『--指導医の60%「時間ない」 新臨床研修制度めぐり調査--

 全国の病院で「医者の卵」を指導する医師の約60%は、昨年4月に始まった臨床研修制度について「指導時間が不十分」と感じていることが1日、全日本医学生自治会連合(医学連)の調査で分かった。

 厚生労働省は、指導医が研修医に対する指導時間を十分確保するよう通知で受け入れ側の病院に求めている。

 医学連は「指導医は忙しい中で患者の診療と研修医の指導を両立させている。このままではいずれも不十分になりかねない」として同日、厚労省に指導医の環境改善を要望した。

 調査は今年7-11月、研修医を受け入れている971病院を対象に実施。202病院の925人の指導医から回答を得た。

 指導時間が「不十分」と感じているのは550人(59・5%)で、「十分」と感じている253人(27・4%)を大幅に上回った。

 指導に対する給与の手当も「全くない」が528人(57・1%)。「不十分」の236人(25・5%)と合わせると80%以上に上り、「十分」は91人(9・8%)にとどまった。』

 医学連のアンケート結果を見ると研修医は将来の進路と一人前の医師になれるかどうかに不安があり,指導医の確保と業務保障が研修の改善のために必要とされると感じているようだ.

 指導医からの結果を見るとこれはひどいもので経済的にも業務保障も指導の時間もないとまさに現場の指導医の精神力に頼るのみの研修であることがわかる.研修医の立場は考慮しても指導医に対する配慮がなければまともな研修内容になるわけがない.

 私は新臨床研修制度の真の目的は大学中心の医局制度の崩壊にあると思っていたし,事実そうなっているのだから効果は絶大であった.大学の研修医がいなくなり派遣先の地方病院からの引き上げというおまけも付いて地方の医療の崩壊は現在も進行中である.さらに名義貸しによる病院の取り潰し,医療事故のマスコミによる過大な報道という流れの中ですでに現場は守りの体制である.

 こんな状況で指導に十分な時間がかけられなければ危険なことは研修医にやらせるわけにはいかない.つまり研修医にとって腕をみがくチャンスはないだろう.指導医も一生懸命教えても自分のところの労働力になるでもなく,自分の給与になるでもなく,おまけに自分の仕事は研修医が帰ってからやらねばならないでは本音はもう辞めたいというところだろう.

 ようするに制度があって自分のところの病院が研修医を募集するからやっているだけなのだ.研修医に自分の病院に残ってもらうためにやるとしたらあまりに効率が悪すぎるだろう.結局は給料もらって有名病院で学生時代のポリクリの補習をやっているようなものなのではないだろうか.今後は医局の人事の影響力もなくなり医師も能力主義になると思われる.今の研修医は研修が終わって半人前で就職しても今度は研修医以下の待遇で働くことになるかもしれないという危機感を持ったりはしないのだろうか.
『--医療ミス事件の判決要旨--

 東京女子医大医療ミス事件で東京地裁が30日、元同病院医師佐藤一樹被告に言い渡した無罪判決の要旨は次の通り。

 【死因】

 被告は、女児=当時(12)=の心臓手術で、体外循環を行う人工心肺装置の操作を担当した。手術中に女児の体から装置に血が行かなくなったのは、装置の圧力を低く保つことができなかったためで、その直接的かつ決定的な原因は、装置内外の温度差で発生した水滴がガスフィルターに吸着して目詰まりし、吸引力が伝わらなくなったためと考えるのが合理的だ。

 【予見可能性】

 被告の過失責任を問うには、人工心肺の長時間使用でフィルターが目詰まりし、血液が循環不能の状態になる一連の仕組みを予見できることが必要。医師が順守すべき注意義務は、その医師を取り巻く診療条件などを前提に、当時の臨床医療の一般水準に従って判断すべきだ。

 被告はフィルターが取り付けられていることや、手術中に結露が生じることは知っていたが、目詰まりの危険性と結び付けて考えたことはなかった。同僚のほかの医療関係者にも、この事態を想定した者はなかった。そのほかの医師の証言や文献を検討しても、当時の臨床医療の一般水準という観点から見て、被告が手術の際に目詰まりの危険性まで予見できたとは認めがたい。

 客観的には装置にフィルターを取り付ける必要性は乏しく、むしろ危険でさえある。このような人工心肺の構造には瑕疵(かし)があると言うほかない。しかしこの装置は特定機能病院の承認を受けた東京女子医大で、経験を積んだ医師らによって開発され、それなりに有効な体外循環装置として長年事故もなく使用されてきた。

 開発に携わったわけでもない被告が、もともと危険な構造であることに気付かなかったとしても、責めるのは酷な面がある。その他、事故時の被告の行動や諸状況を検討しても、循環不良の発生を予見できたことを認定することは困難だ。

 【結論】

 証拠を総合しても、被告に予見可能性を認め難い以上、事故を回避するために何らかの措置を講じることができたとも認められない。過失責任を問うことはできない。』

 合理的な判断でこのように判決の要旨をわかりやすく報道することは今後も必要だと思う.

『父の歯科医利明(としあき)さん(55)は「運転手が事故を起こしても、車の構造を知らないなら無罪になるようなもの。医師は事故が起きた時の対応力が問われているのに...」と不満を口にした。

 母むつ美さん(45)も「人工心肺は勝手に動いているわけではない。なぜ動かしていた医師の責任が問えないのか納得できない」と怒りをあらわにした。


 ご両親の不満は一部の引用であろうが,車の構造的欠陥で事故が起きた場合は運転手も当然被害者であろうし,人工心肺に限らず医療機器というものはたとえ原理を知っていても医師がとっさの故障に対応できることはむしろ稀なことであるのが現実である.

 大事な娘を事故で失ったのは大変お気の毒であるが,医療の進歩とは過去もそういった犠牲の上に成り立ってきていることも部分的には真実であるのだから医学発達の恩恵を受ける以上は患者側もリスクを受け入れるのでなければ医療は成り立たないだろう.医師側に明らかな過失がないと判断されたこのケースはそう言う意味で医療行為における医師の安全責任のひとつの限界を示したもので非常に意義があるものだと私は思うのだがどうだろうか.
『--麻酔科医の労働条件、過酷 是正求め、労基署に申告--

 麻酔科医の労働条件が手術の安全性を損なうほど過酷な状態にあり、労働基準法違反だとして、大阪府池田市の市立池田病院の麻酔科主任部長(50)が29日、淀川労働基準監督署に是正措置を求めて申告した。

 申告書によると、麻酔科の医師は昨年12月から1人欠員の3人で、非常勤の医師が毎週3、4人勤務。連日1-5時間の残業を強いられ、3日に1度は時間外の呼び出しに応じられるよう待機態勢を取らなければならないため緊張状態が解けないなどとし、「過重労働で患者の安全に直結する問題」と訴えている。

 病院側は、今年になって午後8時以降に麻酔科医を呼び出したのは5回だけで過重な負担ではないと反論。全国的に麻酔科医が不足しており、欠員の補充は難しいという。

 黒川正典(くろかわ・まさのり)病院長は「医師の労働条件の緩和と待遇改善について検討している」とコメントした。』

 医師の労働時間は基本的には病院の診療時間と同じで9時から17時で昼休み1時間を除いた7時間で1日分と計算されるそうである.ただし,病院の診療時間がそれより長いとそれで1日分で7時間以上でも同じ1日分の計算になるそうだ.これが診療報酬の請求のときに問題となる医師数の計算法の元になっている.当直をした場合はまた別の計算式で加算される.

 つまり当直の場合を除くと1日診療時間時間以上働いてもそれらは一切計算には入らない.つまり病院側からみると診療報酬上のメリットはなにもないわけである.医師に時間外手当てがない理由はおそらくこんなところではないだろうか.まあ,特殊勤務手当てとか勤勉手当とかいうものはあるがこれは働く時間に関係なく一定で公的病院では上司も部下もあまり関係がないようだ.

 ところで医師の時間外勤務には当直の他に待機というものがありこれは緊急時には病院に行く義務がある.そうなると家に帰ってもいつ電話が来るかと思えばストレスがたまる.実際の呼び出しが多ければ当直とあまり変わらないし,少なくとも酒を飲んで酔っ払っているわけにはいかないし遠出することもできないが,待機していることに対する報酬と言うものはない.

 「連日1-5時間の残業を強いられ、3日に1度は時間外の呼び出しに応じられるよう待機態勢を取らなければならないため緊張状態が解けない」とあるが常勤の3人で対応しているから3日に1度なのであろう.これがどの程度大変かは医師でなければわからないだろうし,医師の感覚や体力あるいは精神力の個人差も関係してくるだろう.

 ちなみに脳外科医の場合は公的病院では2−3人で待機し,月に1−2回程度病院当直があり,待機の時は平均1回は病院の救急室に呼び出されるのが普通という感覚だった.自分が待機でなくとも緊急手術になれば全員病院へ行くのがあたりまえの世界なので真面目にやると夜遊びなどもできるわけがない.術者であれば常時体調を整えていつでも手術できなければならないわけだ.

 たぶん昔からの考え方ではこれで良かったし,脳外科医も今まではそうだと思っていたのだが,考えてみるとこれって働きすぎなのではないだろうか.特に外科の手術に夜中に付き合わされる麻酔科にしてみれば文句のひとつも言いたくなるのは理解できる.場合によっては朝まで麻酔をかけなければならないんだから.私は麻酔科にはいつもお世話になっているので麻酔科の味方である.

 ところで労働基準監督署は同じ厚労省の管轄のはずであるが,医師の労働状態をちゃんと監督する気はあるのだろうか.医療の安全確保は現在重大な問題であると思うが厚労省はこういった医師数に出てこない勤務実態をちゃんと把握しているだろうか.いや,おそらく診療報酬には関係ないから気にしていないだろう.それに医療事故が起きても訴えられるのは医師と病院だけで過労やストレスは理由にならないからであろう.

 結局はニュースのように自分から訴えないと誰も真剣には考えてくれないのである.多くの脳外科医もただ一生懸命働くだけでこの問題には立ち向かう気力もない.中には時間外まで働くのが当たり前だと自分で自分を納得させているような哀れな人もいる.だが,若い脳外科医は当直と待機だけで厭になりクリニック開業するものがあとを絶たないのである.

 最近,「健康保険に税金を使っているのだから医師はみんな公務員だ」などと言った役人がいた.「医師の給料は高すぎる」とプロパガンダしたマスコミもいた.だが,ほとんどの勤務医がこんな労働条件で頑張っていることを知っているのだろうか.麻酔科の先生には頑張ってもらって労働条件の改善のために一石を投じてほしいものだ.


『--長期入院患者の負担軽減 「180日ルール」廃止--

 厚生労働省は25日、医療保険適用型療養病床の長期入院患者に対し、入院日数が180日を超えると自己負担が増える「180日ルール」を来年4月の診療報酬改定で廃止する方針を中央社会保険医療協議会(中医協)に示した。

 同時に、同療養病床の患者を処置の内容や疾患、状態に応じて分類。医療の必要度が低い患者への診療報酬を減額し、介護保険適用施設などに移るよう促す報酬体系にする。

 180日ルールは退院できるのに入院し続ける「社会的入院」解消のため、罰則的に導入された制度。同じ病気での入院日数が通算180日を超えると、入院料の15%が保険給付の対象外となる。

 しかし、現実には行き先がないため、負担増のまま入院し続ける患者が多く、制度廃止を求める声が出ていた。』

 これで長期に安心して入院ができるようになったということにはならないだろう.むしろ医療の必要度が低い患者への診療報酬を減額することにより長期療養患者は介護保険施設への移動を余儀なくされることだろう.

 どういうことかを説明すると長い話になってしまうが,ことの始まりは介護保険制度の導入であろう。社会的入院と呼ばれる特に治療を要しないのに入院している患者を病院から引き離し家庭や施設に移すという制度である.私は当時在宅医療にも従事していたが,制度導入以前に介護保険事業による医療サービスの低下を懸念していた.

 果たして介護保険制度によって提供される医療サービスは社会的入院の場合より向上しただろうか?そして,同じサービスを提供するためにかかるコストは低下したであろうか?私はどう見てもコストパフォーマンスは低下していると思う.

 入院療養を介護療養に切り替えることは病院から介護業者へのサービス主体の転換であり,国の健康保険から自治体の介護保険への支払いの主体転換でもあった.その結果としてはおそらく医療費の低下よりも介護保険料と自費の増加のほうがはるかに多いだろう.これでは自治体と住民が自前で公共事業をやるようなものだ.

 今回の180日ルールの改正も入院条件の緩和では決してなく,同時に同療養病床の患者の分類を細分化することにより社会的入院では病院側に採算が取れなくすることにより介護保険適用施設などに移るよう促すということである.もとより経営状態の厳しい病院であれば社会的入院を長引かせれば診療単価の低下を招くわけであるから急性期の28日を過ぎれば180日どころか1日でも早くベッドを空けるように患者に求めることは容易に想像できる.

 今後は療養型病床であればより介護度の高い寝たきりや神経難病の患者さんにシフトすることになるだろう.介護型病床にするなら改築の補助金まで出してもらえるようだが現在の介護保険施設を見ても採算性には疑問がありいずれの選択をとるか難しいだろう.来年4月の診療報酬改定次第ではあるが療養型病床の縮小が今後は進むと予想されるのだがどうなるだろうか.

 180日ルールの廃止は負担軽減のためなどではなく医療費削減のための必要性が薄れただけということなのであろう.慢性期療養の患者さんにとっては食費の自己負担も含め医療サービスのさらなる低下は避けられないであろう.

『--アミロイド生成を妨害 アルツハイマー治療薬も--

 アルツハイマー病発症の原因物質アミロイドの生成にかかわる酵素に結合、アミロイドができるのを妨げる化合物を合成することに京都薬科大の木曽良明(きそ・よしあき)教授(薬品化学)と木村徹(きむら・とおる)助手、東京大、理化学研究所が27日までに成功した。

従来症状を軽くする薬はあったが、この化合物は治療薬開発に役立つのではないかという。

 木曽教授らは、βセクレターゼという酵素の遺伝子が欠損したマウスでは、アミロイドがほとんどできない点に着目。

 この酵素が機能する中心部分に結合し働かなくする化合物として、アミノ酸8個の化合物を設計し合成。さらに脳細胞に入りやすいようアミノ酸を5個にしてコンパクト化した。

 家族性アルツハイマー病遺伝子を発現させたマウスと普通のマウスで、脳の記憶に関係する海馬という部分にこの化合物を注射すると、いずれも3時間後には生成されるアミロイドが約4割減少し、副作用もなかったという。

 木曽教授は「発症を遅らせることができそうで、経口投与で効果があるよう研究を進めたい」と話した。

 研究結果は大阪市で開かれる日本薬学会で28日、発表する。』

 外来に痴呆を心配して受診する患者と家族がここ2週間くらいに3組も来た.話を聞いているうちに「痴呆症は大丈夫だろうか.新聞によく効く薬があると書いてあった.」と一様に言うのである.いままでもテレビの健康番組で脳梗塞の予兆はコレというような話をやると翌日の外来にそれを心配する患者が増えたりすることはあった.

 痴呆症も話を聞いて,MRI検査とHDS-Rをやって異常なしでもいいのだけれど,心配なのは痴呆を治す薬があると思っているらしいことである.どうも新聞には痴呆が治ると言うように書いてあったらしい.現在のところ痴呆を改善する薬は知られていない.

 このニュースも「発症を遅らせることができそう」ということで治すとか改善するというのではないだろう.そこに「治療薬開発に役立つのではないか」と書かれているのは希望的予想であってこれが本当に治療薬になるかどうかはまだわからないのである.

 一般の人が読むマスコミの医療ニュースには医師が読むと意味がわからないことが書かれていることがよくある.特に問題なのはこういった薬効や副作用に関する過大もしくは間違った解説や医療事故などでの事実の不正確な記述である.これも一種の医師たたきなのかもしれないが,いいかげんな記事で医師の仕事を増やすのはやめて欲しい.

 例によってマスコミはたとえ間違って報道してもめったなことでは訂正したり謝罪はしないだろうし世間を騒がせた責任もとらないのだろうから,せめて医療情報を記事にするときにもっとよく考えて正確な事実を科学的な解説のもとに記載して欲しいものだと思う.


『--NCP Cardiovascular Medicine 2005年10月号 Vol.2 No.10

ビタミンEは心血管イベントと癌を予防できるか --

原論文
The HOPE and HOPE-TOO trial investigators (2005) Effects of long-term vitamin E supplementation on cardiovascular events and cancer. JAMA 293: 1338-1347

PRACTICE POINT(診断のポイント)
確立した冠動脈疾患、末梢血管疾患、脳卒中の既往、または糖尿病を有する患者に対し、ビタミンEを投与すべきではない。

BACKGROUND(背景)
心血管イベントおよび癌の予防と、ビタミンEとの関連は、実験動物や疫学的データで示されているにもかかわらず、臨床試験では現在までのところ明らかにされていない。エビデンスが不足しているのは、試験期間の相対的な短さに原因があるかもしれない。

OBJECTIVE(目的)
心血管イベント、癌、および癌関連死亡と、長期間のビタミンE摂取との関連を調査すること。

DESIGN & INTERVENTION(デザインと介入)
国際二重盲検試験Heart Outcomes Prevention Evaluation(HOPE)試験の対象は、脳卒中の病歴、冠血管疾患か末梢血管疾患の既往、または1つ以上の心血管危険因子を伴う糖尿病を有する55歳以上の患者であった。除外基準は、過去4週間の心不全、管理されていない高血圧、心筋梗塞、脳卒中、および過去または現在継続中のビタミンE摂取あるいはアンギオテンシン変換酵素阻害薬使用であった。適格患者をビタミンE 400IU毎日投与群またはプラセボ群のいずれかに、またramipril10mg投与群またはプラセボ群のいずれかに無作為に割り付けた。実施施設が継続参加を決定した場合、試験期間を延長し、同意の得られた患者に対して2003年5月まで、ビタミンE 400IUまたはプラセボの毎日投与を継続した。これがHOPE-The Ongoing Outcomes(HOPE-TOO)試験である。解析はすべてintention to treatによって行った。

OUTCOME MEASURES(評価項目)
一次評価項目は、癌、癌関連死亡、および脳卒中・心筋梗塞・心血管関連死亡の複合とした。心血管疾患の副次的評価項目は、心不全、入院を要する不安定狭心症、うっ血の臨床症状を伴う入院を要する心不全、および全死因死亡などとした。

RESULTS(結果)
最初のHOPE試験の参加患者は9,541例であったが、このうち4,761例をビタミンE群に、4,780例をプラセボ群に割り付けた。このうち7,030例がHOPE-TOO延長試験の参加に同意し、3,520例にビタミンE投与を、3,510例にプラセボ投与を継続した。最初のHOPE試験と延長試験において、癌と癌関連死亡の発生率は両投与群間で有意差はなかった。主要心血管イベントの発生数はビタミンE摂取の影響を受けず、HOPEではビタミンE群の1,022件に対してプラセボ群985件(P=0.34)、HOPE-TOOではビタミンE群の807件に対してプラセボ群769件であった(P=0.31)。さらに脳卒中、心筋梗塞、心血管関連死亡、入院を要する不安定狭心症、血行再建術、および全死因死亡の個別の発生率に関して有意差はなかった。しかしHOPEとHOPE-TOOの双方において、心不全と心不全による入院の発生率は、ビタミンE投与患者のほうがプラセボ投与患者より高かった(心不全の相対リスクは、HOPEでは1.13、95%CI 1.01〜1.26、P=0.03、HOPE-TOOでは1.19、95%CI 1.05〜1.35、P=0.007)。

CONCLUSION(結論)
血管疾患患者と糖尿病患者にビタミンEを長期投与しても、主要な心血管イベント、癌、および癌関連死亡の発生率は低下しなかった。とくにビタミンEは心不全と心不全による入院の発生数を増加させ、さらなる調査の必要性が浮き彫りになった。

COMMENTARY(解説)
Julian D Widder and David G Harrison*
基礎研究によると、酸化的傷害はアテローム性動脈硬化症をもたらすあらゆるイベントを助長し、また高血圧症、心筋梗塞、心不全の一因にもなっている1。培養細胞や実験動物を用いたこれまでの試験から、抗酸化ビタミンはヒトにおける心血管疾患を減少させるという仮定は妥当であると考えられていた。残念ながら、最初のHOPE試験、Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell’Infarto Miocardico(GISSI)Prevenzione試験、また近ごろのHeart Protection Studyなどの最近行われたいくつかの臨床試験では、共通して用いられた抗酸化物質の効果を示すことはできなかった。そして今度は、HOPE-TOO試験の驚くべき予想外の結果が明らかになった。すなわち、ビタミンEは、実は心不全の発生数を増加させたのである。ビタミンEが有害である可能性が示唆されたのはこれが最初ではない。19の臨床試験について最近行われたメタアナリシスによると、ビタミンEの1日量が少ない場合は(400IU未満)効果は不明であったが、1日量が多ければ(400IU超)死亡率が上昇した。

臨床試験において、ビタミンEが心血管疾患の予防に効果がない理由は容易に想像できる。たとえば、ビタミンEは病原性を有するラジカルを捕捉しない、酸化ストレスは疾患に関与しない、ビタミンEの投与量が間違っていた、などが考えられる。しかし、なぜビタミンEによって患者の転帰は悪化するのであろうか。これについては推測する以外にないが、ビタミンEの化学的特性の一部を考慮することが役立つであろう。ラジカルとビタミンEの反応によりビタミンEラジカル(tocopheroxyl radical)が形成されるが、これは酸化促進効果をもちうる3。ビタミンEラジカルはビタミンCのような共抗酸化物質(coantioxidant)によってトコフェロールにリサイクルされる。しかし、この過程の有効性はin vivo下ではまだ証明されておらず、ラジカルの産生が抑制されない場合は、せいぜい内在性のビタミンCや他の抗酸化物質が消費されるだけであろう。さらに、一部の活性酸素種は有益なシグナル特性をもっており、ビタミンEがこれらを取り除くことで体に害がもたらされる可能性がある。

合成型ビタミンEと天然型ビタミンEの利益の比較に関して論争がある。この論争の中心には、天然型ビタミンEは有益であるのに対し、合成型ビタミンEは有害かもしれないという前提がある。HOPE-TOO試験では天然源由来のビタミンEが用いられたが、それでもなお有害作用がみられた。これは天然型でさえ有益ではないことを示唆する。これに関連して、αトコフェロールの問題もある。αトコフェロールは臨床試験でしばしば用いられ、天然由来のビタミンEの主流を成しているが、これを投与すると組織からγトコフェロールが排除される。γトコフェロールは、酸化的傷害において重要な役割を演じるペルオキシ亜硝酸イオンの捕捉にとくに有効であるため、γトコフェロールの排除は問題である。

驚くべきHOPE-TOOの結果に対してどのような解釈をしようとも、重要な結論は変わらない。すなわち、ビタミンEは、確立した冠動脈疾患、末梢血管疾患、脳卒中の既往、または糖尿病を有する患者への適応はなく、これらの患者に投与すべきではない。総合ビタミン剤にわずかに含まれる場合(おそらく1日50IU未満)を除き、これらの患者にはビタミンEを摂取するのをやめさせるべきである。一般集団におけるビタミンEの利用については、その有効性はまだ証明されておらず、慎重な研究が必要である。 Copyright Nature Publishing Group 2005. All Rights Reserved. 』

ビタミンEについては2004年11月12日の日記に書いた.当時の日記を参照されたい.

脳外科医としては冠動脈疾患、末梢血管疾患、脳卒中の既往、または糖尿病を有する患者へのビタミンE投与はもう中止するべきだと思う.
また,国内での健康食品やサプリメントについても注意や規制が必要なのではないだろうか.厚生労働省はこの件にどういう対応をするのか注意してみる必要もあるだろう.
『--5000億円規模の削減を 社会保障費の自然増圧縮 財務省、医療費抑制迫る--

 財務省は24日、来年度予算で社会保障関係費の8000億円の自然増を5000億円規模で圧縮する方針を明らかにした。8月の概算要求基準(シーリング)では、自然増の圧縮幅を2200億円とすることで閣議了解していたが、削減幅を大幅に拡大する。

 谷垣禎一財務相は同日、政府・与党医療改革協議会で「医療制度改革と診療報酬の引き下げで、医療費の相当大胆な切り込みが必要だ」と述べ、医療費の厳しい抑制が必要との考えを表明した。

 さらに財務相は「首相から指示のあったように新規国債発行を30兆円に近づけるためには、歳入だけでなく、歳出も削減し、社会保障や地方交付税の相当な切り込みが必要」と説明した。

 財務相は協議会で、70歳以上の高齢者の自己負担の引き上げや、外来診療1回ごとにかかった医療費のうち500円を自己負担とする保険免責制の導入などの実現を強く求めた。』

 医師というものは「命より大切なものはない」という言葉を半分信用していないが,残り半分を守るために働いているようなものではないだろうか.どの程度に生命を大切と考えるかは医師の個人差があるであろうが,臨床医を長くやっていていろんな患者や家族を経験すればこの言葉を100%信じてやっていくことのできる医師はほとんどいないだろう.

 しかし,このような社会保障関係費削減の議論を聞くと,ただお金がないというだけでそこには金額以外は自分たちには関係ないという無責任な姿勢が垣間見える.どうやら,今の政府には「命より大切なものはない」という倫理はすでに無いものと思われる.これに患者の個人負担が増えると選挙の時に困る国会議員と医師たたきをしたいマスコミが相乗りすると診療報酬を減らせという話になるのだろうか.

 だが,厚生労働省の病院ベッドの削減もあり公立病院は言うにおよばず病院はどこも経営上非常に厳しい状態である.だからベッドも満床で回転も速くしなければならない.要するに余裕がない状態なのである.地方では医師の数も少ない.さて,ここに災害や鳥インフルエンザなどの感染症の流行が起きるとどうなるのであろうか.

 特に鳥インフルエンザに関するタミフルの備蓄や感染流行時の対策についてはすでに国と地方自治体そして医療機関の連携はまったくなっていないようである.こんなことで国民の健康はだれが守るのであろうか.もし例によって何の策もなく現場だけが頑張ることを期待しているのであれば国民の生命という大きな代償を払うことになるのではないだろうか.

 
『--検査怠りがんで死亡 日赤と医師に賠償命令--

 肝硬変を患っていた北海道北見市の男性=当時(67)=が肝がんで死亡したのは日本赤十字社(東京)が開設する病院の医師が検査を怠り、がんの発見が遅れたためだとして、妻子が計約6400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、札幌地裁は18日、日赤と医師に計約3600万円を支払うよう命じた。

 判決理由で笠井勝彦(かさい・かつひこ)裁判長は「肝がん発症の可能性が高い肝硬変を患っていたにもかかわらず、がんを早期発見するための検査をしなかった」と医師の注意義務違反を認定。日赤の使用者責任も認めた。

 病院側は「検査を勧めたが断られた」と主張したが、笠井裁判長は「患者から断られた場合、検査の重要性を十分説明すべきだ。1度断られたことが検査を怠ったことを正当化するものではない」と退けた。

 判決によると、男性は1990年8月、北見赤十字病院(北海道北見市)の内科を受診し、肝硬変と診断され、毎月1回通院していた。医師は2カ月に1度は腫瘍(しゅよう)マーカーの検査をしなければならなかったが、98年12月の検査後、約7カ月間検査しなかった。この間に数値が増加し肝がんの兆候が出ていたのに早期に発見できず、男性は2000年1月に死亡した。

 北見赤十字病院は「判決を踏まえ、今後の対応を検討したい」としている。』

 「外来で2ヶ月に1度は腫瘍マーカーの検査をしなければならない.」なんて言うのがレセプトの監査を通るのかどうかは内科医ではない私にはわからない.2ヶ月毎に検査していれば肝がんが発見できて,しかも延命できたかどうかもわからない.医療の結果に仮定の話を持ち込むなんて無意味だと思う.

 しかし,外来で投薬中の患者が採血を嫌がることはよくあることだ.薬の副作用のチェックのために必要性を説明しても聞き入れない変わり者も現実に存在する.この判決はこれら変わり者の患者の家族にとってはいい話だろう.

 医師の立場で考えれば,結局は検査をしなかったことが悪いということで,たとえ検査を執拗に勧めて患者と険悪な状態になったとしても医師の責任は逃れられないということをこの裁判官が言っているように聞こえることだろう.それとも患者が外来に来るたびに検査を勧めて拒否されたということをカルテに記載すれば責任を問わないとでも言うのだろうか.

 いずれにしてもこの記事を読んだ多くの医師は自己防衛ための検査とカルテ記載に今より多くの時間を必要とし,外来での各種検査の頻度は増大し,ひいては医療コストのさらなる増大を招くだろう.とは言っても社会保険庁は医療費削減のため外来での検査を抑制すべく査定をしているわけで頻回の検査はきびしく査定する.査定されれば検査代は病院がかぶることになる.どうやら査定と訴訟の狭間での自己防衛が求められる時代になったようである.
『--医師確保対策を要望 自治体病院危機で大会--

 市立病院など自治体が設置、運営する病院の関係者による「自治体病院危機突破全国大会」が17日、東京都内で開かれ、過疎地や離島など医師不足に悩む地域の病院で医師を確保する対策を国に求める決議をした。

 大会では、(1)大学医学部の入学定員で地元出身者を優先する「地域枠」の拡大働き掛け(2)小児科や産科の医師不足など診療科別の偏りの改善(3)看護師など医療従事者の地域的な偏りの解消-などを国に要望することを決定。終了後、厚生労働、総務など4省と与党に要望書を提出した。

 全国自治体病院開設者協議会(会長・増田寛也(ますだ・ひろや)岩手県知事)や全国知事会など9団体の主催で、自治体の首長や議員ら約300人が参加した。

 現状報告をした全国自治体病院協議会の小山田恵(こやまだ・けい)会長(岩手県立病院名誉院長)は「自治体病院は医師不足と経営難が大きな課題になっている。医師の偏りは、都道府県間だけでなく県内の地域間にもあり、対策が必要」と指摘した。』

 「自治体病院は医師不足と経営難が大きな課題になっている」なんて言ってますが,問題の本質は経営難だけである.採算のとれない病院をつくったり,必要以上の人件費を事務員のために使うから採算がとれないというのが一番の理由である.採算が取れないから医師や看護師の給与も事務員と一律に減らすというのでは定年退職まで働かない派遣医師やもともと流動性の高い看護師が居つくはずはない.

 給与のことを除いても都市部と比較して過疎地や離島など医師不足に悩む地域の病院で働くことに何かメリットがなければ最近の若い医師はそんなところに行ったりするはずがないのは明らかである.診療科の医師数の動向を見ても拘束時間が長く,診療報酬上のメリットの低そうな科はみごとに避けられているのがわかる.

 これを医師の質の低下と言う事もできただろう.医師は生命倫理に敏感で人格的に優れているべきであると期待され,社会的にも尊敬されている時代ならそうだろう.しかし,現在では地方都市の自治体病院で診療しても住民の信頼だとか地域の期待などというものを特別感じることは非常に少なくなった.むしろ,地方にいるが故に「都会の病院に紹介しろ」だの「こんなところで治療できるんですか」だの言われ続ければさっさと辞めたくなるだろう.

 ついでに言うと,地方自治体病院の職員は出張医などなんとも思っていない.なにか問題があってもまた次が大学から派遣されてくると思っているのだろう.だから,非常に待遇が悪いというかはっきり言って態度が悪い.それに比べて定年まで働く医師にはぺこぺこするのである.こんな地方の病院を2,3箇所まわればもう地方巡りはたくさんだと思う若手医師が大量生産される.地元出身者を優先する「地域枠」を拡大しても大学の偏差値が下がるだけで卒業後は地方出身の医師はむしろ都会に住みたがる傾向があることも知らないのだろうか.

 もともと潜在的に地方勤務を希望する医師などいなかったのだが,名義貸し問題から医局による医師派遣が問題となり,医局の求心力が弱まった(というか医局という言葉も死語になりつつある)ことで地方に行けといわれたら「医局辞めます」と言いやすくなったのである.マスコミが医師派遣や医療事故で必要以上に騒いでくれたおかげで派遣される医師も人道的配慮という殻を脱ぎ捨てるのが容易になったのではないだろうか.

 今,マスコミがやっている医師たたきのキャンペーンは「医師の給与は高すぎる」なのだろうが,医療レベルは医師の所得に比例して(もしかしたらそれ以上に)下がることは予想していないのだろうか.この国の政治とマスコミがGDP比で先進国中最低レベルの医療費をさらに削減するために医師の給与を下げ,先進国中最高レベルの医療がそれなりのレベルに下がるのだったら仕方がないということでいいのだろうか.
『--医師数、27万人超える 医療施設で女性4万人突破 診療所の平均年齢58歳--

 2004年末時点の医師の数は02年より7684人(2・9%)増え、27万371人だったことが17日、2年ごとに実施している厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」で分かった。

 病院と診療所(19床以下)で働く医師は25万6668人。このうち女性は初めて4万人を突破して4万2040人で、全体の16・4%、29歳以下では35・3%を占め、女性の進出が目立つ。

 診療所の医師の平均年齢は、病院の医師に比べて16歳高い58歳。地域別では西日本の方が医師の密度が高い〓西高東低〓の傾向が続いている。

 04年末現在の届け出によると、全国の人口10万人当たりの医師数は211.7人。病院と診療所で働く医師数でみると全国平均は201人で、初めて200人の大台に乗った。都道府県別では、東京が264.2人でトップだったが、2-5位には、262.4人の徳島をはじめ、高知、京都、鳥取が入り、西日本が占めた。最も少なかったのが埼玉の129.4人で、茨城、千葉、青森と東日本が続いた。

 平均年齢は47.8歳。病院の医師の42.1歳に対し、診療所は58歳だった。診療科別にみると、診療所の婦人科、外科、性病科、産婦人科が60歳を超えた。病院の眼科、形成外科、美容外科、皮膚科、耳鼻咽喉(いんこう)科は30代と若い。』

『--医師数増加でも産婦人科、外科医など減少 厚労省調査--

 全国で医師数が増え続ける一方、産婦人科医や外科医、内科医は減少している――。厚生労働省が17日発表した04年医師・歯科医師・薬剤師調査でこんな傾向が明らかになった。地域別では全国的な増加傾向のなかで、青森、山梨の2県では人口10万人当たりの医師数が減少。特定の診療科や地域で医師が不足している「医師の偏在」を改めて浮き彫りにしている。

 調査によると、全国の医師数は27万371人で、前回調査の02年に比べ7684人の増。実際に医療施設で働いている人は25万6668人で、そのうち病院(20床以上)が16万3683人(平均年齢42.1歳)、診療所(19床以下)は9万2985人(同58.0歳)だった。

 診療科別にみると、循環器科や消化器科(胃腸科)は前回調査より7%程度増えているのに対し、産婦人科は4.3%(455人)、外科は2.6%(628人)、内科は1.4%(1034人)の減。一部地域で医師不足が指摘されている小児科は1.4%(196人)増えた。 』

 医師数全体は増加しているが,地域と診療科による偏在が進んでいるということらしい.私もすでにベテランと言われる年代ということになるのだろうが,それでも医師の平均年齢よりは若くまだまだ若いということで素直に喜ぶことにしよう.

 病院の眼科、形成外科、美容外科、皮膚科、耳鼻咽喉(いんこう)科は30代と若いのは少ない経験年数で開業することが可能だからなのだろう.最近の医学生がこれらの科にいきたがる理由もわかる.要するにリスクが少なく,早く開業できて高収入であるからである.お金が欲しくて医師になるものには好都合というわけであろう.

 外科医(脳外科医も)が少なくなっているのも実感としてわかるような気がする.医療事故のこともあるし,リスクに比べて技術料が低く内科系に比べ評価が低いことがやりがいの無さにつながっているのだろう.内科出身の院長にコストでいろいろ言われたあげくに,夜中に多発外傷などの救急患者で血みどろになりながら朝まで緊急手術をやっているのが外科なのである.

 結局,自己犠牲の精神で時間外まで一生懸命やっても診療科に関係なく病院での給料は同じなのである.最近の医学生はそういうことを十分知っているから眼科や皮膚科を希望するものが多いのは当然だろう.産婦人科や小児科の診療報酬は多少は改善されたようだが,このままでは外科医も同じ運命をたどると思うのは私だけであろうか.
『--保険料率に1・1ポイントの差 政管健保、都道府県別試算 --

 中小企業のサラリーマンらが加入する政府管掌健康保険(政管健保)の保険料率(基準となる給与などに対する比率)が2008年10月から、全国一律から都道府県別に切り替わることに伴って生じる都道府県別の保険料率の試算が15日、明らかになった。最も高い北海道の8・7%(労使折半)と最も低い長野県の7・6%の間では1・1ポイントの差が生じることになる。

 2003年度のデータを基に都道府県別の医療費を加入者の所得で割るなどして算出。医療費が多く所得が低ければ料率が高くなる。西日本で高く関東などで低くなった。厚労省は16日、自民党などに示す。

 社会保険庁改革で、政管健保の運営主体を08年10月に社保庁から全国単位の公法人に移管、財政単位を都道府県とする方針が決まっており、これに伴い保険料率も都道府県で違ってくる。今回の試算はあくまで目安だが、地域間の格差が生じるのは確実とみられる。

 保険料率は高い順に、北海道、徳島(8・6%)、福岡、佐賀(ともに8・4%)。四国、九州では多くの県で、現在の全国一律の保険料率(8・2%)を上回る。

 低い順には、長野県(7・6%)茨城、群馬、埼玉、千葉、沖縄(いずれも7・8%)。』

『--低収入高齢者ほど健康不良 格差拡大で中低所得影響も--
【2005年11月14日】

 「年収が低いお年寄りほど健康状態は悪い」。高齢者を対象に経済状態と健康の関連を調べた日本福祉大学の調査で、こんな結果が出た。経済的な厳しさが健康悪化につながるとの見方を裏付ける内容。調査した近藤克則(こんどう・かつのり)教授は「経済格差の拡大は中低所得層の国民に悪影響を及ぼす。政府は『健康格差社会』であることを認め、総合的な対策を講じるべきだ」と指摘している。

 調査は2003年度、中部、四国地方の3県、15自治体に住む65歳以上を対象に実施、約3万3000人から回答を得た。

 「健康状態」を聞いたところ、全体では「よい」が70%、「よくない」は30%だった。

 これを年収別にみると、「よくない」は400万円以上では男女ともに21%だが、年収が下がるにつれ割合が増え、100万円未満では、男は40%と400万円以上の倍、女は35%に増えた。

 「うつ傾向がある」と判定された人の割合は、年収400万円以上では男が2%、女は4%にとどまったのに対し、100万円未満では男16%、女15%に急増した。』

『--収入低いと不健康感増大 中高年、ストレスが原因か--
【2005年10月3日】

 中高年で自分が不健康と感じている人の割合は、高収入層より低収入層で高く、中でも都市部の男性では2倍以上の差があるとの調査結果を、群馬産業保健推進センターや群馬大学医学部のグループが3日までにまとめ、日本疫学会誌に発表した。

 農村部では収入による差はなく、同センターの鈴木庄亮(すずき・しょうすけ)所長は「都市部では年収が低い人の労働条件は悪く精神的なストレスも多いためだろう」と分析。

 同グループの別の研究では、不健康感が強い人はその後の死亡率が5-6倍高いことが分かっており「低所得者が安定した職業に就けるよう、行政や地域で支援することが国民全体の健康増進につながる」としている。

 2000年に群馬県内の40-70代の男女計9600人余りを調査。健康状態が「まあまあ」「悪い」と答えた「不健康感ありの人」(46%)と、収入や生活習慣との関係を解析した。

 世帯年収別に「不健康感あり」の人の割合を調べたところ、1000万円以上を1とした場合、300万円未満の男性では1.74、女性では1.56に上った。中でも都市部の男性は2.22と顕著な一方、農村部では男女とも収入でほとんど差がなかった。鈴木所長は「都市部では農村部より地域の人間関係が希薄で、ストレスも大きいのではないか」としている。

 学歴や飲酒、睡眠時間と健康感の関係は、男女ともみられなかった。しかし「普段悩みを聞いてくれる人」や「食事を作ってくれる人」がいない人では、いる人よりも不健康感ありが多かった。』

 こう並べてみると関西および北海道の地方都市で医療環境は悪化することが予想される.生活保護も地方は不利になるようだから健康に不安がある人は今のうちに東京へ移住するのがいいかも知れない.もっとも低賃金でこき使われる東京の医師がいい医療を提供してくれるとは限らないが...
『--タミフルのみ異常行動死 岐阜と愛知の少年2人 インフルエンザ治療薬--

 インフルエンザ治療薬タミフル(成分名リン酸オセルタミビル)をのんだ岐阜県と愛知県の患者の少年2人が、直後に異常な行動を取り死亡していたことが12日分かった。1人は昨年2月、トラックに飛び込み、もう1人は今年2月にマンション9階から転落した。

 昨年2月の事例の後に輸入販売元の中外製薬から報告を受けた厚生労働省は「薬との因果関係が否定できない異常行動による死亡例の報告は初めて」としている。

 タミフルの添付文書には重大な副作用として、意識障害、異常行動、幻覚などの精神・神経症状があらわれることがあると記載されている。新型インフルエンザ対策で国がタミフル備蓄の大幅増量を決めた直後だけに、同省は、あらためて注意喚起するかどうか検討している。

 中外製薬や、遺族から相談を受けたNPO法人医薬ビジランスセンター(大阪市)の浜六郎(はま・ろくろう)医師によると、昨年2月、インフルエンザと診断された岐阜県内の17歳の男子高校生は、タミフルを1カプセルのんだ後、パジャマ姿で自宅を出て、ガードレールを乗り越え車道に飛び出した。今年2月には愛知県内の14歳の男子中学生が、服用後にマンション9階の自宅から転落死した。

 このほか、10代女性が窓から飛び降りようとした例もあり、厚労省は昨年6月「医薬品・医療用具等安全性情報」で注意を呼び掛けた。医薬品医療機器総合機構によると、2000-2004年度に64例の精神障害が報告されている。

 タミフルは出現への危機感が世界的に高まっている新型インフルエンザでも効果が期待され、厚労省は備蓄目標を従来の1.7倍の2億5000万カプセル(2500万人分)に増やすとしている。』

 鳥インフルエンザがヒトに感染したら日本では数十万人の死者で出るとかで備蓄が進んでいるようだ.このニュースの異常行動が本当に副作用だとすると今後も一定の割合で発生するのだろうから恐い話である.これならまだ吐気や肝機能障害の方がましである.

 話は変わるが,先日外来に以前から通院している80台後半の女性が来た.最近物忘れが多くなったと言う.転倒による慢性硬膜下出血がそろそろ増えてくるシーズンではあるが,転倒の既往も頭痛も歩行障害も痴呆もないので心配しなくてもいいよと帰した.が,その後に息子の嫁とかいう60代の女性が検査してもらえないんですかと診察室に入ってきた.さらに話を聞いていると新聞やテレビで痴呆を予防するいい薬があるそうだから出してくれと言う.あんまりしつこいのでMRI検査も長谷川式簡易痴呆評価もやってあげました.MRIを見て納得したんでしょうか.

 いったいいつから病院はこんなになったのだろう.医者の言うことより新聞やテレビのほうが信用できるらしい.目の前にいる医者が信じられないなら検査結果の説明だってするだけ無駄だろう.痴呆のない(HDS−R29点!)義母に痴呆の薬を飲ませろという嫁.言うまでもなく頭がおかしいのは嫁のほうである.まあ,最近はこういう人も珍しくはないのですが疲れるね.
『--医療費抑制、経済指標との連動見送り 政府・与党--

 06年度から実施する医療制度改革の焦点である医療費抑制の政策目標について、政府・与党は、経済指標とは連動させず、個別の抑制策を積み上げて全体の目標を設定する方針を固めた。経済指標との連動は経済財政諮問会議などが主張してきたが、政府・与党内にも異論が強く、見送られることになった。今後の攻防は目標数値そのものと、具体的な抑制策に移る。特に医療機関に支払われる診療報酬の引き下げ幅が最大の焦点となりそうだ。

 政府が6月の「骨太の方針」に医療費適正化に向けた政策目標の設定を盛り込んだのを受け、諮問会議の民間議員は、医療費を国内総生産(GDP)の伸び率などマクロ経済指標に連動させるよう提案。経済成長の範囲に抑えることを求めた。

 これに対し厚生労働省は10月に公表した改革試案で、患者負担増や生活習慣病対策などの様々な施策の「積み上げ」による抑制を提案。政府・与党医療改革協議会でも「医療費の伸びは経済に関連するわけではない」と反論が出ていた。

 こうした経緯を踏まえ民間議員側も、経済指標との連動にこだわらず、積み上げによる目標を容認する方針に転換した。ただ、厚労省案では2010年度の医療費を0.5兆円程度しか抑制できないとして、諮問会議が求める4.6兆円の抑制に近づけるよう迫り、数値目標で「実」をとりたい考え。14日の諮問会議でこうした方針を示す。

 一方、医療費の伸びが目標を超えた場合の扱いについては、総額管理的な抑制の仕組みを採り入れるか、政策的な目標にとどめるかを巡って意見が分かれており、調整が続いている。

 抑制の具体策については、政府・与党内でも患者負担増に慎重な声が強い。一定額以下は保険対象から外す「保険免責制度」にも否定的な意見が大勢で、見送りの公算が大きい。与党内には「患者負担増ではなく診療報酬引き下げで対応すればいい」という声が強く、診療報酬の引き下げ幅に注目が集まっている。 』

 「患者負担増ではなく診療報酬引き下げで対応すればいい」ということは医療費増大のしわ寄せは医師に引き受けさせるということを意味している.ただでさえ人手不足なのにさらに患者が増えおまけに診療単価は下がるということである.

 人助けと人間の理解という純粋な興味から医師になったつもりであったが,これなら裁判官か弁護士にしておけば...いや高級官僚になったり三菱銀行に入社した同級生はやはり賢かったのかなあと羨むつもりはないが,医師という職業もやり甲斐がなくなった感じがする.

 医は算術といっても最近はお金の事だけでなく医療事故に遭遇する確率まで考えながら仕事をしなければいけないのだ.安全に安定した収入を得ようと考えればたとえ患者のためにはならないとは思っても危険なことは避ける医師が出ても不思議ではないし,自分の実力と相談して他に患者を紹介する医師を避難する気にはなれない.自分だっていつ地雷を踏むかわからないのだから.

 命は最も尊いといいながら命に値段をつけるのが医療であるのだが,それを値切ればどういうことになるのか.日本が世界に誇る長寿国になったのはなぜだったのかは日本国民が身をもって知ることになるのであろう.まあ.これも一種の患者負担増ということにならなければいいのだが...

 
 
『--「病院のサロン化」排除 過剰外来診療で厚労省方針--

 厚生労働省は10日、来年度の診療報酬改定に向け、「病院がサロン化している」と指摘される要因となっている過剰な外来診療を減らし、医療費の無駄遣いを排除するとした基本方針のたたき台を、社会保障審議会医療保険部会に示した。年内に基本方針を取りまとめ、中央社会保険医療協議会(中医協)が年明けから個別の診療行為の診療報酬を検討する際の指針とする。

 現行制度では、外来診療の回数については、回数制限が定められているものを除き、個別の症例ごとに判断することになっている。しかし、明確な基準がないため「必要がないのに話し相手を求めて血圧だけ測りに行く人がいる」など、不必要な通院を指摘する声があり、こうした診療を抑制できるような評価方法を検討する。

 また、コンタクトレンズ販売店に併設されている眼科で、眼科の専門医でない医師などが必要のない検査を行い、診療報酬を請求するなど不適切な事例が指摘されていることから、こうした請求の排除も検討対象とする。

 さらに、乳がんで失った乳房の再生など、必ずしも必要ではなく患者の選択による医療については、保険診療と自由診療を併用する混合診療の仕組みを積極的に活用し、公的医療保険の給付費は必要な医療に集中させることも提案している。』

 必ずしも必要ではないことにお金をかけることを贅沢という.日本の医療はそういう意味では非常に贅沢な医療だと思う.

 さすがに「必要がないのに話し相手を求めて血圧だけ測りに行く人」などというのは診たことがないが,外来でもこんなので病院にかかる必要があるのかという患者が実際には多い.それでも検査しないと不満顔だし,検査しないで万が一他の病院で異常が見つかっても困るからとせっせと検査することになる.

 手術も未破裂動脈瘤のように予防的治療は破裂するかしないかわからないわけだから全例手術すれば経済効率が悪いのは当たり前である.本来は医療は経済効率を追及するものではないとは思うが,現在の政府の医療改革や社会保障予算の見直しというのは国の財政負担を減らすという一点張りなことは明らかである.

 厚生労働省の医療費の増大の見積もりも過大評価という意見もあり,どうも財政難の解決のために医療費増大による財政破綻という題目で危機感を煽っているような気がする.そして,診療報酬の切り下げや患者の負担増,身体障害者福祉や生活保護といった社会保障全体の低下を国民に納得させるために医師の給与や医療事故など医師や病院のバッシングに作用する報道が利用されているようにも思われる.

 マスコミはまったく無責任なもので報道につられて騒ぎが起きることが利益につながるのか,無責任な報道が引き起こす社会の混乱になど注意を払っているとは思えない.報道が誤っていたからといって謝罪文を載せることすらまれであることがそれを示している.幸いインターネットの普及によって問題意識を持てばネットで情報を探せる時代になった.若い世代の医師は医療も情報戦になっていることをすでに理解している.大学病院に研修医が行かなくなったことがいい例だろう.

 本題に戻るが,「必ずしも必要でない医療」などというものがあるならそれは民間の保険にまかせて健康保険からはさっさと切り離すのがいいだろう.国民健康保険制度そのものが市場原理を妨げているのだから,自由診療にすることによって治療費は適正なものになることだろう.それがつまりは民営化である.

 そして医療福祉行政全般にわたって税金の無駄使いをなくす最良の方法は厚生労働省の民営化だと思うのだがどうだろうか.

 
『--3-5%引き下げ必要 財政審、診療報酬本体で 「医師の給与水準高い」--

 財政制度等審議会は4日、財政制度分科会合同部会を開き、医療など社会保障分野の歳出削減策を議論した。西室泰三分科会長(東京証券取引所会長)は記者会見で、医師の治療行為への対価である診療報酬の本体部分を3-5%程度引き下げる必要があるとの認識を示した。財政審は11月中旬にまとめる建議(意見書)で、診療報酬の大幅引き下げを明記する方針だ。

 「医師の平均給与が高い水準」(西室会長)にあることに加え、近年のデフレで公務員や民間企業の賃金水準が下がる中、「医師の給与水準が維持されている」(同)ことに批判があるためだ。

 日本医師会は引き上げを求めており、来年4月に改定する診療報酬をめぐり日本医師会が強く反発するのは必至。予算編成での激しい攻防が予想される。

 診療報酬は税金と保険料で8割以上が賄われており「医師は実質公務員」(財務省幹部)との指摘がある。公務員給与と物価は1999年度から7年間で平均約5%下がる一方、診療報酬本体は0・6%上昇しており、「5%以上の格差があり、是正すべきだ」(財務省)としている。

 診療報酬の薬価部分の引き下げも含め、仮に診療報酬が5%下がれば医療費全体で年間1兆5500億円、国、地方の負担がそれぞれ3750億円、1500億円抑制できる計算だ。2004年度改定では、診療報酬のうち薬価部分は引き下げられたが、本体部分は据え置きになった。

 また医療費の伸びを経済指標などに連動させて抑制する総額管理について、西室会長は「期間5年の中期計画を作り、1年ごとに目標を定める必要がある」と語った。』

 「医師は実質公務員」とは勝手な言い方だ.それなら健康保険はすべて廃止して自由診療にしたらどうだ.米国はすでにそうである.日本では生活保護や身体障害者手帳の対象者だけを税金で診るようにしてもらったほうが真面目に健康保険料を払っている私としてはありがたい.

 そもそも自分の健康は自分で守るという立場で言わせてもらえば,保険料は自分で払った分で自分が病院にかかれるのが本当である.国民皆保険を堅持しようとするあまり一律に負担増にしたり,診療報酬をカットするなどは論外である.自動車保険だって事故に遭わなければ割引されるものであるし,診療にかかるコストが払えないなら診療の質を下げろと言うのが資本主義だろう.診療の質を維持してコストだけ下げろとは無茶な話である.

 それに診療報酬という言い方も聞こえが悪い.この制度は病院でかかったお金の一部を健康保険にしたがって患者に代わって支払うというものであり決して医師への直接報酬などではない.要するに診療費の払い戻しを患者にかわって病院が健康保険組合に請求しているだけである.しかし,その払い戻しのレートも国が勝手に決めているのである.だから別に医師が税金で払ってくれと言っているわけではなく,国民皆保険制のために国が強制しているのである.

 先日も書いたとおり普通の勤務医の給与は決して高くないし,他業種と比較するのも間違いである.そもそも患者あたりの医師数では名義貸しなどでさんざん騒がれたが,一方で過労死など医師の労働時間の規制は同じ厚生労働省なのにまったくといっていいほど真面目に取り組んでくれてはいないのである.医師は公務員より低い時給で働いて過労死したり医療事故に巻き込まれてもいいとでもいうのだろうか.

 つまり,そこだけは医師の良心に期待しておきながら,今度はただでさえ少ない労働時間あたりの給与を下げろと言っているようなものなのだ.おまけに働きたくなくとも患者の診療を拒否する自由もないわけだからこれで他業種と比較されたのではたまったものではない.

 公務員はボーナスや退職金や恩給といった制度があるが勤務医にはそんなものさえない場合も多いのである.そもそも医師を予算の水増し請求をしたり,税金の無駄遣いをしても誰も責任をとらない優遇された公務員と一緒にされるのは不愉快である.医師はレセプトの審査で常に監視されており診療報酬の水増しなどはできないし,不正請求は返還しなければならないのだから省庁の公務員よりはるかに良心的というべきだろう.

 健康にコストをかけたくないなら診療報酬を減らすのは結構だが,その結果何が起きてもそれは政府の責任だろう.まあ結局はお金のことしか頭にない西室泰三分科会長も財務省の公務員も責任は負わないのだから好き勝手なことがいえるのだろう.

経営効率

2005年11月3日 医療の問題
『--開業医黒字、月228万円 国公立病院は大幅赤字05年医療経済実態調査--

 厚生労働省が2日、中央社会保険医療協議会(中医協)に提出した医療経済実態調査(今年6月調査、速報値)によると、収入から経費を差し引いた1カ月の開業医の収支は228万円の黒字だった。民間病院が264万円の黒字、国公立病院は233万円の赤字だった。

 調査は医療機関の経営状況を調べ、公的保険から医療機関に支払われる診療報酬改定の基礎資料となるもので、次回の2006年度改定に反映される。将来の医療費抑制を強く求めている経済財政諮問会議の民間議員らは診療報酬水準は高すぎるとして、引き下げを要求しており、今後の医療制度改革議論に大きく影響しそうだ。

 収支の黒字は、ここから設備費用などに充てられることもあり、開業医の純益とは必ずしも一致しない。

 04年度の前回改定では医師の技術料など報酬本体は据え置き、薬価などが1%引き下げられたため、開業医(ベッド数19床以下の診療所含む)は、外来が減るなど収入は減ったものの、薬価引き下げで医薬品費も減少、黒字は前回の03年度調査と比べ0・9%増となった。

 民間病院は入院収入が13・1%増、外来が6・1%増などとなり、収入は10・9%増。延べ入院日数や患者数の増加が収入を押し上げたとみられる。一方、支出は医薬品費が5・5%増に抑えられたため10・6%増にとどまった。黒字額は、報酬本体が初の引き下げとなった02年度改定の影響を受けた03年度調査と比べ、81・1%増となった。

 一方、国公立病院は支出に占める給与費の割合が53・6%と民間病院より2・9ポイント高く、その他の経費も大きく増え、赤字は2.8倍に膨らんだ。

 診療報酬をめぐっては、経済財政諮問会議の民間議員や財務省が大幅な引き下げを主張。これに対し、日本医師会は「医療の質が落ちる」として、逆に3%程度の引き上げを求めている。』

 開業医や民間病院の収支が赤字では病院は潰れてしまう.だから黒字があたりまえ.病院の地域格差などを考えると多少黒字になるくらいの安全マージンがないと危ないだろう.

 それより問題は国公立病院の赤字である.「支出に占める給与費の割合が53・6%と民間病院より2・9ポイント高く、その他の経費も大きく増え、赤字は2.8倍に膨らんだ。」とあるが,医師の給与は開業医に比べると非常に低水準である.それなのに給与費や経費がかかるということは事務職員などの給与がかかりすぎと考えていいだろう.

 実際に国公立病院に勤務した医師ならわかると思うが,こういう病院にはたいした仕事もしないのに役職名のある事務員が多いのである.これは高給で仕事をしない公務員が多いことにほかならない.その一方で医師や看護師は不足しているのが実態である.すなわち,お金を稼ぐ人より無駄に使う人の方が多いのが国公立病院である.

 個人病院で「黒字額は、報酬本体が初の引き下げとなった02年度改定の影響を受けた03年度調査と比べ、81・1%増となった。」のは,報酬本体の引き下げによる危機感から増収策をとった結果であろう.減収を恐れるあまり増収に走るという過剰反応が引き起こした結果だろう.

 こう考えると病院が黒字だから診療報酬を減らすとどうなるかが見えてくるだろう.すなわち,国公立病院ではさらなる赤字の増大と医師の引き上げの加速.個人病院はさらに経営の効率化と収益率の増加である.この国の医療が崩壊したとしてもそれは医師や病院のせいではないと思うのだがどうだろうか.

 
『--厚労省の改革試案に批判 社保審医療保険部会で--

 社会保障審議会医療保険部会が27日開かれ、医療制度改革の厚生労働省試案について検討した。

 試案に盛り込まれた75歳以上の高齢者を対象にした新たな保険制度については、全国市長会国民健康保険対策特別委員長の河内山哲朗・山口県柳井市長が「保険者とされる市町村は国民健康保険事業で財政的に行き詰まっており、より安定的な都道府県や国などを運営者とすべきだ」と指摘した。

 2025年の医療給付を49兆円に抑制するとの厚労省の目標をめぐっては、井伊雅子一橋大教授や久保田泰雄連合副事務局長らが「財政的なつじつま合わせばかりで、国民の視点を考えていない」などと財政優先の姿勢を批判。

 日本医師会の松原謙二常任理事は「(生活習慣病予防などで)国民が健康的な生活を送るようになった結果、医療費が下がることが医療費抑制の本質であるべきだ」などとして、診療報酬の引き下げには反対する姿勢を明らかにした。

 一方、中長期的な抑制策の生活習慣病予防の推進や、情報技術(IT)を活用した電子診療報酬明細書(レセプト)など保険事務の効率化には、おおむね賛成の意見が示された。

 医療保険部会は11月中に4回開き、医療制度改革についての意見をまとめる予定。』

 問題点は高齢者が増えることでもないし,診療報酬が高すぎることでもない.生活習慣病の患者が今後増えることなのだろう.つまり予防医学を軽視してきたツケがまわってきただけなのである.責任はいったい誰にあるのであろうか.

 財政的な問題だけで診療報酬を下げるというのではまったくお話にならない.医師の仕事は以前にもましてリスクが大きくなっており危険手当が欲しいくらいである.AIDS,肝炎ウィルス,インフルエンザなどの感染症や医療事故による刑事や民事の訴訟など毎日が危険と隣り合わせの時代になった.

 それなのに診療報酬を下げるとはどういうことだろうか.医療のコストとは必要なだけかけるのが当然で,財政的理由でカットするなどおかしな話だ.国民皆保険制度もなんだかあやしくなってきた.このままでは国民の負担が増えても診療の質は保たれないような気がするのは私だけだろうか.
『--「産婦人科医を急募」 小池担当相が異例呼び掛け --

 小池百合子(こいけ・ゆりこ)沖縄北方担当相は25日の閣議後記者会見で、沖縄県の県立・公立病院で産婦人科医が不足しているとして「妊産婦の皆さんが不安を抱いている。全国からお医者さんを募集したい」と異例の呼び掛けを行った。

 沖縄県によると、県立北部病院(名護市)の産婦人科では、3人いた医師が退職したり派遣元の病院に戻るなどして今年4月から休診したまま。沖縄本島北部で出産する人は1時間近くかかる隣接地域へ搬送されるなどしており、ことし4-9月の救急車の搬送は44件に上る。

 また那覇、宮古、八重山病院、公立久米島病院でも産婦人科医が不足。宮古病院や八重山病院では脳神経外科医も確保できず募集を続けているが、いずれも「厳しい状況」という。

 小池沖縄北方担当相は「産婦人科、小児科は全国的にも減少傾向と聞くが、特に出生率が高くて元気な沖縄に生を受ける時に、医師がいないというのは心細い。ぜひ来てほしい」と強調。「求ム ドクタア 美ら島(ちゅらしま)プロヂェクト」と名付け、インターネットや政府広報で呼び掛ける。』

 脳外科医もいなくなっては救急が大変だろうなあと思ったら..

『--脳外科、来月から休診/八重山病院--2005年7月22日

 県立八重山病院(石垣市)の伊江朝次院長は二十一日、脳外科医が七月末で離任することに伴い、八月から同病院の脳神経外科を休診することを明らかにした。休診後の対応について伊江院長は、八月一日から同市で民間脳神経外科の手術リハビリ専門医院が開院することを挙げ、「同医院と連携するので、八重山地域の脳外科診療の質に影響はない」と説明している。

 八重山病院では二〇〇〇年五―六月に脳外科の常勤医が不在となるなど医師不足が問題となった。その後、山口大学から脳外科医の派遣を受けたが、派遣期間は今月末に終了。後任は決まっていなかった。

 今回、民間医院を立ち上げる下地脳神経外科医院の下地隆院長は現在、八重山病院の手術に立ち会う診療協力を行っている。

 新医院は脳脊髄手術や急性期脳卒中の治療とリハビリ、ペインクリニックが専門で、二十四時間救急も受け付ける。病床数十九床。脳外科医と麻酔科医がそれぞれ一人、看護スタッフ十六人。開院後一年以内には脳外科医と内科医が一人ずつ赴任予定。

 伊江院長は「廃止ではなく、あくまで休診。今後も後任医師の確保に努める」と述べた。

 県の知念建次県立病院監は「民間病院が開業することで、八重山地区に脳外科医がいなくなるという最悪の事態は回避できた。当面は状況を見守りたい」と話した。』

 なんのことはない民間病院が開業するとのこと.それなら公立病院からは躊躇なく撤退するのも理解できる.僻地の公立病院はどこも不採算のはず.院長に経営悪化からコストの話ばかりされたあげく給料が減らされるのではいくら僻地医療の重要性はわかっていても熱意も冷めるというものだろう.

 もっとも僻地の公立病院の診療報酬が上がらないのも元はといえば厚生労働省が決めたことなのだから,責任は政府内にあるということだ.自分たちの責任を医師の善意にすり替えるような呼びかけに答えるような殊勝な方が名乗り出ることに期待するなんてなんと都合のよい話だろうか.
『--喫煙は病気、積極治療を 医学会が初の診療指針 禁煙社会目指し具体例も 女性には「美容に悪影響」--

 たばこを吸うのは「ニコチン依存症と関連疾患からなる喫煙病」であり、患者(喫煙者)には「積極的禁煙治療を必要とする」-。日本循環器学会など9学会の合同研究班が18日までに、一般医師向けの初の診療指針「禁煙ガイドライン」を作った。

 喫煙がさまざまな病気の原因になることは知られているが、喫煙率は成人男性で47%と先進国の中では高く、研究班長の藤原久義(ふじわら・ひさよし)・岐阜大教授(循環器内科)によると「自分の意思で喫煙をやめられるのは5-10%程度」。このため「たばこを吸わない社会習慣の定着」には、喫煙自体を病気と位置付けた上で、すべての医師が患者の喫煙を把握し治療を勧めることが必要と判断した。

 女性には美容にも悪影響と知らせるなど、患者に応じた治療方針を盛り込んだのが特徴だ。

 指針は、禁煙に効く行動療法として「喫煙者に近づかない」「吸いたい衝動が収まるまで秒数を数える」などを挙げた。

 また、禁煙の意思がある患者には、自分で禁煙計画を作らせ「節煙より早道」「開始直後は(たばこが吸いたくなる)アルコールを控える」とカウンセリングを実施。意思のない場合は、喫煙によって増加する有害な一酸化炭素の呼気中濃度を測って教え、動機付けに役立てる、とした。

 薬物療法では、ガムやパッチを使うニコチン代替療法を推奨した。離脱症状が軽く成功率を高め、禁煙による体重増加を遅らせる効果もある。一方で、治療中の喫煙はニコチンの過剰摂取につながるなど注意も必要だ。

 ニコチン依存に陥りやすい未成年には、頭ごなしの言い方を避け、喫煙が病気であることを理解させる。女性では、悪影響が胎児や卵巣機能だけでなく、しわ、口臭など美容にも及ぶことを知らせるなど、患者に応じた指導を強調している。

 医師にも、日本の男性医師の喫煙率は20%強で、欧米の医師(男女)の5%前後に比べて高い、と自省を求めた。たばこの値上げや広告禁止など、社会環境の整備の必要性も指摘した。

 指針は11月以降、循環器学会などのウェブサイトに掲載される。

【編注】9学会は、日本口腔衛生学会▽日本口腔外科学会▽日本公衆衛生学会▽日本呼吸器学会▽日本産科婦人科学会▽日本循環器学会▽日本小児科学会▽日本心臓病学会▽日本肺癌学会』

 私は禁煙はしていない.とは言ってもプロフィールに書いてあるように喫煙の習慣はない.私にとっては喫煙の影響よりも大気汚染の方が問題だ.窓を開けているとアスファルトの粉塵なのかジーゼルエンジンのパーティクルなのか黒い微粒子が部屋中に降り積もっている.

 禁煙していないとは言え,他人の吐き出した煙草の煙なんて吸いたいわけはない.ましてや煙草の煙は有害物質である.自分で吸うのは我慢できても他人に吸わされるのは我慢ならないのである.煙草を吸う人間は吸わない人間のことなど考えもしないのだろう.

 だから,仕事として患者さんに禁煙をすすめることはするが禁煙できなかった結果として病気になったとしても自業自得だと思っていた.だが,喫煙自体が病気ということになれば医師としてはなんとしてもやめさせることが治療ということなのだろう.

 そうであれば私の提案はただ一つである.煙草の販売を法律で禁止することである.政府も医療費の縮小などということを言う前にまず有害物質を販売することを禁ずるのが先であろう.それが無理なら煙草の増税により喫煙者に煙草が原因の医療費を負担させるべきだろう.

 遺伝子診断で保険料を設定するのは差別だと思うが,喫煙者と非喫煙者の生命保険料が同じなのは不公平だと思うのである.受動喫煙でいやな思いをさせられた揚げ句に病気になりやすい喫煙者の分の保険料まで負担させられたのでは納得できないだろう.

 もっとも医療業界としてはそれでも煙草がやめられない者はどんどん煙草を吸って患者になってくれてもそれはそれで別にかまわないのだろうが...

 
『人工呼吸器外れ心肺停止 東北大病院で80代男性患者

 東北大病院(仙台市青葉区)は15日、入院中の宮城県在住の80代男性患者の人工呼吸器が約25-30分間外れ、一時心肺停止状態になる医療事故があったと発表した。男性は蘇生(そせい)処置をして重症病棟で治療中だが、意識不明という。

 病院によると、男性は7月中旬、転落事故で脊髄(せきずい)を損傷し、四肢まひと呼吸不全で緊急入院。10月13日夕、気管切開チューブと人工呼吸器の接続部分(コネクター)が外れた。

 アラームが鳴ったが、担当の看護師3人は別室で救急患者の対応に追われて気付かなかったという。男性と同じ病室の患者の診察に来た医師がアラームを聞き、接続部分が外れていることに気付いた。

 病院は15日までに宮城県警などに事故として報告した。

 里見進(さとみ・すすむ)病院長は「誰かが患者に付いていれば防げた事故。早急に事故調査委員会を立ち上げて原因を調べる。再発防止のため安全管理体制を強化したい」としている。

 東北大病院では7月下旬、50代の女性患者の生体肝移植手術中、急速輸液ポンプから静脈内に空気が流入し一時心機能を低下させる医療ミスがあった。』

 80歳で3ヶ月も人工呼吸器をつけていたということはもうはずせない状態だったのだろう.意識がはっきりしていたなら四肢麻痺で寝たきりで人工呼吸器をつけられたら毎日がきっと死ぬほど苦痛だったにちがいない.

 たとえ人工呼吸器がはずれなくとも肺炎や尿路感染や褥創からの感染症などで命を落とすこともある.遷延性意識障害の患者さんであれば恐怖感というものはないだろうが,脊髄損傷では意識は保たれるから毎日が死の恐怖との対面である.

 もっとも現在では栄養管理や体位(良肢位)管理などのレベルが向上し昔に比べれば合併症も格段に減ってはいるが,脊髄損傷の患者さんの不安が軽減したわけではないだろう.

 人工呼吸器がはずれた事故というニュースだが,自然に接続がはずれるようなことは実は考えにくいのだ.接続の時にちゃんと確認していれば本人を含めて誰かが故意にはずそうとしなければ通常は外れないものである.

 本人がはずしたというのなら気持ちもわからないではない.家族がはずしたとしたらどうだろうか.本人の意志にしたがってはずしたのならどうだろうか.私は,実際に妻がはずしたとしか考えられないケースを経験したことがある.主治医ではなかったが妻が面会後に呼吸器がはずれることが数回続いたのだった.アラームが鳴り事なきを得たのだが,それ以降は妻の面会を監視するようにしたら起きなくなった.

 病院というところはかつてはシステムが性善説で成り立っているところであったと思う.だが,最近の病院での事故を見ていると患者,家族,面会者,スタッフすべてを疑ってかからないと防げない事故も増えているようだ.

 こんな話をすると疑心暗鬼になる人もいるかもしれないが,医療が善意で成り立っているということに疑いを持つようならすでに患者と医師の信頼関係はないということなのだろう.なんとも情けない話だが,患者や家族が医師を疑うならば,医師が患者や家族を疑うことも非難するにはあたらないだろう.

< 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

 

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索