『 新潟県五泉市の北日本脳神経外科病院で入院中の女性患者(54)の容体が急変、死亡したことについて佐藤光弥(さとう・みつや)院長は五日、記者会見し「人工呼吸器をいったん止めた看護師が、その後作動させたかどうか覚えていないと話している」と明らかにした。
院長によると、三日午後十一時十五分ごろ、女性看護師(54)が女性のタンを吸引するため人工呼吸器を一時停止させた。
約四十分後、女性が呼吸していないことに別の看護師が気付いた。心拍は一時再開したが、四日午後零時四十五分ごろ死亡した。女性には容体を監視するモニターがあり、異常時には警報が鳴るシステムだったが、作動したかどうか不明という。
佐藤院長は「四十分間人工呼吸器が止まっていたのが、直接の死因になったと考えられる」と説明。「同じことが起きないように態勢を見直したい」と話した。五泉署は、人工呼吸器の扱いにミスがあったとして、業務上過失致死の疑いで調べている。』
人工呼吸器が接続されている患者さんの喀痰吸引の際に気管チューブと呼吸器回路の接続をはずすことはあっても呼吸器を停止することは通常はありえない.この記事は本当なんだろうか.
モニターによる監視も最近では血圧,心電図,酸素飽和度モニターくらいはどこの病院でも行っているはずである.ちゃんと設定されていればアラームが鳴らないわけはない.
この記事が事実ならあまりに奇異な事故である.これを人工呼吸器の操作ミスでかたづけていいのだろうか.
情報があまりに少なくて判断のしようがないが,事故としては不自然な経過なので関係者には慎重に原因を究明してもらいたい.
ところで鳥インフルエンザ騒動で初めて国内での人間の犠牲者が出たようだ.ご存知のようにインフルエンザの感染で死亡したわけではない.危機管理のできない無責任な行政,人に感染したわけでもないのに危機感をあおる報道,あいかわらず何も知らずに騒ぐ消費者,そして現実から逃避する犠牲者.いつもながらの病んだ日本社会の現実がここにある.合掌
院長によると、三日午後十一時十五分ごろ、女性看護師(54)が女性のタンを吸引するため人工呼吸器を一時停止させた。
約四十分後、女性が呼吸していないことに別の看護師が気付いた。心拍は一時再開したが、四日午後零時四十五分ごろ死亡した。女性には容体を監視するモニターがあり、異常時には警報が鳴るシステムだったが、作動したかどうか不明という。
佐藤院長は「四十分間人工呼吸器が止まっていたのが、直接の死因になったと考えられる」と説明。「同じことが起きないように態勢を見直したい」と話した。五泉署は、人工呼吸器の扱いにミスがあったとして、業務上過失致死の疑いで調べている。』
人工呼吸器が接続されている患者さんの喀痰吸引の際に気管チューブと呼吸器回路の接続をはずすことはあっても呼吸器を停止することは通常はありえない.この記事は本当なんだろうか.
モニターによる監視も最近では血圧,心電図,酸素飽和度モニターくらいはどこの病院でも行っているはずである.ちゃんと設定されていればアラームが鳴らないわけはない.
この記事が事実ならあまりに奇異な事故である.これを人工呼吸器の操作ミスでかたづけていいのだろうか.
情報があまりに少なくて判断のしようがないが,事故としては不自然な経過なので関係者には慎重に原因を究明してもらいたい.
ところで鳥インフルエンザ騒動で初めて国内での人間の犠牲者が出たようだ.ご存知のようにインフルエンザの感染で死亡したわけではない.危機管理のできない無責任な行政,人に感染したわけでもないのに危機感をあおる報道,あいかわらず何も知らずに騒ぐ消費者,そして現実から逃避する犠牲者.いつもながらの病んだ日本社会の現実がここにある.合掌
長嶋監督に関する記事を見ていると,そこは報道というよりうわさ話のレベルであることに気づきマスメディアのレベルの低さにあきれてしまう.事実をだけを伝えればよいものを枝葉がついてなにが事実かわからない.これでは一般人はなにがなんだかわからなくなるのも無理もない.
まず,長嶋監督の脳梗塞をいまだに一過性の脳虚血発作の一種のように説明したり,芸能人の小さな脳血栓症と脳梗塞という病名だけで同一視し希望的経過を述べたりと,まあ,心原性塞栓症による脳梗塞がわかっていないからこんな話になるのだろう.
もうひとつ同業者として情けないのは脳神経外科医がコメントを求められて主治医でもないのに長嶋監督の病状を推測して述べたりしていることである.ちなみに主治医は脳神経内科医であるし,患者の個人情報を必要もないのに流すわけにはいかないのだから脳神経外科医が知っているわけもないはずだ.まあ,新聞に名前が出ただけで権威だと思ってくれる患者がいるからついコメントもしたくなるのだろうが.
それにしても同病名というだけで芸能人のそれも小梗塞を例に挙げるのだろうか,これは一般人に長嶋監督も軽症という希望を与えたいのかも知れないが,心原性塞栓症の例としてあげるなら一番有名なのは小渕首相であろう.そう,心原性塞栓症とは死亡する危険もある脳梗塞だということを正しく伝えるのが報道というものであろう.
長嶋監督のことを本当に考えるならば,ここは大事をとるべきであろう.アテネの監督続投という誰かの希望のために長嶋監督軽症説をあえて作り上げるているかのような報道は情報操作にすぎない.医師のコメントも引用するなら全文記載するべきで,一部を勝手な解釈で流用するのはやめるべきである.よろこんで患者情報を記者会見するのは報道に利用されるのみで患者の利益になるとは思えないのである.
たまたま自分の専門領域の報道なので,見ていていろいろなことがわかるのだが,自分の専門外のこともきっとこの調子で報道されているかと思うと情報の信憑性が疑われる.新聞やニュースでわかったつもりになっていることなんて案外こんなもんなんだろう.きっと世の中は私もわかってないことがいっぱいなんだろう.
まず,長嶋監督の脳梗塞をいまだに一過性の脳虚血発作の一種のように説明したり,芸能人の小さな脳血栓症と脳梗塞という病名だけで同一視し希望的経過を述べたりと,まあ,心原性塞栓症による脳梗塞がわかっていないからこんな話になるのだろう.
もうひとつ同業者として情けないのは脳神経外科医がコメントを求められて主治医でもないのに長嶋監督の病状を推測して述べたりしていることである.ちなみに主治医は脳神経内科医であるし,患者の個人情報を必要もないのに流すわけにはいかないのだから脳神経外科医が知っているわけもないはずだ.まあ,新聞に名前が出ただけで権威だと思ってくれる患者がいるからついコメントもしたくなるのだろうが.
それにしても同病名というだけで芸能人のそれも小梗塞を例に挙げるのだろうか,これは一般人に長嶋監督も軽症という希望を与えたいのかも知れないが,心原性塞栓症の例としてあげるなら一番有名なのは小渕首相であろう.そう,心原性塞栓症とは死亡する危険もある脳梗塞だということを正しく伝えるのが報道というものであろう.
長嶋監督のことを本当に考えるならば,ここは大事をとるべきであろう.アテネの監督続投という誰かの希望のために長嶋監督軽症説をあえて作り上げるているかのような報道は情報操作にすぎない.医師のコメントも引用するなら全文記載するべきで,一部を勝手な解釈で流用するのはやめるべきである.よろこんで患者情報を記者会見するのは報道に利用されるのみで患者の利益になるとは思えないのである.
たまたま自分の専門領域の報道なので,見ていていろいろなことがわかるのだが,自分の専門外のこともきっとこの調子で報道されているかと思うと情報の信憑性が疑われる.新聞やニュースでわかったつもりになっていることなんて案外こんなもんなんだろう.きっと世の中は私もわかってないことがいっぱいなんだろう.
心原性塞栓症について
2004年3月5日 医療の問題『 脳卒中の疑いで入院した長嶋茂雄・アテネ五輪野球日本代表監督(68)(読売巨人軍終身名誉監督)について、東京女子医大病院(東京都新宿区)の主治医が5日正午過ぎに記者会見、「意識は保たれているし、話にも応じている。しかし、左大脳に脳梗塞(こうそく)の症状があり、右半身に軽いマヒがある」「中程度の脳梗塞で、軽いとは言えないが、命に危険を生じる状況ではない」などと病状を説明した。
会見に出席した同病院脳神経センター神経内科の内山真一郎教授によると、長嶋監督は4日午前に体調不良を訴え、同病院の関連病院で診察を受けた後、同センターに搬送された。コンピューター断層撮影法(CT)などで詳しい検査を行った結果、左大脳に脳梗塞が見つかった。心臓の左心房に血栓ができ、血管を通じ脳に達した脳塞栓症と診断された。
外科的手術の必要はなく、内科的薬物療法で治療する。8月のアテネ五輪で監督を務めることに関し、内山教授は「現時点では病状が不安定で長期的な展望は話せない」と明言を避けたが、「(今後)1、2週間経過を見れば、予測的なことが言えると思う」と、見通しを示した。』
内山真一郎教授は脳神経内科の権威で学会でも脳卒中の治療に積極的かつ大きな影響力をもつオピニオンリーダー的人物である.脳外科医からみるとどちらかというと外科的治療の特殊性を極端に排除する傾向があってあまり好きなタイプではない.だが,診断能力は確かだと思うのでこの記事が正しければ,長嶋監督の病名は心原性塞栓症という脳梗塞の中でも重症化しやすい大変な病気ということになる.
画像を見ていないのでなんともいえないが,左大脳半球ということであれば,右半身の麻痺だけでなく場合によっては失語症などの高次機能障害を生じる可能性もあって予断を許さない状態であろう.治療および再発予防にはワルファリンの投与がガイドラインではグレードAで推奨されている.この薬物は安定して使用するために血液凝固検査が必須であるから,これが投与されているだけで長期の海外渡航には不利である.また,順調にコントロールされても再発のリスクは他の脳梗塞に比べると高い.
順調に回復されることを期待しているが,やっぱり大事をとればアテネ五輪の監督をお願いするのには無理があるだろう.残念だが仕方がない.
長嶋監督の話ではないが,非弁膜症性といわれる心房細動などの不整脈によるものが近年増加していることが以前から指摘されており,不整脈の原因として仕事のストレスなども指摘されている.日頃からストレスが多く,時々動悸や胸部の不快感がある人は一度循環器内科で相談してみたほうがいいだろう.
会見に出席した同病院脳神経センター神経内科の内山真一郎教授によると、長嶋監督は4日午前に体調不良を訴え、同病院の関連病院で診察を受けた後、同センターに搬送された。コンピューター断層撮影法(CT)などで詳しい検査を行った結果、左大脳に脳梗塞が見つかった。心臓の左心房に血栓ができ、血管を通じ脳に達した脳塞栓症と診断された。
外科的手術の必要はなく、内科的薬物療法で治療する。8月のアテネ五輪で監督を務めることに関し、内山教授は「現時点では病状が不安定で長期的な展望は話せない」と明言を避けたが、「(今後)1、2週間経過を見れば、予測的なことが言えると思う」と、見通しを示した。』
内山真一郎教授は脳神経内科の権威で学会でも脳卒中の治療に積極的かつ大きな影響力をもつオピニオンリーダー的人物である.脳外科医からみるとどちらかというと外科的治療の特殊性を極端に排除する傾向があってあまり好きなタイプではない.だが,診断能力は確かだと思うのでこの記事が正しければ,長嶋監督の病名は心原性塞栓症という脳梗塞の中でも重症化しやすい大変な病気ということになる.
画像を見ていないのでなんともいえないが,左大脳半球ということであれば,右半身の麻痺だけでなく場合によっては失語症などの高次機能障害を生じる可能性もあって予断を許さない状態であろう.治療および再発予防にはワルファリンの投与がガイドラインではグレードAで推奨されている.この薬物は安定して使用するために血液凝固検査が必須であるから,これが投与されているだけで長期の海外渡航には不利である.また,順調にコントロールされても再発のリスクは他の脳梗塞に比べると高い.
順調に回復されることを期待しているが,やっぱり大事をとればアテネ五輪の監督をお願いするのには無理があるだろう.残念だが仕方がない.
長嶋監督の話ではないが,非弁膜症性といわれる心房細動などの不整脈によるものが近年増加していることが以前から指摘されており,不整脈の原因として仕事のストレスなども指摘されている.日頃からストレスが多く,時々動悸や胸部の不快感がある人は一度循環器内科で相談してみたほうがいいだろう.
結果で責任をとるなら
2004年3月3日 医療の問題『 坂口厚生労働相は3日の衆院予算委員会で、年金保険料を使って建設された年金福祉施設265施設のうち256施設が赤字となっていることについて、「過去の問題については、第三者機関を設けて検証したい」と述べ、第三者機関を設置して経営責任などを究明していく考えを示した。 また、厚労相はこれまで徴収してきた厚生年金と国民年金の保険料総額は約370兆円で、このうち約5兆6000億円が年金の給付以外に使われたことを明らかにした。 一方、年金資金の運用が年金財政に損失を与えている問題について、参考人として出席した年金資金運用基金の近藤純五郎理事長は「深刻に受け止め、責任は感じている。中長期的に効率的な運用を行っていくことで責任を果たしたい」と述べた。同基金の累積損失は2003年9月時点で約3兆6000億円。』
『厚生労働省などに3日、坂口厚労相の前日の「モウ、ケッコウ」発言に抗議電話やメールが相次いだ。発言は、閣議後の記者会見で鳥インフルエンザに関する記者団の質問に対し「さまざまな県へ出荷している場合は国が調整するシステムが必要ではないか」などと答えた後に「牛やら鶏やら、モウ、ケッコウ」と述べたもの。 国会では、年金福祉施設の赤字問題に関する厳しい追及が続いており、坂口氏としては新たな火種は抱えたくないのが本音。4日は衆院予算委で「食の安全」に関する集中質疑が開かれる予定のため、坂口氏は「誤解を与えるような軽はずみな面があった」などと陳謝する答弁予定稿を用意して審議に臨むことになった。』
医師出身という話だが,年金問題という慢性病をかかえた患者に本当の原因を話さないでいたのがばれたところへ,鳥インフルエンザが流行し外来が忙しくなって,さすがに頭に来たにちがいない.だが,元をただせば厚生労働省の生活習慣からきている病気なのだからそう簡単に改善することはないだろう.
それにしてもニュースをみても関係者そろって言い訳が多くていやになる.国民も年金問題では反応が鈍いがヒトに感染してもいないうちから大騒ぎするものだからまたかという感じでもう飽きてしまった.
まあ,それほど騒がなくてもインフルエンザなのだからそのうちこの騒ぎはおさまるはずだ.私がおさまらないのはやはり年金問題だ.年金の流用は年金福祉施設だけでなく厚生労働省のお役人の交際費や高級官舎の建設にまで及ぶらしいから庶民はまさに「お役人様恐れ入りました.」というしかないのである.これは国家による個人財産の横領に近い.税金と年金は違うはずだ.
なぜ,国民は選挙の時にこういったことを問題にできないのだろうか.政治家も高級官僚には弱いのだろうか.そういえば,公立病院では医師の待遇もひどかった.まず,医師であっても基本給は年功序列で事務と同じである.特別職で手当てが多いだけで給与のカットはまず手当てから始まる.夜間の呼び出しが多くても医師駐車場を病院の近くにすると事務から不満が出る.何を頼んでも決して今までどおりのやり方から変えようとせず新しい仕事はしない.等々あげたらきりがない.
まあ,きっとこういった事が厚生労働省でもあるにちがいない.働かざるもの食うべからず.公務員も医師のように責任の所在が明確になるようなシステムにして税金を無駄使いする高級官僚はどんどんリストラする法律でも作るところからはじめたらいいのではないだろうか.
『厚生労働省などに3日、坂口厚労相の前日の「モウ、ケッコウ」発言に抗議電話やメールが相次いだ。発言は、閣議後の記者会見で鳥インフルエンザに関する記者団の質問に対し「さまざまな県へ出荷している場合は国が調整するシステムが必要ではないか」などと答えた後に「牛やら鶏やら、モウ、ケッコウ」と述べたもの。 国会では、年金福祉施設の赤字問題に関する厳しい追及が続いており、坂口氏としては新たな火種は抱えたくないのが本音。4日は衆院予算委で「食の安全」に関する集中質疑が開かれる予定のため、坂口氏は「誤解を与えるような軽はずみな面があった」などと陳謝する答弁予定稿を用意して審議に臨むことになった。』
医師出身という話だが,年金問題という慢性病をかかえた患者に本当の原因を話さないでいたのがばれたところへ,鳥インフルエンザが流行し外来が忙しくなって,さすがに頭に来たにちがいない.だが,元をただせば厚生労働省の生活習慣からきている病気なのだからそう簡単に改善することはないだろう.
それにしてもニュースをみても関係者そろって言い訳が多くていやになる.国民も年金問題では反応が鈍いがヒトに感染してもいないうちから大騒ぎするものだからまたかという感じでもう飽きてしまった.
まあ,それほど騒がなくてもインフルエンザなのだからそのうちこの騒ぎはおさまるはずだ.私がおさまらないのはやはり年金問題だ.年金の流用は年金福祉施設だけでなく厚生労働省のお役人の交際費や高級官舎の建設にまで及ぶらしいから庶民はまさに「お役人様恐れ入りました.」というしかないのである.これは国家による個人財産の横領に近い.税金と年金は違うはずだ.
なぜ,国民は選挙の時にこういったことを問題にできないのだろうか.政治家も高級官僚には弱いのだろうか.そういえば,公立病院では医師の待遇もひどかった.まず,医師であっても基本給は年功序列で事務と同じである.特別職で手当てが多いだけで給与のカットはまず手当てから始まる.夜間の呼び出しが多くても医師駐車場を病院の近くにすると事務から不満が出る.何を頼んでも決して今までどおりのやり方から変えようとせず新しい仕事はしない.等々あげたらきりがない.
まあ,きっとこういった事が厚生労働省でもあるにちがいない.働かざるもの食うべからず.公務員も医師のように責任の所在が明確になるようなシステムにして税金を無駄使いする高級官僚はどんどんリストラする法律でも作るところからはじめたらいいのではないだろうか.
『 長野県木曽福島町の県立木曽病院で一九九八年三月、同県南部に住む男性患者(39)に水頭症の手術をした際、脳の血管を傷つけるミスがあり、男性に高次脳機能障害が残ったとして、長野県は一日までに、男性に約七千九百万円の損害賠償金を支払う方針を決めた。県の県立病院室によると、男性は脳内の髄液が流れにくくなる水頭症の内視鏡手術を受けたが、医師が髄液の流れ道を広げる作業中に血管を傷つけ、約二十分出血した。病院は手術後、家族に対して出血の事実と言語障害などの後遺症の可能性を説明。男性は覇気がなくなるなど高次脳機能障害の症状が出たため仕事をやめ、現在は共同作業所に通っている。
県は「術後に症状が出ており、手術との因果関係は否定できない」として、〇三年度の補正予算案に賠償金を計上した。木曽病院の宮坂斉(みやさか・ひとし)院長は「患者や家族に迷惑をかけ申し訳なく思っている」と話している。高次脳機能障害は交通事故などで脳を損傷した場合に生じる後遺症。失語症や記憶、情緒の障害など日常生活と密接にかかわる障害が発生するが、治療法は確立されていない。』
手術中の出血と高次機能障害の因果関係はこの記事からはわからないが,要するに手術によって脳組織障害を起こし後遺障害がでたということだろう.内視鏡手術は一般に低侵襲という印象があるが,最近の内視鏡手術の事故をみてもわかるように確かに外からみた手術創は小さいが組織に対する侵襲は普通の手術と変わらず出血を止めるための止血操作の際には視野が狭く操作の自由度が低いため確実性に乏しいという問題点がある.
従来,水頭症に対しては頭の中の髄液を腹腔に流す手術(脳室腹腔シャント術)が多く行われてきたが,以下のような問題点の解決法として神経内視鏡による手術が最近行われている.
1. 髄液が体の姿勢によっては流れすぎることがある。
2. 希に閉塞することがある。
3. 異物を体に残すため感染を起こすことがある。
私も小児の水頭症の患者さんの内視鏡手術に助手で入ったことがあるが,脳室腹腔シャント術にくらべ手技は煩雑で時間もかかり,脳に対する侵襲は明らかに大きいと思われた.それでも小児の場合は再発のリスクを考えても成長に伴うシャントチューブの交換や髄液の流れすぎによるトラブルを考えればメリットは大きいと理解している.
さて,問題の記事では相変わらずの--結果が悪かったので賠償金を払う--という直線的な解決で,ともすると読み流してしまいそうだが,私の感じる問題点は39歳の患者さんに神経内視鏡手術による水頭症手術を行う必然性はどこにあったのかということと,内視鏡手術のリスクの説明がどのようになされたのかということである.
たしかに生体にとってシャントシステムは異物であり器具は故障もありうるのだが,脳組織への侵襲や手術時間そして手術の難易度を考えると内視鏡手術の利点も薄れると思う.そういった内視鏡手術のデメリットや手術のリスクを術者たちがどう考え患者側にどう説明したかが一番問題であろう.私は成人男性の水頭症手術として内視鏡手術にそれほどの必然性があるとは思えない.むしろ最新の医療に対する過信はなかったかと思うのである.
治療を行うにあたってのメリット,デメリット両方を説明し患者側が了承して手術を行った場合であればある程度のリスクは患者側も負うべきであろう.もちろんその際に患者さんを自分たちのやりたい治療に誘導するような説明は厳に避けるべきであるが.
結果が悪かった時にこそ問題点をよく検討する必要があるだろう.単なる手術ミスというような解釈で終わって欲しくないのだが.
県は「術後に症状が出ており、手術との因果関係は否定できない」として、〇三年度の補正予算案に賠償金を計上した。木曽病院の宮坂斉(みやさか・ひとし)院長は「患者や家族に迷惑をかけ申し訳なく思っている」と話している。高次脳機能障害は交通事故などで脳を損傷した場合に生じる後遺症。失語症や記憶、情緒の障害など日常生活と密接にかかわる障害が発生するが、治療法は確立されていない。』
手術中の出血と高次機能障害の因果関係はこの記事からはわからないが,要するに手術によって脳組織障害を起こし後遺障害がでたということだろう.内視鏡手術は一般に低侵襲という印象があるが,最近の内視鏡手術の事故をみてもわかるように確かに外からみた手術創は小さいが組織に対する侵襲は普通の手術と変わらず出血を止めるための止血操作の際には視野が狭く操作の自由度が低いため確実性に乏しいという問題点がある.
従来,水頭症に対しては頭の中の髄液を腹腔に流す手術(脳室腹腔シャント術)が多く行われてきたが,以下のような問題点の解決法として神経内視鏡による手術が最近行われている.
1. 髄液が体の姿勢によっては流れすぎることがある。
2. 希に閉塞することがある。
3. 異物を体に残すため感染を起こすことがある。
私も小児の水頭症の患者さんの内視鏡手術に助手で入ったことがあるが,脳室腹腔シャント術にくらべ手技は煩雑で時間もかかり,脳に対する侵襲は明らかに大きいと思われた.それでも小児の場合は再発のリスクを考えても成長に伴うシャントチューブの交換や髄液の流れすぎによるトラブルを考えればメリットは大きいと理解している.
さて,問題の記事では相変わらずの--結果が悪かったので賠償金を払う--という直線的な解決で,ともすると読み流してしまいそうだが,私の感じる問題点は39歳の患者さんに神経内視鏡手術による水頭症手術を行う必然性はどこにあったのかということと,内視鏡手術のリスクの説明がどのようになされたのかということである.
たしかに生体にとってシャントシステムは異物であり器具は故障もありうるのだが,脳組織への侵襲や手術時間そして手術の難易度を考えると内視鏡手術の利点も薄れると思う.そういった内視鏡手術のデメリットや手術のリスクを術者たちがどう考え患者側にどう説明したかが一番問題であろう.私は成人男性の水頭症手術として内視鏡手術にそれほどの必然性があるとは思えない.むしろ最新の医療に対する過信はなかったかと思うのである.
治療を行うにあたってのメリット,デメリット両方を説明し患者側が了承して手術を行った場合であればある程度のリスクは患者側も負うべきであろう.もちろんその際に患者さんを自分たちのやりたい治療に誘導するような説明は厳に避けるべきであるが.
結果が悪かった時にこそ問題点をよく検討する必要があるだろう.単なる手術ミスというような解釈で終わって欲しくないのだが.
緊急安全性情報
2004年2月27日『脳梗塞(こうそく)の治療薬エダラボン(商品名ラジカット)の副作用で死亡したとみられる報告患者数が、この一年で二十八人増え、累計六十八人になったことが二十六日、分かった。
脱水症状や高度の意識障害、感染症を起こした患者に投与したケースで死亡例が多い。厚生労働省は同日、慎重に薬を投与するよう医薬品・医療用具等安全性情報で注意を呼び掛けた。同省によると、脳梗塞そのものが原因で死亡したケースもあると考えられ、詳しい因果関係は不明という。エダラボンは二〇〇一年発売。これまでも副作用報告が相次ぎ、安全性情報を数回出して注意喚起している。』
ラジカットは脳梗塞の病巣の大小や発症機序にかかわらず効果が期待される唯一といっていい薬なので発売以来もっともよく使われるようになった治療薬である.したがって私も年間数百例は使っている計算になる.
もっとも問題になる副作用は腎障害で高齢者に頻度が高いような印象があるのだが,私の場合は過去2年間で記憶にあるかぎり数例で死亡例はない.もう発売されて3年目になるので年間20数例が副作用と関係して死亡しているようだが何例に投与されたかを調べるとおそらく頻度は何千例に1例くらいになるのではないだろうか?これを危険と考えるかどうか.
脳梗塞では脱水症状はよくみられることで,高度の意識障害、感染症を合併するとそれだけで生命予後が悪いのはラジカットが出てくる以前から知られていることだ.だから副作用である腎障害がおきればおそらくひとたまりもないであろう.
脳卒中治療ガイドラインの脳保護薬の項にはこう書いてある.
『【推奨】脳梗塞(血栓症、塞栓症)急性期の治療法として脳保護作用が期待される薬剤(エダラボン)を投与することが勧められる(グレードB)。(附記)本委員会の分類に従えばグレードAであるが、市販後比較的日が浅く、急性腎不全などの副作用も報告されていることより、今回はグレードBと判定された。
【エビデンス】脳保護作用が期待される薬剤について、脳梗塞急性期の治療として用いることを正当化するに足る臨床的根拠は、現在のところエダラボンに関する我が国からの報告1)のみである。エダラボン(抗酸化薬)の静脈内投与は、国内第III相試験において、脳梗塞急性期(発症72時間以内)患者の予後改善に有効性が示され、層別解析でより有効性が高かった発症24時間以内の脳梗塞患者の治療法として、本邦での使用が認可された1)(Ib)。しかし、市販後調査において、急性腎不全(重篤な腎機能障害を含む)の発現、および致死的転帰を来した症例が報告されており、重篤な腎機能障害のある患者には禁忌、高齢者や腎機能障害・心疾患・肝機能障害の合併症例には慎重投与とされ、また投与中は腎機能検査を頻回に実施し、投与後も継続して十分な観察を行う必要があるとされている(会社発表資料)。』
つまり本来はグレードAの薬なのだが,適切でない使用による副作用死があるためグレードBになっているようなのだ.例えば抗がん剤で非常に有用なものがあったとしても適切な投与を行わなければ副作用死するのは当然である.にもかかわらず不適切な使用による副作用の方をそれによって得られる効果より強調するのは無益だろう.だが,こういうことを知らないで一般人がこの記事を読むとさも危険な薬のように感じるのではないだろうか.
医療事故も薬の副作用報告も本当に問題にすべき点がきちんと一般人に理解されているとは思えない.報道により危険性だけが一人歩きするとより多くの問題や危険が生じることをマスコミは理解しているのだろうか.治療というものはいつも患者さんのためにあるものだから,本当のことを知らずにマスコミの情報に過敏に反応して治療を拒否することは患者側の利益にはならないということもきちんと知らせる必要があると思う.
脱水症状や高度の意識障害、感染症を起こした患者に投与したケースで死亡例が多い。厚生労働省は同日、慎重に薬を投与するよう医薬品・医療用具等安全性情報で注意を呼び掛けた。同省によると、脳梗塞そのものが原因で死亡したケースもあると考えられ、詳しい因果関係は不明という。エダラボンは二〇〇一年発売。これまでも副作用報告が相次ぎ、安全性情報を数回出して注意喚起している。』
ラジカットは脳梗塞の病巣の大小や発症機序にかかわらず効果が期待される唯一といっていい薬なので発売以来もっともよく使われるようになった治療薬である.したがって私も年間数百例は使っている計算になる.
もっとも問題になる副作用は腎障害で高齢者に頻度が高いような印象があるのだが,私の場合は過去2年間で記憶にあるかぎり数例で死亡例はない.もう発売されて3年目になるので年間20数例が副作用と関係して死亡しているようだが何例に投与されたかを調べるとおそらく頻度は何千例に1例くらいになるのではないだろうか?これを危険と考えるかどうか.
脳梗塞では脱水症状はよくみられることで,高度の意識障害、感染症を合併するとそれだけで生命予後が悪いのはラジカットが出てくる以前から知られていることだ.だから副作用である腎障害がおきればおそらくひとたまりもないであろう.
脳卒中治療ガイドラインの脳保護薬の項にはこう書いてある.
『【推奨】脳梗塞(血栓症、塞栓症)急性期の治療法として脳保護作用が期待される薬剤(エダラボン)を投与することが勧められる(グレードB)。(附記)本委員会の分類に従えばグレードAであるが、市販後比較的日が浅く、急性腎不全などの副作用も報告されていることより、今回はグレードBと判定された。
【エビデンス】脳保護作用が期待される薬剤について、脳梗塞急性期の治療として用いることを正当化するに足る臨床的根拠は、現在のところエダラボンに関する我が国からの報告1)のみである。エダラボン(抗酸化薬)の静脈内投与は、国内第III相試験において、脳梗塞急性期(発症72時間以内)患者の予後改善に有効性が示され、層別解析でより有効性が高かった発症24時間以内の脳梗塞患者の治療法として、本邦での使用が認可された1)(Ib)。しかし、市販後調査において、急性腎不全(重篤な腎機能障害を含む)の発現、および致死的転帰を来した症例が報告されており、重篤な腎機能障害のある患者には禁忌、高齢者や腎機能障害・心疾患・肝機能障害の合併症例には慎重投与とされ、また投与中は腎機能検査を頻回に実施し、投与後も継続して十分な観察を行う必要があるとされている(会社発表資料)。』
つまり本来はグレードAの薬なのだが,適切でない使用による副作用死があるためグレードBになっているようなのだ.例えば抗がん剤で非常に有用なものがあったとしても適切な投与を行わなければ副作用死するのは当然である.にもかかわらず不適切な使用による副作用の方をそれによって得られる効果より強調するのは無益だろう.だが,こういうことを知らないで一般人がこの記事を読むとさも危険な薬のように感じるのではないだろうか.
医療事故も薬の副作用報告も本当に問題にすべき点がきちんと一般人に理解されているとは思えない.報道により危険性だけが一人歩きするとより多くの問題や危険が生じることをマスコミは理解しているのだろうか.治療というものはいつも患者さんのためにあるものだから,本当のことを知らずにマスコミの情報に過敏に反応して治療を拒否することは患者側の利益にはならないということもきちんと知らせる必要があると思う.
信じられない記事
2004年2月25日『新潟大医歯学総合病院は25日、脳神経外科の医師が新潟県内の50代の男性患者に行った手術で、綿片を脳に残したまま縫合するミスがあったと公表した。術後のCT(コンピューター断層撮影装置)検査で綿を発見し、男性に説明して摘出手術をした。男性は既に退院し、健康上の問題はないという。
記者会見した同科の田中隆一教授によると、顔面に激痛を訴えて今月初旬に入院した男性に、神経を圧迫していた後頭部の脳内血管を緩める手術をした際、糸付きの綿(幅1・4センチ、長さ3センチ)を硬膜の表面に残した。
脳内の手術をする際は通常、残留を防ぐため綿に付いた長さ約30センチの糸を硬膜の外側に垂らしておくが、今回は執刀医が糸を数ミリまで短く切って使用したという。
田中教授は「今後は10センチより短く糸を切らないなど、再発防止に努める」と述べた。』
事実がどうであったのかはわからないが,新聞にも載っていたこの記事を読んで疑問を感じた脳神経外科医は多いと思う.三叉神経痛に対して行われる神経血管減圧術といわれる手術のことだと思うが,この手術の開頭は高々直径2.5cmしかない.硬膜というのは頭蓋骨を裏打ちしている組織であるから骨をはずすとすぐ直下にあるので,そこに綿があれば見えないほうがおかしいのだ.
それを置き忘れるということは,硬膜を閉鎖した後にちょっとみただけでわかる確認をしなかったということだ.もっとも硬膜を閉鎖して脳脊髄液の漏れを防ぐために意図的に置いたのならわかるが,そんなことをする脳外科医はいないと思いたい.
再発防止として糸をたとえ10cm付けたとしても手術をする脳外科医の注意力がこの程度では,その糸さえも見逃す危険があるような気がする.もともと綿の糸というのは深部の狭い視野で綿が行方不明にならないように付いているもので,こんな浅いところで見落とすようではお話にならない.綿の糸が短かったのが原因みたいな説明で問題をすりかえるような話はまるで政治家みたいで残念である.素人はこの記事で納得したかもしれないが,脳外科医で首をかしげたものは多いと思う.
もうひとつ気になったのはこれが大学病院で起きた事件だということだ.大学病院では手術のメインの部分を教授がやり,開頭や閉頭といった手術のはじまりと終わりの部分は研修医がやったりすることもよくある.これはもちろん教育のためだが,その際に指導医がいなくなることもあるだろう.このケースではどうだったのだろうか?一人の術者であればどこに綿があるかがわからなくなることはあまりないと思われるが,途中で他の医師に交代しそれが経験の浅い研修医だったらどういうことになるだろうか.
新潟大ではどうなのかを私は知るよしもないが,一人の術者がやってのミスならそんな医師に手術をまかせることに問題があるし,指導医がちゃんと監督していても見落としたのなら研修の体制の問題だし,万が一研修医が一人でやっていたなら大問題ということになるだろう.昨今,大学病院の危機管理意識の低さが問題となっているが,この報道をみるかぎりこんな情報公開をしても大学病院に対する信頼が回復するとはとても思えないのである.
記者会見した同科の田中隆一教授によると、顔面に激痛を訴えて今月初旬に入院した男性に、神経を圧迫していた後頭部の脳内血管を緩める手術をした際、糸付きの綿(幅1・4センチ、長さ3センチ)を硬膜の表面に残した。
脳内の手術をする際は通常、残留を防ぐため綿に付いた長さ約30センチの糸を硬膜の外側に垂らしておくが、今回は執刀医が糸を数ミリまで短く切って使用したという。
田中教授は「今後は10センチより短く糸を切らないなど、再発防止に努める」と述べた。』
事実がどうであったのかはわからないが,新聞にも載っていたこの記事を読んで疑問を感じた脳神経外科医は多いと思う.三叉神経痛に対して行われる神経血管減圧術といわれる手術のことだと思うが,この手術の開頭は高々直径2.5cmしかない.硬膜というのは頭蓋骨を裏打ちしている組織であるから骨をはずすとすぐ直下にあるので,そこに綿があれば見えないほうがおかしいのだ.
それを置き忘れるということは,硬膜を閉鎖した後にちょっとみただけでわかる確認をしなかったということだ.もっとも硬膜を閉鎖して脳脊髄液の漏れを防ぐために意図的に置いたのならわかるが,そんなことをする脳外科医はいないと思いたい.
再発防止として糸をたとえ10cm付けたとしても手術をする脳外科医の注意力がこの程度では,その糸さえも見逃す危険があるような気がする.もともと綿の糸というのは深部の狭い視野で綿が行方不明にならないように付いているもので,こんな浅いところで見落とすようではお話にならない.綿の糸が短かったのが原因みたいな説明で問題をすりかえるような話はまるで政治家みたいで残念である.素人はこの記事で納得したかもしれないが,脳外科医で首をかしげたものは多いと思う.
もうひとつ気になったのはこれが大学病院で起きた事件だということだ.大学病院では手術のメインの部分を教授がやり,開頭や閉頭といった手術のはじまりと終わりの部分は研修医がやったりすることもよくある.これはもちろん教育のためだが,その際に指導医がいなくなることもあるだろう.このケースではどうだったのだろうか?一人の術者であればどこに綿があるかがわからなくなることはあまりないと思われるが,途中で他の医師に交代しそれが経験の浅い研修医だったらどういうことになるだろうか.
新潟大ではどうなのかを私は知るよしもないが,一人の術者がやってのミスならそんな医師に手術をまかせることに問題があるし,指導医がちゃんと監督していても見落としたのなら研修の体制の問題だし,万が一研修医が一人でやっていたなら大問題ということになるだろう.昨今,大学病院の危機管理意識の低さが問題となっているが,この報道をみるかぎりこんな情報公開をしても大学病院に対する信頼が回復するとはとても思えないのである.
土壇場で何を言い出すかと思えば..
2004年2月23日『経験が浅く、医療事故を招く恐れが指摘されている研修医のアルバイト診療追放に向け、厚生労働省は二十二日までに、アルバイトを禁止しない病院には国の補助金を交付しない方針を決めた。
厚労省が作成した「二〇〇四年度医師臨床研修費補助金について(案)」によると、宿日直研修費補助金(新規、六十億円)は「原則として雇用契約の中でアルバイト診療の禁止が明らかにされていること」と交付の条件を明記。さらに「適切な指導体制を確保した宿日直研修について補助を行う」とし、一年目の研修医の宿日直は必ず指導医や上級医と組んで診療に当たるよう求めるとしている。
従来、研修医が収入不足を補うためアルバイトを余儀なくされるケースが横行、診療技術が未熟で医療事故を招きかねないと指摘されてきた。厚労省が〇二年に公表した実態調査によると、同省指定の臨床研修病院の約76%がアルバイトを認めていないのに対し、研修医の収入水準が低い大学病院は約81%が容認していた。
アルバイト禁止には、研修医に一定水準の収入を保障することが前提となる。厚労省は収入保障の適正水準を他の医療職種を参考に、宿舎提供などの現物支給の現金換算分も含め「年収三百六十万円程度」としており、これを下回る病院に改善を指導していく方針だ。
だが、病院にアルバイト禁止を義務付ける法的根拠はなく、雇用主に当たる病院側に自主的な対応を取ってもらうしかないのが実情。厚労省は補助金交付の条件にアルバイト禁止を盛り込むことで、「基本設計」の理念が骨抜きになるのを防ぎたい考えだ。』
医師臨床研修が四月に義務化されるのを目前にして厚生労働省が何を言い出すかと思えば,今度は研修医のアルバイト禁止だそうだ.
この論調ではまるで研修医は医療事故を起こすと決めつけているようだが,この根拠はいったいどこにあるのだろうか?最近の医療事故をみても研修医もしくは卒後3年以内の医師が起した事故なんてほとんど報道されていない.むしろ中堅からベテランのほうが大きな事故を起しているではないか.考えてみればベテランのほうがよりリスクの高い治療にあたらなければならないのだから当然大きな事故に遭う確率も高いのだ.
研修医制度の問題点はいくつもあるが,指導医の立場でいうと迷惑この上ない制度であろう.研修医を指導し自分の仕事は終わらなくなり,研修医が事故を起したら責任もとってやり,おまけに当直回数は増え,給料は増えないどころか減る可能性もあるのではやってられないだろう.患者にも自分にもメリットはないからよほど教育熱心な指導医でないとまともなことは教えないだろう.熱心に教えたあげく下手に自信をもたれて事故でも起されたら大変である.
研修医もまるでゆとり教育の医学生版みたいな研修ではどうせ2年やったって実力なんてつくはずはないのである.いや,本人たちは勉強になると思って期待しているかもしれないが,医学の道は厚生労働省のお役人が考えるほど甘くはないのが現実だ.時間と労働にゆとりのある2年間研修で学べるものは少ないだろう.
まあ,挿管や心臓マッサージのできない皮膚科や眼科の医者や中心静脈栄養もできない整形外科医がほんとうに減ればありがたいが,どうせ研修が終わって5年もたてばできなくなってしまうだろう.そういう私も学生時代に産科に実習にいったが,今では手伝うことはできはしない.臨床研修はなんのためなんだろうか.
そういえば,某私立医科大学はあまりに事故が多いため危機管理について厚生労働省から指導が入ったらしいが,医療の安全性確保のための臨床研修をするぐらいなら多額の寄付金で入学出来るような医科大学はすべて廃止して医師になる者の資質を上げるところからはじめるべきだろう.
東北大学医学部では大学院生の半分が私立大学出身者という話も聞くが,今後はブランド研修病院で研修したレベルの低い医師が巷にあふれて大きな顔で診療する時代になるかもしれない.これも厚生労働省の基本設計にあることなのだろうか.まあ,そうなる前に研修医制度は破綻してくれるとは思うのだが...
厚労省が作成した「二〇〇四年度医師臨床研修費補助金について(案)」によると、宿日直研修費補助金(新規、六十億円)は「原則として雇用契約の中でアルバイト診療の禁止が明らかにされていること」と交付の条件を明記。さらに「適切な指導体制を確保した宿日直研修について補助を行う」とし、一年目の研修医の宿日直は必ず指導医や上級医と組んで診療に当たるよう求めるとしている。
従来、研修医が収入不足を補うためアルバイトを余儀なくされるケースが横行、診療技術が未熟で医療事故を招きかねないと指摘されてきた。厚労省が〇二年に公表した実態調査によると、同省指定の臨床研修病院の約76%がアルバイトを認めていないのに対し、研修医の収入水準が低い大学病院は約81%が容認していた。
アルバイト禁止には、研修医に一定水準の収入を保障することが前提となる。厚労省は収入保障の適正水準を他の医療職種を参考に、宿舎提供などの現物支給の現金換算分も含め「年収三百六十万円程度」としており、これを下回る病院に改善を指導していく方針だ。
だが、病院にアルバイト禁止を義務付ける法的根拠はなく、雇用主に当たる病院側に自主的な対応を取ってもらうしかないのが実情。厚労省は補助金交付の条件にアルバイト禁止を盛り込むことで、「基本設計」の理念が骨抜きになるのを防ぎたい考えだ。』
医師臨床研修が四月に義務化されるのを目前にして厚生労働省が何を言い出すかと思えば,今度は研修医のアルバイト禁止だそうだ.
この論調ではまるで研修医は医療事故を起こすと決めつけているようだが,この根拠はいったいどこにあるのだろうか?最近の医療事故をみても研修医もしくは卒後3年以内の医師が起した事故なんてほとんど報道されていない.むしろ中堅からベテランのほうが大きな事故を起しているではないか.考えてみればベテランのほうがよりリスクの高い治療にあたらなければならないのだから当然大きな事故に遭う確率も高いのだ.
研修医制度の問題点はいくつもあるが,指導医の立場でいうと迷惑この上ない制度であろう.研修医を指導し自分の仕事は終わらなくなり,研修医が事故を起したら責任もとってやり,おまけに当直回数は増え,給料は増えないどころか減る可能性もあるのではやってられないだろう.患者にも自分にもメリットはないからよほど教育熱心な指導医でないとまともなことは教えないだろう.熱心に教えたあげく下手に自信をもたれて事故でも起されたら大変である.
研修医もまるでゆとり教育の医学生版みたいな研修ではどうせ2年やったって実力なんてつくはずはないのである.いや,本人たちは勉強になると思って期待しているかもしれないが,医学の道は厚生労働省のお役人が考えるほど甘くはないのが現実だ.時間と労働にゆとりのある2年間研修で学べるものは少ないだろう.
まあ,挿管や心臓マッサージのできない皮膚科や眼科の医者や中心静脈栄養もできない整形外科医がほんとうに減ればありがたいが,どうせ研修が終わって5年もたてばできなくなってしまうだろう.そういう私も学生時代に産科に実習にいったが,今では手伝うことはできはしない.臨床研修はなんのためなんだろうか.
そういえば,某私立医科大学はあまりに事故が多いため危機管理について厚生労働省から指導が入ったらしいが,医療の安全性確保のための臨床研修をするぐらいなら多額の寄付金で入学出来るような医科大学はすべて廃止して医師になる者の資質を上げるところからはじめるべきだろう.
東北大学医学部では大学院生の半分が私立大学出身者という話も聞くが,今後はブランド研修病院で研修したレベルの低い医師が巷にあふれて大きな顔で診療する時代になるかもしれない.これも厚生労働省の基本設計にあることなのだろうか.まあ,そうなる前に研修医制度は破綻してくれるとは思うのだが...
法律でなきゃ規制できない?
2004年2月22日『日本産科婦人科学会が除名の方針を決めた大谷産婦人科(神戸市)の大谷徹郎(おおたに・てつお)院長は二十一日、記者会見し「知っていながら会則を破ったのでやむを得ない。正式に除名されるまで受精卵診断はしない」と話した。しかし、除名後については「良心に従う」とだけ答え、診断を継続するかどうかは言葉を濁した。大谷院長は「中絶より受精卵診断の方が、より人道的。女性への福音だ」と従来の説明を繰り返し、男女の産み分けについても「少子化の弊害が叫ばれる中、たくさんの子を望む女性が希望の性別を授かることは社会の役に立つ」とあらためて正当性を主張した。大谷院長は、医院のホームページで受精卵診断実施に賛同の署名を集める考えも明らかにした。』
これが米国だったら大統領選の公約になりそうな話題である.これが医師の良心のみで行われてよいものなら,遷延性意識障害の患者の安楽死も同様に医師の良心で行われてよいであろう.もちろんまだ戸籍を持たない受精卵と戸籍にのっている人間を同じに論じるつもりはない.受精卵に人権はないが,私は人工中絶も立派な殺人であると考えているので発生の途中にある受精卵に人為的操作を加えることも論理的には同様であると感じるのだ.
人間としての意識があるかないかを問題にするのであれば遷延性意識障害の人間もその意識はないと言えると思う.つまり問題は生物学的にヒトとして生きているかどうかだけなのだ.
このあたりの感覚がこの産婦人科医は麻痺しているのであろう.中絶よりましという論理はすでに中絶を肯定している言い方である.生命倫理は確かに微妙な問題ではあるが,社会としての基準をきちんと確立しないと非常に危険な考え方を生み出すといういい例であろう.
新聞で日本医師会医師損害賠償責任保険の保険金支払いの実に50%が産婦人科医であるという記事をみたが,学会員を除名して野放しにするのではなく,学会自らが危機管理と生命倫理についての規範を社会に問いかける時期が来ていると思われる.
これが米国だったら大統領選の公約になりそうな話題である.これが医師の良心のみで行われてよいものなら,遷延性意識障害の患者の安楽死も同様に医師の良心で行われてよいであろう.もちろんまだ戸籍を持たない受精卵と戸籍にのっている人間を同じに論じるつもりはない.受精卵に人権はないが,私は人工中絶も立派な殺人であると考えているので発生の途中にある受精卵に人為的操作を加えることも論理的には同様であると感じるのだ.
人間としての意識があるかないかを問題にするのであれば遷延性意識障害の人間もその意識はないと言えると思う.つまり問題は生物学的にヒトとして生きているかどうかだけなのだ.
このあたりの感覚がこの産婦人科医は麻痺しているのであろう.中絶よりましという論理はすでに中絶を肯定している言い方である.生命倫理は確かに微妙な問題ではあるが,社会としての基準をきちんと確立しないと非常に危険な考え方を生み出すといういい例であろう.
新聞で日本医師会医師損害賠償責任保険の保険金支払いの実に50%が産婦人科医であるという記事をみたが,学会員を除名して野放しにするのではなく,学会自らが危機管理と生命倫理についての規範を社会に問いかける時期が来ていると思われる.
血液製剤バブル?の崩壊
2004年2月21日『三菱ウェルファーマ(旧ミドリ十字)の血液製剤フィブリノゲンなどの投与で感染が拡大したとされる薬害肝炎問題で、内閣府情報公開審査会は二十日、厚生労働省が黒塗りにして開示していない同製剤の納入先医療機関名を公表すべきだとの答申を出した。 答申は、C型肝炎ウイルスは感染しても自覚症状が少なく、持続感染は肝がんの危険因子になると指摘。「感染の可能性がある人にとって検査の早期実施が重要で、医療機関名公表の必要性は大きい」とした。これを受け、坂口力厚労相は「答申に従ってやりたい」と述べた。
血友病以外の治療で患者が非加熱血液製剤を投与されエイズウイルス(HIV)に感染した「第四ルート」問題で一九九六年、厚労省が全納入先を公表して注意を呼び掛けたのと同様に、大規模な情報提供につながる可能性が出てきた。
開示すべきだとされたのは三菱ウェルファーマ側が厚労省に提出した副作用報告や内部文書などに記載された医療機関名や病院長の名前など。 衆院議員だった家西悟氏が二〇〇二年十二月「納入先を公表して、患者に検査と早期治療を呼び掛けるべきだ」として厚労省に情報公開を請求。これに対し厚労省が「内容が不確実であり、医療機関の利益を害する」などとして黒塗りにしたため昨年四月、家西氏が異議申し立てをした。
家西さん側は「厚労省は三菱ウェルファーマに全納入先リストを報告するよう命令し、国民に早急に公表すべきだ」としている。』
公表すると病院に当時の患者が殺到するかもしれない.それで,みつかった肝炎の患者さんの治療は健康保険でやるのか,それとも三菱ウェルファーマが持つのか,それとも政府が出すのか?
三菱ウェルファーマはラジカットが売れているから出せるかもしれない.だが,厚生労働省の責任はどうなるのだろうか?いままで公表しなかったために治療開始が遅れた患者さんはいないのだろうか?
政府もバブル崩壊のつけで銀行が潰れそうになった時はすぐに国民の負担で銀行を救済していたが,国民の健康被害に対しては対応が随分と遅いのではないだろうか.リストの公表は当然行われるのだろうが,被害を受けた患者さんたちの救済や責任の追及がどのように行われていくのかについては注意していく必要があると思う.
血友病以外の治療で患者が非加熱血液製剤を投与されエイズウイルス(HIV)に感染した「第四ルート」問題で一九九六年、厚労省が全納入先を公表して注意を呼び掛けたのと同様に、大規模な情報提供につながる可能性が出てきた。
開示すべきだとされたのは三菱ウェルファーマ側が厚労省に提出した副作用報告や内部文書などに記載された医療機関名や病院長の名前など。 衆院議員だった家西悟氏が二〇〇二年十二月「納入先を公表して、患者に検査と早期治療を呼び掛けるべきだ」として厚労省に情報公開を請求。これに対し厚労省が「内容が不確実であり、医療機関の利益を害する」などとして黒塗りにしたため昨年四月、家西氏が異議申し立てをした。
家西さん側は「厚労省は三菱ウェルファーマに全納入先リストを報告するよう命令し、国民に早急に公表すべきだ」としている。』
公表すると病院に当時の患者が殺到するかもしれない.それで,みつかった肝炎の患者さんの治療は健康保険でやるのか,それとも三菱ウェルファーマが持つのか,それとも政府が出すのか?
三菱ウェルファーマはラジカットが売れているから出せるかもしれない.だが,厚生労働省の責任はどうなるのだろうか?いままで公表しなかったために治療開始が遅れた患者さんはいないのだろうか?
政府もバブル崩壊のつけで銀行が潰れそうになった時はすぐに国民の負担で銀行を救済していたが,国民の健康被害に対しては対応が随分と遅いのではないだろうか.リストの公表は当然行われるのだろうが,被害を受けた患者さんたちの救済や責任の追及がどのように行われていくのかについては注意していく必要があると思う.
誤診?
2004年2月20日『大阪府枚方市の枚方市民病院は、脳腫瘍(しゅよう)を脳梗塞(こうそく)と誤診して治療開始が遅れたとして、同市の無職男性(69)に謝罪、示談金三百万円を支払って裁判外で和解していたことが、二十日分かった。
同病院などによると、男性は物が二重に見える症状を訴えて二〇〇〇年九月と〇一年一月、同病院で頭部の精密検査を受け、脳梗塞と診断された。〇二年二月と三月の検査では脳腫瘍が認められたため、〇二年四月、京都府の病院で後頭部左右の腫瘍を摘出する手術を受けた。
男性はその後、枚方市民病院の誤診で治療が遅れたとして損害賠償を市に求め、〇二年九月、病院が医療過誤を認めて男性に謝罪。昨年十二月、示談金支払いで和解した。』
このような話を聞いてまず思うのは,初診の病院で診断できるものであったかどうかということである.別に初診の病院の弁護をする気はないが,脳梗塞と脳腫瘍は場合によっては初期の診断が難しいことはまれにある.複数の脳外科専門医が見て診断がつかなければそれをその時点で誤診とはいえないと思う.
だが,問題が起こるのは次の病院にかかった時である.脳腫瘍のような進行性の病気は後から診るほうが診断しやすいのは当たり前なのである.この場合は脳腫瘍を脳梗塞と診断してしまったので後から誤診とわかり問題となったのだろう.
では,脳梗塞を脳腫瘍と誤診してしまったらどうだろうか.手術をして脳梗塞の部分を摘出してもあまり問題が出るとは考えにくい.手術中に脳梗塞だとわかったらそこで手術は終了である.手術後進行性に病状が悪化することがなければ問題とならない.
さて,考えてもらいたい.脳腫瘍か脳梗塞か診断がつかない時に脳外科医は手術をするべきか経過観察をするべきか.
私は,画像で診断がつかないと正直に患者さんに話すのがいちばんいいのではないかと思う.その上で経過をみるか一部を手術でとって調べるかを選択してもらうのである.
経過をみるということが理解されなければこういった話も成り立たない.経過をみているうちに内緒で他の病院にかかり,実は脳梗塞だったのに摘出手術を受けて治ったつもりになっている患者さんというのは今の日本には本当にいないのだろうか.
同病院などによると、男性は物が二重に見える症状を訴えて二〇〇〇年九月と〇一年一月、同病院で頭部の精密検査を受け、脳梗塞と診断された。〇二年二月と三月の検査では脳腫瘍が認められたため、〇二年四月、京都府の病院で後頭部左右の腫瘍を摘出する手術を受けた。
男性はその後、枚方市民病院の誤診で治療が遅れたとして損害賠償を市に求め、〇二年九月、病院が医療過誤を認めて男性に謝罪。昨年十二月、示談金支払いで和解した。』
このような話を聞いてまず思うのは,初診の病院で診断できるものであったかどうかということである.別に初診の病院の弁護をする気はないが,脳梗塞と脳腫瘍は場合によっては初期の診断が難しいことはまれにある.複数の脳外科専門医が見て診断がつかなければそれをその時点で誤診とはいえないと思う.
だが,問題が起こるのは次の病院にかかった時である.脳腫瘍のような進行性の病気は後から診るほうが診断しやすいのは当たり前なのである.この場合は脳腫瘍を脳梗塞と診断してしまったので後から誤診とわかり問題となったのだろう.
では,脳梗塞を脳腫瘍と誤診してしまったらどうだろうか.手術をして脳梗塞の部分を摘出してもあまり問題が出るとは考えにくい.手術中に脳梗塞だとわかったらそこで手術は終了である.手術後進行性に病状が悪化することがなければ問題とならない.
さて,考えてもらいたい.脳腫瘍か脳梗塞か診断がつかない時に脳外科医は手術をするべきか経過観察をするべきか.
私は,画像で診断がつかないと正直に患者さんに話すのがいちばんいいのではないかと思う.その上で経過をみるか一部を手術でとって調べるかを選択してもらうのである.
経過をみるということが理解されなければこういった話も成り立たない.経過をみているうちに内緒で他の病院にかかり,実は脳梗塞だったのに摘出手術を受けて治ったつもりになっている患者さんというのは今の日本には本当にいないのだろうか.
教育の結果なのか?
2004年2月19日『BSE(牛海綿状脳症)の影響で、吉野家のほとんどの店で11日に牛丼販売が休止され、直前に客が「食べおさめ」の行列をつくったことについて、日本経団連の奥田碩会長は12日、東海地方経済懇談会後の記者会見で「テレビは一部の人の動きを面白おかしく報じていたようだが、(牛丼がなくても)死ぬわけでない。日本人は右から左へ早くふれやすい、単純な国民だと感じた」と、牛丼フィーバーをチクリ。懇談会でも奥田会長は牛丼を教育上の問題点の例に挙げ、「日本人はどうしたのだろうか。やはり教育に力を入れなければならないと感じた」と語った。』
そう,『ばかの壁』を読むまでもなく,最近は物の考え方がおかしいというか,考えることができない人が目立っている.しかも,当人たちは自分は正しいものの見方をしていると信じているから話がいっこうにかみ合わないのだ.
はやりの風邪の治療ひとつとっても,熱といえば点滴で,インフルエンザといえばタミフルというような直線的な知識しかないから子供をかかえて病院へ直行したり,あげくにタミフルをよこせと騒ぐ大人が現れたりするのだろう.
牛丼ではニュースになっていたが牛丼を食べ損ねた腹いせに店員に襲いかかった者が一人ではなかったのもうなずける話である.だが,夜間救急外来ではこの手の患者や家族はまったくめずらしくないから医師にとってはニュースにもならない.
最近は大人しいという言葉もあまり聞かれなくなったが,本当に大人らしい振る舞いをできる日本人が最近極端に減っている感じがする.この場合,大人らしいというのは物静か,冷静,論理的,かつ合理的に振る舞えるということである.要するに理性を持った大人がいないということだ.
だが,これは教育の結果なのだろうか?受験勉強なんてものはある程度の記憶力と勉強時間があれば知性なんてものはいらないだろう.そのいい例が今の政治家にたくさんいる.高学歴でありながらさらに学歴を詐称してまで自分の知性を強調しているようだが,これは自らの知性の無さをさらけ出しているのである.
これからの教育に必要なのは記憶力を鍛えることではないと思う.知識の蓄積だけならコンピュータにはかなわない.本当に必要なのは状況に対して既存の知識を有効に活用し自分で考える能力を磨くことであろう.AといえばBというような短絡的発想は確かに楽であろうが,それには思考が伴わないから危険なこともあるということを認識する必要があるだろう.
脳は健康なのに脳の働きが正常でない人間を治すのは脳外科医の仕事ではないが,普通に社会生活をしている大部分の人がおかしくなってしまいそれが日常になってしまった時にはどうなるのだろうか.最近の社会現象をみてちょっと心配になっている.
そう,『ばかの壁』を読むまでもなく,最近は物の考え方がおかしいというか,考えることができない人が目立っている.しかも,当人たちは自分は正しいものの見方をしていると信じているから話がいっこうにかみ合わないのだ.
はやりの風邪の治療ひとつとっても,熱といえば点滴で,インフルエンザといえばタミフルというような直線的な知識しかないから子供をかかえて病院へ直行したり,あげくにタミフルをよこせと騒ぐ大人が現れたりするのだろう.
牛丼ではニュースになっていたが牛丼を食べ損ねた腹いせに店員に襲いかかった者が一人ではなかったのもうなずける話である.だが,夜間救急外来ではこの手の患者や家族はまったくめずらしくないから医師にとってはニュースにもならない.
最近は大人しいという言葉もあまり聞かれなくなったが,本当に大人らしい振る舞いをできる日本人が最近極端に減っている感じがする.この場合,大人らしいというのは物静か,冷静,論理的,かつ合理的に振る舞えるということである.要するに理性を持った大人がいないということだ.
だが,これは教育の結果なのだろうか?受験勉強なんてものはある程度の記憶力と勉強時間があれば知性なんてものはいらないだろう.そのいい例が今の政治家にたくさんいる.高学歴でありながらさらに学歴を詐称してまで自分の知性を強調しているようだが,これは自らの知性の無さをさらけ出しているのである.
これからの教育に必要なのは記憶力を鍛えることではないと思う.知識の蓄積だけならコンピュータにはかなわない.本当に必要なのは状況に対して既存の知識を有効に活用し自分で考える能力を磨くことであろう.AといえばBというような短絡的発想は確かに楽であろうが,それには思考が伴わないから危険なこともあるということを認識する必要があるだろう.
脳は健康なのに脳の働きが正常でない人間を治すのは脳外科医の仕事ではないが,普通に社会生活をしている大部分の人がおかしくなってしまいそれが日常になってしまった時にはどうなるのだろうか.最近の社会現象をみてちょっと心配になっている.
やってることは日米同じ
2004年2月18日『米下院政府改革委員会は十七日、米国で昨年末に初めて見つかった牛海綿状脳症(BSE)感染牛が農務省の発表とは異なり、正常に歩けない「へたり牛」ではなかった可能性がある、とする書簡をベネマン農務長官に送付した。
書簡は「BSE監視体制の妥当性と農務省への信頼性に深刻な影響が生じる」と懸念を表明、少なくともへたり牛については全頭検査することなど、検査体制の拡充を求めた。
農務省はワシントン州で見つかった感染牛について「へたり牛の症状が見られたため検査し、発見した」と説明した。
しかし書簡によると、運送会社や処理場の複数の関係者が「問題の牛はへたり牛ではなかった」と証言。また、この処理場では通常、牛の健康状態に関係なくBSEのサンプル検査を実施していた。さらに、処理場関係者が今年一月に、このことを農務省に連絡したにもかかわらず、同省は公表しなかったという。
委員会は三月二日までに、感染牛に関するBSE検査資料などを提供するよう求めた。』
へたり牛という言葉はちょっと面白かった.だが,米国の農務省にも日本のお役所のような事実隠しの体質があるらしいことがわかり米国不信が加速しそうだ.
ひょっとすると米国の農務省は日本のお役所からこの手を学んだのかも知れない.なんてったって同盟国だから.
それにしても吉野家に連日つめかけた人々はなんだったのだろうか,売り上げは2倍以上だったらしいから商売替えする資金もできたことだろう.
『『Lancet』に掲載された動物実験において、フランス原子力庁のCorinne Lasmezas氏らが、マカクサルにBSE病原体を含んだ組織を経口や経静脈で曝露させ、組織感染力の強さについて比較している。異常な折り畳みをしたプリオン蛋白質をマーカーとして用いたところ、臓器感染力は新入経路に関係なく同程度であり、扁桃組織がもっとも感染力が強いことが判った。脳脊髄で予想通りの濃度のプリオン蛋白質が見られたのに加えて、自律神経系、末梢神経系、腸間のパイエル板にもプリオン蛋白質が見られたことから、内視鏡手技に伝播リスクが伴う可能性が浮かび上がった。』
要するに霊長類では食べても感染するし,内視鏡検査でも感染の危険性があるということだ.
さて,へたり牛でない牛が感染していて吉野家で食べた牛肉で感染した人が献血したり,内視鏡検査をすることで今後どれぐらいの感染が起きるのだろうか.それは,今後の歴史が証明するのだろうが,人間の場合はHIVでさえ全頭検査のようなことはプライバシーの侵害とかでできない.だからこそ献血時に検査してもらおうなどという不埒なやからがいるのだろうが,これがBSEにもなるとどういうことになるのだろうか.
厚生労働省はやっと輸血後肝炎の実態調査をはじめたようだが,HIVやBSEもある程度感染がひろまってから調査するつもりなのだろうか.乾燥ヒト硬膜を使ってCJDになった患者さんが見つかったときは大騒ぎしてたのになあ.
医療従事者としてはHIVは同意書をもらって検査すればまだなんとかなりそうだが,BSEからの自衛策はどうすればよいのだろうか.まさか病歴をとるときに吉野家でよく牛丼を食べていましたか,なんて聞いてみてもだめだろうなあ.
書簡は「BSE監視体制の妥当性と農務省への信頼性に深刻な影響が生じる」と懸念を表明、少なくともへたり牛については全頭検査することなど、検査体制の拡充を求めた。
農務省はワシントン州で見つかった感染牛について「へたり牛の症状が見られたため検査し、発見した」と説明した。
しかし書簡によると、運送会社や処理場の複数の関係者が「問題の牛はへたり牛ではなかった」と証言。また、この処理場では通常、牛の健康状態に関係なくBSEのサンプル検査を実施していた。さらに、処理場関係者が今年一月に、このことを農務省に連絡したにもかかわらず、同省は公表しなかったという。
委員会は三月二日までに、感染牛に関するBSE検査資料などを提供するよう求めた。』
へたり牛という言葉はちょっと面白かった.だが,米国の農務省にも日本のお役所のような事実隠しの体質があるらしいことがわかり米国不信が加速しそうだ.
ひょっとすると米国の農務省は日本のお役所からこの手を学んだのかも知れない.なんてったって同盟国だから.
それにしても吉野家に連日つめかけた人々はなんだったのだろうか,売り上げは2倍以上だったらしいから商売替えする資金もできたことだろう.
『『Lancet』に掲載された動物実験において、フランス原子力庁のCorinne Lasmezas氏らが、マカクサルにBSE病原体を含んだ組織を経口や経静脈で曝露させ、組織感染力の強さについて比較している。異常な折り畳みをしたプリオン蛋白質をマーカーとして用いたところ、臓器感染力は新入経路に関係なく同程度であり、扁桃組織がもっとも感染力が強いことが判った。脳脊髄で予想通りの濃度のプリオン蛋白質が見られたのに加えて、自律神経系、末梢神経系、腸間のパイエル板にもプリオン蛋白質が見られたことから、内視鏡手技に伝播リスクが伴う可能性が浮かび上がった。』
要するに霊長類では食べても感染するし,内視鏡検査でも感染の危険性があるということだ.
さて,へたり牛でない牛が感染していて吉野家で食べた牛肉で感染した人が献血したり,内視鏡検査をすることで今後どれぐらいの感染が起きるのだろうか.それは,今後の歴史が証明するのだろうが,人間の場合はHIVでさえ全頭検査のようなことはプライバシーの侵害とかでできない.だからこそ献血時に検査してもらおうなどという不埒なやからがいるのだろうが,これがBSEにもなるとどういうことになるのだろうか.
厚生労働省はやっと輸血後肝炎の実態調査をはじめたようだが,HIVやBSEもある程度感染がひろまってから調査するつもりなのだろうか.乾燥ヒト硬膜を使ってCJDになった患者さんが見つかったときは大騒ぎしてたのになあ.
医療従事者としてはHIVは同意書をもらって検査すればまだなんとかなりそうだが,BSEからの自衛策はどうすればよいのだろうか.まさか病歴をとるときに吉野家でよく牛丼を食べていましたか,なんて聞いてみてもだめだろうなあ.
最大限の謝罪?
2004年2月17日『熊本県南小国町の「アイレディース宮殿黒川温泉ホテル」がハンセン病療養所入所者を宿泊拒否した問題で、同県は16日、同ホテルを旅館業法に基づき3月15日から18日まで、4日間の営業停止処分にする方針を固めた。一方、ホテルを経営するアイスターは16日、同ホテルを廃業することを決め、江口忠雄社長がホテル従業員に通知した。同社は「元患者の方々に迷惑をかけた。廃業は最大限の謝罪を示すため」としている。
県は、アイスターの江口社長らから事情聴取し処分の是非を検討。その結果(1)「県は事前に宿泊者にハンセン病元患者がいることを知らせるべきだった」などと主張し続けており、人権侵害の認識が低い(2)患者に謝罪しているものの「啓発不足の国、県に責任がある」との態度は崩していない――として、再発防止のため処分が必要と判断した。宿泊拒否による営業停止は全国初。』
アイレディースの社長は最大限の謝罪というが本当にそうだろうか.この記事を見る限り江口社長はその後も国、県に責任があるとの態度は崩していないようだ.要するに反省はしていないということなのだろう.では反省したふりをしているのは会社のほかの部門への影響を避けるため,世間の目をごまかすためだったのか.
では,なんのために廃業するのだろうか?これはおそらく熊本県に税金を払わずに熊本県を困らせたいのであろう.従業員だった方々にとっては本当に迷惑な話だろう.武富士の例をみるまでもなく営利を追求するワンマン社長なんてものはこんなものなのだろうか.いずれにしても従業員のことも考えないような態度は謝罪している人の態度とは思えない.
一代で大きな病院を作るような開業の院長も似たようなものだ.ある意味で裸の王様なのだが,人になんと思われようが自説は決して曲げないような人が多い.だが,そんなことはいつまでも続かないのも歴史ではよく知られたことだ.まあ,一時の栄華で花火のような一生というのもいいだろう.ひとに与えられた人生は誰しも一度きりだから.
専門的なニュースを追加しておくが,輸血が、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の伝播様式のひとつになる可能性があること示す症例報告と公衆衛生研究が、『Lancet』2月7日号に掲載されたそうだ.
これはBSE(吉野家があおりをくった牛の病気)が輸血で感染する危険があることを示唆しているのだ.後にvCJDを発症したドナーから赤血球輸血を受けた人物がvCJDで輸血の6.5年後死亡し、ドナーが発症したのは輸血の3.5年後だったそうだ.
これが事実だったらBSEもHIVのように広まる可能性があるということになるのではと恐ろしくなった.なんとなく今の状況はエイズがカポシ肉腫などと呼ばれていたころの状況に似ているような気がする.エイズも最初は遠い世界の稀な病気だったのだ.
自分と患者さんのためにはやはり輸血製剤は極力使用しない以外に方法はなさそうだ.いろんなことがわかってきていやな時代になってしまったものだ.
県は、アイスターの江口社長らから事情聴取し処分の是非を検討。その結果(1)「県は事前に宿泊者にハンセン病元患者がいることを知らせるべきだった」などと主張し続けており、人権侵害の認識が低い(2)患者に謝罪しているものの「啓発不足の国、県に責任がある」との態度は崩していない――として、再発防止のため処分が必要と判断した。宿泊拒否による営業停止は全国初。』
アイレディースの社長は最大限の謝罪というが本当にそうだろうか.この記事を見る限り江口社長はその後も国、県に責任があるとの態度は崩していないようだ.要するに反省はしていないということなのだろう.では反省したふりをしているのは会社のほかの部門への影響を避けるため,世間の目をごまかすためだったのか.
では,なんのために廃業するのだろうか?これはおそらく熊本県に税金を払わずに熊本県を困らせたいのであろう.従業員だった方々にとっては本当に迷惑な話だろう.武富士の例をみるまでもなく営利を追求するワンマン社長なんてものはこんなものなのだろうか.いずれにしても従業員のことも考えないような態度は謝罪している人の態度とは思えない.
一代で大きな病院を作るような開業の院長も似たようなものだ.ある意味で裸の王様なのだが,人になんと思われようが自説は決して曲げないような人が多い.だが,そんなことはいつまでも続かないのも歴史ではよく知られたことだ.まあ,一時の栄華で花火のような一生というのもいいだろう.ひとに与えられた人生は誰しも一度きりだから.
専門的なニュースを追加しておくが,輸血が、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の伝播様式のひとつになる可能性があること示す症例報告と公衆衛生研究が、『Lancet』2月7日号に掲載されたそうだ.
これはBSE(吉野家があおりをくった牛の病気)が輸血で感染する危険があることを示唆しているのだ.後にvCJDを発症したドナーから赤血球輸血を受けた人物がvCJDで輸血の6.5年後死亡し、ドナーが発症したのは輸血の3.5年後だったそうだ.
これが事実だったらBSEもHIVのように広まる可能性があるということになるのではと恐ろしくなった.なんとなく今の状況はエイズがカポシ肉腫などと呼ばれていたころの状況に似ているような気がする.エイズも最初は遠い世界の稀な病気だったのだ.
自分と患者さんのためにはやはり輸血製剤は極力使用しない以外に方法はなさそうだ.いろんなことがわかってきていやな時代になってしまったものだ.
CD不買運動をはじめよう
2004年2月16日 日頃から厚生労働省の医療機関いじめにあっているせいか,政府が韓国で売られているCDの輸入を禁止し,音楽産業を保護する姿勢を明らかにしたのを新聞で見て決意した.おまけに生産コストを下げるためにメーカーが海外で生産したものを輸入する場合には適応しないのだそうだ.
今後CDが韓国と同じ値段で買えるようになるまでは買わないことにした.ここまで消費者がバカにされては買って聞いても楽しくない.海外で生産してコストが下がるなら値段を下げるべきだろう.そもそも日本は流通段階でのマージンが高すぎるのだ.著作権といいながら作者にはそれほど払わず,レコード会社や販売会社が高い利益を得ているではないか.
資本主義なのだからコストがかかりすぎる音楽業界はリストラされるのが当然だ.音楽業界人やタレントもまじめに働いているのだろうが,私には現在のCDの値段はやっぱり高すぎる.娯楽も大切なのはわかるがものの価値から言えばCDに現在の値段の価値はないと思う.
そう,CDの本当の価値より値段が高いからこそコピーがはやるのだろう.CDの値段がその価値どおりならわざわざ手間をかけてコピーはしないだろう.本だってコピーできるがわざわざコピーしたりはしない.高価な医学書には海賊版があるが同じ理由だろう.
衣食住が足りれば娯楽も必要ではあるが,娯楽ばかりが先行し娯楽が自分で自分の価値を決めてそれが保護される社会というのはどう考えても変だとおもうのだが.
今後CDが韓国と同じ値段で買えるようになるまでは買わないことにした.ここまで消費者がバカにされては買って聞いても楽しくない.海外で生産してコストが下がるなら値段を下げるべきだろう.そもそも日本は流通段階でのマージンが高すぎるのだ.著作権といいながら作者にはそれほど払わず,レコード会社や販売会社が高い利益を得ているではないか.
資本主義なのだからコストがかかりすぎる音楽業界はリストラされるのが当然だ.音楽業界人やタレントもまじめに働いているのだろうが,私には現在のCDの値段はやっぱり高すぎる.娯楽も大切なのはわかるがものの価値から言えばCDに現在の値段の価値はないと思う.
そう,CDの本当の価値より値段が高いからこそコピーがはやるのだろう.CDの値段がその価値どおりならわざわざ手間をかけてコピーはしないだろう.本だってコピーできるがわざわざコピーしたりはしない.高価な医学書には海賊版があるが同じ理由だろう.
衣食住が足りれば娯楽も必要ではあるが,娯楽ばかりが先行し娯楽が自分で自分の価値を決めてそれが保護される社会というのはどう考えても変だとおもうのだが.
不信感
2004年2月14日『福島県須賀川市の医療法人平心会「須賀川病院」(津田達徳理事長)で肥大型心筋症の治療を受けていた同市の男性(49)が、不適切な治療で左足に障害が残ったとして同病院に約一億三千七百万円の損害賠償を求めていた訴訟の判決で、福島地裁郡山支部の宍戸充(ししど・みつる)裁判長は十二日、病院側に約九千七百万円を支払うよう命じた。
宍戸裁判長は判決理由で「循環器疾患の専門医療施設であるにもかかわらず、肥大型心筋症から発症する不整脈の治療の際に必要な、血液の凝固を抑制する療法を怠った」とした。
判決によると、男性は一九八七年八月、同病院で肥大型心筋症と診断され治療を受け始めたが、九七年八月、肥大型心筋症による不整脈となり、脳塞栓(そくせん)が起こり、左半身がまひして左足に障害が残った。』
この記事では不整脈の治療の際に必要な、血液の凝固を抑制する療法とあるが,これは塞栓症の予防に必要な抗凝固療法の誤りではないだろうか.だとすると今後は循環器内科のワルファリン投与を受けていない不整脈の患者が,結果として脳塞栓症になりどこかで抗凝固療法で予防できたなんてことを知るとこんな訴訟が続発することになるのだろうか.
確かに『5学会合同脳卒中治療ガイドライン(暫定版)2003』では脳卒中一般の危険因子の管理の項の心房細動のところに心不全を合併した非弁膜症性心房細動(NVAF)患者にはワルファリンが推奨される(グレードA)とある.だから肥大型心筋症による心不全を合併した不整脈であったならこの症例で血液の凝固を抑制する療法を怠ったとされてもしかたがないのだろうか.
だが,ワルファリンの投与にはいろいろな問題点が存在し,それが今まで循環器内科医が投与を極力避けてきた理由だと思う.そのひとつは出血合併症である.これを避けるためには少なくとも1,2ヶ月に1回程度は血液検査をしてINR値をモニターしこまめに投与量を調整する必要がある.だが,これは患者さんにも外来で忙しい医師にも苦痛であろう.また,こういった患者さんが脳出血を起こした場合はたいてい悲惨な結末が待っているのである.
ワルファリン投与をした場合の脳卒中予防効果は61%ということを考えると医師側に100%の過失があるとしてもこの判決にはあまり論理的妥当性があるとは思われないのだがどうだろう.
実際のところは当事者の医師でもないのでわからないが,こんな判決とこんな報道が続くようでは医師側に防衛医療の考え方で治療をすすめるものが現れることになんの不思議もない.報道が医療不信をつくりだす以上に医師側に患者不信をつくるほうがはるかに弊害が多いことを危惧しているのは私だけだろうか.
宍戸裁判長は判決理由で「循環器疾患の専門医療施設であるにもかかわらず、肥大型心筋症から発症する不整脈の治療の際に必要な、血液の凝固を抑制する療法を怠った」とした。
判決によると、男性は一九八七年八月、同病院で肥大型心筋症と診断され治療を受け始めたが、九七年八月、肥大型心筋症による不整脈となり、脳塞栓(そくせん)が起こり、左半身がまひして左足に障害が残った。』
この記事では不整脈の治療の際に必要な、血液の凝固を抑制する療法とあるが,これは塞栓症の予防に必要な抗凝固療法の誤りではないだろうか.だとすると今後は循環器内科のワルファリン投与を受けていない不整脈の患者が,結果として脳塞栓症になりどこかで抗凝固療法で予防できたなんてことを知るとこんな訴訟が続発することになるのだろうか.
確かに『5学会合同脳卒中治療ガイドライン(暫定版)2003』では脳卒中一般の危険因子の管理の項の心房細動のところに心不全を合併した非弁膜症性心房細動(NVAF)患者にはワルファリンが推奨される(グレードA)とある.だから肥大型心筋症による心不全を合併した不整脈であったならこの症例で血液の凝固を抑制する療法を怠ったとされてもしかたがないのだろうか.
だが,ワルファリンの投与にはいろいろな問題点が存在し,それが今まで循環器内科医が投与を極力避けてきた理由だと思う.そのひとつは出血合併症である.これを避けるためには少なくとも1,2ヶ月に1回程度は血液検査をしてINR値をモニターしこまめに投与量を調整する必要がある.だが,これは患者さんにも外来で忙しい医師にも苦痛であろう.また,こういった患者さんが脳出血を起こした場合はたいてい悲惨な結末が待っているのである.
ワルファリン投与をした場合の脳卒中予防効果は61%ということを考えると医師側に100%の過失があるとしてもこの判決にはあまり論理的妥当性があるとは思われないのだがどうだろう.
実際のところは当事者の医師でもないのでわからないが,こんな判決とこんな報道が続くようでは医師側に防衛医療の考え方で治療をすすめるものが現れることになんの不思議もない.報道が医療不信をつくりだす以上に医師側に患者不信をつくるほうがはるかに弊害が多いことを危惧しているのは私だけだろうか.
『坂口力厚生労働相は十三日、二〇〇四年度の診療報酬改定案を中央社会保険医療協議会(中医協)に諮問、原案通り答申を受けた。四月一日から実施される予定。
不採算で診療科の閉鎖が相次いでいる小児医療を支援するため、時間外診療などの報酬を引き上げる。病名や治療の種類ごとに医療費を定額にする「包括払い制度」の対象病院を拡大、医療の効率化を目指す。
小児医療は(1)夜間・休日を診療時間内とする病院にも時間外加算を認める(2)時間外の初診料・再診料を引き上げる(3)開業医が他の病院の夜間・休日診療をした場合を評価する要件を緩和?などで支援。新生児の入院医療の報酬も上乗せする。
病気の種類と治療に応じて入院医療費を定額にする包括払いには、医療費抑制のほか病院の評価が容易になるとの期待があるが、「医療の質などの検証が不十分」(日本医師会)との指摘もある。
包括払いでは、従来の診療報酬明細書(レセプト)では把握が難しかった「同一基準による各医療施設の活動の評価」ができるようになる。例えば「脳こうそく、手術あり」という診断群による各施設の入院日数や医療費などの情報が公開される。医師は、患者の症状や治療などを踏まえた上で、日数や医療費などについて他病院との違いを説明することが求められ、患者が病院を選ぶ参考になる。』
まず,小児医療を支援とあるがこの程度では小児科医は救われないように感じる.多くの小児救急の病院では日中の業務の後に交代で夜間診療をやっているのが実態だろう.2人だったら1日交代である.それも毎晩のように救急でもない患者を連れた親がやってくるのであるから私だったらとても相手をする気にはなれない.
でも中には本当に救急の子供もいるのだろうから夜間小児科の救急をやっている病院の小児科医は忍耐を強いられるわけである.診療報酬でコスト面を改善しても助かるのは病院の経営で小児科医が増えないことには小児科医は支援されたことにはならない.
包括払いには、医療費抑制のほか病院の評価が容易になるとの期待があると書かれているが,この意味が私にはよくわからない.医療費抑制効果はもともとの狙いなのだということはわかる.要するにこの病気はいくらで治せと厚生労働省が勝手に決めるのだからいくらでも抑制できるだろう.ただし,質を落とさないのが前提だと一般人は思うだろうが,はたして現実にそうなるだろうか.
私は,そんなことは現実には起こらないと思う.理由は簡単だ.病院の経営側は包括払いを採用した途端に医師に診療コストの抑制を要求しだすに決まっているからだ.その結果は当然のことながら診療の切り詰めが起こるだろう.厚生労働省はそんなことは予想していてもひたすら診療報酬の削減を行うにちがいない.
小児の夜間診療をみてもわかるように社会問題化してそうとうひどいことになるまでは包括払い制度は改善されないだろう.介護医療を介護保険に押し付け,身体障害者や精神障害者福祉も介護保険に上乗せしようと画策し,さらに包括払いで保健医療の質の低下を病院の責任に転嫁しようとする厚生労働省は無責任発言のまかり通る小泉内閣をまさに具現化している代表的政府機関と言えるだろう.
どなたが書いているのかは知らないが,時々読んでいるある小児科医の日記がある.興味のある方はどうぞ.
http://www4.diary.ne.jp/user/412474/
不採算で診療科の閉鎖が相次いでいる小児医療を支援するため、時間外診療などの報酬を引き上げる。病名や治療の種類ごとに医療費を定額にする「包括払い制度」の対象病院を拡大、医療の効率化を目指す。
小児医療は(1)夜間・休日を診療時間内とする病院にも時間外加算を認める(2)時間外の初診料・再診料を引き上げる(3)開業医が他の病院の夜間・休日診療をした場合を評価する要件を緩和?などで支援。新生児の入院医療の報酬も上乗せする。
病気の種類と治療に応じて入院医療費を定額にする包括払いには、医療費抑制のほか病院の評価が容易になるとの期待があるが、「医療の質などの検証が不十分」(日本医師会)との指摘もある。
包括払いでは、従来の診療報酬明細書(レセプト)では把握が難しかった「同一基準による各医療施設の活動の評価」ができるようになる。例えば「脳こうそく、手術あり」という診断群による各施設の入院日数や医療費などの情報が公開される。医師は、患者の症状や治療などを踏まえた上で、日数や医療費などについて他病院との違いを説明することが求められ、患者が病院を選ぶ参考になる。』
まず,小児医療を支援とあるがこの程度では小児科医は救われないように感じる.多くの小児救急の病院では日中の業務の後に交代で夜間診療をやっているのが実態だろう.2人だったら1日交代である.それも毎晩のように救急でもない患者を連れた親がやってくるのであるから私だったらとても相手をする気にはなれない.
でも中には本当に救急の子供もいるのだろうから夜間小児科の救急をやっている病院の小児科医は忍耐を強いられるわけである.診療報酬でコスト面を改善しても助かるのは病院の経営で小児科医が増えないことには小児科医は支援されたことにはならない.
包括払いには、医療費抑制のほか病院の評価が容易になるとの期待があると書かれているが,この意味が私にはよくわからない.医療費抑制効果はもともとの狙いなのだということはわかる.要するにこの病気はいくらで治せと厚生労働省が勝手に決めるのだからいくらでも抑制できるだろう.ただし,質を落とさないのが前提だと一般人は思うだろうが,はたして現実にそうなるだろうか.
私は,そんなことは現実には起こらないと思う.理由は簡単だ.病院の経営側は包括払いを採用した途端に医師に診療コストの抑制を要求しだすに決まっているからだ.その結果は当然のことながら診療の切り詰めが起こるだろう.厚生労働省はそんなことは予想していてもひたすら診療報酬の削減を行うにちがいない.
小児の夜間診療をみてもわかるように社会問題化してそうとうひどいことになるまでは包括払い制度は改善されないだろう.介護医療を介護保険に押し付け,身体障害者や精神障害者福祉も介護保険に上乗せしようと画策し,さらに包括払いで保健医療の質の低下を病院の責任に転嫁しようとする厚生労働省は無責任発言のまかり通る小泉内閣をまさに具現化している代表的政府機関と言えるだろう.
どなたが書いているのかは知らないが,時々読んでいるある小児科医の日記がある.興味のある方はどうぞ.
http://www4.diary.ne.jp/user/412474/
おーい救急隊!大丈夫かあ?
2004年2月12日今夜も当直。やっぱり年取ったせいか当直は疲れるなとか思っていたら、救急隊指令から電話が来た。第一報ってやつだが『○○○○という2年ぐらい前にそちらで手術した女性で、住所時は○○○○で....』延々と続きそうなので、話をさえぎってどうしたのか聞くと『近所の人が様子を見に行ったら意識がもうろうとしてたそうなんですけどそちらへ運んでいいですか』と聞いてきた。
そんな名前聞いたことあるかも知れないが覚えてるわけない。外来患者は月1000人は来てるぞ。私の場合、患者さんは名前ではなくその患者さんの脳の画像とリンクしているのである。
意識はもうろうとして?でバイタルサインは?JCSは何点?会話はできるの?麻痺はあるの?と立て続けに聞いてもよかったのだが、最初のバイタルは?で『バイタルは今連絡を待っています。』との返事でそれ以外の情報は無い。
思わず電話を切りそうになったが、プロだから我慢我慢。もっと詳しい情報をくれるよう話した。
『また、情報が入ったら連絡します。』といって電話がきたのは10分後、病院搬入はそれからさらに20分後。
カルテを見たらすぐに怠薬でけいれん発作を起こした既往歴のある脳腫瘍術後の患者さんで、今回も痙攣発作後の意識障害とToddの麻痺があったのであった。入院経過観察となり一件落着。
いまでも周辺町村の救急隊はこのレベル。こんなとこでも救命救急士がもっと配置されれば少しはましになるのだろうか?
その昔、救急部の助手だったころ消防学校の救命救急の講義に行った時に意識障害の原因と鑑別についての話はテキストにあったはずだからこの救急隊指令はあきらかにおそまつなのだ。
大都市ではだいぶんましになるのだが、ここにも都市と地方の医療格差は存在しているのだ。
まあ、地方の個人開業医や自治体の診療所のレベルも私の基準で考えるとかなり低いので救急隊ばかりの問題ではない。
ここにさらに格差を広げようとしているのが介護保険なのであるから、地方はもうお手上げ状態だ。
そう考えると周辺町村の住民と救急隊にも同情したくもなる。当直でこういうことがあるとさらに疲れるのだが今夜の当直もまだまだ続くのであった。
そんな名前聞いたことあるかも知れないが覚えてるわけない。外来患者は月1000人は来てるぞ。私の場合、患者さんは名前ではなくその患者さんの脳の画像とリンクしているのである。
意識はもうろうとして?でバイタルサインは?JCSは何点?会話はできるの?麻痺はあるの?と立て続けに聞いてもよかったのだが、最初のバイタルは?で『バイタルは今連絡を待っています。』との返事でそれ以外の情報は無い。
思わず電話を切りそうになったが、プロだから我慢我慢。もっと詳しい情報をくれるよう話した。
『また、情報が入ったら連絡します。』といって電話がきたのは10分後、病院搬入はそれからさらに20分後。
カルテを見たらすぐに怠薬でけいれん発作を起こした既往歴のある脳腫瘍術後の患者さんで、今回も痙攣発作後の意識障害とToddの麻痺があったのであった。入院経過観察となり一件落着。
いまでも周辺町村の救急隊はこのレベル。こんなとこでも救命救急士がもっと配置されれば少しはましになるのだろうか?
その昔、救急部の助手だったころ消防学校の救命救急の講義に行った時に意識障害の原因と鑑別についての話はテキストにあったはずだからこの救急隊指令はあきらかにおそまつなのだ。
大都市ではだいぶんましになるのだが、ここにも都市と地方の医療格差は存在しているのだ。
まあ、地方の個人開業医や自治体の診療所のレベルも私の基準で考えるとかなり低いので救急隊ばかりの問題ではない。
ここにさらに格差を広げようとしているのが介護保険なのであるから、地方はもうお手上げ状態だ。
そう考えると周辺町村の住民と救急隊にも同情したくもなる。当直でこういうことがあるとさらに疲れるのだが今夜の当直もまだまだ続くのであった。
過ぎたるは及ばざるが如し
2004年2月11日『日本のがん患者の3・2%は診断のために浴びた放射線が原因と推定?。英オックスフォード大の研究チームがそんな論文を十日までに英医学誌ランセットに発表した。
チームは放射線診断の頻度や、被ばく量と発がん率の関係、がんによる死亡率の割合といった国別のデータを基に、放射線診断が原因で七十五歳までにがんになる危険度を推定した。
論文によると、日本は年間の放射線診断回数が調査した十五カ国で最も多かったという。このため、放射線診断が原因と推定されるがん患者は、日本では全体の3・2%に当たる年間七千五百八十七人とされた。 日本に次いでクロアチアの1・8%、ドイツの1・5%が高く、最も低かったのは英国とポーランドの0・6%だった。
今回の研究はがん患者の放射線被ばく歴を調べたわけではない。ドイツ・ミュンヘン大の研究者らは同誌に寄せた論評で「がんの早期発見や治療に放射線診断が役立つというプラス面を全く考慮していない」と批判した。』
検査で病気が予防できるわけではない.早期診断となる可能性もあるがすでに手遅れのこともあるわけで,いつ検査すればよいかは私にはわからないと以前から言っていた.
だが,それどころか放射線診断自体が病気の原因であることが科学的に証明されたということだろうか.
もっとも脳外科領域では頭部CTは脳出血の診断以外には以前に比べると頻度が少なくなった.頭部X-Pももっと減らせるだろう.今や脳血管障害,脳腫瘍などの診断はMRIが主力である.だから脳外科領域でもっとも注意すべきなのは小児の外傷ということになるだろうか.
テレビのニュースでもやっていたのでこれを機に無意味な頭部CT検査を要求する親たちが減ってくれればいいと思う.その一方でMRI検査で癌にならないかという質問を外来でする老人も増えそうな気もする.テレビの健康番組で本当は健康なのに病院に検査に行くのはやめましょうとでも言ってもらいたいものだ.
健康保険の増大が問題となって久しいが,ここらへんで検査費用と治療費を明確に分けて治療費のみに健康保険が適用されるようにしたらどうだろうか.検査費用はもちろん自費で病院ごとに自由に価格設定できるというのがいいのではないだろうか.
こうすれば地方の病院は交通費の分だけ割高でもいいわけだ.それに検査でコストをあげる病院が健康保険を圧迫することもなくなるだろう.もちろん今までのように老人保健で定期検査を繰り返すようなことは経済的負担からできなくなり意味のない通院も減ると思われる.
外来で患者さんが希望する検査の意味に疑問を持つことの多い私にとっては,このほうが健全な医療のように思えてくるのだがどうだろうか.
チームは放射線診断の頻度や、被ばく量と発がん率の関係、がんによる死亡率の割合といった国別のデータを基に、放射線診断が原因で七十五歳までにがんになる危険度を推定した。
論文によると、日本は年間の放射線診断回数が調査した十五カ国で最も多かったという。このため、放射線診断が原因と推定されるがん患者は、日本では全体の3・2%に当たる年間七千五百八十七人とされた。 日本に次いでクロアチアの1・8%、ドイツの1・5%が高く、最も低かったのは英国とポーランドの0・6%だった。
今回の研究はがん患者の放射線被ばく歴を調べたわけではない。ドイツ・ミュンヘン大の研究者らは同誌に寄せた論評で「がんの早期発見や治療に放射線診断が役立つというプラス面を全く考慮していない」と批判した。』
検査で病気が予防できるわけではない.早期診断となる可能性もあるがすでに手遅れのこともあるわけで,いつ検査すればよいかは私にはわからないと以前から言っていた.
だが,それどころか放射線診断自体が病気の原因であることが科学的に証明されたということだろうか.
もっとも脳外科領域では頭部CTは脳出血の診断以外には以前に比べると頻度が少なくなった.頭部X-Pももっと減らせるだろう.今や脳血管障害,脳腫瘍などの診断はMRIが主力である.だから脳外科領域でもっとも注意すべきなのは小児の外傷ということになるだろうか.
テレビのニュースでもやっていたのでこれを機に無意味な頭部CT検査を要求する親たちが減ってくれればいいと思う.その一方でMRI検査で癌にならないかという質問を外来でする老人も増えそうな気もする.テレビの健康番組で本当は健康なのに病院に検査に行くのはやめましょうとでも言ってもらいたいものだ.
健康保険の増大が問題となって久しいが,ここらへんで検査費用と治療費を明確に分けて治療費のみに健康保険が適用されるようにしたらどうだろうか.検査費用はもちろん自費で病院ごとに自由に価格設定できるというのがいいのではないだろうか.
こうすれば地方の病院は交通費の分だけ割高でもいいわけだ.それに検査でコストをあげる病院が健康保険を圧迫することもなくなるだろう.もちろん今までのように老人保健で定期検査を繰り返すようなことは経済的負担からできなくなり意味のない通院も減ると思われる.
外来で患者さんが希望する検査の意味に疑問を持つことの多い私にとっては,このほうが健全な医療のように思えてくるのだがどうだろうか.
HIVの権威の最期
2004年2月10日『薬害エイズ事件で業務上過失致死罪に問われ、一審東京地裁で無罪とされた元帝京大副学長安部英(あべ・たけし)被告(87)の控訴審で、東京高裁(河辺義正(かわべ・よしまさ)裁判長)が医師に嘱託して被告の精神鑑定を行い、「物事の善悪を判断する能力がない」とする結果が出たことが十日、分かった。
刑事訴訟法では「被告が心神喪失の状態にあるときは、公判手続きを停止しなければならない」と規定している。最終的には同高裁が判断するが、公判停止の決定をする可能性が高い。
停止すれば、安部被告の刑事責任が決まらないまま、一九九七年三月から約七年にわたった審理は事実上終結する。
弁護団によると、安部被告は昨年、持病の心臓病などで入退院を繰り返すうち、話し掛けてもほとんど反応がなくなった。専門医が「心神喪失の疑いがある」と診断したため、弁護団が同高裁に公判停止を申し立てた。
これを受けた同高裁が昨年十二月、精神鑑定の実施を決め、嘱託を受けた慶応大学病院の医師が鑑定していた。
安部被告は帝京大病院第一内科長だった八五年、部下の医師に指示しエイズウイルス(HIV)に汚染された非加熱製剤を血友病患者に投与させ、九一年にエイズで死亡させたとして起訴された。 一審の無罪判決を不服とした検察側が控訴し、二〇〇二年十一月から高裁審理が続いていたが、控訴審では被告の出廷義務はなく、安部被告は体調不良を理由に一回も出廷していなかった。』
もと厚生省HIV研究班の班長のやったことを要約しておこう.
1982年11月23日 東京の血友病患者団体の総会で,「重大な病気があるらしいことが分かってきつつある.日本の血液を材料に血液製剤を作ってもらいたい」などと講演している.
こうした認識をもちながらも厚生省エイズ研究班長に就任してからは,「3000人に注射して1人程度発病するに過ぎない。エイズの心配はわずかですから、アメリカからの輸入を止めねばならないのはちょっと思い過ごし。輸入を止めるべきと考えている人もいると聞くが、血友病をやらない医者のいうことです」と発言している.そして勲3等の叙勲をうけている.
その一方で1978年厚生省薬務局長松下廉蔵がミドリ十字に天下りさらに5人が厚生省からミドリ十字に次々と天下る.
その後,厚生省エイズ研究班長安部英の態度転換が感染の広がりを招いた.そして83年当時血液製剤のシェアの6割りを占め、非加熱製剤の在庫43億円をかかえるミドリ十字にとりわけ大きな利益をもたらした.そのミドリ十字には厚生省の天下りがつぎつぎと受け入れられた.
こうしてHIVは日本中に広まることとなった.金と権力に目がくらんだ医師と厚生省から天下った役人の利益が一致した結果がこれだ.厚生省の研究班の班長と製薬会社の癒着の温床を育んだ厚生省はどう変わったのか.
さて本当に心神喪失の状態かどうかはわからないが87歳の老人に償えるほどこの責任は軽くはないと思う.研究班にいた権威の方々はいったいどこにいて罪を償っておられるのだろうか.
この事件から学ぶべきことは権力を集中させることの危険ということである.行政は決して国民のことは考えていないとは言わないが優先順位は高くないことはこのことからもわかる.
もうひとつ記憶しておくべきことは当時の研究班でこの班長に逆らえなかった権威の医師たちが現在も要職についているであろうことである.(反対して研究班を辞めた良識ある先生もいたようだが)
間違っていると感じても自分の地位にしがみつく人たちに若い医師たちを指導する資格がないのは明らかだ.反面教師という意味では存在価値はあるかもしれないが.
受験シーズンになり医師を目指す人たちもいると思うが苦労して医師になっても権威にしばられず常に素直な目で科学的真実と人間の幸福を追究する姿勢を忘れないで欲しい.
往々にして受験勉強に苦しんで医師になった人のほうが権威主義になりやすいような印象があるので医学部に入るだけで苦しんだり,医師国家試験で苦しんでいる人は特に注意が必要ですよ.
刑事訴訟法では「被告が心神喪失の状態にあるときは、公判手続きを停止しなければならない」と規定している。最終的には同高裁が判断するが、公判停止の決定をする可能性が高い。
停止すれば、安部被告の刑事責任が決まらないまま、一九九七年三月から約七年にわたった審理は事実上終結する。
弁護団によると、安部被告は昨年、持病の心臓病などで入退院を繰り返すうち、話し掛けてもほとんど反応がなくなった。専門医が「心神喪失の疑いがある」と診断したため、弁護団が同高裁に公判停止を申し立てた。
これを受けた同高裁が昨年十二月、精神鑑定の実施を決め、嘱託を受けた慶応大学病院の医師が鑑定していた。
安部被告は帝京大病院第一内科長だった八五年、部下の医師に指示しエイズウイルス(HIV)に汚染された非加熱製剤を血友病患者に投与させ、九一年にエイズで死亡させたとして起訴された。 一審の無罪判決を不服とした検察側が控訴し、二〇〇二年十一月から高裁審理が続いていたが、控訴審では被告の出廷義務はなく、安部被告は体調不良を理由に一回も出廷していなかった。』
もと厚生省HIV研究班の班長のやったことを要約しておこう.
1982年11月23日 東京の血友病患者団体の総会で,「重大な病気があるらしいことが分かってきつつある.日本の血液を材料に血液製剤を作ってもらいたい」などと講演している.
こうした認識をもちながらも厚生省エイズ研究班長に就任してからは,「3000人に注射して1人程度発病するに過ぎない。エイズの心配はわずかですから、アメリカからの輸入を止めねばならないのはちょっと思い過ごし。輸入を止めるべきと考えている人もいると聞くが、血友病をやらない医者のいうことです」と発言している.そして勲3等の叙勲をうけている.
その一方で1978年厚生省薬務局長松下廉蔵がミドリ十字に天下りさらに5人が厚生省からミドリ十字に次々と天下る.
その後,厚生省エイズ研究班長安部英の態度転換が感染の広がりを招いた.そして83年当時血液製剤のシェアの6割りを占め、非加熱製剤の在庫43億円をかかえるミドリ十字にとりわけ大きな利益をもたらした.そのミドリ十字には厚生省の天下りがつぎつぎと受け入れられた.
こうしてHIVは日本中に広まることとなった.金と権力に目がくらんだ医師と厚生省から天下った役人の利益が一致した結果がこれだ.厚生省の研究班の班長と製薬会社の癒着の温床を育んだ厚生省はどう変わったのか.
さて本当に心神喪失の状態かどうかはわからないが87歳の老人に償えるほどこの責任は軽くはないと思う.研究班にいた権威の方々はいったいどこにいて罪を償っておられるのだろうか.
この事件から学ぶべきことは権力を集中させることの危険ということである.行政は決して国民のことは考えていないとは言わないが優先順位は高くないことはこのことからもわかる.
もうひとつ記憶しておくべきことは当時の研究班でこの班長に逆らえなかった権威の医師たちが現在も要職についているであろうことである.(反対して研究班を辞めた良識ある先生もいたようだが)
間違っていると感じても自分の地位にしがみつく人たちに若い医師たちを指導する資格がないのは明らかだ.反面教師という意味では存在価値はあるかもしれないが.
受験シーズンになり医師を目指す人たちもいると思うが苦労して医師になっても権威にしばられず常に素直な目で科学的真実と人間の幸福を追究する姿勢を忘れないで欲しい.
往々にして受験勉強に苦しんで医師になった人のほうが権威主義になりやすいような印象があるので医学部に入るだけで苦しんだり,医師国家試験で苦しんでいる人は特に注意が必要ですよ.