくら安全性が高いとはいえ技術や経験や使用する器具の選択などクリアする問題は多く,実際にはあまりすすんでやりたい手技ではないのも事実である.患者さんや家族や看護師さんのためと思えばこそ医師が我慢しているのが本当のところだろう.
将来的にもっと器具が進歩して安全性が高まればもっと普及すると思われるが,少なくとも医師でなければ交換できないほどのものであるうちは真に安全とは言えないということも理解してもらいたいものである.
腹から胃に開けた穴「胃ろう」に流動食用チューブを通す栄養管理法で、挿管ミスが原因とみられる死亡事故が多発している。02年に千葉県で起きた事故では、医師2人が業務上過失致死容疑で書類送検され、チューブのメーカーの説明書にない交換方法が記された病院作成のマニュアルが使われていたことも、毎日新聞の調べで分かった。医師らで作るNPO(非営利組織)「PEGドクターズネットワーク(PDN)」(事務局・東京都)には、同様のミスがあった病院などから、昨年だけで15件の死亡事故相談があった。患者の肉体的負担が少ない栄養管理法として急速に普及しているだけに、PDNは「知識や技術が不十分な医師による事故が多発しているとみられる。十分な知識を学んだ上で処置してほしい」と呼び掛けている。
千葉の事故は02年2月、船橋市立医療センターで、脳障害で入院中の女性(当時24歳)の処置中に発生。県警によると、管が誤って腹腔(ふっくう)内に挿入されて流動食が漏れ、腹膜炎から敗血症を起こして死亡した。胃ろうは消化器内科医が設置したが、管を交換した脳神経外科医と医療チーム責任者が書類送検された。
メーカーの説明書は腹壁と胃壁が癒着した後(目安は設置後1カ月)に管を交換するよう明記。だが、病院作成のマニュアルでは、最初の挿管後、1週間に2回、3週間で計6回、順に太い管に換えるようになっていた。事故報告書によると、脳神経外科医はマニュアルに従って行った3回目の交換でミスした。同センターは胃ろうによる栄養管理法を96年から導入したが、マニュアルは「誰がいつ作成したか分からない」という。事件後、「マニュアルにも問題があった」として作り直している。
PDN代表理事で、東京慈恵会医科大外科学講座の鈴木裕講師は「胃ろうの壁が不安定な時期に管を交換すると、別の場所に入り込みやすいため、内視鏡などの確認のもとに行うのが好ましい」と話す。PDNに相談のあった15件はすべて管が胃ではなく、腹腔内に入ったケースばかりで、どの病院も原因すら分かっていなかったという。鈴木講師は「チューブ交換は基本を誤ると重大な事故につながる危険がある。セミナーなどによる知識向上が必要」と訴える。
また、東京大医学部付属病院(東京都文京区)は02年7月に胃ろうの外来担当を設置。担当の山口浩和医師は「別の医師が設置した胃ろうの向きを把握するのは難しい。担当者を決め、連携して設置と交換をしたほうが、安全とコスト面で優れている」と理由を説明する。』
PEGにもリスクがあることを本人や家族が理解できないならやらないほうがいいに決まっている.患者さんのためにやっても結果が悪いと刑事処分が待っているというのでは医師はPEGなどやりたくないだろう.
経鼻経管栄養にしても管が気管に迷入するリスクがあるし,胃ろうの場合は特に初回の交換時に腹腔内に入ってしまうことがあるが,交換の頻度は経鼻経管栄養にくらべると1/20位なので交換時のリスクという面では一長一短という感じである.
患者さんのストレスという面から言うと経鼻経管栄養からPEGになった患者さんには喜ばれることの方が圧倒的に多く合併症の頻度も少ない.これがPEGが推奨されている理由であろう.
だが,いくら安全性が高いとはいえ技術や経験や使用する器具の選択などクリアする問題は多く,実際にはあまりすすんでやりたい手技ではないのも事実である.患者さんや家族や看護師さんのためと思えばこそ医師が我慢しているのが本当のところだろう.
将来的にもっと器具が進歩して安全性が高まればもっと普及すると思われるが,少なくとも医師でなければ交換できないほどのものであるうちは真に安全とは言えないということも理解してもらいたいものである.
患者さんを疑うわけではないが
2005年2月22日 医療の問題『--薬物入手に処方せん悪用 目立つ多重受診、コピーも 向精神薬で薬剤師会調査--
覚せい剤と似た作用があるリタリン(一般名塩酸メチルフェニデート)や、ハルシオン(同トリアゾラム)といった向精神薬を、処方せんの悪用によって不正入手したケースが、2001年からの3年半に少なくとも30都道府県で128件あったことが21日までに、日本薬剤師会の自治体アンケートで分かった。
1人で多くの病院で受診し正規の処方せんを受け取る「多重受診」の手口が目立ち、コピーの例もあった。向精神薬は幻覚などの副作用があり若者の間で麻薬代わりの乱用が懸念されているが、処方せんの取り扱いで対策を迫られそうだ。
調査は昨年8月、全都道府県の薬務担当課に実施。01年1月から昨年8月まで処方せんを悪用して向精神薬を薬局などから不正入手した事例の把握分について、担当者に尋ねた。
件数は01年に29件、02年に25件、03年に51件、04年は8月までに23件だった。03年からの急増が目立ち、発生地は首都圏や大阪府など大都市が中心だった。
薬の種類は抗うつ剤のリタリンが48件、睡眠導入剤のハルシオンが37件。手口は「多重受診」が34件(17都道府県)で4分の1を占めた。処方せんを何枚もカラーコピーしたり、改ざんして処方日数を増やしたり、1から偽造するなどの方法もあった。
日本薬剤師会の石井甲一(いしい・こういち)専務理事は「薬局にとって不正を見抜くのは難しく、勘だけが頼り。不正は急増しており、組織的な対応が求められる」と話している。』
ハルシオンは悪い意味で有名になりすぎたのと,高齢者での副作用が多いため結果として非常に使いにくくなりもう何年も処方はしていない.他の睡眠導入剤があるのにいまだに処方する医師がいるのが不思議だが,こういう不正入手もあるのがわかっているのならやはり何らかの対策をとるべきだろう.
医療のシステムと言うのは基本的に患者さんは善人という前提になっているようで,詐病による偽診断書にはじまり薬物の不正使用などに対してはほとんど無防備である.先日も救急トレーから薬物が盗まれる事件があったが,学校以上に不審者の侵入に対してもガードが甘いのである.病院内での盗難は時々ニュースになっており大学病院で患者さんの個人情報の入ったノートパソコンが盗まれたのも記憶に新しい.
以前にも健康保険証のICカード化のことを書いたが,来院者のIDや投薬記録などの情報が健康保険証で確認できれば受付で簡単に本人確認や受診投薬歴が確認できて便利だと思うのだがどうだろうか.個人情報は自分で管理するのがもっとも安全なはずである.もっとも免許証と同じで常時携帯しなければ意味がないから,かえってわずらわしくて実現は難しいかもしれない.
覚せい剤と似た作用があるリタリン(一般名塩酸メチルフェニデート)や、ハルシオン(同トリアゾラム)といった向精神薬を、処方せんの悪用によって不正入手したケースが、2001年からの3年半に少なくとも30都道府県で128件あったことが21日までに、日本薬剤師会の自治体アンケートで分かった。
1人で多くの病院で受診し正規の処方せんを受け取る「多重受診」の手口が目立ち、コピーの例もあった。向精神薬は幻覚などの副作用があり若者の間で麻薬代わりの乱用が懸念されているが、処方せんの取り扱いで対策を迫られそうだ。
調査は昨年8月、全都道府県の薬務担当課に実施。01年1月から昨年8月まで処方せんを悪用して向精神薬を薬局などから不正入手した事例の把握分について、担当者に尋ねた。
件数は01年に29件、02年に25件、03年に51件、04年は8月までに23件だった。03年からの急増が目立ち、発生地は首都圏や大阪府など大都市が中心だった。
薬の種類は抗うつ剤のリタリンが48件、睡眠導入剤のハルシオンが37件。手口は「多重受診」が34件(17都道府県)で4分の1を占めた。処方せんを何枚もカラーコピーしたり、改ざんして処方日数を増やしたり、1から偽造するなどの方法もあった。
日本薬剤師会の石井甲一(いしい・こういち)専務理事は「薬局にとって不正を見抜くのは難しく、勘だけが頼り。不正は急増しており、組織的な対応が求められる」と話している。』
ハルシオンは悪い意味で有名になりすぎたのと,高齢者での副作用が多いため結果として非常に使いにくくなりもう何年も処方はしていない.他の睡眠導入剤があるのにいまだに処方する医師がいるのが不思議だが,こういう不正入手もあるのがわかっているのならやはり何らかの対策をとるべきだろう.
医療のシステムと言うのは基本的に患者さんは善人という前提になっているようで,詐病による偽診断書にはじまり薬物の不正使用などに対してはほとんど無防備である.先日も救急トレーから薬物が盗まれる事件があったが,学校以上に不審者の侵入に対してもガードが甘いのである.病院内での盗難は時々ニュースになっており大学病院で患者さんの個人情報の入ったノートパソコンが盗まれたのも記憶に新しい.
以前にも健康保険証のICカード化のことを書いたが,来院者のIDや投薬記録などの情報が健康保険証で確認できれば受付で簡単に本人確認や受診投薬歴が確認できて便利だと思うのだがどうだろうか.個人情報は自分で管理するのがもっとも安全なはずである.もっとも免許証と同じで常時携帯しなければ意味がないから,かえってわずらわしくて実現は難しいかもしれない.
『--国、企業は争う姿勢 イレッサ副作用死訴訟--
肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)の投与後に死亡した、さいたま市の近沢三津子(ちかざわ・みつこ)さん=当時(31)=の遺族が「副作用の危険について警告を怠った」として、輸入販売会社アストラゼネカ(大阪市)と、輸入を承認した国に、計3850万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が16日、東京地裁(滝沢泉(たきざわ・いずみ)裁判長)で開かれた。
国側は答弁書で「輸入承認の審査は適正だった」と反論。アストラゼネカは「死亡と副作用の因果関係は医学的に確定していない」と、共に請求棄却を求め、全面的に争う姿勢を示した。
三津子さんの父親昭雄(あきお)さんは「1日でも長く生きたい、という思いをイレッサに絶たれた。欧州では承認申請が取り下げられたのに、日本人には効くなどとだまし続けるのは国や製薬会社のすることではない」と意見陳述した。
イレッサをめぐっては副作用が疑われる国内の死者が600人近くに達し、日本を除く28カ国の大規模臨床検査でも延命効果が確認されなかった。だが厚生労働省の検討会は1月、東洋人では改善例もあるなどとして「当面使用は制限しない」と判断した。』
『--市販薬監視の独立委を設置 米、副作用で批判受け--
米食品医薬品局(FDA)は15日、市販されている医薬品の安全性を監視する独立委員会を同局内に設置すると発表した。
医療従事者や患者に薬の副作用情報などをいち早く知らせる狙いがある。昨年来、広く普及している消炎鎮痛剤や抗うつ剤の副作用が問題になり、FDAの対応が不十分だったと批判が強まっていることを受けた措置。
独立委は新薬承認部門とは切り離すが、委員はFDAや政府内の医学専門家が務めるため、監視の独立性をめぐり早くも疑問の声が出ている。新薬の製造販売を認めるかどうかの審査に加え、市販後の安全監視もFDAの業務の1つ。だがいったん市販されると、副作用情報は主に製薬会社からの報告に頼っており、対応が遅れがちだと指摘されている。』
厚生労働省や国の対応は薬害AIDSの時とたいして変わっていない.要は自分たちの認可の結果の薬害であっても責任は取りたくないということだろう.これでは何のための認可なのかわからない.アストラゼネカの「死亡と副作用の因果関係は医学的に確定していない」という姿勢は多くの医師の失笑をかうだけだろう.
もっとも今後もイレッサを使いたい医師と患者のために選択の余地を残しておいても実害は少ないだろう.これだけ問題になれば副作用に関する説明と同意も相当に厳しくなるだろうから.
副作用については認可の時点で広く知られていたかどうかが問題だろう.非常に頻度の少ないものについては非常に多くの患者さんに使用して初めてわかるものだってあるのだから.そういう意味では薬にはすべて副作用がある可能性はあるわけで,抗がん剤はその中でもリスクが高いことは医師にとっては常識である.
米国民も同じような問題で被害に遭ったようだが,結局FDA内部で新薬承認と市販薬監視の部門を分けても信用できないということであろう.薬害AIDSの時のことを思い出すとわが国の場合は国も厚生労働省も厚生労働省研究班の教授たちも信用できないわけでこの場合はいったいどうしたらいいのであろうか.
肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)の投与後に死亡した、さいたま市の近沢三津子(ちかざわ・みつこ)さん=当時(31)=の遺族が「副作用の危険について警告を怠った」として、輸入販売会社アストラゼネカ(大阪市)と、輸入を承認した国に、計3850万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が16日、東京地裁(滝沢泉(たきざわ・いずみ)裁判長)で開かれた。
国側は答弁書で「輸入承認の審査は適正だった」と反論。アストラゼネカは「死亡と副作用の因果関係は医学的に確定していない」と、共に請求棄却を求め、全面的に争う姿勢を示した。
三津子さんの父親昭雄(あきお)さんは「1日でも長く生きたい、という思いをイレッサに絶たれた。欧州では承認申請が取り下げられたのに、日本人には効くなどとだまし続けるのは国や製薬会社のすることではない」と意見陳述した。
イレッサをめぐっては副作用が疑われる国内の死者が600人近くに達し、日本を除く28カ国の大規模臨床検査でも延命効果が確認されなかった。だが厚生労働省の検討会は1月、東洋人では改善例もあるなどとして「当面使用は制限しない」と判断した。』
『--市販薬監視の独立委を設置 米、副作用で批判受け--
米食品医薬品局(FDA)は15日、市販されている医薬品の安全性を監視する独立委員会を同局内に設置すると発表した。
医療従事者や患者に薬の副作用情報などをいち早く知らせる狙いがある。昨年来、広く普及している消炎鎮痛剤や抗うつ剤の副作用が問題になり、FDAの対応が不十分だったと批判が強まっていることを受けた措置。
独立委は新薬承認部門とは切り離すが、委員はFDAや政府内の医学専門家が務めるため、監視の独立性をめぐり早くも疑問の声が出ている。新薬の製造販売を認めるかどうかの審査に加え、市販後の安全監視もFDAの業務の1つ。だがいったん市販されると、副作用情報は主に製薬会社からの報告に頼っており、対応が遅れがちだと指摘されている。』
厚生労働省や国の対応は薬害AIDSの時とたいして変わっていない.要は自分たちの認可の結果の薬害であっても責任は取りたくないということだろう.これでは何のための認可なのかわからない.アストラゼネカの「死亡と副作用の因果関係は医学的に確定していない」という姿勢は多くの医師の失笑をかうだけだろう.
もっとも今後もイレッサを使いたい医師と患者のために選択の余地を残しておいても実害は少ないだろう.これだけ問題になれば副作用に関する説明と同意も相当に厳しくなるだろうから.
副作用については認可の時点で広く知られていたかどうかが問題だろう.非常に頻度の少ないものについては非常に多くの患者さんに使用して初めてわかるものだってあるのだから.そういう意味では薬にはすべて副作用がある可能性はあるわけで,抗がん剤はその中でもリスクが高いことは医師にとっては常識である.
米国民も同じような問題で被害に遭ったようだが,結局FDA内部で新薬承認と市販薬監視の部門を分けても信用できないということであろう.薬害AIDSの時のことを思い出すとわが国の場合は国も厚生労働省も厚生労働省研究班の教授たちも信用できないわけでこの場合はいったいどうしたらいいのであろうか.
団塊の世代は早死してもいいのか
2005年2月16日 医療の問題『--給付伸び、成長率に抑制を 医療、介護で民間議員--
奥田碩日本経団連会長ら経済財政諮問会議の民間議員4人は15日、増大する社会保障給付費を経済規模に合わせるため、今後急激な伸びが予想される医療や介護給付を名目国内総生産(GDP)の伸びの範囲内に抑えるべきだとする意見書を、諮問会議に提出した。意見書は、現状のままだと社会保障給付は団塊の世代が老後を迎える2000年1けた代後半から2010年代を通じて名目成長率を大きく上回って伸びると指摘。安定的な社会保障制度を維持するためには総額の目安を定め、制度改革や効率化を図るべきだと強調している。
具体的な抑制策として、当面06年度から10年度までの5カ年計画を今年中に策定。その中で、(1)生活習慣病対策など医療サービス向上プログラムの策定(2)診療報酬、介護報酬の改定に際し、名目成長率を目安に抑制する方式の導入(3)風邪など軽度な疾病の診療を公的保険の対象から除外、利用者の一部負担を引き上げるなど保険給付範囲の見直し-を盛り込むべきだと提案している。』
『--「不可能」と厚労省反論 奥田氏らの医療費抑制策 --
経済財政諮問会議の民間議員が15日、医療給付費などの伸び率を名目国内総生産(GDP)の伸び率以下に抑制するよう主張したことに対し、厚生労働省は同日、抑制は事実上不可能だとする反論をまとめ同会議に提出した。厚労省によると、国民医療費は、高齢化や医療技術の進歩により増加し、2025年には保険からの給付は59兆円に上ると推計される。名目GDPの伸び率以下に抑制するとすると、同年の医療給付は38兆円。厚労省が推計した59兆円との差額分約20兆円は(1)個人負担の増(2)医療費自体の抑制(3)診療報酬の引き下げ-などで埋め合わせることになる。
試算では、全額を患者側の自己負担で賄えば、負担は現在の2.5-3倍程度に跳ね上がる。また医療費を抑え込めば健康水準が低下。診療報酬単価の引き下げは、医療の質の低下を招くというのが厚労省の主張だ。厚労省は、医療費の伸びを適正化するため、生活習慣病対策や入院日数の短縮、公的保険給付範囲の見直しなどを検討している。』
個人負担を増やすことは診療機会を減らすだろうし,診療報酬単価の引き下げは医療の質の低下を招くのはまちがいない.介護報酬の引き下げはさらなるサービスの低下と家族による虐待をもたらすであろう.
医療や介護給付を名目国内総生産(GDP)の伸びの範囲内に抑えるべきだというが,では今までの高速道路や鉄道やダムなどの社会資本への投資は適切だったというのであろうか.また,日本経済を支えてきた労働力である団塊の世代の健康に投資するのは無駄だというのであろうか.
国民年金にしても国民健康保険にしても十分な準備をしないままに団塊の世代の定年退職という時代に突入してしまうことが問題なのであって,今さらお金がないから保険料は払えませんというのでは病気で死んでいく団塊の世代は使い捨てにされたということになる.
もっとも社会資本の充実にのみ目を向けて国民の健康をないがしろにしてきたのには国民にも責任があるのだろうが,国民の健康意識の啓蒙や医療の効率化といったことを怠りながら保険料や税金を無駄使いしてきた社会保険庁や政府の責任はさらに大きいだろう.
団塊の世代が高齢化すればいよいよ医療は薄利多売のコンビニ状態になっていくのだろうがたとえ自費で払ったところで医療の質の低下は止めようがないだろう.なぜならば経営環境が厳しくなった病院そのものも今後は営利企業のようにならねば存続することが難しい時代になっていくのだから.
奥田碩日本経団連会長ら経済財政諮問会議の民間議員4人は15日、増大する社会保障給付費を経済規模に合わせるため、今後急激な伸びが予想される医療や介護給付を名目国内総生産(GDP)の伸びの範囲内に抑えるべきだとする意見書を、諮問会議に提出した。意見書は、現状のままだと社会保障給付は団塊の世代が老後を迎える2000年1けた代後半から2010年代を通じて名目成長率を大きく上回って伸びると指摘。安定的な社会保障制度を維持するためには総額の目安を定め、制度改革や効率化を図るべきだと強調している。
具体的な抑制策として、当面06年度から10年度までの5カ年計画を今年中に策定。その中で、(1)生活習慣病対策など医療サービス向上プログラムの策定(2)診療報酬、介護報酬の改定に際し、名目成長率を目安に抑制する方式の導入(3)風邪など軽度な疾病の診療を公的保険の対象から除外、利用者の一部負担を引き上げるなど保険給付範囲の見直し-を盛り込むべきだと提案している。』
『--「不可能」と厚労省反論 奥田氏らの医療費抑制策 --
経済財政諮問会議の民間議員が15日、医療給付費などの伸び率を名目国内総生産(GDP)の伸び率以下に抑制するよう主張したことに対し、厚生労働省は同日、抑制は事実上不可能だとする反論をまとめ同会議に提出した。厚労省によると、国民医療費は、高齢化や医療技術の進歩により増加し、2025年には保険からの給付は59兆円に上ると推計される。名目GDPの伸び率以下に抑制するとすると、同年の医療給付は38兆円。厚労省が推計した59兆円との差額分約20兆円は(1)個人負担の増(2)医療費自体の抑制(3)診療報酬の引き下げ-などで埋め合わせることになる。
試算では、全額を患者側の自己負担で賄えば、負担は現在の2.5-3倍程度に跳ね上がる。また医療費を抑え込めば健康水準が低下。診療報酬単価の引き下げは、医療の質の低下を招くというのが厚労省の主張だ。厚労省は、医療費の伸びを適正化するため、生活習慣病対策や入院日数の短縮、公的保険給付範囲の見直しなどを検討している。』
個人負担を増やすことは診療機会を減らすだろうし,診療報酬単価の引き下げは医療の質の低下を招くのはまちがいない.介護報酬の引き下げはさらなるサービスの低下と家族による虐待をもたらすであろう.
医療や介護給付を名目国内総生産(GDP)の伸びの範囲内に抑えるべきだというが,では今までの高速道路や鉄道やダムなどの社会資本への投資は適切だったというのであろうか.また,日本経済を支えてきた労働力である団塊の世代の健康に投資するのは無駄だというのであろうか.
国民年金にしても国民健康保険にしても十分な準備をしないままに団塊の世代の定年退職という時代に突入してしまうことが問題なのであって,今さらお金がないから保険料は払えませんというのでは病気で死んでいく団塊の世代は使い捨てにされたということになる.
もっとも社会資本の充実にのみ目を向けて国民の健康をないがしろにしてきたのには国民にも責任があるのだろうが,国民の健康意識の啓蒙や医療の効率化といったことを怠りながら保険料や税金を無駄使いしてきた社会保険庁や政府の責任はさらに大きいだろう.
団塊の世代が高齢化すればいよいよ医療は薄利多売のコンビニ状態になっていくのだろうがたとえ自費で払ったところで医療の質の低下は止めようがないだろう.なぜならば経営環境が厳しくなった病院そのものも今後は営利企業のようにならねば存続することが難しい時代になっていくのだから.
院外処方は安全なのか?
2005年2月11日 医療の問題 コメント (1)『--医薬分業率の地域差4倍 厚労省があり方見直しへ--
患者が医師から処方せんをもらい、外部の薬局で薬を受け取る「医薬分業」の2003年度実施率は51・6%で、都道府県別では最高だった秋田県の71・7%から最低の福井県17・0%まで4倍以上も地域格差があったことが9日、厚生労働省の開いた薬務関係主管課長会議で報告された。
厚労省はのみ合わせの確認など薬の安全対策として分業を推進しているが、患者側には「二度手間になり、メリットを感じない」との声もある。このため、同省は春に専門家の検討会を発足させ、患者に役立つ分業のあり方や全国普及策などを再検討する。
分業実施率は、日本薬剤師会が処方せんの枚数などから推計した。高かったのは秋田をトップに佐賀(69・7%)、神奈川(68・6%)。逆に低かったのは福井と和歌山(26・0%)、石川(27・8%)などだった。
厚労省医薬食品局によると、抗がん剤とののみ合わせで多数の副作用死が出たソリブジン薬害などを教訓に、分業率は各都道府県とも約10年前の3倍程度に上がった。しかし、ほかの先進国では医療機関と薬局が完全分離しており、検討会はそうした外国の制度も調査し、安全に薬を処方する仕組みを話し合う。』
院外処方は薬価による病院側の利益が少なくなったので進んでいるようであるが,本当に患者のためになっているのだろうか.院外処方でも投薬ミスは起きているし,患者さんがそれぞれの病院の近くの院外処方薬局に行っていれば重複投薬も起こる可能性がある.経済的にも院外処方箋料がかかるぶん院内処方よりも患者負担はいくぶん大きくなっている.
これではいったい何のための院外処方だったのかわからなくなって当然である.実施率が低いのもこの辺りに問題があるのだろう.話を安全というところに戻すなら健康保険証をICカードにして現在の処方内容を記録しておくだけで重複投薬を防ぐのは可能なはずで,院外処方薬局のチェーン店の利益を確保するために院外処方の実施率をあげるのだとしたら何の意味もない.
厚生労働省が無理にこれを推し進めるのだとしたら日本歯科医師会のような政治的な働きかけが日本薬剤師会にもあるのではないかと疑いたくもなるのだがどうだろうか.
患者が医師から処方せんをもらい、外部の薬局で薬を受け取る「医薬分業」の2003年度実施率は51・6%で、都道府県別では最高だった秋田県の71・7%から最低の福井県17・0%まで4倍以上も地域格差があったことが9日、厚生労働省の開いた薬務関係主管課長会議で報告された。
厚労省はのみ合わせの確認など薬の安全対策として分業を推進しているが、患者側には「二度手間になり、メリットを感じない」との声もある。このため、同省は春に専門家の検討会を発足させ、患者に役立つ分業のあり方や全国普及策などを再検討する。
分業実施率は、日本薬剤師会が処方せんの枚数などから推計した。高かったのは秋田をトップに佐賀(69・7%)、神奈川(68・6%)。逆に低かったのは福井と和歌山(26・0%)、石川(27・8%)などだった。
厚労省医薬食品局によると、抗がん剤とののみ合わせで多数の副作用死が出たソリブジン薬害などを教訓に、分業率は各都道府県とも約10年前の3倍程度に上がった。しかし、ほかの先進国では医療機関と薬局が完全分離しており、検討会はそうした外国の制度も調査し、安全に薬を処方する仕組みを話し合う。』
院外処方は薬価による病院側の利益が少なくなったので進んでいるようであるが,本当に患者のためになっているのだろうか.院外処方でも投薬ミスは起きているし,患者さんがそれぞれの病院の近くの院外処方薬局に行っていれば重複投薬も起こる可能性がある.経済的にも院外処方箋料がかかるぶん院内処方よりも患者負担はいくぶん大きくなっている.
これではいったい何のための院外処方だったのかわからなくなって当然である.実施率が低いのもこの辺りに問題があるのだろう.話を安全というところに戻すなら健康保険証をICカードにして現在の処方内容を記録しておくだけで重複投薬を防ぐのは可能なはずで,院外処方薬局のチェーン店の利益を確保するために院外処方の実施率をあげるのだとしたら何の意味もない.
厚生労働省が無理にこれを推し進めるのだとしたら日本歯科医師会のような政治的な働きかけが日本薬剤師会にもあるのではないかと疑いたくもなるのだがどうだろうか.
技術料を適切に評価せよ
2005年2月9日 医療の問題『--麻酔科医不足、学会が解消案 負担軽減など提言--
手術中の患者の全身状態を管理する麻酔科医の不足が深刻なことから、日本麻酔科学会(花岡一雄理事長、会員9287人)は、麻酔科医の負担軽減や女性医師が働きやすい環境の整備などの対策を盛り込んだ提言をまとめた。近く、厚生労働省や日本医師会、日本病院会に提出する。
麻酔科医は年々増えているが、手術件数も増加の一途をたどっている。全身麻酔の手術を行う全国の約4千病院のうち、同学会員の常勤麻酔科医がいる施設は半数しかない。高齢や合併症など高リスクの患者の手術が増え、患者の医療安全への関心が高まっていることも麻酔科医の需要を押し上げる。少ない人数で多くの仕事をこなす労働環境の悪さから勤務先を辞める麻酔科医も多く、人員不足に拍車がかかる。負担軽減策として、(1)術前の薬剤や麻酔機器の準備を薬剤師や臨床工学技士に担当してもらうなど医師以外の職種を活用する(2)予定される手術は特定の曜日に集中させない(3)手術時間を左右する要因を分析し、時間の適正化に努める――などを挙げている。
また、34歳以下の年齢層では麻酔科医の4割が女性であるとし、託児所を充実させ、働きやすい環境を整えるよう訴えている。
診療報酬でも麻酔科医の技術料が適切に評価されておらず、それが若くて体力のある麻酔科医を少数雇用し、より多くの手術を行わせようとする傾向を助長しているとして、報酬上の配慮を厚労省に求めている。』
現在でも麻酔科医がいないため外科医が麻酔をかけて看護師にモニターしてもらいながら手術をしている病院が多いのだろう.だが,もしそれですべてうまくいくのなら麻酔科医の需要はここまで伸びなかったはずである.
人手不足を理由に一人の医師がなんでもやらなければならないと言うのではリスクマネージメントはできるわけがない.ある意味で分業し細分化することで医療は高度化できたのであろう.麻酔が麻酔専門医によって行われるようになったのも安全性を考えれば当然のことであろう.
問題は診療報酬の設定にあるのだと思う.今のところ麻酔専門医がかけても外科医がかけても診療報酬上の差はないし,2つ以上の手術を一人の麻酔科医がかけても同様である.つまり麻酔科専門医がかけることを診療報酬上はまったく評価していないのである.
これでは外科医が麻酔をかけれれば麻酔科医がいないほうがコストの削減になるし,仮に麻酔科医がいても相対的に麻酔科医不足にしたほうが利益が上がることになる.つまり安全マージンを低くしたほうが儲かることになる.リスクが大きいほど利益が大きいという図式が病院に当てはまっていいものだろうか.
病床あたりの看護師数は診療報酬に反映するようになっている.手術数あたりの麻酔科専門医の数が診療報酬に反映されなければ麻酔科専門医の価値は看護師ほどないことになるのではないだろうか.私は麻酔科医のお世話になることが多いし,長い時間の手術に付き合ってもらうこともあるので麻酔科医の肩を持つわけではないが,麻酔専門医のかける麻酔の技術料はもっと正当に評価すべきであろう.
脳外科の手術の技術料についても同じことが言える.今の診療報酬では手術料の中に医療材料費をまるめるようなことをしたり,破裂動脈瘤と未破裂脳動脈瘤の差がなかったりとおかしなことが多いのである.脳外科医は一人前になるのに10年はかかる.破裂動脈瘤などではリスクも高い.それに比べると手術料はバーゲン価格というのでは脳外科医になる気はなくなるだろう.
医療不信をまねくような医療事故や医療訴訟のニュースを毎日目にするようになり病院経営が難しい最近の状況では献身的に働くことは以前より難しくなってきている.現実には勤務医は医師といえどもサラリーマンである.労働環境を厚生労働省が積極的に改善してくれないことには労働条件の悪い診療科目の医師は減少し医療の質の確保も難しくなるだろう.
手術中の患者の全身状態を管理する麻酔科医の不足が深刻なことから、日本麻酔科学会(花岡一雄理事長、会員9287人)は、麻酔科医の負担軽減や女性医師が働きやすい環境の整備などの対策を盛り込んだ提言をまとめた。近く、厚生労働省や日本医師会、日本病院会に提出する。
麻酔科医は年々増えているが、手術件数も増加の一途をたどっている。全身麻酔の手術を行う全国の約4千病院のうち、同学会員の常勤麻酔科医がいる施設は半数しかない。高齢や合併症など高リスクの患者の手術が増え、患者の医療安全への関心が高まっていることも麻酔科医の需要を押し上げる。少ない人数で多くの仕事をこなす労働環境の悪さから勤務先を辞める麻酔科医も多く、人員不足に拍車がかかる。負担軽減策として、(1)術前の薬剤や麻酔機器の準備を薬剤師や臨床工学技士に担当してもらうなど医師以外の職種を活用する(2)予定される手術は特定の曜日に集中させない(3)手術時間を左右する要因を分析し、時間の適正化に努める――などを挙げている。
また、34歳以下の年齢層では麻酔科医の4割が女性であるとし、託児所を充実させ、働きやすい環境を整えるよう訴えている。
診療報酬でも麻酔科医の技術料が適切に評価されておらず、それが若くて体力のある麻酔科医を少数雇用し、より多くの手術を行わせようとする傾向を助長しているとして、報酬上の配慮を厚労省に求めている。』
現在でも麻酔科医がいないため外科医が麻酔をかけて看護師にモニターしてもらいながら手術をしている病院が多いのだろう.だが,もしそれですべてうまくいくのなら麻酔科医の需要はここまで伸びなかったはずである.
人手不足を理由に一人の医師がなんでもやらなければならないと言うのではリスクマネージメントはできるわけがない.ある意味で分業し細分化することで医療は高度化できたのであろう.麻酔が麻酔専門医によって行われるようになったのも安全性を考えれば当然のことであろう.
問題は診療報酬の設定にあるのだと思う.今のところ麻酔専門医がかけても外科医がかけても診療報酬上の差はないし,2つ以上の手術を一人の麻酔科医がかけても同様である.つまり麻酔科専門医がかけることを診療報酬上はまったく評価していないのである.
これでは外科医が麻酔をかけれれば麻酔科医がいないほうがコストの削減になるし,仮に麻酔科医がいても相対的に麻酔科医不足にしたほうが利益が上がることになる.つまり安全マージンを低くしたほうが儲かることになる.リスクが大きいほど利益が大きいという図式が病院に当てはまっていいものだろうか.
病床あたりの看護師数は診療報酬に反映するようになっている.手術数あたりの麻酔科専門医の数が診療報酬に反映されなければ麻酔科専門医の価値は看護師ほどないことになるのではないだろうか.私は麻酔科医のお世話になることが多いし,長い時間の手術に付き合ってもらうこともあるので麻酔科医の肩を持つわけではないが,麻酔専門医のかける麻酔の技術料はもっと正当に評価すべきであろう.
脳外科の手術の技術料についても同じことが言える.今の診療報酬では手術料の中に医療材料費をまるめるようなことをしたり,破裂動脈瘤と未破裂脳動脈瘤の差がなかったりとおかしなことが多いのである.脳外科医は一人前になるのに10年はかかる.破裂動脈瘤などではリスクも高い.それに比べると手術料はバーゲン価格というのでは脳外科医になる気はなくなるだろう.
医療不信をまねくような医療事故や医療訴訟のニュースを毎日目にするようになり病院経営が難しい最近の状況では献身的に働くことは以前より難しくなってきている.現実には勤務医は医師といえどもサラリーマンである.労働環境を厚生労働省が積極的に改善してくれないことには労働条件の悪い診療科目の医師は減少し医療の質の確保も難しくなるだろう.
脳神経外科学会は良心的?
2005年2月8日 医療の問題『--抗がん剤の専門医制混乱 2学会が別々に認定試験予定--
抗がん剤によるがん治療の専門医制度をめぐって、医学界に混乱が起きている。内科系の日本臨床腫瘍(しゅよう)学会(会員約3000人)と外科系の日本癌(がん)治療学会(会員約1万4000人)の2学会が別々に専門医制度をつくり、今秋に初の認定試験を予定しているからだ。歩み寄りの兆しはなく、このままでは、専門医制度を医師や病院の選択基準にしようとする患者にまで混乱が及びそうだ。
先行したのは、優れた腫瘍内科医の育成を目標にする日本臨床腫瘍学会だ。02年に「臨床腫瘍専門医」の創設を決め、現在研修を行っている。今年11月に初の認定試験を予定する。
抗がん剤は副作用が強いうえ、市販後も医師主導の臨床試験を通して標準治療の改良に取り組む特徴がある。人口が日本の約2倍の米国には約9000人の腫瘍内科医がいるとされ、同学会は日本の必要数を3000〜4000人とみている。
理事長の西條長宏・国立がんセンター東病院副院長は「系統的なカリキュラムにのっとって学び、薬物治療に精通した医師を育てることこそ、学会の役割だ」と話す。
一方、日本癌治療学会は昨年10月、「がん治療専門医」制度の創設を決めた。初試験は今年10月の予定だ。
同学会は会員の半数が外科医。日本の大学には臨床腫瘍学の講座がほとんどなく、外科医が手術と並行して抗がん剤治療をしてきた経緯がある。外科医の水準向上を目的に、臨床腫瘍専門医よりはるかに多い2万人の専門医養成を目指す。
北島政樹理事長(慶応大学医学部長)の下で制度づくりに当たる久保田哲朗・同大助教授(消化器外科)は「腫瘍内科医と外科医が分業してがん患者の治療に当たれる病院は一握り。多くのがん患者は外科医による薬物治療を受けている。外科医の薬物治療のレベルを上げることが重要ではないか」と話す。
外科領域の基盤学会である日本外科学会は癌治療学会の動きに反対の立場だ。「『がん治療専門医』を認定する必然性を感じない。将来的に外科医の仕事から薬物療法を切り離すよう働きかけるべきだ」とする文書を癌治療学会あてに送った。だが、2学会とも既定路線を突き進んでいる。
日本専門医認定制機構の酒井紀(おさむ)・代表理事は「統一的な研修カリキュラムや認定基準を作り、制度を一本化しないと国民のためにならない」といい、2学会に話し合いを呼びかけている。』
脳外科に関する最近できた専門医制度といえば血管内治療の専門医と脳卒中専門医である.日本脳神経血管内治療学会と日本脳卒中学会が認定している.日本脳神経血管内治療学会の方は脳外科医の会員が多いかもしれないが,日本脳卒中学会の方は大半が神経内科もしくは内科医であると思われる.
日本脳神経外科学会で脳卒中の内科的治療が取り上げられることはほとんどないためか,内科的治療も含めて実際の治療にあたってきた脳外科医に脳卒中専門医の認定を学会独自で行うようなことはしていない.この点で癌治療学会の動きはどうも外科医の仕事から薬物療法を切り離したくないように見える.
「『がん治療専門医』を認定する必然性を感じない。将来的に外科医の仕事から薬物療法を切り離すよう働きかけるべきだ」という考え方には私は賛成だ.脳卒中の治療も内科的なものはすべて脳卒中専門医の認定を受けた脳神経内科医にやってもらいたい.そうすれば脳外科医不足も解消されて脳外科医は本来の手術治療に専念できるわけである.
実際はそう簡単ではないことはわかっているが,今まで地域の脳卒中治療に貢献したつもりでいても脳卒中学会に属さなければ専門医認定もしないというのであれば脳外科医としてはやっぱり手術治療に専念したいというのが本音なわけである.
抗がん剤によるがん治療の専門医制度をめぐって、医学界に混乱が起きている。内科系の日本臨床腫瘍(しゅよう)学会(会員約3000人)と外科系の日本癌(がん)治療学会(会員約1万4000人)の2学会が別々に専門医制度をつくり、今秋に初の認定試験を予定しているからだ。歩み寄りの兆しはなく、このままでは、専門医制度を医師や病院の選択基準にしようとする患者にまで混乱が及びそうだ。
先行したのは、優れた腫瘍内科医の育成を目標にする日本臨床腫瘍学会だ。02年に「臨床腫瘍専門医」の創設を決め、現在研修を行っている。今年11月に初の認定試験を予定する。
抗がん剤は副作用が強いうえ、市販後も医師主導の臨床試験を通して標準治療の改良に取り組む特徴がある。人口が日本の約2倍の米国には約9000人の腫瘍内科医がいるとされ、同学会は日本の必要数を3000〜4000人とみている。
理事長の西條長宏・国立がんセンター東病院副院長は「系統的なカリキュラムにのっとって学び、薬物治療に精通した医師を育てることこそ、学会の役割だ」と話す。
一方、日本癌治療学会は昨年10月、「がん治療専門医」制度の創設を決めた。初試験は今年10月の予定だ。
同学会は会員の半数が外科医。日本の大学には臨床腫瘍学の講座がほとんどなく、外科医が手術と並行して抗がん剤治療をしてきた経緯がある。外科医の水準向上を目的に、臨床腫瘍専門医よりはるかに多い2万人の専門医養成を目指す。
北島政樹理事長(慶応大学医学部長)の下で制度づくりに当たる久保田哲朗・同大助教授(消化器外科)は「腫瘍内科医と外科医が分業してがん患者の治療に当たれる病院は一握り。多くのがん患者は外科医による薬物治療を受けている。外科医の薬物治療のレベルを上げることが重要ではないか」と話す。
外科領域の基盤学会である日本外科学会は癌治療学会の動きに反対の立場だ。「『がん治療専門医』を認定する必然性を感じない。将来的に外科医の仕事から薬物療法を切り離すよう働きかけるべきだ」とする文書を癌治療学会あてに送った。だが、2学会とも既定路線を突き進んでいる。
日本専門医認定制機構の酒井紀(おさむ)・代表理事は「統一的な研修カリキュラムや認定基準を作り、制度を一本化しないと国民のためにならない」といい、2学会に話し合いを呼びかけている。』
脳外科に関する最近できた専門医制度といえば血管内治療の専門医と脳卒中専門医である.日本脳神経血管内治療学会と日本脳卒中学会が認定している.日本脳神経血管内治療学会の方は脳外科医の会員が多いかもしれないが,日本脳卒中学会の方は大半が神経内科もしくは内科医であると思われる.
日本脳神経外科学会で脳卒中の内科的治療が取り上げられることはほとんどないためか,内科的治療も含めて実際の治療にあたってきた脳外科医に脳卒中専門医の認定を学会独自で行うようなことはしていない.この点で癌治療学会の動きはどうも外科医の仕事から薬物療法を切り離したくないように見える.
「『がん治療専門医』を認定する必然性を感じない。将来的に外科医の仕事から薬物療法を切り離すよう働きかけるべきだ」という考え方には私は賛成だ.脳卒中の治療も内科的なものはすべて脳卒中専門医の認定を受けた脳神経内科医にやってもらいたい.そうすれば脳外科医不足も解消されて脳外科医は本来の手術治療に専念できるわけである.
実際はそう簡単ではないことはわかっているが,今まで地域の脳卒中治療に貢献したつもりでいても脳卒中学会に属さなければ専門医認定もしないというのであれば脳外科医としてはやっぱり手術治療に専念したいというのが本音なわけである.
『--医歯学部4年に患者応対テスト 新年度から108大学で--
患者ときちんと話をして丁寧に診察できる医師や歯科医を育てるため全国108の医学部、歯学部のある大学が4年生を対象にした共通試験を05年度から始める。知識だけでなく模擬患者に問診し、コミュニケーションが図れるかなども判断する。合否は5年生への進級の判断材料になる。最終的に進級できなければ進路変更も含めた指導を検討する。医療不信が高まる中で知識偏重の医学教育からの転換を目指す。
医師の無神経な言動で傷つけられる患者は少なくない。未熟な医師による医療ミスも相次ぐ。医療不信を招くこうした問題の一因に、5年生からの臨床実習が、主に指導医の診療の見学に終わるなど、十分に機能していないことがあると指摘されてきた。この反省から、文部科学省は臨床実習を「見学型」から「参加型」に改革することを検討。大学側も、学生が診療に加わって患者と接することができる最低限必要な技能や適性が身についているか、共通の基準で判定する準備を進めてきた。02年度からの試行を踏まえ05年度から本格的に実施することにした。試験では、医学知識を問う問題に加え、模擬患者を問診してもらう。そのやりとりから、患者が信頼して症状や悩みを相談できる態度がとれるかどうか、患者の訴えに耳を傾けられるか、意思疎通が図れるか……などを判定する。さらに脈拍・血圧測定、頭から胸、腹部などの診察や、救命救急の処置などもチェック。歯学系では、抜歯や歯科治療などの技能も問う。
各大学は、この試験の成績を5年生への進級の判断材料にする。進級できなければ、さらに1年勉強して再試験を受ける。こうした判断は各大学の裁量に委ねられるものの、大学側は、再試験でも進級できない学生に対しては、必要なら進路変更を促すなど、きめ細かい指導を行う考えだ。
大学側は試験を公正に実施するために社団法人「医療系大学間共用試験実施評価機構(仮称)」をつくる計画で、今月中にも文科省に申請する。文科省は「患者中心の質の高い医療を担う医師を育成するための重要なステップ。全国共通の基準で判定できることに大きな意味がある」(医学教育課)と話している。』
コンビニの店員のように接客態度を学ばせようというのなら試験をやっても医師のコミュニケーション能力の向上は見込めないというのが私の考えだ.確かにコンビニで商品を売るのであれば見かけの接客態度さえよければそれでいいし,マニュアルどおりに対応すれば商品は売れるわけである.しかし,医師というのは接客業とは思えない.
医師と患者が人間として対等であることは当然であるが,治療するほうとされるほうではおのずから立場はまったく違うものである.極端なことを言えば患者の求めるものと医師のめざすものがまったく異なる場合さえあり得るわけである.だから医師の患者への態度には医師としての経験とその生命観というようなものが強く影響するはずである.
自分が重い病気になって初めて患者の言うことが理解できるようになったという医師は多い.知識として持っている患者への理解と自分が経験した患者体験ではまったく違うということなのだろう.
こういう経験の少なさというものを試験で補えると考えているのであればそれこそ知識偏重というものであり,全国共通の基準で判定できることに何の意味があるのであろうか.私は学生時代に医師にとって最も大切なものは"Sympathy"であると聞いたことがあるが,まさに患者の立場を心で理解する経験が必要なのだと思う.それが今後の医学教育で可能になるのであろうか.
全国標準の接遇マニュアルどおりに診察し,全国標準の治療を行うことを医療の質の向上というのでは医師という仕事も随分と軽薄な作業になってきたものだ.
患者ときちんと話をして丁寧に診察できる医師や歯科医を育てるため全国108の医学部、歯学部のある大学が4年生を対象にした共通試験を05年度から始める。知識だけでなく模擬患者に問診し、コミュニケーションが図れるかなども判断する。合否は5年生への進級の判断材料になる。最終的に進級できなければ進路変更も含めた指導を検討する。医療不信が高まる中で知識偏重の医学教育からの転換を目指す。
医師の無神経な言動で傷つけられる患者は少なくない。未熟な医師による医療ミスも相次ぐ。医療不信を招くこうした問題の一因に、5年生からの臨床実習が、主に指導医の診療の見学に終わるなど、十分に機能していないことがあると指摘されてきた。この反省から、文部科学省は臨床実習を「見学型」から「参加型」に改革することを検討。大学側も、学生が診療に加わって患者と接することができる最低限必要な技能や適性が身についているか、共通の基準で判定する準備を進めてきた。02年度からの試行を踏まえ05年度から本格的に実施することにした。試験では、医学知識を問う問題に加え、模擬患者を問診してもらう。そのやりとりから、患者が信頼して症状や悩みを相談できる態度がとれるかどうか、患者の訴えに耳を傾けられるか、意思疎通が図れるか……などを判定する。さらに脈拍・血圧測定、頭から胸、腹部などの診察や、救命救急の処置などもチェック。歯学系では、抜歯や歯科治療などの技能も問う。
各大学は、この試験の成績を5年生への進級の判断材料にする。進級できなければ、さらに1年勉強して再試験を受ける。こうした判断は各大学の裁量に委ねられるものの、大学側は、再試験でも進級できない学生に対しては、必要なら進路変更を促すなど、きめ細かい指導を行う考えだ。
大学側は試験を公正に実施するために社団法人「医療系大学間共用試験実施評価機構(仮称)」をつくる計画で、今月中にも文科省に申請する。文科省は「患者中心の質の高い医療を担う医師を育成するための重要なステップ。全国共通の基準で判定できることに大きな意味がある」(医学教育課)と話している。』
コンビニの店員のように接客態度を学ばせようというのなら試験をやっても医師のコミュニケーション能力の向上は見込めないというのが私の考えだ.確かにコンビニで商品を売るのであれば見かけの接客態度さえよければそれでいいし,マニュアルどおりに対応すれば商品は売れるわけである.しかし,医師というのは接客業とは思えない.
医師と患者が人間として対等であることは当然であるが,治療するほうとされるほうではおのずから立場はまったく違うものである.極端なことを言えば患者の求めるものと医師のめざすものがまったく異なる場合さえあり得るわけである.だから医師の患者への態度には医師としての経験とその生命観というようなものが強く影響するはずである.
自分が重い病気になって初めて患者の言うことが理解できるようになったという医師は多い.知識として持っている患者への理解と自分が経験した患者体験ではまったく違うということなのだろう.
こういう経験の少なさというものを試験で補えると考えているのであればそれこそ知識偏重というものであり,全国共通の基準で判定できることに何の意味があるのであろうか.私は学生時代に医師にとって最も大切なものは"Sympathy"であると聞いたことがあるが,まさに患者の立場を心で理解する経験が必要なのだと思う.それが今後の医学教育で可能になるのであろうか.
全国標準の接遇マニュアルどおりに診察し,全国標準の治療を行うことを医療の質の向上というのでは医師という仕事も随分と軽薄な作業になってきたものだ.
『--研修医の労働時間を制限する最新のガイドラインでは安全性向上の効果はほとんどない--
24時間以上連続して病院に勤務する医学インターンが自動車衝突事故を起こす確率は、長時間勤務をしないインターンの2倍以上であり、報告されたニアミスの数も5倍であるという調査結果が、『New England Journal of Medicine』1月13日号に掲載された。
また、インターンの長時間勤務が1カ月あたり1回増えるごとに自動車衝突事故のリスクが9%増加し、1カ月の間に勤務先から帰宅する際に衝突事故を起こす確率は16%増加した。この調査はインターネットを利用したもので、全米規模で医学研修1年目の研修生2,737例を対象にしている。
インターンの病院勤務は週あたり平均70時間、そのうち覚醒していた時間は申告では全体の96%の67時間であったことがこの調査で判明した。インターンの報告によれば、長時間勤務の回数は1カ月あたり平均3.9回で、1回あたりの平均勤務時間は32時間であった。
18カ月間行われたこの調査は、Accreditation Council for Graduate Medical Education(ACGME)による2003年7月のガイドラインが効力を発する直前に終了した。ガイドラインでは、オンコールを連続24時間(診療上の経過観察継続の場合さらに6時間)まで、週の総時間は80時間に制限している。
こうした新しい要請があるにも関わらず、今回の結果では、疲れ切った研修医が自分自身や他者に対して危害を与える可能性が高いことが明確に出ている、と共同著者でハーバード大学医学部睡眠医学科(マサチューセッツ州、ボストン)の医学教授であるCharles A. Czeisler, PhD, MDが述べている。
インターンと研修医における長時間勤務は依然として、医学界では必要な教育のひとつとして見られているが、Czeisler博士によると、「患者、インターン、市民にとって危険であり、過去の遺物であり、捨て去るべきもの」だという。
「私の知る限りでは、30時間ものマラソン勤務を看過している規制機関は、あらゆる分野を見渡してもACGMEのみである」とCzeisler博士はMedscapeに対して語っている。その最新のガイドラインは「既成事実を明文化したものに過ぎない。表面的な体裁を整えるのではなく、実質的な改革必要がある」と同博士は述べている。(抜粋)』
米国の研修医はいまだに大変なようである.現在の日本の研修医はこれに比べたらはるかにいい環境だろう.私自身も1年目のころは大学病院で早くて夜10時くらいまでは働いていた.それも患者さんを診ているのではなくカンファレンスや教授回診や学会発表の準備という大学ならではの仕事のためだった.
居眠りも当然多かった.抄読会や手術中は言うまでもなく,患者さんや家族への説明中や帰宅する際の運転中もよく居眠りしそうになっていた.救急部にいたころはほとんど泊り込みだったのでかえって通勤時間分の睡眠がとれて楽だった覚えがある.
あまりいい思い出ではないのでほとんど忘れてしまった.研修医制度のおかげで人手不足は当分続きそうだ.当直の回数も4月からまた増えそうだ.研修医が働かない分のしわよせがどこからかまわりまわって私のところに来ているのだろうか.
研修医制度は私から見ると給料をもらって医学生をやっているようなものだ.本当の仕事は研修医が終わってからだろう.日本では研修後の医師の過労死や医療事故が今後増えていくような気がする.
24時間以上連続して病院に勤務する医学インターンが自動車衝突事故を起こす確率は、長時間勤務をしないインターンの2倍以上であり、報告されたニアミスの数も5倍であるという調査結果が、『New England Journal of Medicine』1月13日号に掲載された。
また、インターンの長時間勤務が1カ月あたり1回増えるごとに自動車衝突事故のリスクが9%増加し、1カ月の間に勤務先から帰宅する際に衝突事故を起こす確率は16%増加した。この調査はインターネットを利用したもので、全米規模で医学研修1年目の研修生2,737例を対象にしている。
インターンの病院勤務は週あたり平均70時間、そのうち覚醒していた時間は申告では全体の96%の67時間であったことがこの調査で判明した。インターンの報告によれば、長時間勤務の回数は1カ月あたり平均3.9回で、1回あたりの平均勤務時間は32時間であった。
18カ月間行われたこの調査は、Accreditation Council for Graduate Medical Education(ACGME)による2003年7月のガイドラインが効力を発する直前に終了した。ガイドラインでは、オンコールを連続24時間(診療上の経過観察継続の場合さらに6時間)まで、週の総時間は80時間に制限している。
こうした新しい要請があるにも関わらず、今回の結果では、疲れ切った研修医が自分自身や他者に対して危害を与える可能性が高いことが明確に出ている、と共同著者でハーバード大学医学部睡眠医学科(マサチューセッツ州、ボストン)の医学教授であるCharles A. Czeisler, PhD, MDが述べている。
インターンと研修医における長時間勤務は依然として、医学界では必要な教育のひとつとして見られているが、Czeisler博士によると、「患者、インターン、市民にとって危険であり、過去の遺物であり、捨て去るべきもの」だという。
「私の知る限りでは、30時間ものマラソン勤務を看過している規制機関は、あらゆる分野を見渡してもACGMEのみである」とCzeisler博士はMedscapeに対して語っている。その最新のガイドラインは「既成事実を明文化したものに過ぎない。表面的な体裁を整えるのではなく、実質的な改革必要がある」と同博士は述べている。(抜粋)』
米国の研修医はいまだに大変なようである.現在の日本の研修医はこれに比べたらはるかにいい環境だろう.私自身も1年目のころは大学病院で早くて夜10時くらいまでは働いていた.それも患者さんを診ているのではなくカンファレンスや教授回診や学会発表の準備という大学ならではの仕事のためだった.
居眠りも当然多かった.抄読会や手術中は言うまでもなく,患者さんや家族への説明中や帰宅する際の運転中もよく居眠りしそうになっていた.救急部にいたころはほとんど泊り込みだったのでかえって通勤時間分の睡眠がとれて楽だった覚えがある.
あまりいい思い出ではないのでほとんど忘れてしまった.研修医制度のおかげで人手不足は当分続きそうだ.当直の回数も4月からまた増えそうだ.研修医が働かない分のしわよせがどこからかまわりまわって私のところに来ているのだろうか.
研修医制度は私から見ると給料をもらって医学生をやっているようなものだ.本当の仕事は研修医が終わってからだろう.日本では研修後の医師の過労死や医療事故が今後増えていくような気がする.
『--不妊治療法を国民投票へ イタリア --
イタリアで昨年制定され、受精卵の検査(スクリーニング)禁止など厳しい条件を患者に課した不妊治療法について同国の憲法裁判所は13日、法修正の是非を問う国民投票実施を決定した。投票は4月15日から6月15日の間に行われる。
投票にかけられる条項には(1)母体に戻す前の受精卵の異常を見つけるためのスクリーニング禁止(2)一度に受精させられる卵子数の制限(3個まで)と凍結保存の禁止(3)第三者からの精子、卵子の提供禁止(4)受精卵の研究目的への使用禁止-などが含まれている。
いずれの条項もバチカン(ローマ法王庁)のカトリック的倫理観を反映している。条件緩和を求める野党などが国民投票を求めていた。』
『--受精卵診断を名市大が承認 産婦人科学会に実施申請へ --
名古屋市立大医学部の倫理委員会は14日までに、体外受精した受精卵を母胎に戻す前に遺伝病の有無を調べる受精卵診断(着床前診断)を承認した。産婦人科の鈴森薫(すずもり・かおる)教授からの申請で、実施にはさらに日本産科婦人科学会の倫理委の承認が必要なため、鈴森教授は同日中に学会に申請する。
受精卵診断をめぐっては、同学会が昨年7月、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象とした慶応大の申請を初めて承認。鈴森教授の申請が認められれば2例目となる。
申請の対象は筋力が低下し、歩行困難などの障害が起きる筋強直性ジストロフィーを発症した女性。鈴森教授は「死産を経験しており、生まれてくる子供が重篤化する確率は高い。診断はやむを得ない」と話している。
鈴森教授の申請は今回が2例目。別の夫婦を対象とした1例目は、同大の倫理委は承認したが、学会が「成人後も日常生活を送ることができる可能性があり、重篤な遺伝病に当たらない」として認めなかった。』
法治国家であれば倫理観を国民の多数決で法に反映させるというのは合理的であろう.社会福祉制度そのものが法的なものである以上,それが適応されるものすべては規制されるべきであるという考え方も理解できる.
しかるにわが国はどうであろうか.大学医学部や学会の倫理委員会がどう決定したところで,結果として生まれてくる子供が重篤化したとしても何の責任も負わないだろう.
受精卵診断(着床前診断)を承認して障害者が生まれないようにするのが倫理的かどうかの問題ではなく,社会保障制度を支えている国民が医療に何を求めるのかが問題だろう.
医療費を含む社会福祉の費用を減らすのが目的なら障害者をその発生の時点で排除するのが合理的なのかも知れないが,それでいいのだろうか.それを問うものこそが倫理観だろう.
イタリアで昨年制定され、受精卵の検査(スクリーニング)禁止など厳しい条件を患者に課した不妊治療法について同国の憲法裁判所は13日、法修正の是非を問う国民投票実施を決定した。投票は4月15日から6月15日の間に行われる。
投票にかけられる条項には(1)母体に戻す前の受精卵の異常を見つけるためのスクリーニング禁止(2)一度に受精させられる卵子数の制限(3個まで)と凍結保存の禁止(3)第三者からの精子、卵子の提供禁止(4)受精卵の研究目的への使用禁止-などが含まれている。
いずれの条項もバチカン(ローマ法王庁)のカトリック的倫理観を反映している。条件緩和を求める野党などが国民投票を求めていた。』
『--受精卵診断を名市大が承認 産婦人科学会に実施申請へ --
名古屋市立大医学部の倫理委員会は14日までに、体外受精した受精卵を母胎に戻す前に遺伝病の有無を調べる受精卵診断(着床前診断)を承認した。産婦人科の鈴森薫(すずもり・かおる)教授からの申請で、実施にはさらに日本産科婦人科学会の倫理委の承認が必要なため、鈴森教授は同日中に学会に申請する。
受精卵診断をめぐっては、同学会が昨年7月、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象とした慶応大の申請を初めて承認。鈴森教授の申請が認められれば2例目となる。
申請の対象は筋力が低下し、歩行困難などの障害が起きる筋強直性ジストロフィーを発症した女性。鈴森教授は「死産を経験しており、生まれてくる子供が重篤化する確率は高い。診断はやむを得ない」と話している。
鈴森教授の申請は今回が2例目。別の夫婦を対象とした1例目は、同大の倫理委は承認したが、学会が「成人後も日常生活を送ることができる可能性があり、重篤な遺伝病に当たらない」として認めなかった。』
法治国家であれば倫理観を国民の多数決で法に反映させるというのは合理的であろう.社会福祉制度そのものが法的なものである以上,それが適応されるものすべては規制されるべきであるという考え方も理解できる.
しかるにわが国はどうであろうか.大学医学部や学会の倫理委員会がどう決定したところで,結果として生まれてくる子供が重篤化したとしても何の責任も負わないだろう.
受精卵診断(着床前診断)を承認して障害者が生まれないようにするのが倫理的かどうかの問題ではなく,社会保障制度を支えている国民が医療に何を求めるのかが問題だろう.
医療費を含む社会福祉の費用を減らすのが目的なら障害者をその発生の時点で排除するのが合理的なのかも知れないが,それでいいのだろうか.それを問うものこそが倫理観だろう.
『--「良医」育成に初の指針 厚労省、2000病院に周知--
新人医師に昨年4月から義務化された臨床研修で、小児科や内科など幅広い分野で必要な診療技術を教え込んでもらうため、厚生労働省は10日までに、初の「指導ガイドライン」を作成し、全国2200余りある研修先の病院に周知する方針を決めた。
「働きながら見て学べ」という徒弟的な風潮が根強い中、どこでも“良医”が育つよう指導法を標準化するのが狙い。各分野の関連医学会などの協力を得て春までに試行版をつくり、現場に順次普及させたい考えだ。
厚労省医師臨床研修推進室によると、ガイドラインは新制度で数カ月間ずつ経験するよう定められた小児科、内科、外科、救急医療などの7領域について、専門医学会メンバーらによる検討班をつくって作成する。』
ガイドラインで指導法を標準化するのは結構なことだ.指導法が書いてあればそれに従って教えればよいということなのだろう.研修医にどういう風に接するのがいいのかも含めて是非とも現場で役立つガイドラインができることを期待しよう.
残る問題は標準化された指導でよい医師が量産されるかどうかということである.文部省の学習指導要領というのを思い出してもらいたい.はたして標準化した指導を行うとみんな優秀な生徒になったであろうか.
「働きながら見て学べ」という徒弟的な風潮が根強い中、どこでも“良医”が育つよう指導法を標準化するのが狙いとあるが,そもそも良医とはどんな医師なのであろうか.徒弟制の小さな病院では良医は生まれないといいたいのだろうか.
ガイドラインに従ってたった数カ月間ずつ小児科、内科、外科、救急医療などの7領域を経験するだけで良医になれるんだったら結構なことだろうがそんなうまい話があるだろうか.
新人医師に昨年4月から義務化された臨床研修で、小児科や内科など幅広い分野で必要な診療技術を教え込んでもらうため、厚生労働省は10日までに、初の「指導ガイドライン」を作成し、全国2200余りある研修先の病院に周知する方針を決めた。
「働きながら見て学べ」という徒弟的な風潮が根強い中、どこでも“良医”が育つよう指導法を標準化するのが狙い。各分野の関連医学会などの協力を得て春までに試行版をつくり、現場に順次普及させたい考えだ。
厚労省医師臨床研修推進室によると、ガイドラインは新制度で数カ月間ずつ経験するよう定められた小児科、内科、外科、救急医療などの7領域について、専門医学会メンバーらによる検討班をつくって作成する。』
ガイドラインで指導法を標準化するのは結構なことだ.指導法が書いてあればそれに従って教えればよいということなのだろう.研修医にどういう風に接するのがいいのかも含めて是非とも現場で役立つガイドラインができることを期待しよう.
残る問題は標準化された指導でよい医師が量産されるかどうかということである.文部省の学習指導要領というのを思い出してもらいたい.はたして標準化した指導を行うとみんな優秀な生徒になったであろうか.
「働きながら見て学べ」という徒弟的な風潮が根強い中、どこでも“良医”が育つよう指導法を標準化するのが狙いとあるが,そもそも良医とはどんな医師なのであろうか.徒弟制の小さな病院では良医は生まれないといいたいのだろうか.
ガイドラインに従ってたった数カ月間ずつ小児科、内科、外科、救急医療などの7領域を経験するだけで良医になれるんだったら結構なことだろうがそんなうまい話があるだろうか.
厚生労働省は施設の感染症予防ガイドラインをつくるべき
2005年1月8日 医療の問題『--特養ホーム:入所者6人死亡 ロタウイルスの疑い--
広島県福山市の特別養護老人ホーム「福山福寿園」(岡田剛理事長)で入所者6人が相次いで死亡するなどした問題で、同市保健所は8日、同園に対し再度、立ち入り調査した。4日に全入所者に実施した検便では、食中毒菌は検出されておらず、感染症が原因である可能性が高まった。
福山市医師会によると、昨年12月初めごろから、同市内でロタウイルスなどによる感染性胃腸炎でおう吐、下痢などを訴える患者が急増。週に100〜200人程度が受診したため、注意を呼びかけていたという。ロタウイルスは、食中毒の原因となるノロウイルスと異なり、空気感染するのが特徴で、今回の同園のケースも、症状や発生状況などからロタウイルスが原因である可能性が高いと考えられるという。
一方、8日未明に記者会見した岡田理事長らによると、死亡した6人のうち2人が下痢、おう吐を発症していたが、他の4人には症状が見られなかった。このため、食中毒や感染症による死亡との認識はなく、主治医を兼務していた岡田理事長は「終末状態から亡くなったと考えていた」と明らかにした。
園によると、入園者の平均年齢は約90歳で、昨年1年間で約25人が死亡。高齢による体力の低下に加え、風邪やインフルエンザなどで体調を崩し、毎年、同数程度の入所者が死亡しているという。市保健所によると、感染症の有無を調査するため、入所者全員に7日、検便を実施。2、3日中にも結果の報告があるという。』
『広島・特養ホーム:さらに1人死亡 感染症の可能性高まる
広島県福山市の特別養護老人ホーム「福山福寿園」(岡田剛理事長)の入所者6人が昨年末から今年初めにかけ、嘔吐(おうと)や下痢などの症状で相次ぎ死亡した問題で、同市保健所は8日、同日午後に新たに男性入所者(83)1人の容体が急変し、死亡したと発表した。市のこれまでの調査で、死亡者のうち4人は、食中毒が発生する可能性が極めて低い市販の流動食のみを取るなどしており、感染症が原因の可能性がさらに高まった。
一方、市は、事実の報告が遅れるなど厚生労働省令に違反した疑いもあるとして、同日午後、園に特別監査を実施。通報が遅れた理由や、健康・衛生面の管理について岡田宏園長らに聞き取り調査したが、監査中に入所者が死亡したため、調査を中止した。
開原算彦助役や保健所長ら市幹部でつくる対策会議は同日発足。今後、感染症の専門家らでつくる調査委員会の設置や、17の特養ホームなど市内の全老人保健施設に対する感染防止の指導を決めた。開原助役は「全容の把握ができておらず深刻に受け止めている。一刻も早く原因を究明したい」と話した。
今後、昨年12月20日以降の入所者全員の看護記録の確認や、病原体追跡のため、頻繁に行われたとされる入所者の部屋の移動状況などを調査することを決めた。』
特別養護老人ホームに限らず大勢の人間が共同で生活するような施設では感染症の影響は大きい.特にそれが幼児や高齢者などの免疫力の低いものであればなおさらだろう.風邪から肺炎になることだって別に珍しいことではないのだ.
感染症が流行すると施設の管理責任が問われるのは当然としても,看護職員だけでなく面会に来る家族が感染症のキャリアになっている場合も多いと考えられ,感染症の予防のためには面会者のコントロールも必要であろう.
病院,学校,幼稚園,保育所などにも同様のことが言える.最近,各地の病院や施設でノロウィルスによる食中毒が流行っているのもこれら施設での感染対策の重要性を示しているいい例だろう.病院には感染症対策委員会があるが,施設や学校にはそのようなものもない.急増したグループホームなども高齢者が多く管理レベルは低いため注意が必要だろう.
いずれにしても感染症が流行した施設の省令違反の有無を監査するだけででなく,施設入所者を感染症から守り,面会者にも理解できるような感染症対策のガイドラインをつくってもらいたいものである.
広島県福山市の特別養護老人ホーム「福山福寿園」(岡田剛理事長)で入所者6人が相次いで死亡するなどした問題で、同市保健所は8日、同園に対し再度、立ち入り調査した。4日に全入所者に実施した検便では、食中毒菌は検出されておらず、感染症が原因である可能性が高まった。
福山市医師会によると、昨年12月初めごろから、同市内でロタウイルスなどによる感染性胃腸炎でおう吐、下痢などを訴える患者が急増。週に100〜200人程度が受診したため、注意を呼びかけていたという。ロタウイルスは、食中毒の原因となるノロウイルスと異なり、空気感染するのが特徴で、今回の同園のケースも、症状や発生状況などからロタウイルスが原因である可能性が高いと考えられるという。
一方、8日未明に記者会見した岡田理事長らによると、死亡した6人のうち2人が下痢、おう吐を発症していたが、他の4人には症状が見られなかった。このため、食中毒や感染症による死亡との認識はなく、主治医を兼務していた岡田理事長は「終末状態から亡くなったと考えていた」と明らかにした。
園によると、入園者の平均年齢は約90歳で、昨年1年間で約25人が死亡。高齢による体力の低下に加え、風邪やインフルエンザなどで体調を崩し、毎年、同数程度の入所者が死亡しているという。市保健所によると、感染症の有無を調査するため、入所者全員に7日、検便を実施。2、3日中にも結果の報告があるという。』
『広島・特養ホーム:さらに1人死亡 感染症の可能性高まる
広島県福山市の特別養護老人ホーム「福山福寿園」(岡田剛理事長)の入所者6人が昨年末から今年初めにかけ、嘔吐(おうと)や下痢などの症状で相次ぎ死亡した問題で、同市保健所は8日、同日午後に新たに男性入所者(83)1人の容体が急変し、死亡したと発表した。市のこれまでの調査で、死亡者のうち4人は、食中毒が発生する可能性が極めて低い市販の流動食のみを取るなどしており、感染症が原因の可能性がさらに高まった。
一方、市は、事実の報告が遅れるなど厚生労働省令に違反した疑いもあるとして、同日午後、園に特別監査を実施。通報が遅れた理由や、健康・衛生面の管理について岡田宏園長らに聞き取り調査したが、監査中に入所者が死亡したため、調査を中止した。
開原算彦助役や保健所長ら市幹部でつくる対策会議は同日発足。今後、感染症の専門家らでつくる調査委員会の設置や、17の特養ホームなど市内の全老人保健施設に対する感染防止の指導を決めた。開原助役は「全容の把握ができておらず深刻に受け止めている。一刻も早く原因を究明したい」と話した。
今後、昨年12月20日以降の入所者全員の看護記録の確認や、病原体追跡のため、頻繁に行われたとされる入所者の部屋の移動状況などを調査することを決めた。』
特別養護老人ホームに限らず大勢の人間が共同で生活するような施設では感染症の影響は大きい.特にそれが幼児や高齢者などの免疫力の低いものであればなおさらだろう.風邪から肺炎になることだって別に珍しいことではないのだ.
感染症が流行すると施設の管理責任が問われるのは当然としても,看護職員だけでなく面会に来る家族が感染症のキャリアになっている場合も多いと考えられ,感染症の予防のためには面会者のコントロールも必要であろう.
病院,学校,幼稚園,保育所などにも同様のことが言える.最近,各地の病院や施設でノロウィルスによる食中毒が流行っているのもこれら施設での感染対策の重要性を示しているいい例だろう.病院には感染症対策委員会があるが,施設や学校にはそのようなものもない.急増したグループホームなども高齢者が多く管理レベルは低いため注意が必要だろう.
いずれにしても感染症が流行した施設の省令違反の有無を監査するだけででなく,施設入所者を感染症から守り,面会者にも理解できるような感染症対策のガイドラインをつくってもらいたいものである.
研修体制に問題はないのか
2005年1月5日 医療の問題『--意識不明の男性死亡 京都大病院で薬誤投与--
京都大病院(田中紘一(たなか・こういち)院長)は3日、限度量の3倍近い抗リウマチ薬を投与され、意識不明だった近畿在住の70代の男性が2日午後3時29分に死亡したと発表した。同病院は、医療事故調査委員会を設置して事故原因などを調査中。京都府警川端署は司法解剖し、詳しい死因を調べる。
男性は、関節リウマチなどで同病院に通院していたが、昨年10月、消化管出血で緊急入院。医師歴1年の研修医が限度量の3倍近い投与を指示。男性は数日後に呼吸状態が悪化し、集中治療室(ICU)で治療を受けていた。』
研修医の投薬ミスによる医療事故ということだろうか.ニュースに書かれた研修医には誠にお気の毒であるが,投与量の誤りによる死亡であることが明らかになれば業務上過失致死で訴えられるのであろうか.こういう初歩的ミスはベテランでも犯す可能性がないわけではないだろうが,やはり研修医には起こりやすい事故であるだろう.
医師である以上は本人の過失責任があるのはわかるが,研修病院である大学附属病院で研修中であったことを考えると,こういった事故を防ぐための体制がちゃんと整っていたかがより重要な問題であると思うのだがどうであろうか.
病棟で医師が処方箋を書くなり,オーダーを入れるなりしたとしても薬剤師が必ず監査するはずであるし,看護師も処方内容は確認するはずである.そもそも研修医の場合は指導医がその仕事をみているはずであるが,これら最低3人の医療従事者の目をすりぬけて事故が起きていることの問題点をよく考えるべきだろう.
研修中のしかもこんな初歩的ミスが研修医一人の責任にされて刑事責任まで負わされるようでは研修制度の本来の目的からはずれるだろう.今後,京都大病院がどういう対応をとるのか気になるところだ.
京都大病院(田中紘一(たなか・こういち)院長)は3日、限度量の3倍近い抗リウマチ薬を投与され、意識不明だった近畿在住の70代の男性が2日午後3時29分に死亡したと発表した。同病院は、医療事故調査委員会を設置して事故原因などを調査中。京都府警川端署は司法解剖し、詳しい死因を調べる。
男性は、関節リウマチなどで同病院に通院していたが、昨年10月、消化管出血で緊急入院。医師歴1年の研修医が限度量の3倍近い投与を指示。男性は数日後に呼吸状態が悪化し、集中治療室(ICU)で治療を受けていた。』
研修医の投薬ミスによる医療事故ということだろうか.ニュースに書かれた研修医には誠にお気の毒であるが,投与量の誤りによる死亡であることが明らかになれば業務上過失致死で訴えられるのであろうか.こういう初歩的ミスはベテランでも犯す可能性がないわけではないだろうが,やはり研修医には起こりやすい事故であるだろう.
医師である以上は本人の過失責任があるのはわかるが,研修病院である大学附属病院で研修中であったことを考えると,こういった事故を防ぐための体制がちゃんと整っていたかがより重要な問題であると思うのだがどうであろうか.
病棟で医師が処方箋を書くなり,オーダーを入れるなりしたとしても薬剤師が必ず監査するはずであるし,看護師も処方内容は確認するはずである.そもそも研修医の場合は指導医がその仕事をみているはずであるが,これら最低3人の医療従事者の目をすりぬけて事故が起きていることの問題点をよく考えるべきだろう.
研修中のしかもこんな初歩的ミスが研修医一人の責任にされて刑事責任まで負わされるようでは研修制度の本来の目的からはずれるだろう.今後,京都大病院がどういう対応をとるのか気になるところだ.