『細田官房長官は同日午後の記者会見で、「今までになく低年齢化した親しい友人間の小学生の犯罪。未遂にとどまったわけでもなく、重く重く受け止めるべき問題だ」と指摘した。そのうえで、「そういったなかで誤解のあるようなことを話すことは適当でない。発言はきちっと訂正すべきだ」と発言を批判した。
 しかし井上担当相は、細田長官から注意を受けた後の同日夜の会見でも「真意が伝わらなかったのは残念。一般論として女性が強くなったと言ったもので不適切だとは思っていない」などと強調した。』

一般論として言わせてもらえば世間の目をうまくごまかせないようでは政治家は務まらない.小泉首相はその点では類稀な才能を持った首相なのだろう.

さて問題の人物であるが,彼は現在の状況の把握ができないだけでなく過去から学ぶこともできない人としか思えない.前言撤回できないばかりに大臣の席から去っていった政治家がいかに多かったかも知らないのだろう.もっとも今さら謝ってもその思いやりのない発言は取り消しようもないが,さらにこんな発言をするとはただの自爆行為であり政治家としての存在感すら失った.

女性が強くなったといいながら自分自身が男らしさや潔さのない男の代表になってしまっているところがまことに哀れですらある.だれか心ある政治家が彼にそっと引導を渡してくれることを願うばかりである.良識ある人たちは政治家にまた大きく失望したことだろう.
『日本相撲協会は、大相撲名古屋場所(7月4日初日・愛知県体育館)の升席での喫煙自粛を観客に呼び掛けていく方針を固めたことが、3日分かった。同協会名古屋場所担当部長の大島(おおしま)親方(元大関旭国(あさひくに))は「観客には子どもさんも多く、なるべく升席で喫煙しないようお願いする。すぐに全面禁煙ということではない」と説明し、場所中は張り紙や場内放送で協力を要請し、喫煙場所を設けるなど分煙対策を講じるとしている。年に6度ある本場所では、土俵だまり(砂かぶり席)といす席は禁煙だが、飲食しながら観戦を楽しめる升席は、伝統的に喫煙自由とされてきた。愛知県体育館は通常決められたスポット以外では禁煙としているが、大相撲開催中に限り升席での喫煙が認められている。ただ昨年5月に公共施設の分煙を明記した「健康増進法」が施行されたことなどを受け、同体育館を管理する愛知県教育委員会が、受動喫煙防止の協力を求める要望書を、名古屋場所を共催する日本相撲協会と中日新聞社に近く提出するという背景もあった。喫煙制限の動きは、現時点では名古屋場所に限ったことで、同協会の北の湖(きたのうみ)理事長(元横綱北の湖)は「(年に3場所開催の)両国国技館はこれまで通りにやっていく」と方針を述べた。』

日本の国技の伝統と観客の喫煙とはなにか関係があるのだろうか.以前から日本相撲協会は升席での禁煙に反対の立場をとってきたので今回の名古屋場所での喫煙自粛は評価してもよいかもしれない.だが,それには相撲協会にしてはという条件をつけなければならない.北の湖理事長にはもっと一般の世の中のことに敏感になってもらわなければいずれこの国技はさらなる衰退をまねくことになるだろう.

愛知県体育館は通常決められたスポット以外では禁煙というのが一般社会でのルールであり大相撲だけがなぜ例外になるのか理解できない.さらに両国国技館はこれまで通りという発言は国技館は神聖な場所であるから一般社会のルールには従わないとでも言っているように聞こえる.これには良識ある人であればものいいを付けたいところであろう.

大相撲が伝統的国技であろうが,一般社会のルールを超えられるかのような錯覚は国技を守る者のすることではない.ちいさなことのように感じるかもしれないが,升席で喫煙する大人たちがいるようでは子供たちに社会のルールを教えることはできない.こういうところから子供たちにルールを知ってもらうことが大切であり,升席だから喫煙してもよいなどという傲慢な大人にはなってもらいたくないものだ.

『長崎県佐世保市の小6同級生殺害事件をめぐり、井上喜一防災担当相は4日の閣議後会見で、家裁送致された加害者が女児だったことについて「どこの社会も元気な女性が多くなってきたということですかな」と発言し,さらに「女ですからな。男がむちゃをやってということはあったかも分からないけど、女の子(のこうした事件)は初めてじゃないか」と述べ、「最近はもう男、女の差がなくなってきたんだね」と感想を漏らした.』

この発言にはさらに驚いたが,社会に影響力をもつ人物であればこそ良識を疑われるような発言は厳に慎んでもらいたいものである.正直言って最近の政治家の見当違いな発言にはもううんざりしている.
『日赤は、過去にさかのぼって進めていた献血血液の追跡調査をほぼ終了し、1日開かれた厚生労働省血液事業部会安全技術調査会で結果を報告した。調査した約1万7000本のうちエイズウイルス(HIV)やB、C型肝炎ウイルス混入が確認されたのは計210本で、多くが輸血に使われ6人が感染していた。日赤は併せて、献血血液の追跡調査を確実に行うためのガイドライン案も調査会に報告した。近く全国の血液センターに周知する方針。日赤の報告によると、追跡調査は1999年4月以降の出荷分のうち、献血時にウイルス感染が判明した人の過去の献血血液を対象に実施。保管検体を詳しく再検査した結果、B型肝炎ウイルス(HBV)が207本、C型肝炎(HCV)が2本、HIVは1本に混入していた。献血血液は通常、50人分をまとめて検査するため、感染直後でウイルスが微量だと、検査をすり抜けることがある。210本は適合血液とされ、輸血された患者のうち5人がHBVに、1人がHIVに感染した。追跡調査は昨年6月、日赤の対策が不十分と分かり厚労省が指示した。』

この際,輸血の適応をより厳密に規定する必要があるだろう.
『医療事故につながりかねない「ヒヤリハット事例」の報告制度に、5月28日時点で医療機関1023施設が参加登録したことが31日、分かった。事例を集めて分析し再発防止に生かす制度で、厚生労働省が本年度から全国の医療機関に参加を呼びかけていた。参加数は2003年度の4倍増。厚労省医療安全推進室によると、全国約9000カ所ある医療機関の9分の1もの施設が参加した報告制度は初めてという。31日の厚労省医療安全対策検討会議ヒューマンエラー部会で参加数が報告され、同省はホームページで特に注意喚起が必要な事例の公表も始めた。ヒヤリハット事例収集は03年度まで、大学病院や国立病院など計約250病院を対象に実施していた。内容をより充実させるため、本年度から全国すべての病院・診療所に対象を拡大した。報告は任意で、窓口は財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)が担当。医師や看護師、安全管理専門家などで構成する専門チームで分析し、結果を情報提供する。医療事故についても今後、報告を受け付ける。重要事例を公表するホームページはhttp://www.hiyari-hatto.jp/

病院の事故防止委員会の委員を1年もやれば人間のミスと言うものはなくならないだけでなく同じことの繰り返しであることがわかる.だからこそ重要事例を公表する必要もあるのだろう.

もう,それこそ何年も事故防止のためにいろんなアイデアを出してきたが医療事故は決してなくならないということもわかった.あきらめずに取り組んでいくしかないのだが,個人の危機管理意識には差がありなかなか一筋縄ではいかないものだ.

最近のニュースでは2%と10%のキシロカイン(リドカイン)の取り違いが相変わらずよく起こっているようだが,これなど同じ薬物でも濃度で商品名を変えればどうだろうか.それから危険な薬には他の薬とは明らかに違う危なそうな名前や色をつけてあげることも効果的ではないだろうか?医師であっても自分で処方したことがない薬なんかではよく知らないものがあるのだから.

いずれにしてもありきたりの注意力では医療事故は防げないことは明らかでもう私は何が起きても驚かないことにしている.医療関係者でない方は病院がいかに危険なところであるか上記リンクでも参照してヒヤリハットしてみてはどうでしょう.
『臓器移植法施行から昨年末までに、脳死になった患者の臓器提供を経験した25病院のうち半数以上の14病院が、2度の法的脳死判定の前に行う臨床的脳死診断を撤廃した方がいいと考えていることが31日までに、厚生労働省研究班の調査で分かった。撤廃は、厳格に進めてきた脳死判定手続きの簡素化につながるだけに、議論を呼びそうだ。研究班の北原孝雄(きたはら・たかお)北里大助教授(脳神経外科学)は「提供病院側の人的、時間的な負担は重い。同じ検査を3回もする必要はないとの趣旨だが、批判を恐れる心理も根強いようで、撤廃反対も予想より多かった」と分析している。同助教授によると、臨床的脳死診断の手順は、人工呼吸器を外して自発呼吸の有無を調べる「無呼吸テスト」を原則的に行わない以外は、その後2回実施する脳死判定と同じ。研究班は今年、各病院の脳死判定責任者らに質問票を送付し、脳死診断を撤廃すべきかどうか尋ねた。撤廃賛成は14病院、反対が9病院、どちらとも言えないが2病院だった。このほか、臨床的脳死診断で行ったのと重複する検査を1回目の脳死判定で行わなくてもいい?と18病院が回答。反対は7病院だった。研究班は「手続き論的な臨床的脳死診断は必要のない時期に来ており、意味を成さなくなっている」と結論付けている。』

『小松美彦(こまつ・よしひこ)東京海洋大教授(生命倫理学)の話 臨床的脳死診断は本来、治療方針を決めるためのもの。撤廃で提供病院の負担軽減を図るのは、脳死移植を前提とした本末転倒の議論で、手続きの意味をゆがめている。患者を危険にさらす無呼吸テストを含む法的脳死判定の開始を、医師が必要以上に早めて繰り返すことにも通じかねず、絶対に撤廃を許してはならない。』

各病院の脳死判定責任者は移植前提の脳死判定に嫌気がさしているのだろう.やるなら法的脳死判定だけで勝手にやってくれというのが本音だろう.臓器を提供したい患者と臓器を移植されたい患者がいるならあとは脳死が成立すればいいわけでそこに主治医の治療方針など関係ないというのだろう.「手続き論的な臨床的脳死診断は必要のない時期に来ており、意味を成さなくなっている」とはそういう意味ととれる.法的脳死判定を先にやって脳死でないと判定されてから治療方針を考えるのもありなのかもしれない.だが,てっきり脳死と思って法的脳死判定をしたら脳死ではなかったなんてことになったら主治医も家族もさぞかし気まずいことだろう.

もし脳死でなかったら脳死になるまで待つのだろうか,なんのためにそこまでして臓器移植をする必要があるのだろうか?最近は堕胎した胎児の細胞を移植するなどという話もあるが病気の誰かのために脳死にされたり堕胎する時代になってもこれを医学の発展というのであろうか.

禁煙しましょう

2004年5月31日
『米政府は31日の世界禁煙デーを前に、喫煙の健康影響に関する報告書を発表。報告の責任者のカルモナ米医務総監は「喫煙の害は、ほぼすべての臓器に及ぶ」と明快に結論付けた。報告書は、世界の主要論文の検討を基にまとめられた。肺がん以外にも腎臓がんや白内障など多くの疾患について、喫煙が原因であることが新たに分かってきたと指摘。また「65歳以上で禁煙しても、喫煙に関連した病気で死亡する危険を大幅に減らせる」として、年齢にかかわらず禁煙するよう訴えた。
報告書によると、喫煙との因果関係が最近判明したのは、腎臓がんと白内障に加え胃がん、膵臓(すいぞう)がん、子宮頚(けい)がん、急性骨髄性白血病、肺炎、腹部大動脈瘤(りゅう)、歯周炎の計9疾患。これまで関連が知られていたものと合わせ、喫煙が計36の疾患や異常の原因になっているとした。一方、前立腺がんや勃起(ぼっき)不全などについては「喫煙との関連を指摘する研究があるが、現段階では因果関係があるとまでは言えない」としている。』

『世界保健機関(WHO)の李鍾郁(イ・ジョンウク)事務局長は28日、世界禁煙デー(31日)にちなんだ声明を発表し、昨年のWHO総会で採択された「たばこ規制枠組み条約」の発効に向けて各国が一層努力するよう要請した。事務局長は声明で「世界では喫煙を原因とする病気で6.5秒に1人が死んでいる。たばこの消費量が増加している地域もある」と指摘、条約発効により「強力なたばこ規制の手だてができる」とし「署名と批准を急いでほしい」と訴えた。同条約には28日までに118カ国と欧州連合(EU)が署名、シンガポールやインドなど16カ国が批准している。発効には40カ国の批准が必要。日本は署名済みだが、批准していない。発効に向けた署名手続きは6月29日でいったん締め切られるが、批准には期限がない。』

最近レストランなどでも日中は禁煙となるところがでてきたが,夜間はなぜそうならないのか?相変わらず喫煙者が優先する日本の現状には我慢がならない.喫煙者に非喫煙者と同じ保険料で健康保険を適用するなどもってのほかである.せめて保険料を同じにするならたばこ税に喫煙被害による健康保険料増加分の上乗せをして健康保険に還付するのでなければ非喫煙者は喫煙者のために余計に保険料をはらってるようなものである.

ついでだが科学的データで明らかな害が証明されているにもかかわらず喫煙している医師や看護師は医療従事者たる資格がないと言ってもかまわないであろう.たばこ臭い医師や看護士にたばこの害について話す資格はないし,わかっていても改善できないのでは医療従事者たる資格はないと思う.

ついに実例が...

2004年5月30日
『名古屋大病院(名古屋市昭和区)に勤務する一部の医師の勤務時間が労働基準法で定める上限を超えているとして、名古屋東労働基準監督署が同病院を指導していたことが24日、分かった。
同病院などによると、一部医師の労働時間が夜間の当直勤務の時間を含めると法定の週40時間を超えていたという。同病院職員の勤務については、独立行政法人化に伴い4月1日から民間事業所と同様に労働基準法に従うこととされたが、同病院は、当直を勤務時間に含めなかった3月以前の扱いを踏襲していた。
同労基署は当直の勤務について、入院患者の見回りや急患があるため通常の労働時間に含めるべきと判断した。同病院は「労働基準法に合うよう、勤務体制を見直したい」としている。』

この計算法だと私も週40時間は越えていることになるのだろう.今後公的病院では当直を含めて週40時間というのが一般化していくのだろうか?当直を含めて40時間にしたら医師不足で外来ができなくなるにちがいない.
『福岡県は28日、経営難に陥っている5県立病院のうち4病院を他の医療機関に移譲、残る1病院を公設民営化するための手続きを定めた条例案を6月定例県議会に提出することを決めた。県によると、県直営病院が全廃されるのは全国で初めてという。移譲されるのは朝倉(甘木市)、柳川(柳川市)、嘉穂(穂波町)、遠賀(岡垣町)の4病院。精神医療を行っている太宰府病院(太宰府市)は県の設置が義務付けられているため、外部委託の公設民営化とした。県は条例案が可決されれば、来年春までに朝倉、遠賀の2病院の移譲と太宰府病院の民営化を完了したい考え。残る2病院は3病院の進行状況をみて移譲時期を判断するとしている。
また、先行する3病院の医師や看護師の退職を促進するため、退職金の割り増し措置を定めた条例案も提出する。』

地方自治体病院についていろいろ書いてきたが噂をすればなんとやら,福岡県は病院を維持することをあきらめたようだ.

今の診療報酬制度は自治体病院のような中規模病院が一番不利な条件になるように医師会が圧力をかけたとしか思えない.開業医が潰れるのには絶対反対する医師会と公的病院は赤字でも自治体が補填してやっていくだろうというもくろみの妥協の結果ということなのだろうか.

だが,現実には自治体病院は自治体にとってどんどん重荷となっている.だから自治体が破産するまえに自治体病院を廃業するという考え方はもっともである.だが,その結果として地方の住民は営利目的に変わった病院に診てもらうしかなくなってしまうだろう.このように質が低下すると自治体に病院に関する文句を言うこともできなくなるのである.

福岡県に限らず今後このような地方自治体が増えてくるだろう.介護保険も特に地方で都市部に比しての費用の増加と質の低さが問題になってきているが医療についても今後同様の状態悪化が問題になるのだろうと思われる.
『--当直月10回など過酷勤務、500救急病院にメス--
夜間の小児救急などで医師の過重労働が問題化する中、厚生労働省労働基準局は、当直勤務の実態が労働基準法に大きく違反している約500の救急指定病院を対象に、初の全国一斉立ち入り検査に乗り出す。「週1回の当直が限度」や「夜間に十分な睡眠がとれる」など、同法の規定の徹底を図り、改善が見られない場合は、当直許可の取り消しを含め厳しく指導・監督する方針。医師の労働環境改善で医療の質の向上も期待できるが、医師不足の地域では、医療機関の集約化などの対応を迫られそうだ。労基局は、当直の許可を出している全国約6600の救急病院に対し、医師の勤務実態の自主点検を求め、〈1〉明確な報告がない〈2〉改善指導に応じない――など、問題が多い500の救急病院をリストアップした。6月いっぱいで立ち入り検査を行い、問題がある場合は当直許可を取り消して、複数の医師による交代制の導入など抜本的な勤務体制の見直しを求める。4月から同法が適用された国立病院、国立大病院についても、厳しくチェックする。当直や休日の勤務については、事業所が都道府県の労働基準監督署に届け出て許可を受けなければならない。病院の当直勤務は、「ほとんど労働していない状態」(労基法の規定)が前提だが、小児救急など患者がひっきりなしに訪れる医療現場では、「忙しくて仮眠する時間もない」(都内の小児科医)のが実情だ。「当直は週1回で、翌日は勤務を軽減する」との規定も、空文化している。特に地方では事態が深刻で、長崎大病院が今年3月、県内で小児救急を扱う20病院(医師58人)を対象に実施した調査では、時間外労働は週平均21時間で、「月10回以上の当直」も1割あった。当直明けの勤務の軽減は9割が「ない」と回答。「ひと月間に休みがゼロ」も4割を占めた。こうした実態は、労基局も把握してはいたが、病院側には応診義務があることに加え、夜間に小児患者が殺到するなどの状況もあって事実上、違法状態が放置されたままになっていた。しかし、東京都内の小児科医が、過労からうつ病を患って自殺(1999年)したり、大学病院の新人研修医が過労死認定(2002年)されたりという事例などをきっかけに、過酷な勤務に耐えかねた医師の「現行の当直体制は労基法違反」という訴えが目立つようになった。「医師の過労は患者にとっても危険」との世論が高まったこともあり、労基局は指導・監督の強化を決めた。
◆医師の当直=医療法では病院に医師の「宿直(当直)」を義務付けているが、労働基準法では、これをほとんど仕事のない留守番的なものと想定している。労基法は、夜間・休日の診療体制について、多数の患者の治療にあたるなど勤務実態が異なる場合には、交代勤務や超過勤務扱いでの対応を求めている。』

私が脳外科医になった頃から当直時に急患が来たら診察するのが当たり前だったが現在はこれが違法行為になるらしい.当直勤務は、「ほとんど労働していない状態」(労基法の規定)が前提というのもこの記事で初めて知った.

要するに私は今まで労働基準法違反とは知らずに一生懸命はたらいていたということになるのだろうか.病院長や医師派遣をしていた教授や医局長はこのことを知っていたのだろうか.悪いことをしていたとは思わないが,労働基準法違反なのであれば医師だからといって勤務医が病院の経営のために救急患者への対応をする必要はないだろう.

私が大学院生のころは1ヶ月10回の当直どころか15回やったこともあるのだ.大学での当直なんかは本当は正規の職員である教授から助手がやるものを大学院生がやって当直料は一部しかもらっていなかったなんてことまであったことが最近わかったぐらいである.

現在も週1回の当直はあたりまえだし救急患者も理由無く断ることなどない.そもそも救急指定病院なのだから断るわけにはいかないだろう.当直医は救急担当も兼任するのが常識なのがこの業界なのである.

地方の自治体病院の病院当直医は1人で救急患者すべての診察を必ずやり必要なら専門医を呼ぶというのが多くの病院での当直業務であろう.しかも院長や副院長が当直するなんて話は聞いたことがない.公的病院では早急に救急診療の体制の見直しをせまられるだろう.

だが,現実には当直の回数を労働基準法で定めた範囲にすると当直医が足りない病院がたくさんあると思われるが,こうした病院はどういうことになるのだろうか.結局,これも新手の病院潰しなのかもしれない.

医師の名義貸し問題にはじまり地方医療にとってはさらに厳しい時代になったと言える.
『山形県酒田市の県立日本海病院の医師らが、同県庄内地方の70代女性の心臓疾患を見落とし、女性が死亡していたことが27日分かった。県は医療ミスを認め、酒田署が業務上過失致死の疑いもあるとみて調べている。県によると、女性は21日午後、自宅で入浴中に胸部の不快感を訴え、同夜、救急車で同病院に搬送された。心臓の専門医はおらず、当直医の耳鼻科担当の医師が診察。心電図やエックス線検査で異常がないと診断し帰宅させた。22日正午ごろ、女性が再び胸の異常を訴え、病院に運ばれたが、専門医ではない別の当直医が診察。血液検査で異常はないと診断、帰宅させた。しかし、女性は23日午後7時ごろ自宅で倒れ、午後8時ごろ、同病院で死亡が確認された。死亡後、専門医がエックス線写真などを調べ、21日の時点で心臓に異常があったことを確認したという。
 同病院の斎藤政雄(さいとう・まさお)事務局次長は「このような医療ミスがニ度とないよう対応したい」と話した。』

この記事だけを読むと2人の病院当直医が自分の専門でない心疾患の急患を誤診して結果的に死亡したということらしい.自分の専門でない疾患を誤診してもなんの不思議も無いから循環器専門の医師を呼ばなかったことがミスだというべきなのだろう.

だが,こういう状況すべてにおいて専門医を呼び出している地方自治体の救急病院はどのくらいあるのだろうか?要するに全科の医師が休日に待機していればいいのだろうが,そんなことをやっていては救急診療はコスト的に引き合わないだろう.

地方の総合病院で病院当直は通常1人であるし専門医を呼んでも場合によっては来てもらえないこともあるだろう.そんな時にはいったい誰の責任になるのだろうか.私も以前に小児の虫垂炎を疑ったが小児科,内科に来てもらえず外科に相談したこともある.

救急患者を診たときに少しでも専門外の疾患を診れることは医師の基本姿勢として評価できるし,そのためにはこの春からの研修医制度は少しは役立つのかもしれないが,脳血管障害や頭部外傷のことを考えたとき専門医以外だと見落とす可能性のある病態は意外にたくさんあることは脳外科医以外にはあまり知られていないと思うし,脳外科は必修研修科目でもないから2年の研修を受けてもきっと見落とすだろう.

同様のことがそれぞれの診療科にあるはずなので,地方の自治体病院で救急をやりこのような医療ミスを完全になくそうと思えば医師に相当の努力と忍耐を強いることになるだろう.要するに人手が足りていればいいわけであるがただでさえ地方の自治体病院は経営状況も悪く赴任を希望する医師も少ないわけであるから,コストも上がらない救急医療で事故をおこすぐらいなら休日の救急診療は責任を持てないからやめようという病院が現れてきてもおかしくないだろう.

絵に描いた餅

2004年5月26日
『大学病院から地方病院への医師派遣など地域医療をめぐる問題を協議するため、北海道は24日、医学部を持つ道内3大学、公立病院を抱える自治体、民間病院などを交え「北海道医療対策協議会」を設置。地方病院への医師派遣を、3大学横断的に統一して調整するシステムを提案した。道によると、このような制度は全国初の試み。同システムは、各大学との個別交渉で医師派遣が認められなかった市町村のため、道を中心に、3大学や民間病院、自治医大卒業生などと幅広く派遣医師を調整する。来年度からの運用を目指し、8月の第2回協議会で正式に承認を得たいとしている。
24日の第1回協議会では、自治体側から「医師の数が足りないのだから、派遣窓口を一元化しても、うまくいくわけではない。国の医師養成の問題だ。道は国と対決するつもりはあるのか」などと詰め寄る意見が出た。医師の名義貸し問題などがきっかけとなり、全国的に医師過疎地域への効率的な医師派遣が求められている。』

結論から言わせてもらえば最も効率的な医師派遣を維持していたのが大学の医局制度だったのだが,名義貸しにからんで医局そのものが弱体化し医師派遣を維持することができなくなったというのが現実だろう.

そもそも医師の絶対数が不足しているのに医師の都市への集中が過疎地域での医師不足をさらに加速しているということもあるのだろうが,地方の病院にはいろんな点で医師からみて働きやすい環境がないということも忘れてはいけないだろう.要するに地方の病院は医師にとって職場としての魅力がないのである.

地方自治体の方にもわかるように具体例をあげると
1.大都市から遠い.
2.古い公宅も含め住環境が悪く事務職員の対応も悪い.
3.自分の入院患者はいないのに経営状態の話ばかりする院長
4.働かずに入院患者数や診療報酬の話ばかりする固定の部長
5.固定医より若いローテーション医師の給与を下げる議会
6.医師不足による休日返上を含む拘束時間の増大
などが若い医師にとっては問題だろう.

まだまだあるだろうがこのうち3つでもあればそんな病院に就職する医師は他の病院では雇ってもらえない医師か医局の命令でローテーションで来た医師だけだろう.その医局主導のローテーション制度が今まさに崩壊しつつあるということだ.だから地方自治体が経済的に行き詰っていくなかで地方病院の医師集めはこれからますます困難が予想され,病院の業績が悪化すればそれがさらに自治体財政の悪化へとつながっていくはずである.

これは医師数だけを増やしても改善はしないだろう.理想をかかげても環境の悪いところにいい医者は集まらない.現在は国立病院から医師離れが起こっているようだが経営状態の悪い公的な中規模病院からは優秀な医師はどんどんいなくなっていくと思われる.地方の公立病院はその点でもっとも経営の危ない病院であるからわざわざ希望する医師はいないだろう.もっとも地方の中規模病院の経営を悪化させているのは厚生労働省の診療報酬改定であることを忘れてはならない.

こんな状況で道が3大学や民間病院、自治医大卒業生などと幅広く派遣医師を調整するなどといっても非現実的であろう.おそらくこれら3大学の医局にはもう人的余力はないだろう.そもそも大学病院自体がこれから生き残りをかけて診療や研究に力をいれなければならない時期に地方の病院のことなどかまっていられないというのが本音だろう.大学病院の医師も名義貸し問題からアルバイトがしにくくなって困っているからといって地方病院に就職を希望するわけなどないだろう.

道による全国初の試みははじめから無理なような気がする.こんなことをやってる暇があるのならせめて道立病院や道立札幌医科大学附属病院で働いている医師の待遇改善でもしてあげれば医療の質も向上すると思うのだが.
『伝染性海綿状脳症の一種スクレイピーにかかった羊の筋肉から病原体の異常プリオンを検出したと、フランス・トゥールーズ獣医大などのグループが24日、米医学誌ネイチャー・メディシン(電子版)に発表した。異常プリオンが食肉になる動物の筋肉から検出されたのは初めて。厚生労働省は、スクレイピーの羊を食べて人が感染した例はない上、国内では生後1年以上の羊を全頭検査していることから、国内の羊肉で健康上の問題が出ることは考えにくい、としている。スクレイピーは神経系が侵されて死亡する羊の病気。牛海綿状脳症(BSE)や人のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)と同様に、タンパク質の一種である異常プリオンが原因で起きる。研究グループは、自然にスクレイピーに感染した羊や、異常プリオンをえさに混ぜて食べさせた羊を調べた。その結果、自然感染の羊では、症状が出る前の生後13カ月半でも筋肉から異常プリオンが検出された。えさに混ぜた場合では、生後12カ月で検出されたケースもあった。筋肉中の異常プリオンの量は、プリオンが蓄積しやすい脳に比べ5000分の1と少なく、感染力は低いという。異常プリオンの筋肉からの検出はこれまで、実験的に感染させたマウスや変異型CJD患者での例が報告されている。』

『山内一也(やまのうち・かずや)東大名誉教授の話 牛の場合では、牛海綿状脳症(BSE)の牛の肉を別の牛の脳に接種して感染性を調べる実験が英国で行われているが、感染したとの報告はない。欧州連合(EU)でも、ネズミの筋肉から異常プリオンが見つかった際に牛肉の安全性が議論されたが、新たな対策を取る必要はないとの結論が出ている。科学的検証は必要だが、直ちに安全性が問題になることはないのではないか。


直ちに問題にならないとはいずれ問題になるかもしれないがという意味なのだろうか.プリオン病はすぐには発症しないだろうからそれはそうだろう.現在は非常に稀な感染症でもあるのですぐには問題にならないともいえる.だが,私が学生のころはAIDSでさえ稀な病気だったことを忘れてはならない.

焼肉で感染してもあまり問題にならないが輸血で感染したらそれこそ大問題となってマスコミのいいネタになりそうである.

輸血の安全性は?

2004年5月24日
『21日付の英紙タイムズによると、英国人約1万2500人を対象にした病理学検査で、牛海綿状脳症(BSE)や変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の病原体となるタンパク質、異常プリオンが3人から発見された。従来の標準的な予測より高率で、計算では英国全体で3800人前後が異常プリオンを持っていると推定される。異常プリオンが発症に直結するかどうかは不明だが、輸血などを通じて保有者が拡大している恐れがあるという。研究結果は病理学ジャーナルの最新号が掲載。同紙によると、英国ではヤコブ病が原因とみられる死者が毎年20人前後、累計で計141人に上っている。』

輸血の際に異常プリオンも検査しなければならないとするとまたコストがかかるし,検査で完全に予防できるのかとか異常プリオンの存在と発症の関係もわからなければ検査の意味もわからない.

今朝の新聞には羊の場合は筋肉にも異常プリオンが存在することがわかったようだ.となると羊肉から感染することもあるのだろうか?牛肉ではどうなのか?いろいろ心配しだすときりがない.なんとなく恐いので,狂牛病さわぎ以来焼き肉からも遠ざかりがちではあるがいっそのこと菜食主義になったほうが煩わしくなくなるかもしれない.

例によって日本ではまだ何も言われていないが,ほんとうに輸血は安全なのか非常に疑わしい状況である.そういえば,AIDS感染者の献血でのすり抜けの件はどうなったのであろうか.
先日,脳神経外科のある他の病院で脳ドックを受けて3D-CTAまで行って脳動脈瘤を疑われた患者さんが脳血管撮影を勧められたがその必要性に疑問を持ち私の外来に検査結果を持参して受診された.

私はその結果を見せていただいたところ確かに直径2−3mm程度の動脈瘤はありそうだった.もしあったとして手術治療を希望するのかとたずねたところはっきりと希望しないとの答えだったので,これ以上の検査はお勧めしなかったのだが,こんな話のためにわざわざ紹介状を書いた脳外科医のほうに私は疑問を持った.

なぜなら脳ドック学会のガイドラインでは少なくとも脳動脈瘤の最大径が5mmはないと手術を勧めるようなことはないのと,5mm以上の大きさのものではMRAのみでも診断できるからである.だから2−3mm程度の動脈瘤の診断をつけるだけのためにヨード系造影剤を使用する侵襲的な検査は行うべきではないと思う.

そもそも手術を希望していないのであるから今後動脈瘤が大きくなったりしないかどうか経過観察することが重要であって,現時点では脳ドックのガイドラインに従えばそういう結論になるはずなのだが,なぜさらに血管撮影などという非常に侵襲的な検査を患者さんに勧めたのか理解できなかった.

いったい全国でどれだけの患者さんがこのようにして検査を勧められているのかわからないが,これは患者さんにとってというより病院にとってのメリットが優先されているような気がしてならない.患者さんも自分自身のために検査を受ける前にきちんとメリットとデメリットについて説明を受けるべきであろう.

今回はもういちど担当医とよく相談するようにお話して帰っていただいたが,患者さんも脳ドックをとりあえず受けて,とりあえず精査するようなことはやめて,脳ドックを受ける前に異常が見つかった場合のことを考えておいたほうがいいだろう.
『 --脳波調べず「脳死」と判定 道立羽幌病院の呼吸器外し--
北海道羽幌町の道立羽幌病院で2月、主治医(32)が男性患者(90)の人工呼吸器をとりはずして死亡させた問題で、主治医の女性医師(32)は脳死の診断に一般的に必要な7項目のうち脳幹の反応をみる対光反射しか実施せずに、患者の家族に「脳死状態」と伝えていたことが、カルテの記述などからわかった。
 同病院の佐藤卓院長によると、男性患者が昼食をのどに詰まらせて心肺停止状態で搬送されてきたのは2月14日午後1時過ぎ。蘇生措置で心臓が動き出した後、主治医は家族に、自筆の入院診療計画書を手渡した。 計画書の「考え得る診断名」の項目には「脳死状態(誤嚥(ごえん)による窒息)」とあり、治療計画の項目には「心拍は再開しましたが、大脳皮質、脳幹の機能は停止しています。人工呼吸器で生命維持の治療を行います。脳の回復の見込みはありません」と、脳死状態であることを伝えていた。
 正式な脳死判定より前に実施される脳死の診断では、脳幹の反応をみるための対光反射や角膜反応、気管支にカテーテルを入れる咳(せき)反射など7項目が一般的に必要で、さらに脳波を測定しなければならない。しかし、カルテを見る限り、主治医は、このうち対光反射を実施しただけだったという。 男性患者は最高血圧が一時120まで回復したが、翌15日午前9時ごろに50を切り、同10時ごろには30〜40まで落ちた。 主治医は家族から「話をしたい」と面会を求められ、「長い余命は望めない」と説明。家族からは「延命措置には及ばない。人工呼吸器を外してほしい」と要請された、と佐藤院長に説明したという。 主治医が書いた15日のカルテには「長男より、子ども全員で話し合った結果、脳死状態のため、レスピレーター(人工呼吸器)を外してほしいと申し出があった」「10時40分、(家族)3名同席でレスピレーターを外した」「10時55分、永眠」とある。
 病院側は「もともと余命は数時間だった」と説明するが、それではなぜ主治医が呼吸器の取り外しを急いだのか、はっきりしない。佐藤院長は「呼吸器を外すまでの治療内容には全く問題がなく、むしろよく蘇生できたと思えるほどだった。それだけに、理解に苦しむ行動だ」と話した。
 一方、この女性医師は00年1月にも、当時勤務していた北海道名寄市の市立総合病院で、40代の女性患者の家族に呼吸器外しを提案していた。 同病院の佐古和広院長によると、患者は00年1月初旬、気管支ぜんそくや慢性閉塞(へいそく)性呼吸障害などで入院、意識不明となり、人工呼吸器を装着。同月中旬、心停止状態に陥り、医師が蘇生させた。 その際、女性医師は家族に「今度心停止を起こした時は人工呼吸器を取り外すことを考えて欲しい」と提案。カルテには「了解」と記した。患者は女性医師が不在中に急死し、延命措置の停止は行われなかったという。佐古院長は取材に「脳死状態だったか確認はできず、もし呼吸器が外されていれば、法的に問題になりうるケースだったと思う」と話している。』

 脳死の定義を知らなかったのだろうか.とても信じられない事件である.たとえ延命のための処置であったとしても脳死判定を行わないで人工呼吸器をはずすことなど考えられないし,もし行えば違法行為である.脳死状態であれば1週間以内には確実に心停止し死に至るから90歳の患者の延命処置の中止をしてまでも死期を早める意味はどこにあったのか理解に苦しむ.

 まったくの無知なのかよほど医師としての常識に欠けるとしかいいようがなく同情の余地はない.同然のこととして業務上過失致死もしくは殺人罪に問われるのであろう.こんな医師が他には存在しないことを願うのみである.

いい加減な検診

2004年5月11日
今日は外来で患者さんと二人で困ってしまう事態が発生.その患者さんは内科開業医の検診で脳MRIをやってもらい左大脳に小脳梗塞があるから治療したほうがいいと言われたそうだ.そして抗血小板薬まで処方されていた.

大脳に小脳梗塞という検診結果の記載も?だったが,これは小さい脳梗塞というつもりだったようだ.だがこの話の落ちはここではない.私はMRIで再検査したが脳梗塞は見当たらない.どうやらびまん性白質病変(leukoaraiosis)を無症候性脳梗塞と考えたらしい.これは専門医がみればまちがえるような問題ではないのだが脳MRIを見慣れていないと脳梗塞に見えてしまうのだろう.

また抗血小板薬の投与については無症候性脳梗塞でさえ脳卒中ガイドラインではグレードC1であり,最近は出血合併症を考えて投与しない方向にあるくらいだからびまん性白質病変で投与するのは明らかにやりすぎと思うので患者さんに説明したところすんなり納得された.

ところが,脳梗塞ではないと言われたのに患者さんはあんまり嬉しそうではない.実はそこの病院で高血圧と高脂血症の薬を今までずっともらって来ているので抗血小板薬だけを断るのにどうすればよいかと考えていたと言うのである.正直に話すときっと検診結果を説明した医師も気まずいだろうということなのか.

最近は検診の弊害がいろいろ言われるようであるが,いい加減な検診を受けてその結果を心配し,今度は異常がないと言われてまた悩みが増えるというのではまるで落語の話のようである.これなら検診など受けないで占いでもやってるほうが医療事故に遭わないぶんだけいいのかも知れない.
『 神奈川県相模原市の北里大学病院(藤井清孝院長)で、20代の研修医が通常の使用量を大幅に上回る不整脈治療剤を70代の女性患者に投与し、患者が死亡していたことが7日、分かった。同病院などによると、男性研修医(25)が4月6日の当直時間の午後11時ごろ、がんで入院していた女性患者(76)の不整脈を看護師から知らされ、不整脈治療剤「リドカイン」を静脈注射した。その後、女性の容体が急変し、数時間後に急性リドカイン中毒で死亡した。リドカインの濃度には2%と10%の2種類があり、10%のものを2%の量で誤って使ったという。
同病院は事故を同県警相模原署に報告。同署は研修医らから業務上過失致死容疑で事情を聴いており、研修医は「処方する量を間違えてしまった」とミスを認めているという。』

『 北里大病院(神奈川県相模原市)で先月、過剰投薬により女性患者が中毒死した事故で、同病院は8日、記者会見し、担当医が指示した量の20倍で高濃度の薬剤を男性研修医(25)が注射していたことを明らかにした。藤井清孝院長は「チェック機能が働かなかった。あってはならないミスだった」と陳謝した。病院によると、4月6日午後11時ごろ、がんの治療で入院中の70代の女性に不整脈が起き、担当医が治療剤「リドカイン」50ミリグラムの静脈注射を口頭で指示。しかし研修医は静脈注射用がないと思い込んだため、より高濃度の点滴用アンプルを使い1000ミリグラムを注射した。直前に看護師が点滴用と気付き「(点滴用の)原液でいいか」と聞いたが、研修医は「いい」と答えていたという。患者は注射から約1時間40分後に死亡し、相模原署が業務上過失致死容疑で捜査している。』

さらに別の投薬ミスのニュース

『 腫瘍(しゅよう)性疾患の治療で秋田大病院(秋田市)に入院していた秋田県の10代の女性が昨年9月、抗がん剤を2倍投与され、急性心不全で死亡していたことが30日、分かった。同病院によると、主治医が誤って、抗がん剤「エンドキサン」を2日間にわたり1日1回2・9グラムずつ投与するところを、1日2回投与。女性は心筋炎などの副作用を起こして投与から5日後に死亡した。主治医が薬剤の投与スケジュール表を書き誤ったのが原因とみられ、病院は「1日1回の投与ならば副作用が起こりにくかった可能性はある」としている。病院は当初、死因を化学療法による合併症としていたが、4月下旬に家族から「研究的な治療だったのではないか」などと調査するよう要請があり、記録などを見直したところ、抗がん剤の2倍投与が判明した。主治医は現在、診療を自粛しており、病院は「何らかの処分が必要」としている。病院は医療ミスで女性が死亡した可能性が高いとして、30日までに文科省などに報告した。』

1例目の事故の原因は自分が使用する薬剤の安全域というものを理解していないという研修医の無知からくるもので救いようがない.こんなこともわかっていない医師は即刻免許停止にすべきであろう.こんな医者がいては私も恐ろしくてとても病院にかかれない.

2例目の事故は実際のところ投与量がわかっていなかったのか,投与方法の指示の誤りなのかこの記事ではあまりよくわからない.無知から起こったのか単純ミスなのか?まあ,どちらにしても抗がん剤投与の危険をあまり認識していないと言う点で救いようがない.

こんな医者が存在するのでは医師が信用されないのも無理はないと私でさえ思ってしまう.まことにお寒い現状である.医師志望の人が多いのは大歓迎なのだが,資質の高い人がなってくれないと今後も医療の質の低下は避けられないだろう.
なぜかはわからないが,何人かの医師志望の方が読んでくださっているようなので医師になるのに持っていたほうがよいと思われる事などを書いてみよう.(今夜の当直はひまなようなので.)

1番目は学力であろう.これをお金で補う方法もあるのかもしれないが,あまり望ましい方法ではない.私の高校で親が開業医の姉弟が当時それぞれ15百万の入学金で私立医大に入学したが同級生には大変ばかにされていた.救急部で一緒に働いた某私立医大出身の医師は何度教えても進歩がないので指導医にあきらめられていた.(でも性格はよかったな彼は.)自分で学ぶことができない者は結局ばかになる(ばかにされる?)しかないのだからやめておいたほうがいいだろう.

最初からきびしいと思うかもしれないが,同期で入学したものの約1割がなんらかの理由で卒業の時にはいなくなっていたのであるからせめて進級できる学力だけはあったほうがいいだろう.それに医師国家試験や専門医試験もかなり大変であったことを思い出した.

2番目に必要なものはセンスである.注射1本するにもセンスが必要である.うまい人はやはり最初から割と上手にやるもんである.練習して上手くなるのも可能であるが,センスのある者が練習するとやっぱりさらに上手くなるわけであるから外科系に進もうと思うならまず自分のセンスと相談したほうがいいだろう.

いい例が中心静脈ルートの確保であるが,鎖骨下穿刺でやると必ずと言っていいほど肺を落とす(気胸をつくってしまう)医師を私は知っている.医師や看護師なら思い当たると思うが,こういう医師はたぶん一生上手くはならないのであろう.別に鼠径から穿刺してもいいのになぜかこういう医師に限って鎖骨下穿刺をしたがるのもセンスの無さを物語っていると思う.

3番目には体力である.これが本当は1番大切とも言えるかもしれない.とにかく忙しいしストレスは多いし大変なのである.かくいう私も学生時代には試験の期間中以外は徹夜などしたくてもできない方だった.学生時代はクラブ活動で忙しかったがそれでも7時間くらいは寝ないと寝不足だった.

脳外科医になって意識的に少ない睡眠時間に適応するようになり現在は5時間睡眠である.12時間くらいの手術なら一人でもできると思っている.でも,最近は12時間も手術するとさすがに疲れを感じるようにはなった.とにかく医師には体力が必要だ.

4番目は書く気がしなくなったが,上記1〜3はどれも必要ではあるが十分ではない.医師に最も必要なものは高潔な精神とでもいうのか正しい判断力とでもいうのか思いやりとでもいうのか,とにかく患者の幸福について考え共感できる能力なのであろう.

医師国家試験に合格して研修を終えれば医師にはなれる.だが,今の世の中は医師であるだけでは尊敬されたりはしないのだ.技能は必要条件であるが,それをクリアしてからが医師の道の本当の始まりということに最近気がついた次第である.

医師志望の方々の参考になれば幸いです.
『受精卵に遺伝病がないか調べる受精卵診断を希望する女性患者らが、日本産科婦人科学会を相手取り「学会指針で実施を制限しているのは幸福追求権を定めた憲法に違反する」として、指針の無効確認などを求める訴訟の準備を進めていることが1日、分かった。患者3人と、同学会に無断で男女産み分けの同診断を実施し除名された大谷産婦人科(神戸市)の大谷徹郎(おおたに・てつお)院長が原告になる予定。損害賠償も含め5月下旬にも東京地裁に提訴するとしている。訴状の骨子などによると、女性の1人は20代で、夫の染色体異常が原因で3回流産。大谷院長が同学会に受精卵診断の実施を申請したが、4月の除名で不受理になった。残る2人は遺伝病を持つ女性と習慣性流産の女性。同学会は1998年、受精卵診断の順守指針を策定。実施対象を重い遺伝病に限定し、男女産み分けへの利用を禁止、学会の審査承認を受けるよう規定した。
 女性らは「学会が承認した例はなく事実上、診断を受ける権利を侵害している」と主張。学会側は「同診断は研究段階で、優生思想につながるとの指摘もある。幸福追求権には、公共の福祉に反しない限り、との制約がある」との見解を明らかにしている。』

原告側の女性の言い分はわからないでもないが,もっとも問題にされるべきなのは学会に無断で男女産み分けの同診断を実施し除名された大谷産婦人科(神戸市)の大谷徹郎(おおたに・てつお)院長のやり方であろう.社会のルールができる前に男女産み分けの診断を既成事実化しようとしたことに問題があるのであり,そのような人物が原告になるのでは原告側の女性の言い分の信憑性が疑われるだけであろう.

学会側にもきちんとした受精卵診断の基準を策定して公開する社会的義務があると思われるが,こうした先端医療に関して一般的な診断を受ける権利を主張するのは医学的な常識からは考えられないことだ.そもそも受精卵診断をしても染色体異常のある受精卵だからという理由で勝手に受精卵を廃棄することを認めることはすなわち優生思想そのものである.

法的規制がなければ学会が指針で実施を制限するのはある意味で自制しているのであり,これら指針が無ければ先端医療は無法地帯となることが理解できないのであろうか.先端医療が社会的に認知され標準的な医療になるまでには様々な過程を経る必要があり当然ある程度の時間は要するだろう.自分たちの目先の幸福のためなら他の何かが犠牲になってもかまわないかのような言い方には嫌悪感さえ感じてしまう.

この裁判がどういう経過をたどっていくのか注目してみよう.
『東大病院で脳腫瘍(しゅよう)の摘出手術を受けた後、投与された麻酔用睡眠薬の副作用で低酸素脳症となり、約5年半も意識不明の状態が続いている大阪市の楊鴻飛(よう・こうひ)さん(85)と妻ら計3人が、東大に総額約1億300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は27日、約6600万円の支払いを命じた。
菅野博之(かんの・ひろゆき)裁判長は「呼吸困難などの重大な副作用が頻繁にある強力な薬なのに、技量未熟な研修医が1人でかなりの量を急速に使用した」と指摘。「呼吸困難になった場合の治療態勢を整えるべきだったのに怠った」と研修医の過失を認めた。判決によると楊さんは1998年9月、東大病院脳神経外科で手術を受けた。手術は成功したが、入院中に意識障害を起こし病室内で歩き回ろうとしたため、研修医が深夜、超即効性睡眠薬を2回にわたり静脈注射。一時呼吸停止となり、蘇生(そせい)はしたものの、低酸素脳症で意識不明の状態が続いている。楊さんの妻、杜雲峰(とうんぽう)さん(83)は判決を受け「東大は事故当時に指導医が不在で当直医にも連絡が取れなかったことを、裁判で判明するまで隠していた。薬剤の使用などに非はなかったとする不誠実な態度は医師としても人間としても許されない」と話した。』

先日テレビでこの件をやっていたが,患者さんの娘とその夫も医師で医師が大学病院を訴えたというのが話題になっていた.この記事でもまたまた研修医が問題になっているようだが,研修医が技量未熟なのはあたりまえで術後管理や当直を研修医一人でやらせるのは問題なのはわかりきったことである.

だが,このわかりきったことが是正できないのが大学病院なのである.この春から研修医制度がスタートしたため研修医が一人で術後管理することなどないはずであるが,東北大学などではそのかわりに大学院生を使うことを明らかにしている.では,大学院生なら事故は防げるのであろうか.

この事故で問題となったドルミカムという薬はホリゾンやイソゾールなどに比べれば安全域が広く使いやすいほうではあるのだが,これらの薬は効果に個人差があり使用には十分な経験を要すると思う.ちゃんと気道確保の準備があればもちろんこういった事故は防げるのだろうが,呼吸停止といった事態はよく起こるのであろう.

東大を訴えた医師がテレビで言っていたのは研修医の過失よりも研修医がひとりで判断しなければならない状況をつくりだした東大脳神経外科の診療体制に問題があるという意見だった.先日の抗がん剤の投薬ミスもそうだったがこれも大学病院の危機管理意識の低さがまねいた事故といえるのかもしれない.

ちなみに東大脳神経外科は日本で一番最初に脳神経外科学講座が開設された伝統ある教室だそうである.

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