睡眠不足

2003年12月13日コメント (2)
当直明け.昨晩は救急患者もなく当直業務は楽だった...はずだが,年末でもあり残しておいた(残ってしまった?)書類を一気にかたづけようとしたので結局いつもよりも睡眠時間を減らしてしまった.最近は3時間半の睡眠ではちょっと堪えるなあ.

私が大学で脳外科医の修業をはじめた頃は,1年目の医者は病棟で最後まで仕事をやるのが当たり前で帰宅はだいたい午後10時から午前1時の間だった.朝は午前8時には大学に着いていないといけないので睡眠時間は6〜7時間くらいだったろうか.

とにかく1日中眠くてムンテラ中にこっくりとやって上の先生に怒られたり,医局のレクに行く途中に居眠りで接触事故を起したりとまあ大変だった.記憶ももうろうとしていたのかその当時の厭なことも幸いあんまり憶えていない.

どっかの大学の脳外科医1年目が医局旅行で居眠り運転で死亡したのもその頃でまったく他人事とは思えなかったことを憶えている.

大学院での研究時代は規則的生活が送れた.研究とアルバイトで忙しかったが,自分の予定で行動できたのはあの時代だけだった.

大学院を卒業して臨床に戻るとそこはまた睡眠不足との戦いだった.そこで私は睡眠時間を減らしても十分睡眠がとれるように短時間で深く眠ることを意識した.眠るときに睡眠時間を自分の中にイメージするようにしたのである.

現在の私の睡眠時間は5時間.パターンはもともと午前2時30分就眠〜午前7時30分起床だったが,最近は午後10時就眠〜午前3時起床.

1日8時間睡眠の人より1日3時間多い人生.
ちょっと計算すると1年で1095時間多い.覚醒している時間が18%多い.なんか得したように感じるが,その分寿命が短いなんてこともないだろう.

最近は仕事に追われることも少なくなったからもっと寝てもいいのかもしれない.だが,習慣にしてきた5時間睡眠をまた延ばすのも難しそうだ.3時間を有効に使うなにかを考えたほうがよさそうだ.また今度の当直の時にでも考えてみよう.


《厚生労働省は十二日、十六歳以上を対象とした生体肝移植について保険適用の対象とする方針を決めた。これまでは、一千万円以上の自己負担が必要なケースがあり、患者には朗報だ。
生体肝移植は、既に小児への移植については保険が適用されており、これで生体肝移植は一般医療として認められたことになる。十六歳以上については、C型肝炎の悪化による肝がん患者らに対する移植が急増。同省は、主に成人を対象とした移植の実績が千例を超え、五年生存率が約70%と好成績を収めていることから保険適用することにした。》

これだけ読むといいニュースのようだが,忘れてはいけないことがあった.

ある雑誌の2000年12月1日号には《エィズ問題と同様「危険な非加熱製剤」を放置した「薬害C型肝炎」200万患者を見捨てた厚生省の大罪》という記事があった.

 《厚生省は輸入非加熱製剤によって、エイズだけでなく、肝炎に感染する危険性があることをとうに承知したうえで、放置し続けた。10月30日、静岡県内の大学生(20)が新生児のときに受けた腸の手術で非加熱製剤を投与され、C型肝炎に感染していたことが報じられた。血友病治療で血液製剤を投与された患者は、9割が肝炎に感染しているといわれてきた。だが、この大学生の一件以釆、血友病以外の治療でも、非加熱製剤が原因でC型肝炎に感染しているケースが相次いで報告され、大騒ぎになったのだ。 C型肝炎はウイルス感染症の一種で、感染経路は血液だ。放置すれば肝硬変や、肝臓ガンに移行し、死にいたることもある。いまや肝炎患者数は全国に200万人以上、その大部分がC型といわれている。》
http://www.ienishi.gr.jp/hiv_aids/friday01.html

高額医療の対象にもなり確かに患者の負担は減って患者さんのためにはなるであろう.
だが,医療費が増大した分のツケはまた次世代まで国民が負担するのだ.

患者のためといいながら移植医療を一般医療化し既成事実化しようという意図も見て取れる.

自分で火をつけ消すふりをする.こういうのをマッチポンプと言うのだろう.

現代は政府に都合のいいことだけしか報道されないのだ.十分な議論がされないまま医療は厚生労働省の意のままに翻弄されていくのであろうか.
《東北大医学部が医師を派遣した公立病院から業務委託費を受領していた問題で、教授に直接現金を渡していた公立病院がすでに発覚した岩手県の釜石市民病院を含めて約十病院あることが十一日、分かった。釜石市民病院のケースでは、仙台市民オンブズマンなどが収賄容疑で吉本高志学長ら十三人を仙台地検に告発している。》

中国のことわざにもあったが,君子たるべきものは他人から疑われるようなことはしてはいけない.先日のデータ捏造疑惑の教授につづきこの学長も脳神経外科の教授である.

脳神経外科の専門医試験では私も口頭試問を受けた.非常に厳しいが職人肌でまじめな教授だと思っていたのは私だけではないはずだが.まさに晴天の霹靂である.

最近はいくぶん弱まった感じもあるが,教授は大学医局に属する医師の人生を決めてしまうほどの権力があるのは事実である.具体的には人事権なのであるが,これを金銭と結びつけたと疑われるようでは教授たる資格はないだろう.

もちろんすべての教授がこのような資質であるわけはないと信じるが,医師も政治家と同じと思われるようなことをやっているようでは医療に対する不信感を無用に増大させることになるので私はきちんと襟を正して欲しいと思う.

薬害エイズの時の研究班のメンバーだった教授たちも一人の権威を恐れたそうだが,これらの教授たちが意外に権威や権力さらにはお金にもろいのはどういうわけだろうか.自分の権威や権力を失うのが恐いために正しいことが言えない,正しいことができないのであろうか.

欲に溺れるものは欲に滅ぶともいうが,医師という職業は患者とともにあるのであって,どんな業績も人が死に医学が進歩すれば消えゆくものである.医師には歴史的価値や栄光はないのだ.

この病院経営の困難な時代に開業医には理想の医師像は期待できない.だからせめて教授には理想の医師像というものを医学生に示してもらいたいものである.

説明不足?

2003年12月8日
とっても身近な話を二つ.

外来で,頭が重くてめまいがするといって来た50歳代の女性.脳梗塞や脳腫瘍の可能性があるから頭部MRI検査をしましょうと説明しても同意しない.以前に頭部CT検査で異常がなかったこと,今日は時間がないことを理由に検査は拒否.そして,自分のは肩こりが原因だから以前処方された薬をくれという.それで,現在服用中の薬をみたらほとんど同じものをのんでいるので,それを説明した.じゃあ,めまいの点滴をしてくれという.しょうがないので看護師に点滴を指示した.

『自分で肩こりによるめまいだと診断できるのなら病院に来る必要なし.時間がないのに点滴とはどういうことだ.』

だが,この患者にこれ以上説明している時間もない.

救急外来にクモ膜下出血のような急な頭痛で来た40歳代の男性.高血圧があり血圧を下げたら頭痛は改善.聞けば昨日から頭痛はあったそうだ.頭部CT検査では異常なし.両親にクモ膜下出血の既往があり,他の病院では脳の血管に異常はないが両親がそういう病気ならあんたも爆弾抱えているようなもんだから注意しろと言われたそうだ.

『仕事が終わるまで待てるんだったら救急外来にくる必要なし.救急外来は夜間外来ではない.脳の血管に異常がないのに爆弾抱えているなんて説明した医者は誰だ.それとも患者の聞き間違い?』

病院は24時間営業のコンビニではないのだよ.
本来,患者の言いなりに薬を出したり,注射したりするものでもない.
なんでもないのに病院に来て,健康保険を使って検査したり薬をもらったりすることは医療費の無駄使い.

でも,こんなこんなこと患者に説明するものでもないし,救急外来やってない開業医にとってはこういう患者こそありがたいお客様.

私にとっては時間の無駄.これで診療報酬下げられるんだったさらにばかばかしい事態.いっそのこと健康保険診療はやめて時間外診療は時価ってことでやらせてくれればいいのになあ.

《自民党の医薬品の販売規制緩和問題に関する検討会(津島雄二座長)は五日、大衆薬をコンビニなど一般小売店で販売できるようにする政府の規制緩和策について「国民の健康と安全の確保という観点から断固阻止すべきである」とする意見書をまとめた。
 意見書は、アンプル入り風邪薬による死亡事故や整腸剤キノホルムによるスモンなど重大な副作用被害を思い起こすと、医薬品については副作用を最小限に食い止める体制の整備こそが重要と指摘。コンビニ販売は政府の基本方針である医薬品の安全対策強化に逆行する由々しき問題とした。》

医師の処方箋の要らない一般薬はコンビニで自己責任で買うでいいでしょう.心配な人だけ薬局で買えばいいんです.薬局で相談できるぶん割り高でもいいでしょう.

逆に知識のある薬についてはコンビニで格安に買うのがいいじゃないですか.

私は基本的に効果があまり明らかでない薬は出しませんが,わが国では以前より世界的には効果が認められていない薬まで病院で出されているのです.脳代謝賦活剤なんかはそのいい例でした.効果が明らかでないため大半が消えましたが,もともと認可したのは厚生省です.

スモンなどを例にあげるのは見当違い.こんな重大な副作用のある薬を市場に出したのが間違いです.販売方法の問題ではない.本来は,はっきり効果があって安全域の広い薬のみを市販するべきです.

病院での処方は11月19日に書いたとおり

1.薬は全部自己責任で服用するかどうするか決めて薬局で買う。
2.医師は服用の必要性とリスクについて説明し、処方箋だけ書いてあげる。
3.定期検査と処方変更の必要があるときのみ主治医を予約して受診する。

というのがいいと思います.

安全性情報で知らされていない薬の副作用についてまで医師も薬剤師も責任を負うことはできません.

一般社会人の方々も自分の服用する薬については正しい知識を持って自分の責任で一般薬をコンビニで買うくらいのことがあっていいのではないでしょうか.

無責任な開業医

2003年12月2日
内科の開業医で特に一人でやっているような先生からの紹介患者さんは大切な患者さんだ.

一人で診療を続けるのが大変なことは理解できる.診断もできずどうしようもなくて脳神経外科の専門医に紹介するというのなら喜んで引き受ける.

しかし最近そうでもないケースが目立つのだ.

脳外科で急な頭痛といえばクモ膜下出血で,もしそうなら救急車で搬送しても死亡する場合があるほど危険である.

だが,事務から事務への電話連絡のみで救急車で搬送してきたのには驚いた.私に連絡がきたのは救急車が到着してからだった.幸いクモ膜下出血ではなかった.

風邪による発熱で頭痛を訴える患者に検査どころかちゃんと診察もしないで,髄膜炎の疑いがあるからとこちらの外来を受診させたのには患者さんも呆気にとられていた.

なんでだろう〜なんでだろう〜(流行語大賞)
なんて言って患者さんと踊りますか.

もう何をやってんだかわからない開業医が多くて困ってるんです.

昔から週末近くになると自分の通院患者を紹介する開業医はいた.これは休日に悪くなってこられると困るからだろう.これも一種の責任転嫁だが,まあ悪くなってから来るよりいいか.

でも最近のはちょっと違うようです.

医療事故が毎日のように新聞に取り上げられる時代だから誤診が恐いのだろうか.それとも,医学知識をどっかでなくしたのだろうか.

自分で診断しようとした痕跡もないのである.当然,適切な処置も検査もしない.わからないけどとにかく専門医に送るって言う感じがありありだ.

これって個人開業医の自己防衛診療なんでしょうか.

健康保険が無駄に使われ,医師への信頼が低下し,さらに大病院での診療報酬の引き下げが行われる原因になるんじゃないの.

私のような勤務医には大迷惑.
患者さんに「いっぱいくわされましたね.」と説明しても一緒に笑ってくれるわけがない.

なんにもしてくれない病院になぜかかるの.
話だけ聞いて中身のない手紙を書くだけなら医師でなくてもいい.

あっ,そうか.
だから事務の人に電話させたんだろう.

国民に対して無責任なのは小泉首相だけではなかった.開業医にもこんな無責任な医者がいるのだ.

以前,クリニック開業した脳外科医が言っていた.「外来患者が頭に1万円札を貼ってきているようにみえる」と.開業するとお金にしか興味がなくなるのか.人間の脳とはなんと不思議な物.

うまい話をするだけの開業医には要注意.
自分の身は自分で守るしかないみたいだ.

戦争に加担するな

2003年12月1日
今朝,イラクでの日本人外交官の殺害の新聞記事を読んだ.

これが日本人へのテロなのか米軍と間違えられたのか,そんなことは問題ではない.結果的に日本はイラクでテロリスト相手の戦争に巻き込まれているということが問題なのだ.

そもそもこの戦争は米英の都合で開始されたもので,国連至上主義をとるならば日本は米英に加担するのではなく,アジアの主権国家としての影響力を維持するべきである.

特に,小泉政権のように米国にずるずるとひきずられる様な形で参戦するのは最悪である.

国民は今すぐ自衛隊派遣の中止ないし無期延期を政府に要求するべきである.

このままではイラクで犬死にして悲しむ家族が増えてしまうだけであろう.そうなってからやっぱりやめたとでも言うつもりなのか.それとも日本の自衛隊から犠牲者が出れば日米安保上の面目が立つとでも思っているのであろうか.

とにかく殺し合うのはもうやめにしてもらいたい.人が死ぬのはたくさんだ.

イラク人より自国の国民をちゃんと守ってこその日本政府であろう.同胞を米国に人柱として差し出すような行為は国民に対する裏切りだ.

銀行を助けるために税金を投入してみんなで痛みを分け合うのと同じ感覚なんだろうか.

皆さんどう考えるのですか.私は医師として病気の人を助けるのが仕事なんですが,健康な人がむざむざ殺されるのではやってられません.
みんなの声で自衛隊派遣を中止できないのでしょうか.

いまこそネットを有効に活用して自衛隊派遣を阻止しよう.これは選挙権がなくてもできるのだから,国民みんなの声で中止を叫びましょう.

産まれてくる子に会えずになくなったお父さんのことを思うとつくづく自分の無力を感じました.ご冥福をお祈りします.
その1「件数が伸び悩んでいる脳死臓器移植の普及を図ろうと、日本低温医学会は二十七日、札幌市内で開いたシンポジウムに医師や看護師、医薬品メーカー社員などの医療従事者約二百人を集め、率先してドナーカードを持つよう呼び掛けた。」

その2「ヒトクローン胚(はい)づくりの解禁を議論する総合科学技術会議生命倫理専門調査会が二十八日、都内で開かれたが、再生医療の研究のため解禁すべきだとの意見と、時期尚早とする慎重論の調整がつかず、結論を持ち越した。」

どちらも一般社会人の倫理観はどこに反映されているのか見えない.

私は脳外科医だが,脳死臓器移植には倫理的にも社会的にも反対だ.

医療従事者が率先して臓器を提供する必要がどこにあるのか.仕事上である意味で弱い立場だから?それとも臓器移植で利益を上げる側だからなのか?と疑りたくなる.

私は脳死臓器移植やクローン胚がすんなりと受け入れられないのは一般の日本人の慣習や宗教観などの目に見えない心理的なものからくる違和感が根底にあると思う.

こういう問題は医師や研究者まかせにせずに一般人がもっとしっかり論議をするべきだ.

脳死臓器移植やクローン胚に賛成の人は移植の必要な病気になってからでは遅すぎると思うのだが,まあ今のところ私はどちらもとりあえず反対だ.
ついこのあいだ神経血管内治療専門医のことを書いたばかりだったのでニュースに驚いた.

聖路加国際病院の神経血管内治療専門医で指導医も持っているという放射線科部長を含む医師3人が,55歳男性の脳底動脈の未破裂動脈瘤のコイル塞栓術をしていてクモ膜下出血を起こし脳死に近い状態という.

神経血管内治療の指導医ということは学会で認定された十分に経験を積んだ医師ということである.でも事故は起きてしまった.

これは確かに医療事故ではあるが,医療過誤というのは脳外科医の常識からはちょっと言いにくい.

こう言うと一般の人にはわかりにくいかもしれない.要するに特に技術的ミスがなくても起こっても不思議のない事故だということだ.

確かに指導医にも技術的な問題が起こる可能性はある.しかし,一方で血管内治療では血管の穿孔や動脈瘤破裂は頻度こそ少ないが,ひとたび起きればこのような致命的な事態になる恐れが十分にあるということである.

だから,術者はたくさんやっていれば余程の強運でもないかぎり,いつかは遭遇する事故であると思う.実際,血管内治療の結果がよくなかったという話は他にも聞いたことがある.

出血してもすぐに血管内から処置できればよいが腹腔内視鏡による出血とは違い,クモ膜下出血はすぐに脳外科医が開頭手術をしても結果は満足できるものではない.

だが,私は現時点ではこの事態になっても納得できる人だけがこの治療を受けるべきだと思う.このケースではこの治療をやってまで治療する必要がある脳底動脈瘤だったのかも問題になるかもしれない.

患者や家族の中には医師の説明のなかから自分に都合のいい話だけを憶えていたり,恐い話は自分には起こらないと信じようとしたりするものだ.

でも,これは外科医の側にも言えるのだ.学会で治療成績悪いデータを声高に発表するわけはないのに,いいデータを信じてつい自分にも出来そうな気がしてしまう.

私はいつも自分に「起こる可能性のある事故は起こる」と言い聞かせながらツキをなくさないように日頃の生活態度に気をつけたりしているのであった.
今日はどういうわけか外来に小児の患者が3人も来たのでいつも感じることをまとめてみる.

まず,乳幼児の頭部打撲であるが,大抵はお母さんがちゃんとその後の経過観察をすれば異常に気がつくものである.しかし,すぐ病院に来るお母さんも多い.

私は2歳以下であれば受傷時の話と外傷の程度から必要と感じた場合以外は慎重に経過観察するように話して帰ってもらっている.だが,中には写真を撮るよう食い下がる両親もいる.私は,乳幼児の脳に必要のない放射線被爆は行いたくないのだ.なぜ,脳外科医の説明だけでは納得できずに同じ医師の放射線診断には納得できるのかわからない.

子供が熱を出したと病院にくる親は多い.私が当直で熱発の子供をみようとすると小児科の先生を呼んでくれと要求する.これでは小児科の先生は風邪のシーズンは休む暇がない.私は小児科医にならなくてよかったと思ったことが何度もある.

病気の子供には同情するが,こんな親に同情する気にはまったくなれない.病院はコンビニではないのだ.頼めば何でも言うことを聞くとでも思っているのであろうか.

37度台の微熱で食事も摂れる子供に点滴をするよう私に要求した父親もいた.こんなのは私に言わせれば立派な児童虐待である.

最近,小児の救急医療が問題になっている.小児科医が不足している.でも,患者の親があれでは小児科医になりたい医師はますます減るに違いない.

ただ,小児救急全体のレベルアップも必要だ.小児の救急がきちんとできる小児科医も少ないからだ.脳出血を髄膜炎と間違えて腰椎穿刺した小児科医や虫垂炎を誤診した小児科医も私自身の経験にある.

小児科は以前まで健康保険の診療報酬で冷遇されていたといえる.今回少しはましになったようだが,コンビニに来るように風邪の子供を救急外来につれてくるようでは本当の小児救急はいつまでたっても実現しないだろう.

子供の予防接種の時に親の保健教育を行ったりしてはどうだろうか.
脳外科医というとどんな印象を一般には持たれているのかよくわからない.自分では新しいものにすぐに飛びつく人がほかの科の医師にくらべて多いような気がする.

もちろん自分も含めての話だが,特に新しい診断機器や手術器械にはすぐに反応する傾向がある.私生活でも新型の高性能スポーツカーや高性能なポータブルコンピュータを持ってたりしている.

脳神経外科の診断や治療の技術もどんどん新しくなるので,新し物好きでないと置いていかれるからそういう傾向になるのかも知れない.

ここ数年で日本脳神経血管内治療学会の専門医制度ができて若い脳神経外科医には今後必修のような印象を与えているようだ.

これは大腿の動脈から頭頸部の動脈にアクセスして治療するもので.開頭手術をしないでも治療できるという点もいいが,開頭手術ではできない治療ができるというのが大変すばらしいと私は思う.

脳外科医として手術がほぼ1人前にできるようになるにはだいたい10年というのが目安である.それだけ手術の技術的難易度や患者のリスクが高いためと思う.複雑な手技をマスターする努力や長時間の手術や心理的ストレスに対する忍耐力が要求されるのである.それらを獲得できる脳外科医は実はほんの一部なのである.

一方の血管内手術はだいたい3年で一人前になるようだ.若い脳外科医が飛びつきたくなるのも無理はない.開頭手術ができなくても治療できるのだ.しかも,患者さんのリスクは古典的脳外科手術よりも少ないと聞かされている.メディアも新しい治療法と注目している.

新し物好きの若い脳外科医にはまさにうってつけだ.とりあえず新しくて習得期間が短いからやってみるのはいいのかも知れない.

だが,熟達した術者になるには寸暇を惜しんで努力する必要があるのを忘れてはいないだろうか.血管内手術の術者には放射線科医でも循環器内科医でもなれるのである.開頭手術がきちんとできる脳外科医になるのにわき目を振っている暇はないと思うのだがどうだろうか.
私が学生時代にはまだAIDSという言葉は一般的ではなかった.免疫不全になりカリニ肺炎やカポシ肉腫になるという論文をゼミの抄読会で読んだ記憶がある.日本では現在AIDS患者数が1000人くらいでHIV感染者が5000人くらいか.だが,年々増加していることは間違いない.

外科手術や血液疾患などの治療のための血液製剤も日赤の検査をすりぬけて感染するリスクがあるのが明らかになった.一般病院では入院時にHIV抗体をルーチンに行うことは健康保健では認めていないらしい.患者のプライバシーの問題もある.やっかいな時代になった.

梅毒や肝炎も一向に減っていないように見える.ニューヨークでは梅毒患者が増加したそうだから東京でもいずれ増えるのだろうか.10〜20代のクラミジア感染が増加しているようだからこれらSTDは今後ますます増加するのだろう.
事故で頭皮から出血した患者がAIDSだったりしたらと考えるとぞっとする.

産婦人科医はどう考えているのだろうか.
実際のところまだあまり目立った問題ではない.目だった問題になったら感染症の予防は手遅れだ.STDに関する知識はきちんと学校で教えておいてほしいものだ.

最後にちょっと驚くHPを見つけたので書いておく.これはHIVが黒人の人口を減らすために米国で人為的につくられたウィルスであるという報告らしい.これが本当なら米国は生物兵器を使うテロ国家ということになるのだが,日本はそんな国の太鼓持ちしていていいのだろうか.

http://homepage.mac.com/ehara_gen/jealous_gay/aids_history.html
名義貸しと僻地の医師不足を解消するために,自治医科大学のような制度をすべての医学部に導入しようとしているらしい.

具体的に言うと,入学時に僻地医療に従事することを条件にする.医師免許取得後の何年かを僻地医療に従事する義務を負わせるなどが案としてあがっているらしい.

だが,これが解決策になるとは私には到底思えない.まず,地方の病院が本当に欲しいのは一生いてくれる経験豊富で腕のいい医師なのだ.
だが,そんな医師がいたら都会の病院も欲しい.だから,地方には腕のいい医師は本人に何か理由がなけれれば残らない.

では,地方に残る理由を考えてみよう.

お金の面では地方自治体はどこも苦しい.だから給与面では昔のようないい条件はない.

仕事も地方の病院で最新鋭の医療器械をそう導入できるはずもなく新しい診断や治療の機会も少ない.だから論文も書きにくい.地方に長くいると大学との関係は疎遠となり大学での出世は望めなくなる.

患者との関係は確かに都会に比べて人情に厚い傾向や小さな町ならではの狭くて密な人間関係が経験できるがこれも一長一短である.

生活面では都会暮らしになれた家族からの生活の質や人間関係の不満が一番の問題だ.また,就学期の子供がいれば教育問題もある.

こう考えると何かの理由で地域医療に燃える医師以外は都会に集まるわけである.
かといって渋々赴任した医師がまともに働くことも期待できない.
なんとも医師としては情けない話ではあるが,これが現実的な医師側の問題だと思う.

それでも快適に診療ができるなら仕事を重視する医師なら我慢できると思うが,実際には地方の病院の環境はいろいろな面でよくないのが実態だ.院長をはじめとして固定の医師ほどあまり働かない傾向がある.出張医のみが当直や救急などの疲れる仕事をやらされるのでは人手も多く快適な都会に戻りたくなっても無理はない.

僻地勤務を義務化してもその期間が終わったらすぐに都会の病院や大学にもどるだろう.ただ医師側に負担を強いるやりかたでは優秀な医師は育たない.優秀な人材はそんな職業には就かなくなるだろう.それは医療全体の質の低下をまねくような気がするがどうだろうか.
昭和大学医学部脳神経外科の教授が捏造した論文で教授選に出て教授になったのは記憶に新しい.悪質で研究者として最低の行為だが,その嘘はあまりに幼稚でつまらない.

こんな嘘にだまされた教授会も情けないし,こんなのが同じ学会にいたことに腹が立つ.脳神経外科学会はちゃんと処分してほしいものだ.

こんなのは医師としては論外であるが...

脳外科医をやっていて思わず嘘をいってしまうことがある.

一つは手術の前のもの

たいていは手術の適応とか必要性を本人や家族に話していてなのだが,これにも2通りある.

非常に危険が高いとそれを誇張してしまうのがたぶん多いと思う.これは自分へのリスクを避けるため.脳外科医だって他人を手術するのはやはり怖いのだ.

もうひとつは話しているうちに,ついそれほど難しい手術ではないと言ってしまう時である.
やはり,あまり手術に強い恐怖心をもたれるのも困る.手術以外に治療法がないものもあるのだから.

患者が信頼してくれれば勇気を持って手術できるってこともある.

患者は病気から逃げることはできない.外科医は手術から逃げることはできない.ここに嘘が生じるすき間があるんだと思う.

もうひとつの嘘は手術後のものだ.

多くは結果として重症の後遺障害が残った場合と根治できない脳腫瘍の場合だ.

どちらの場合の嘘もいずれはばれる.
いや,今までもたくさんばれていたに違いない.それとなく,知っていたんですねといわれて答えに窮したことはある.

時々,本当のことだけ話して仕事ができたらどんなに楽だろうかと思うのであった.

東京女子医大病院で起きた人工心肺の操作ミスによる事故がニュースになったあたりから医療事故の報道が以前にもまして多くなったような気がしていた.

今日も東京医大,京大などが医療事故として報道されている.

誤薬や中心静脈へのカニュレーションなどの事故は医師や看護師も人間である以上ある意味では避けられない事故である.

人工心肺の繰作ミスにも驚いたが,最近の東京慈恵会医大青戸病院の一件にはさらに驚いた.

これらは前述の避けられない事故とはちがう.
いつもとは違う状況で慣れない機器を使うとか一度もやったことのない手術をやるというのは人命を扱う資格がないと言われても仕方のないくらい無謀なことだと私は思う.

だから,これらの医師に責任をとらせるのは当然のことである.

だが,これらの医師に医師免許を与えたのは誰で彼らはどこで一人前の医師になったのであろうか?

これら通常の社会人からみるとひどく常識に欠ける医師のために医療への信頼がなくなるのは外科医として寂しい限りである.

もともと医師は体の悪い人や社会的な弱者のために働く人のはずで,医療は善意で行われるべきなのだが,最近の報道を見ていると私も医療不信になりそうになる.

最近はこれらの事故に対して刑事責任が追及されるようになったり,刑が確定する前に行政処分されるようになってきた.

こうなってくると医師が自己防衛の医療を行うようなこともこれから顕在化してくるにちがいない.リスクの高い治療は結果が悪ければよくても慰謝料,悪くすれば逮捕されるという危惧が医師側にあるからである.

脳神経外科の学会の会場でも最近は訴訟が増えていることが話題になっていた.
医師が自ら治療の選択枝を狭めていくことになったらそれによる患者の不利益は計り知れない.

だが,医療事故に対して厚生労働省はなんの責任あるコメントも出してはいない.いったい何を恐れているのであろうか?

国民の反発?医師会の反発?それとも健康保険料の増大?

いずれにしてもこのままではそのしわ寄せは患者やその家族,いつかは自分や自分の家族にもふりかかると思うとどうにもすっきりしないのであった.


日本テレビのプロデューサーが視聴率を買収したという問題で,管理者であるテレビ局の社長も批判されているようだ.

テレビに関していうと健康ブームでいろんな番組が放送されている.
私はNHKが特に好きなわけではないが,民放には本当にまともな医師の監修をうけたかどうか疑わしい番組が多い.大ざっぱに言うと半分くらいしか本当の話がない.

ちょっと前の話だが,重症の脳梗塞の患者の家族に血管内血栓溶解術をするか,脳低体温療法をするか選択させ妻が低体温療法を選んだ結果患者である夫が劇的に改善したなんていうのをやっていた.これなんかはあきれた話だ.

まず,脳低体温療法だが確かに数年前には脳神経外科でブームともいえる状況だった.しかし,そもそもは重症の頭部外傷に対する治療であり脳梗塞に一般的に行う治療ではない.したがって血栓溶解術と並べて選択肢としてあげるべきものではない.

血管内血栓溶解術は場合によっては有効だともいえるし実際に私もやっているが,生命の危険のあるような場合には行えない.

番組では低体温療法を選んでよかったというような結論だったが私はそうは感じなかった.
単に,脳の主幹動脈につまった血栓が早期に自然に溶解して再潅流障害もそれほどなく経過したように思えたからだ.

こういうでっち上げのような話はいかにも民放でやりそうな番組だ.

私もテレビの取材で心肺蘇生のシーンを撮るためにやらせの蘇生をさせられるはめになったことがある.やらせ,でっち上げ,そして嘘をついてまでも,見る人の感動(視聴率?)が欲しいのであろう.

だから,救急医療の現場からみたいな嘘っぽいドキュメンタリーを見るより最初からドラマとわかっているERのほうが真実味があって専門家がみるとおもしろいのである.

新聞もそうだけれどメディアの方々に医師と同じだけの医療知識がないのなら記事や番組をつくる時には医師からみても本当の専門家と思えるような医師にチェックをしてもらったらどうだろうか.

今夜も当直

2003年11月18日 その他
 WEBLOGをサーバーに立ち上げようと思っていたら思わず居眠りをして時間がなくなりGoogleで参考資料を探してたらここに日記をつくるほうが楽だということになった.

 医療をめぐる最近の問題があまりに多いのでそれらについて医療の現場から脳神経外科医として感じる点を勝手に書いてみたくなった.

 読んでいただける方にはあくまで一個人の意見としてとらえていただきたい.

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